いよいよ第三使徒サキエルの襲来日。
第三新東京市では今頃初号機の雄叫びが響いているのでしょうか。
それでは、こちらも新話を投下したいと思います。
第弐話「見知らぬ、展開」どうぞ。
特務機関ネルフの医療施設に、赤木リツコは居た。
目の前の人間ドックから算出されるデータを一通りメモに加えていくが、
その数字はどれもこれもリツコから言わせれば「あり得ない」の五文字でしか言い表せないくらい………
正常、であった。
「……脳波、心拍数、血圧その他全て正常だとはね。マヤはどう思う?」
「わ、私ですか?」
「ええ。貴方は私の部下である以前に研究者でもあるわ。その一人と意見交換するのは何かおかしくて?」
「い、いえ……」
マヤはネルフ技術部でもナンバー2にあたる人間である。
すぐに顔を引き締め、考えに徹する。……が、余りにも超常的な数値には自分でも思い当たる節などはない。
「……正直、私にも分かりませんよ。センパイが分からないことで私に分かることなんて」
「……そう」
少し残念そうな顔をするリツコ。まあ、仕方ないことではあるのだが。
「マヤ、ドック戻して。シンジ君、上がっていいわよ」
「あ、はい」
人間ドックの奥から声が聞こえてくる。その声の持ち主は碇シンジであった。
寝かされているベッドが前に稼働し、やがてその顔が現れる。
「聞いての通り、全ての値は正常だったわ」
「そうですか、それは何よりです」
シンジは健康調査、と称して様々なチェックを受けていた。
というのも、つい数時間前に現れた使徒、サキエルを建造物への被害ほぼ0で、初号機や自身にも傷一つ付けず倒した。
厳密に言えば拳にはサキエルを殴った際に生じたかすり傷が多少あったが、エヴァの持つ驚異的な自己修復機能によってそれもほぼ完全に治っている。
つまるところ、初めての戦場で、ほぼ全ての面において完全な勝利を遂げたからであった。
「薄々気づいてはいるかもしれないけど……シンクロ率というのは深層心理に深い相関を持つものです。
勿論その日の気分とかも全く関わらない訳ではないけど。
初搭乗でシンクロ率65%弱、更に会敵で100%に限りなく近い値を出したというのは、私たちの目から見ればただ事ではないわ」
「はあ、そうなんですか?」
「…………」
とぼけて見せるシンジに、最早返す言葉を思いつかないリツコ。
リツコとて……いや、それどころかマヤであっても事情を知ればあのシンクロ率や戦闘力の高さも全て納得出来るだけの聡明さは持っているが、
目の前の一見何の変哲もない少年にそのような特殊な事情があるとは到底思えないのであった。
「まあ、いいわ。使徒は当分の間、やってくると考えられます。
押し付けるようで申し訳ないけど……貴方にはまた頑張ってもらわないといけないの」
「わかりました」
「……他にも幾つか質問はあるのだけど……今日はもう遅いから、休みなさい。
マヤ、簡単な自己紹介がてらシンジ君を案内してあげて」
「はい。私は伊吹マヤ。技術部で赤木センパイの助手をしています。よろしくね。
今日の宿泊施設に案内するね。ついてきてシンジ君」
「はい、よろしくお願いします」
実年齢よりもずっと若く見えるマヤ。制服を着せれば中高生でも通用するだろう。
敵意の一切籠っていないその瞳に、赤い世界になる前に何故自分から動けなかったのか、という罪悪感が少し芽生えた。
勿論碇シンジというただのちっぽけな中学生からしてみればどうしようもない状況ではあったのだが、そこで罪悪感を覚えるのは最早シンジの性格である。
「ここが貴方の部屋よ」
「ありがとうございます。それではおやすみなさい」
「えぇ、おやすみなさい」
今は一先ず、何も知らないふりをしておこう。それがシンジとカヲルの出した結論であった。
一方で、技術部第一課……エヴァと直接関わりを持つ、その組織の中でも最高責任者であるリツコには、
いずれそれなりの情報を開示する必要があるともシンジは考えていた。
開示しないのは、実際のところマヤもそこに居たからに尽きた。彼女が居なければ今ここである程度の事情を話してもよかった。
とはいってもマヤが嫌いだとかそういう話ではなく、単純に今現在シンジが一番信用している大人はリツコであった、ということである。
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その翌日、ヒトマルマルマル時にシンジの元に一つ呼び出しがかかった。
シンジはそれが誰によるものなのか、なんとなく予想はついていた。きっとミサトによるものなのだろうと。
何せ、昨日は確かに作戦部長としてあるまじきあいまいな作戦指示を受けたが、勝手にネルフに乗り込んだのも事実だ。
つまり、自分にも非がある。
トウジの妹を救うためとはいえ、コレばかりは素直に謝っておこうとは思っていた。
カヲルもこれは恐らく葛城一尉の呼び出しだね、といつもの声色で言っている。
ここに彼の体があれば、きっとその顔にはいつも通りのアルカイックスマイルを浮かべているだろう。
結論から言うと、その予測は半分は当たり、半分は外れ、というものであった。
「……」
呼び出されたのは副司令室。つまるところコウゾウによる呼び出しであった。
既にミサトは副司令室に用意された座椅子に静かに座っているが、その表情は明らかに不満げな様子。
シンジが部屋に入るとあからさまに睨み付けてきたが、既にコウゾウが目の前に居るので特に何か言う事はなかった。
「……揃ったか。それでは本題に入るぞ」
冬月が静かに告げる。その厳かさに自然と顔がこわばる二人。
「まず、葛城一尉。……言いたいことは分かっているな?」
「……はい」
重々しく返事をするミサト。
「サードチルドレン確保の失敗、そして曖昧な作戦部長にあるまじき作戦指揮。どちらも一歩間違えばこのサードチルドレンの命を失いかねない行為だ」
「し、しかし副司令。後者の作戦指揮は認めますが、サードチルドレンの確保は明らかに待ち合わせた場所に居なかった彼に非があるかと」
「……そうだな、と言いたいところだが、赤木君から話は聞いたよ。君は待ち合わせ時間の僅か十分前にネルフを出たそうだな?」
「そ、それは……」
「分かっているとは思うが、ネルフからあの場所まで車でもふつう一時間は掛かるのだぞ?
つまり君はどの道出発後の五十分間、サードチルドレンを戦場のど真ん中に放置することになったのだよ。
これが何を意味しているか……分からない君でもなかろう」
「……」
コウゾウの言葉は全て正論である。ミサトは完全に口を閉ざしてしまった。
「……後者の作戦指揮についても、君は少なからぬ問題があったよ。
「応戦」等という曖昧な言葉で指揮官が務まるなら、はっきり言って君は必要ない」
「そんな……」
必要ない、という一言に敏感に反応するミサト。
軍事組織でのこの言葉は、よくて降格、酷ければそのまま除隊を意味することを知っていたからだ。
「サードチルドレンは……よくやってくれたよ。
初めて乗る未知の兵器、エヴァンゲリオンに己の危険を顧みず人類の為に乗り、
そして君の「応戦」という曖昧な指揮からやるべきことを一人ですべてこなす。
私はこれでも学者の端くれでもあった以上、安々と使いたい言葉ではないが……彼の戦いぶりは、正しく「完璧」の二文字だったよ。出来ることなら不問にしてやりたい位だ」
「……」
「まあいい。
今回はサードチルドレンが待ち合わせ通りに来なかったこと、及び君の発言が「たまたま」勝利に繋がった。
よって減給2ヶ月のみとする……が、もう一度このようなことがあった場合は覚悟しておけ。
以上だ。葛城一尉は下がりたまえ」
「……申し訳ありませんでした。失礼します」
ミサトは通りすがりにシンジのことを一瞬睨み付けていたが、シンジがそれに気づくことはなかった。
ガチャン、と扉が閉まると、コウゾウは再び口を開いた。
「シンジ君」
「は、はい。何でしょうか」
「君は今回よくやってくれた。俺だけではなくここのスタッフは皆そう思っているし、口には出さんが君の父親もそう思っているはずだ。だがな……」
言いよどむコウゾウ。
シンジの父ゲンドウとは違い、彼にはまだ人道的な心も充分に残されていた。それ故、これからシンジに言い渡すことばにも少なからぬ抵抗があった……
のだが、シンジにはその自覚があったようだ。
「……分かっていますよ」
「なら、良い。 このような軍事組織において、組織内の規律は守られなければならんのだ。
……君を半日の禁固処分とする。理不尽だとは思うが……分かってくれ」
「……はい」
「よし。連れて行け」
「はっ。行くぞ」
「はい」
コウゾウの一言で現れる諜報員。
これと言って抵抗することもしなかったので、事が荒げられることもなかった。
「やれやれ。碇、お前も少しは息子に目を向けたらどうなのだね……?」
扉が閉まると、ついこぼしてしまう。
こうしてシンジは久しぶりにネルフ独房へと入ることになった。
とはいえたったの12時間だし、所詮は体裁上のものなので、牢とは言っても中はほぼほぼ普通の部屋のような感じである。
そして半日投獄されたということは、裏を返せば半日「与えられた」のである。
これを機にシンジはカヲルとこれからの指針をブレインストーミングすることとした。とは言っても、文字に起こしたりすることはなく、完全に脳内におけるものである。
ネルフ独房では監視の他に録音も行われているので、思考のみで会話できるのはまたとないメリットであった。
ブレインストーミングの結果、幾つかのことが決まった。
まずレイがどこにいるのか、そして記憶を引き継いでいるのかを確認すること。
次に、来たる第四使徒シャムシエルとの戦いの後に、信頼できるネルフ関係者数人に幾つかの情報を与えること。
但し口頭では録音されている可能性もあるので、USBメモリによって開示することにした。
特にリツコへ伝えることは第五使徒ラミエルに対する被害をより軽微にするためにも必要であると考えた。
他にも日常で気を付けることを色々と考えあうが、まだまだ分からないことも多い。
起こりうる出来事をそれぞれシミュレートしていたら、あっという間に出る時間になってしまった。
独房内は非常に静かで、常に薄暗くされている。何か書いたりするのには不便だが、考え事を行うには最適なような気もする。
シンジは今後住んでいく住居にこの独房と似た環境の部屋を作ってもいいかもしれないな、と出るときになんとなく考えるのだった。
一方、独房には最初こそ外に見張りが付いていたものの、神妙な顔をして只管に正座している(ように見える)シンジの様子から逃げ出したりしようともしないだろうと判断され、出獄時間になると勝手に牢が開き、外には誰も居なかった……いや、居た。
すぐそばに見慣れた黒髪が居た。
あの一件で怒鳴りにでも来たのだろうか。
「……葛城、一尉ですか」
「ちょっち付き合いなさい。後、別にミサトで良いわよ」
「……分かりました。ミサト、さん」
そう言ってシンジの手を引くミサト。
どこへ連れていかれるのかはなんとなく想像がついていたし、
連れて行かれたのは結局想像通り例のあの高台であった。
このイベントは多少距離を離そうとする程度では定例的なものなのだろうか?
「やっぱり、寂しい街ですね」
「……そろそろ時間よ」
ミサトがそう言うや否や、現れてくる兵装ビル群。
「…………」
「…………」
続く沈黙。
先に口を開いたのは、ミサトの方である。
「……驚かないのね」
「……」
「第3新東京市。貴方が守った街なのよ、ここは」
「……実感が、ないんです」
「……そう」
それきり、再びミサトは口を閉ざした。
シンジに実感がなかったのは、先日のサキエル戦のことではなかった。
かつて、自分の躊躇い一つで滅びてしまった赤い世界。
例え今守り切ったとしても、あの赤い世界にしてしまえば意味がないのだから。
恐らく、あのXデー……来年に迫るあの日を越えるまで、その実感を得ることはないだろうと思っていた。
暫く、風景を見つめる二人。
その姿は、二人以外の第三者から見た時、どのように映るのだろうか。
次に口を開いたのは、やはりミサトであった。
「……シンジ君」
中学生一人でいないで、あたしの家に来なさい。
そう言いかけたが、シンジの表情を見て言うのを止めた。
シンジとしては、ただ静かに目の前の景色を眺めていただけではあった。が、無意識かもしれない。どこか、辛そうな面持ちであったのだ。
私が傍に居ることで、何か変えられるだろうか?
もしや、今こうして傍に居ることすらも彼にとって辛いことなのではないだろうか?
そうでないと分かった時、手を差し伸べてやればそれでいい。
結局、シンジはジオフロントにほど近いネルフ管轄下のアパートに住むこととなった。
「(カヲル君、頼むよ)」
『わかった…………五つほど仕掛けられているみたいだね。ここと、ここと、ここと、ここと、ここ』
シンジは、カヲルの力を借りて盗聴器や盗撮カメラといった状況把握の類の物を徹底的に洗い出すことにしていた。
盗聴器を破壊するのは容易い。家具の出し入れでのミスを装って簡単に破壊することが出来た。
しかしながら、カメラについてはいきなり物理的破壊に乗り出したりするとまず間違いない。
その為、視覚情報を極力与えない、に死角たりうる場所を算出することにしたのである。
視覚情報だけに、死角を探す。
『シンジ君』
「なんだいカヲル君」
もう盗聴器は全て破壊されているので、遠慮なくカヲルの名を口に出すシンジ。
『リリンは音楽については素晴らしい文化を持つようだけど、
シャレについては一考の余地があるようだね』
「……何が言いたいのさ」
『寒いってことさ』
「……」
最近、カヲルの性格は少し変わってきた気がする。
最も、元々は使徒であったため性格の変化はシンジにとってはよりヒトに近づくという事で喜ばしいことでもあったのだが。
こうして、第三使徒サキエルに関する一連の出来事は幕を閉じたのであった。
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その一週間後くらいだろうか。
健康診断や体力測定を幾度となく受けたもののいずれも異常はなく(体力測定については非常に高い水準ではあったが)、
シンジは早くもここ第三新東京市の一角にある中学校、第壱中学校への転入を済ませることになった。
「第弐京都中学から転校してきた、碇シンジです。宜しくお願いします」
軽い挨拶を済ませると、教員に指示された席に着く。
好奇の目で見られながらもシンジが気にしていたのは……トウジがいるかどうか。
彼が居れば、その妹は無事であったと考えられるからだ。
ところが、彼は一向にやってこない。どうしたものだろうか……
と、心配していたがそれは数分後に徒労に終わることになった。
「すんません! 遅れました!」
「……鈴原君だね。事情は伺っているから、早く座りなさい」
「はあ、すんません」
後ろから聞こえてくる聞きなれた声は、まさしくトウジその人の声であった。
老教師―根府川という名前らしい―は、特に叱責することはなくトウジをクラスに迎え入れた。
しかし、事情とはなんだろうか?
少し気になったシンジは、昼休みにそれとなくトウジに聞いてみることにした。
やや都合のいいことに、いつも通りではあるがケンスケもトウジと一緒にいた。
「やあ、鈴原君……だったね」
「ん? おお……転校生か。 碇言うたな」
「うん。僕は碇シンジ」
「鈴原トウジや。んで、こっちが」
「相田ケンスケ。宜しくな、碇」
前回より多少社交性が身についているのか、結構会話はスムーズに行くものだった。
他愛のない話をした後、本題に入ることにする。
「ところで……此間の戦闘。 二人とも家族は大丈夫だった?」
「……あー、それがのぉ。親父が怪我してしもたんや」
「えっ…………」
まさか。
予期せぬ方向から運命に嘲笑われているような気がした。
やはり……妹でなくても、鈴原家には何らかの迷惑を掛けてしまうのだろうか。
シンジは早くも一撃殴られることを覚悟しはじめていた。
「……どないした、碇?」
「急にだんまりになったな」
突然無言になったシンジを心配そうに見ている二人。
「……あっ、と。 ごめん。で、お父さんは」
「あぁ。 足折ってもうたみたいやがの、まぁ意識もあるし、たいそうな骨を折った訳やないらしいから大丈夫やわ」
「そっか……やっぱり、戦闘に巻き込まれて?」
「え? んー……まあ、巻き込まれたと言えばそうかもしれへんけど……
なんでも、機材運んでる最中に警報が鳴りよって、急いで運んどったら階段で転んだらしくてのぉ。
で、機材に足を巻き込まれて骨折したんやと。まあ、ワシのオトン、ドジなとこあるからの」
「災難だったよな、トウジの親父さんも」
「……」
だんまりであるシンジであったが、内心少し安心していた。自分のミスによって怪我をする人は居なかったからだ。
勿論怪我をしたという事実はあるが、それでも毎日学校を休んでまで見舞いに行かなければいけない程でもない。
少しではあるが、良い方向に未来を進めることが出来たことを確信し、内心で小さくガッツポーズするのであった。
「…………碇?」
「自分大丈夫か? さっきからぼぅっとしとるが」
再び声を掛けられた。またもぼうっとしているように取られたようだ。
「ううん、なんでもない。
そうだ、放課後鈴原君のお父さんのお見舞いに行こうか」
「お、来てくれるんか?」
「勿論」
「よし。んならケンスケ、お前はどうする?」
「俺も行くよ。 碇には色々と聞いてみたいことがあるしな」
そういえば、ケンスケの父親はネルフ勤めであることを思い出した。
もう既にシンジの情報もキャッチしているのだろうか。
「おし。 そんなら放課後校門前集合や。
後碇……いやシンジ。 トウジでええで」
「俺のことも、ケンスケでいいぜ」
「ん、分かったよトウジ、ケンスケ」
こうして、シンジは前回で貴重な友人であった二人を今回も友人にすることに成功した。
放課後になると、ケンスケが何か情報を広めたのかクラスの大多数に質問攻めにあったのだが、それはまた別のお話。
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ガシャーン……ガシャーン……
ゴーン……ゴーン……
遠くから、何か機械の動く音が聞こえてくる。
時刻は既に19時を回っていた。
先ほどまでトウジ達とネルフ直属の病院へ行き、その父親の見舞いへ行っていたのだ。
前回と少し違うのは、ケンスケが早くも自分をエヴァンゲリオンのパイロットであると見抜いていたことだった。
が、それが故にトウジに殴られたりというイベントも起きることはなく。
むしろ第三新東京市の被害を最小に食い止めたとして、トウジの父親と一緒に半ば英雄視すらされたほどであった。
トウジの父親は聞いたところネルフの技術部に居るらしく、もし兵装ビルが破壊された場合は真夏の陽気の中工事に乗り出さねばならないという。
これを聞いて、やはり被害は少なく留めねばならないと心で誓ったシンジである。
そんな二人と別れた後の帰り道、第三新東京市の外れの一角にある寂れた団地にて。
シンジにとってもう一人の大切な少女、綾波レイを訪れていた。
しかし、誰もいる気配はない。
もしやと思いドアを開けてみたものの、そのどこにもレイの姿は見当たらない。
「(……まだ、ネルフに居るのかな?)」
『そうみたいだね』
「(綾波の居場所が分かるの?)」
『直感的だけどね……僕自身のほかに、レイ君、そして初号機の所在は大体わかるよ。
力を分かち合ったからか、波動が伝わってくるのさ』
「(それなら言ってくれればよかったのに)」
『僕はレイ君の家を知らないから、場所を知っておきたかったのさ』
「(そんな回りくどいことしなくても普通に教えるから、ね?
……それはそうと、綾波は今回もやっぱり怪我をしてるの?)」
シンジが気になったのはそれだ。
レイは前の時は零号機の起動に失敗し、シンジが目の当たりにしたように大けがを負ってしまっていたのだ。
『……零号機の実験はやっぱり失敗してしまったらしい。ジオフロントの……病院なのかな、ある一角から動いていないみたいだ』
「(そっか……今みんなにとって僕は綾波を知らないことになっているから、お見舞いに行くのは難しいかな)」
『まあ、それとなく赤木博士に聴いてみたらいいんじゃないかい?』
「(それも怪しまれそうだけど……まあ、それが一番安牌かな。じゃあ、行こうか)」
意を決してネルフ本部へ向かおうと団地を出たその時であった。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
シンジの携帯からアラートが鳴り響く。
それは、これまでの史実通りであれば使徒襲来、もしくはそれに準ずる緊急事態を示すものであった。
「何だ!?」
携帯を開くと、秘匿回線の電話がかかってきていた。
「はい。碇です」
【シンジ君だね? 僕は日向マコト。作戦部の一人だ。
手短に言うよ。今、第一種戦闘態勢が碇司令によって発令された。使徒がやってきたんだ】
「……えっ!?」
【すぐにネルフに来られる位置にいるかい?】
「……はい。数分もあれば辿り着けます」
【わかった。至急本部まで来てくれ】
「(……どういうことなんだろう?)」
『分からない……でもまぁ、君の今の力なら一先ず問題はないんじゃないかな。とりあえず今は急ぐべきだ』
「(……そうだね)」
史実と違う、余りにも早い第四の使徒の襲来。
一体何がどうなっているというのか? シンジには分からない。
少なくとも、今は行かねばならないのだろう。シンジはネルフ本部へと駆ける。
【ただいま、東海地方を中心とした、関東・中部の全域に、特別非常事態宣言が発令されました。速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返しお伝え致します…】
あの時と変わらぬ放送が、街中を鳴らした。
「見知らぬ展開だ……」
走りながら呟くシンジの声は、闇の中へ消える。
はい。如何でしょうか。
一先ずある程度のリアルタイム更新ということで、今日この小説の中で起こる事が入っている第弐話までは投下することになりました。
一応、第弐話は一気に一週間後まで飛び、
またシャムシエル戦も一週間後に行われることになっているので、本日より一週間後に第参話を投下する予定です。
それでは、第参話「変化と一致」、乞うご期待下さいませ。