「それで、真希波さんは」
「ついさっき連絡があってね。……無事、らしいわ。
はあ~本当あの子よく分からないわよねぇ。そうだシンちゃん今度こっそり聞いてきてよ」
「機会があればですけどね」
エヴァ三号機の暴走開始から十分後、即座にシンジとレイの二人は浅間山から迎撃地点への移動が開始された。
現地へのパイロット輸送は何故かミサトが行っている。作戦部長なのに大丈夫なのか、などという疑問はシンジ達の中にもあり真意も不明だが、恐らく車を暴走させる腕に関しては間違いなくネルフでも断トツだからだろうか。
荒っぽい運転ではあるが、黒服が運転するよりもずっと早く迎撃拠点への移動が完了しそうでもあった。
遠方には既に移動するエヴァ三号機の姿が見えている。見た感じ、特に前史と代わり映えがあるようにも見えない。
前傾姿勢でズンズンと進んでいく姿には使徒特有の無機質さが感じられるが、一方で前史での戦いを経験しているシンジとレイからすると少しばかり安心もする。
バルディエル自体は初見であればなかなか強敵ではあるが、その高い出力の存在を知っていれば所詮はエヴァ+αの稼働能力。そこまで苦戦することなく撃退可能だろう。
ただし相手は紛れもない使徒である。ミサトを始め、各々の緊張も少しずつ上がってはきている。
「……ええ。こちらも肉眼で確認したわ、三号機。
現在初号機及び零号機パイロットを移送中。TASK-01、そう、マリが来る前のパターンよ。手続きは任せたわ」
『分かりました。認証開始します……おや?』
「どうしたの日向君?」
『そ、その……』
ミサトと通信を取っていたマコトの驚く声はシンジやレイの方にまで聞こえてきた。
一体何が起こったのか、と後部座席から思わず身を乗り出す。
そこから聞こえてくるのは、その時点では考えられない事象だった。
『た、TASK-02が、既に実行されているようです』
「TASK-02……? まさか、弐号機が?」
「えっ!?」
「シンジ君? どうしたの」
「あ、いえ……誰が、動かしてるのかなって」
「……」
驚きのあまり、思わず声を上げてしまうシンジ。
マリが居ない中、思わぬタイミングでの弐号機の降臨。
あるいは、ついでにマリが乗り込んで撃退に掛かったと考えられなくもないが……
しかしその一方で、ミサトは思いのほか取り乱していないようにも見えた。
突然の出来事に身体が付いていってないだけ、あるいは単に彼女の使徒戦に対する姿勢の現れ、などという可能性もない訳ではないが。
「マリは?」
『位置情報不明、しかし弐号機近辺に弐号機パイロットらしき反応は認められません』
この時のマコトの声でマリが動かしているという選択肢は失われてしまった。
ともすれば、一体誰が弐号機を操るのか。
シンジ、レイ、そしてマリ。誰も操ることが出来ないこの状況。
前史ではどうだったか。
確か、自分も知らない間に鈴原トウジがパイロット候補になっており、結局瀕死の重傷を負わせるに至ってしまっていた。
では、一体誰が操っているのか?
まさか、今度はケンスケあたりが動かしているのか。それとも、洞木ヒカリあたりだろうか。
それとも、普段はあまり話さないクラスメイト、もしくは他のクラスの少年少女、学年、学校……様々に可能性はある。
しかしその可能性はいずれにせよ極めて低いだろう。そもそも、なぜ彼らが弐号機の操り方を知っているというのか。
初めてネルフにやってきてエヴァを操るのはほぼ不可能であるのは前史の自分が文字通り痛い程経験している。
多少の才能による差こそあれど、今度はエヴァをどのように発進させるかという疑問点も挙げられる。
当然ながら発進手順に関する少なからぬ知識が必要であり、エヴァを発進に至らせることは不可能だろう。
既に様々な選択肢が変わってきてしまっている今、完全にその可能性を否定することこそ不可能だ。
不可能だが、そうなる理由が思いつかないのだから、どうしてもその可能性は思考の彼方へと吹き飛んでいく。
「弐号機との通信は?」
『相互リンクがカットされています。こちらからは……』
「そう……一人でやりたい、ってことかしら」
遠目に見える三号機。山道を飛ばす車はやがて山頂付近に到達する……と共に、戦場の全貌が露わになる。
そこには確かに、あった。弐号機の、赤い体躯が。
「本当に、動かしてるとはね」
『……どう、しますか?』
「いいわ、日向君。どの道弐号機は動かせない、暫く様子見で行きましょう」
『で、ですが』
「どの道もう発進しちゃったなら現段階で止める術はないでしょ。シンジ君たちももうすぐで到着するから反旗を翻すようならその時に対処すればいいわ」
『はあ……分かりました』
やや納得の行かない様子の日向の声が聞こえてくるが、ミサトの言うことにも一理ある。
どの道シンジもレイもこの瞬間から戦闘に参加は出来ない。そうなれば、今は弐号機に迎撃して貰う方が都合が良い。
弐号機はじりじりとバルディエルの方に歩み寄っていく。
バルディエルもそれを察してか、若干方向を転換し弐号機の方に歩み出していた。
弐号機は人が乗っているからか背筋がある程度真っ直ぐしており、人らしさも感じられる歩み方だった。
その一方、バルディエルはフラフラとした猫背のまま。両腕はダラリと下がっており、人とはまた違う不気味な歩みを進めている。
ある意味対照的とも言えた。ヒトと、ヒトならざるもの。
大きく離れているように見えた距離だが、エヴァからすれば既に人間でいう数十m程度の距離なのだろう。
瞬く間にその距離は縮まっていく。
車の中も、交戦している訳でもないのに緊張感が漂い出しており、無言が続く。
そして黒と赤が一定の距離となったところで、バルディエルは静止した。
……始まる。
前史の時も、このようにして一度静止したのだ。そして、
「……ォォオオオオオン!!!」
やはりこれも前史通りで、先に手を出したのはバルディエルだった。
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弐号機を操る少女は、夕陽をバックにゆっくりと近づいてくる敵を目の前に不敵に笑う。
「ふふふ……使徒。使徒よ。久しぶりの……私の好敵手」
歓喜の声。己の欲求、剛きを求める欲求を満たしてくれる数少ない存在。
ヒトとの戦いには既に飽き飽きしていた。時には骨のある者もいたが、それはごく少数。
何より、今目の前にいるシトほどに強い者がどれ程いるというのか。
彼女の欲求を満たす存在は、今のところ三つ。
北極で討伐した、あるいは、今対峙している存在。使徒。
少し前に会敵した、傘を差した男。
そして……。
「もう少しで、もう少しで会えるのね。ネルフのエースさんにも。でも、今はコイツとの戦いを楽しみましょうか」
弐号機は複眼をギラリと輝かせながら、やはりバルディエルへと向かっていく。
やがて。弐つの巨体はお互いを見合う。
「ォォオオオオオン!!!」
先に手を出したのは、バルディエルの方だった。
バルディエルはくぐもったような咆哮をあげると、その身を低くする。
そして高く跳躍すると一回転し、そのまま弐号機の方へと飛び蹴りをかましたのだ。
この攻め方は、前史で初号機への初撃と全く同じものだった。初号機はこれを避けられぬまま被弾し、そのまま一気に追い詰められてしまうこととなった。
それでは、弐号機はどうか?
その巨体は見る間に弐号機に迫る。が、弐号機はまるで避ける気配がない。
まるで前回のシンジの乗った初号機のように、なす術無し、といった様子であるかのように見える。
そのままその脚が弐号機に直撃すると思われた。前史の初号機同様であれば、そうなのだろう。
だが、弐号機はバルディエル同様に身を屈めると三号機の飛び蹴りを命中寸前で避けきって見せた。
「甘いわ」
勿論、使徒は一撃を躱された程度で怯むような存在ではない。バルディエルは止まることなく弐号機への攻撃を続行した。
飛び蹴りから着地すると、その慣性を上手く利用してもう少し前に飛び跳ね、そのまま蹴り込みのバックステップを弐号機にお見舞いする。
しかし、それも弐号機は見事に躱して見せた。やはり寸分で見切り、バルディエルの着地点をあたかも予測しているかのように横へステップしたのだ。
バルディエルはそれで着地すると、今度は左裏拳での攻撃を試みた。
バルディエルのリーチは圧倒的だ。エヴァンゲリオンの装甲の特性を変化させどこまでも伸びるその腕での攻撃は、普通に回避しようとするのでは被弾を免れない。
が、それでも見切られて回避される。そのまま右の拳でもストレートを決めようとするが、それもやはり避けられてしまう。
「そんなトロい攻撃では当たらないってーの」
一方の弐号機は回避こそ鮮やかだったが、バルディエルに攻撃を加える気配はない。
それからもバルディエルの猛攻は続いたが、まるで歯牙にもかけずひらりひらりと避けてしまう。が、攻撃は、しない。
バルディエルの攻撃は、彼女にとって単調そのものだった。近接戦闘の範疇で考えれば無限に等しいリーチも、彼女からすれば所詮対人戦の延長にすぎない。
「……つっまんないわねぇ。コイツ、前のより弱い」
バルディエルがエヴァに寄生したのは、今回に関しては誤りだったようだ。相手が悪すぎる。
対人戦闘のエキスパートたる彼女。相手が人類の範疇を多少超えたところで、大部分の攻撃が人類と同じであればそれはもう対人戦闘の実力が如実に表れる。
いよいよ退屈へ陥った彼女は、途中で飛んできた蹴りを、片手で受け止めた。
かわせなかったのではなく、敢えて受け止めたのだ。敵の力量を確かめるために。
「案の定威力も、そこまでではないか」
すると、バルディエルがもう片足で攻撃をしてくるのが見える。しかしそれを反射的に捉えると、その片脚をも受け止める。
「終わりにしましょうか」
弐号機の手中に収まったバルディエルの足首は、一瞬にして砕かれた。
---
「……なるほどねぇ」
そしてその様子を見て、ミサトは何かに感付いたらしい。
「避けているけれど、このままじゃ……!」
「……大丈夫よ。多分」
「どういう、ことですか?」
「見てりゃ分かるわよ」
「……?」
ミサトは既に負けはないと確信しているようだった。先ほどからの落ち着きようも、どうやらそれに起因していたらしい。
しかしそれは何故か? シンジには勿論、レイにもカヲルにもその見当はつかない。つかないし、つく暇もない。
そうして思考を巡らせる間にも、バルディエルと弐号機の戦いは続いているのだから。
やがてシンジの懸念が当たったのだろうか。
「あっ……!」
『捕らえられたね……』
「……ええ、でも」
いよいよ以ってバルディエルの蹴りが弐号機を捕らえた。
いや、疑念は、当たった訳ではないように思われた。少なくとも、綾波レイにはそう見えた。
ごく一瞬のことであったので確信はなかったが、あたかも弐号機が蹴りを「わざと」受け止めたかのように見えた。
しかしそれが故意のものであったにせよそうでなかったにせよ、漸く捕捉出来た相手をバルディエルが逃すはずもない。
受け止められたところで、その脚を軸として弐号機へもう片方の脚で蹴りをお見舞いする。
だがそれが、弐号機の仕掛けた「罠」であることは、使徒である彼には予知できなかった。
飛んできたもう片方の脚もいとも簡単に受け止め、一握りでそれをペシャンコに砕いてしまう。
それは前史での、サキエル戦における初号機の暴走を彷彿とさせた。
レイの見方は当たっていたのだ。
そのままバルディエルを蹴り飛ばすと、そのまま先ほどの三号機を遥かに上回るスピードで三号機への突撃を図る。
流石のバルディエルもその速度には追い付かなかったのか、その突撃ももろに受ける形になった。
地面を大きくえぐり、やがて絡み合った両機は摩擦の影響を受け田畑の一角で静止する。
馬乗りになった弐号機は、バルディエルの、そして三号機のでもあるコアにその拳を突き立てる。
そして、その一撃が防がれることはなく、ガラス玉の叩き割れるような音が響き渡る。
その音から三号機は全く以って動かなくなった。だが、それでもしばらくの間追撃は続いた。
そして、既に動くことのないない三号機の両腕、両足を引き千切り投げ捨てる。完全に行動不能へと持ち込もうとした結果なのだろう。
弐号機は立ち上がり、それまで戦場としていたその大地を踏みしめて元の格納庫へと戻っていった。
『報告します。パターン青、消失……』
それとほぼ同時に、日向の震えたような声が、ミサトたちの乗るルノーの中に響いた。
「終わり……ましたね」
「そうね」
「……ミサトさん」
「なぁに?」
「弐号機。誰が乗ってるか、知ってるんですか?」
「ま、……確証はないけどね。大きすぎる心当たりが一つあるのよ」
ミサトの言う、大きすぎる心当たり。しかしシンジにその心当たりは……
いや? まさか。
しかし、一人心当たりはある。
それこそ、ミサトの思うよりもずっと大きな心当たり。むしろ、弐号機の出撃であるからして、その心当たりを疑わない方がおかしい。
そもそも、よく考えてみればリツコの発言の時点で疑問はあった。
「三号機テストパイロットはマリになる予定だった」
前史では、レイ、シンジ、アスカ。三人で、三号機のためのパイロットが一人足りていない。そこへ鈴原トウジが割り振られたのだ。
ところが今回はレイ、シンジ、マリ。三人しか居ないにも拘らず、パイロットはマリが選ばれた。
これはどういうことを意味するのか?
それは単純で、既に四人目の適格者があの時点で存在しており、そのことは既にリツコ達も知っていたであろうということだ。
では、その四人目の適格者として考えられるのは一体誰なのか?
条件は一つ。
マリ以外で、弐号機に適合可能な人物。
この世の中に存在するとすれば、その候補はただ一人。
レイもその考えに至ったようで、思わず顔を見合わせた。
それと同時に、迎撃拠点へと到着したようだ。
ブレーキに伴う弱い慣性を身体で感じ取ると同時に、ミサトがハンドルから手を離した。
「喜べシンちゃん」
「え?」
「もしあたしの心当たりが当たれば、その子と~っても可愛い子だから。ここも、シンちゃんたち位の女の子の平均よりはずっとあるわよん?」
ミサトは自身の胸の獲物をぶるん、と一振りして見せる。
何気に久々に見たような気のする平均より明らかに大ぶりなそれに、思わず顔を赤らめてしまう。
……マリよりも一回り以上大きいように見える。
「あらっ、慌てちゃってぇ~。もしかして意外とウブなのかしら」
「そ、そんなんじゃないですから」
「ふふふふ~。まぁほら、ちょっちおてんばなとこあるけど、割とシンちゃん好み……あっでもシンちゃんにはレイが居るしねぇ~」
「なっえっ」
「それじゃ、ちょっち連れてくるわねぇ」
人をひとしきりからかうとルノーを降り、どこかへと消えるミサト。
数分もするとミサトが戻ってきて、更にそれから数分後くらいに彼女の言う「可愛い子」がやってきた。
思った通りの、女がやってきた。
「ヘロー、ミサト! 久しぶりね」
その姿は、エヴァンゲリオン弐号機と同じ色のプラグスーツ。
赤いプラグスーツに調和する赤みの混じった茶髪。
マリほどではないが、確かな女らしさを感じさせる曲線的な身体。
「久しぶり。少し、背ぇ伸びたんじゃない?」
「そ。他のところもたーんと女らしくなってるわよ」
「そうね。あっシンちゃんにレイ。紹介するわ」
そう。
「エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット。式波アスカ・ラングレー大尉よ」
アスカ、だ。
「……!!」
「ん? どったのシンちゃん」
「……あ、あ……」
思わず、声が吃ってしまう。
どういう訳なのか、苗字は違うようだ。しかし、その姿、名前からして、明らかにアスカそのものだった。
なんと、懐かしいことか……!
シンジの脳裏では、彼女との日々が稲妻のように記憶を駆け抜けていく。
初めて出会った、オーバー・ザ・レインボーでの初会戦。
黄色いワンピース姿の眩しい、あまりに衝撃的だった彼女。
自分と何もかもが違う、対照的だった彼女。
そんな彼女とエヴァ弐号機に二人乗りして殲滅した第六使徒、ガギエル。
ネルフ以外で会うことがないと思っていたら、中学校も同じだった彼女。
そして、第七使徒イスラフェル。
一週間にわたるユニゾン訓練生活。彼女の思わぬ弱みを知ったあの日。けれど、最終的には殲滅に至ることが出来た。
修学旅行に行けないが為の、プールの貸し切り。健康的な肉体に映える、眩しすぎる水着。
第八使徒サンダルフォン。気が付いた時には、溶岩に飛び込んでいた。
温泉旅行。熱膨張。聞こえてくる、あまりに重みのある話。
ネルフの停電。彼女らしくリーダーになりたがる。結局ダメだったけど、それもまた彼女らしい。
第九使徒マトリエル。彼女らしさの溢れる行動。使徒とは何か。意味もなく問うたあの時。
第十使徒サハクィエル。ミサトに対する欺瞞を笑いあった。自分がエヴァに乗る理由。笑われた。
でも、それも彼女の表れ。
第十一使徒イロウル。何が何だかよく分からないうちに終わっていて、苦笑しあった記憶がある。
第十二使徒レリエル。とびきりの心配を、掛けてしまっただろう。
病室から退室するレイの陰に密かに見えた彼女の影を忘れるはずはない。
そしてある夜。あれは恐らく、ファーストキス。
……
「なに? 黙っちゃったけど、どうしたのこの子」
「分かんないわよ。もしかしてアスカの美貌に一目ぼれしたんじゃない」
「上手いコト言っても何も出ないわよ」
「挨拶の一声ぐらい出してあげたら」
「そうね。宜しく二人とも」
「……あ、うん。宜しく」
「……宜しく」
「ねーミサトぉ。二人とも静かな子ねえ」
「まぁ貴女に比べたらね」
「ところでミサト。こっちが綾波レイ、で、この子が碇シンジね?」
「ん? そうだけど、どうかした?」
「そ。……碇シンジ。ちょっと来なさい」
「え? ちょ、わっ」
声を掛けられたと思うと突然、腕を引かれる。一見してその光景は小説的なものだ。
思わずバランスを崩しかけながらも何とかついていく。
そして暫く腕を引かれた後、先ほどの場所とは少し離れた空き倉庫に辿り着いた。暗がりになっており、昼間ではあるが向こう側の壁はとても見えない。
辿り着いて暫くの間、お互いに無言になる。微かに風音が聞こえる中、先に口を開いたのはアスカだった。
「貴方。本当に「碇シンジ」?」
「え?」
「え? じゃないわよ。アンタみたいな冴えない男が、本当に噂のサードチルドレン、碇シンジなのかどうかを聞いているのよ」
「は、はあ……そうだけど」
「……ふーん」
「それが何?」
「……あんたバカぁ? こんな時にいなかっただなんて、何て無自覚」
やはり……全くもって、変わらない。記憶こそないように見えるが、それでも彼女の本質的なところは変わっていなかったのだ。
減らず口を叩くのは、何も今に始まったことではない。むしろ、前史の時もそうだった。出会い頭に浴びせられる矢のような罵倒。彼女らしい行動だ。
あまり彼女を知らない者からすれば、そう、例えば鈴原トウジだとか、そのあたりの人物が見れば、なつかしさすら覚えるだろうそのやり取り。
シンジも表情こそ取り繕っているが、内心では感激していた。ついに、ついにこの世界でも会うことが出来たのだと。
しかし……それからの行動は、幾ら彼女に横暴な一面があるからと、まるで予測不可能。
普段、ミサトと自分と共に同居していたからこそ分かる、少し違っているその様子。
彼女の目は、段々と違う輝きを浮かべ始めていた。
かつての彼女の目は、悪態をつきながらも純粋さもある輝きがあった。
ところが、今はどうか。
目は次第にらんらんと不気味に輝き始めたかのように思われ、やがて開き切った瞳孔は彼女の異常性を何よりも物語る。
そして……加速する。
「……おまけに無警戒。所詮、親の七光りかしら」
その速度についていけないシンジに、耳元でささやいてやった。
そのささやきが届いたその瞬間、
「……ぐっ!?」
腹部への鉄拳。その攻撃を知覚したとほぼ同時に、シンジの軽い身体は、悲鳴を上げることも許さず向こう側へまで吹き飛ばされた。
暗がりになった倉庫で、後ろに積まれていたと思われる何かがドサドサと崩れ落ちる音が聞こえる。
普段のトレーニングの甲斐あってか、辛うじて受け身を取ることは出来た。しかしあまりに重い一撃に、立ちあがることが出来ない。
「……何、するんだよ!」
「何って、決まってるじゃない」
「えっ……」
「闘いよ」
更に急接近するアスカ。そしてその手は、今度は首を捕らえていた。
「……!」
「こんなものかしら……ネルフのエースとやらは」
その握力はどんどん上昇していき、首を絞めていく。
脳が空気を欲して首を絞める腕に手を動かすのだが、それでも彼女の手が外れる気配はなかった。
一体何が起きたというのか。
闘いだと? 何故彼女と闘わなくてはならないのか。自分が彼女に一体何をしたというのか。
少なくとも今史では会うことは初めてなのだから……心当たりが、まるでない。
しかし、自分の心当たりがないだけでアスカには紛れもなくその動機があるようだった。仮に彼女が前の通りだとしたら、動機のない暴行は……全くないとは言えないが、今回のように明らかな殺意すら感じる暴行はまず、加えない。
「あ、アス……か……」
「……そうね。一思いにラクにしてあげるわ。昔のヨシミでね」
「ど、どうして……」
「本当に無自覚なのね……呆れた」
アスカの目は最早かつての自分を見る目ではなかった。何か汚物を見るかのような、見下しきった視線がそこにある。
『大丈夫かい?』
「(か……カヲル、く……)」
『……済まないシンジ君。一瞬だけ我慢してくれ』
「(……え?)」
『このままでは君が持たない。だから』
カヲルが既に意識も遠のきかけているシンジに呼びかけると、シンジはあっさりとその身体から意識を手放した。
いや、意識自体は残っていた。
残っていたのだが、身体が完全に言うことを聞かなくなったのだ。
しかし身体に入った力が抜けることはないようにも感じられ、むしろ前史のダミーを搭載した初号機の如くアスカの腕を掴み返すと、ゆっくりとその腕を押し戻しにかかる。
体感だけで言えば、まさにダミープラグが動き出したかのような感覚であった。自分の力を使っている感覚はないが、感触は残っていた。
一方のアスカは突然の反抗に少しだけ驚いた様子を見せる。
が、やっと目の前の少年が戦う意思を持ったのだと判断し、一度素直に引いた。
「……あら。少しは本気になったかしら」
「……」
「そうよ。そうじゃなきゃ面白くないわ……いいわ、来なよ」
勿論、シンジ本人が本気になった訳ではない。本気になっているのは身体の主導権を握っているモノ。
「(カヲル君……? 何を)」
『彼女は尋常じゃない……説明は後だ、今は僕にこの身体を委ねてくれ』
「(尋常じゃない、って)」
『……使徒だよ』
「(え?)」
『彼女は恐らく、使徒だ……もしくは、それに近い何かだ』
「(……そんな、何を言ってるんだよカヲル君)」
『……話はあとにしよう』
そう、カヲルこそが、シンジの身体のコントロールを奪ったのである。
使徒であるからと片付けるにしてもなかなかでたらめのように感じないこともないが、少なくともカヲルに関しては、前史で弐号機を動かしたのと同様に操れてしまうのだろう。
だが、それより気になるのはカヲルの言ったことだ。
アスカが、使徒?
カヲルは、一体何を言っているんだ。
「よそ見してちゃダメダメよ?」
「……!」
「あら、避けたのね。それじゃあこれはどうかしら?」
辛うじて裏拳を避けたところに飛んでくるのは、正拳突き。先ほどバルディエルが行ったのと全く同じものだ。
人のものとは思えぬ凄まじいスピードで飛んでくる拳。
いや、仮にカヲルが言った通りに使徒なのだとすれば、当たり前となる速度とも言えるが。
そしてそれは、シンジの身体から発せられた、いや、カヲルが発した薄い壁にそれは防がれ、甲高い音を立てる。
それは薄いながらも決して破れる気配がない。
電磁波や光波を一切防ぎきったタブリスの強力なATフィールドは、今史でも健在の強さであったのだ。
「……っ!」
そして突き放すように、ATフィールドをを向こう側にその華奢な身体ごと叩きつけた。
少しの間彼女は座り込んでいたが、大きな音を立ててヒビの入る壁で、アスカはゆっくりと立ち上がる。
「いったいなぁ……でも、やっぱりアンタもそうなのね。得体の知れない何かを内に宿している」
「……君は一体?」
「そりゃこっちの質問ね」
シンジ、いや、意識としてはカヲルの問いかけにアスカは応える気は無いようだった。
「……でもまぁ、今は止めておきましょうか。あんた今出したでしょ、ATフィールド。これ以上やりあったらミサトたちに怪しまれるから」
「……」
アスカがこちらに進む途中で、壁は崩れ落ちたようだ。
崩れ落ちた部分は暗くてよく見えないが、音と土煙がもうもうと上がるのが分かる。
「ほら、噂をすれば」
やがてこちらに戻ったアスカが顔を向けた方向には、走り込んでくるミサトの姿が見えた。
明らかに必死の形相だ。それもそうだろう。恐らくは使徒が復活したとでもいう情報を受け取ったのだろうから。
それを見てか見ないでか、カヲルは再びシンジへと身体のコントロールを明け渡した。突然のことだったので一瞬ふらついてしまう。
「シンジ君! それにアスカ! パターン青が再び確認されて……」
「は?」
「パターン青よ。まだ生きてたのよ、使徒が」
「有りえないわよ。今私が倒してたの、忘れたの?」
「分かっているわ、でも確かに今……あら? もしもし日向君……」
アスカがそういったとほぼ同時に携帯端末に通知が入る。先ほど同様にマコトとの通信のようだ。
ところがマコトとの通信においてアスカが言った通りのことが起こっていると分かってか、端末をしまうと少し混乱した様子になっていた。
「おっかしいわねぇ……」
「そそっかしいわねぇミサトぉ。こちとらエースパイロット同士親睦を深めてたところなんだから邪魔しないでよ」
「あ、あらそう。そりゃごみんねぇ。それじゃあたしは色々手続きあるからもう少しだけ待っててね」
アスカに諭されると、再び慌ただしくどこかに走り去っていってしまった。
ぽかんとして見ていると、横からアスカが声を掛けてくる。
「……ねえ」
「……何?」
「今回は貸しよ」
「え?」
「ミサト誤魔化した貸し。ちゃんと返しなさいよね。それまでは見逃しておいてあげる」
「み、見逃すって……」
「最初はクソザコのナメクジかと思ってたけど。本気出せば少しは出来るようだからね。万全な時にじっくり痛めつけてあげる、と言ってるのよ。それに私には、個人的にアンタに恨みもあるのよ」
「う、恨み?」
「……ほんとに馬鹿ね」
自覚出来ないシンジに対し、科白を吐き捨ててどこかへと歩き出し始めるアスカ。
「どこ行くのさ」
「女の子にそれ聞く?」
初めはなるほど、と思っていたが、やがてミサトが戻ってきて、それから第三新東京市に戻るまででアスカと再び会うことはなかった。
恨み。
個人的な、恨み?
今史では、与えていない……筈だ。
それではまさか、彼女も。彼女もまた、前史から遡行出来ていた、というのか。
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バルディエルとの会敵を終えた翌日。
シンジ達は数ヶ月ぶりとなる三人でのブレインストーミングをしていた。
PCに睨めっこするのはレイ、その様子を横から見るのはシンジ。そしてカヲル。
やがて一つの画面に行きついたところでレイがその手を止めた。
そこには見慣れた顔の画像を含んだ、プロフィールが映っていた。
「情報、出たわ。式波アスカ・ラングレー大尉。T・セカンドチルドレン。コードネーム:朱雀」
「知ってるのか綾波?」
「ええ。裏社会で大暴れしている女戦闘狂としてインターネット上で噂になっているわ」
「お、女戦闘狂……ある意味、らしいかも。」
レイの報告を聞きながら過去の彼女とのやり取りを思い出し、思わず苦笑いを浮かべるシンジ。
既に一年近くが経とうとするが、それでも彼女の横柄な態度は未だに記憶に新しい。何せ、一年近くは同棲していたのだから当然だろう。
そこに例えミサトという第三者の厳しい目での監視があったとしても、その余りに近い距離は少年と少女が互いをある程度知るには充分なものであった。
「この、Tというのはなんだろう」
「分からないわ。でも、同じくセカンドチルドレンとして登録されている真希波さんには付いていない」
『この際それは重要ではないと思う。むしろ彼女がどんなことをやってきて、何を企んでいるのかが分からないと』
「実力は確からしいわね。ソースはないけれど、今回マトリエルの時期にネルフが停電にならなかったのは彼女がたまたま反ネルフ組織を潰していたから、という噂が立っているわ」
『現在ではあくまでもネルフに協力する腹積もり、という訳かな』
「そういえば……心なしかミサトさんが愚痴る回数が減ってるような気がする」
「確かにそうね」
「使徒襲来以外に目立った事件もないし、裏社会で暗躍って言うと響き悪いけど、実は意外と悪いことばっかじゃないのかもね」
「それはどうかしらね。何時だかのホモみたいに反旗を翻す可能性もあるわ」
『そうだね、何時だかのリリスみたいに補完計画の要になっているかもしれない』
「……」
『……』
「いやあの二人とも。今そういう喧嘩するところじゃないからね? 分かるでしょ?」
いつものノリで二人の奇妙な対立が生じるまでが、この知恵合わせのテンプレート。
それは例え前回から数ヶ月が経ったとして変わることはなかったようだ。
しかしながら、だ。全くもって前と同じという訳でもない。
やがていつもの揉め合いは普段より早く収束を見せる。そういうことを論じている場合では今はない、ということを理解したのか、はたまた単純にお馴染みのノリに飽きているだけなのか。
「でも反旗を翻す可能性があるのは事実よ。そうでしょ」
『ああ。対峙したあの時感じたのは僅かながらも確かに使徒の波動だ。裏で朱雀と呼ばれる彼女の強さも使徒の力を宿しているならば説明は付く』
「……じゃあ、いつかはアスカも、リリスを目指すかもしれないってこと?」
『あるいは、彼女自身は使徒ではない可能性もある。僕達や先の山岸さんのように、その内に使徒を秘めているのかも……』
それは決して有り得ない事象とは言えなかった。
前史からカヲルを内に秘めレイを連れたシンジのみならず、山岸マユミ、彼女もまた、その内に使徒を秘めていたのだ。
前史からのシンジだけであればともかく、もう一人新たな例が生まれている。とすれば、もう一人や二人、そうした人物がいるとして何ら不思議なことでもない。
人類的に言えばどちらも不可思議にも程のある事象ではあるが、逆に事情を知る者からすればその不可思議さという霧は晴れ考察する上での障害もなくなるのだ。
そしてアスカは、微かではあるが、前史の記憶を持っている可能性がある。
恨み。
恨み?
もしも前史でシンジが首を絞めたりした、あるいは量産機戦で助けに出なかった。その時などの恨みだとすれば、説明は付かないこともない。
その時の影響が、使徒をその内にもたらしたのか。はたまた彼女を使徒たらしめたのか。
そこまで考えを至らせることは流石に難しい。
一度晴れた霧は再び周囲を覆い、やがては再び事態の展望を闇へ葬ってしまう。
そして何より、シンジ達の懸念はアスカのことだけではなかった。
「けれど、もう一人怪しいヒトが現れたわ」
「ああ……真希波さん。彼女は一体何者なのか。普通に考えて……エヴァ三号機からの脱出なんて不可能だよ」
「でも彼女、ものの見事にぴんぴんしてたわよ。此間も……こないだ……も……」
「何かあったの?」
「な、何でもないわよ……というか、何を言わせるのよ」
「いや、僕何も知らないけど」
「……」
「黙って顔真っ赤にされても何も分かんないからね?」
真希波マリ・イラストリアス。
彼女の存在もまた、ここに来て再び考察の対象たりえるものになった。
シンジの述べた通り、バルディエルに完全に乗っ取られたエヴァンゲリオン三号機からの、完璧なまでの脱出を成し遂げて見せたのだ。
そのようなことが仮に現代の人類の科学レベルで可能だというのならば、そもそも前史でもそれは出来たはずで、トウジも重傷を負わずに済んだはずだ。
『一つだけ、彼女が何者なのか、という矛盾を解決する回答はない訳ではないよ』
「カヲル君」
『彼女もまた、使徒と何らかの関連を持っている……それどころか、彼女自体が、使徒であるかもしれない。可能性としてはそれ位だろう』
「……真希波さんも、使徒?」
『仮に彼女もまた使徒ならば、かつての僕のように、遠距離からシンクロシステムに介入することは可能だからね。君だって見ていただろうし、あれなら三号機にエントリーしなくても三号機は動かせる。矛盾は起きない』
「……そう、そうか……」
「……碇君」
あまり信じたくはない話だった。仮にマリまでもそうした使徒と呼べるような存在であるとすれば。
あるいはカヲルのように、手に掛けねばならない可能性があるから。
『……実は、朱雀、もといセカンドには奇妙な噂があるんだ』
「噂?」
『それまでは一人で行動していたのに、ここ最近になってもう一人の相棒らしき人物を連れているらしい。
それもまた女らしいが……赤い眼鏡を、掛けているそうだよ』
「それって……!」
『確証はない。ないけれど、彼女がネルフから不自然に姿をくらましていた時期と、セカンドの朱雀としての活動時期を照らし合わせて、辻褄が合ってしまえば』
「仮にセカンドが朱雀で確定だとすれば、現状のセカンドについていける普通の人間はまず存在しないでしょう。存在するとしたらそれは使徒を内に宿して使徒の力を得た人間か、使徒そのものよ」
『ま、いずれにせよ彼女たちには注意が必要だね。僕らという第三者の厳しい目が必要だろう』
「そうね。別荘だのプラグスーツだの色々と目を付けておかないといずれ逃げられるわ」
「多分別荘持ってないし逃げる意味はないと思うんだけど……」
進捗は芳しいとは言えない。一つ分かったのは、アスカもマリも、並々ならぬ事情を抱えている、ということ。
そしておそらく、朱雀として暗躍する彼女の強さも偽りのものではないのだろう。
それは今回の一連の出来事で痛感することとなった。
日「こんにちは。日向マコトです」
青「青葉シゲルです」
伊「伊吹マヤです」
パーパラッパッパパーラパッパー♪
パーパラッパッパパーラパッパー♪
日「さて、だいたい四ヶ月ぶりくらいだな
青「そうだな。いやー長い休日だったよ」
伊「ですねぇ。今日バルディエルの為に号令掛けられたのが久々の仕事ですし」
日「でも不思議と給料は入ってるんだなコレが」
青「正直俺たちの仕事は使徒迎撃が七割だからなぁ」
伊「体裁上は国家公務員ですからね。お給料を払わない訳にもいかないということでしょう」
日「正直葛城さんに出会えたことよりこれ程に優良な福利厚生の方が嬉しいかもしれない」
青「んだな。第三新東京市でも此間市長が別荘とか買ってて文句言われまくってたけど、この現状バレたらネルフが文句言われるんじゃないかっていうレベルだよ」
伊「……あ、そういえばこのラジオって一応全国区ですよね」
日「あっ」
青「あっ」
…………
伊「……まぁでも普段の私たちの適当っぷりからして少なからず予想はされていたでしょう」
日「そ、そうだよ。それにどうせ第三新東京市はネルフ関連者しかいないしな」
青「そーそー。何かあってもネルフが何とかしてくれるって。それに俺たちのせいじゃねーし。次の出演だって大体一月とかそこらくらいでしょ。
それじゃあマヤちゃん、いつもの」
伊「はーい。
『コリオリ君ってなんですか』とのことですが」
日「出ましたズバッとコリオリ君」
青「ネルフでズバッとコリオリ君」
伊「一本ズバッと七十円」
日「ガリッとズバッともう一本」
青「コリオリ君」
伊「コリオリ君」
日「コリオリ君」
日「ありがとうございましたー」
青「ありがとうございましたー」
伊「ありがとうございましたー」
日「……」
青「……」
伊「……」
青「いや、何だよコレ」
日「何だよって言われてもなあ」
伊「ズバッと言ったじゃないですか今まさに」
青「そ、そういうもんなのか……?」
日「シゲル。これ以上突っ込んだらポカスカにされるぞ」
青「突っ込んだらヤバいものを突っ込むのがおかしいだろ」
伊「いや、既に数分前に相当ヤバいこと公共電波に流しましたしもう今更じゃないですかねえ」
日「そういうこと」
青「…………」
伊「はい。青葉君も納得したようなので次に行きます。
『結局、朱雀=アスカってことでFA?』とのことですが」
青「うーん」
日「イエスでありノーである」
伊「いや今さら隠しようがないと思うんですがね日向君。まぁ、一応そういうことですよね。まぁ、結構看破されていた方は居ると思うんですが」
青「ここだけの話名義だけでも別になっててもよかった気がするんだけどな。因果律のうんたらで」
日「ああ、例えば見た目も中身もアスカなのに名前だけ霧島マナ、とか面白かったかもな」
伊「それ結構困るんじゃないですか? 鋼鉄のガールフレンド編出来なくなっちゃいますよ」
青「あーそうだな。あるいは浦波アヤ・ヴィルヘルミナちゃんとか」
日「上条サヤカ・ゼッケンドルフちゃんとか」
伊「あの今凄く際どいのが紛れてるような気がしたんですが」
日「気のせいだろ。それに仮に際どいとしてもだ、お前らこんな格言を知ってるか?『疑わしきは罰せず』」
青「おーいどっから出したその紅茶。色んな意味で謝った方がいい気がする中繋がり的な意味でも。何故かフォークが飛んできそうな気がする物凄く」
日「中? フォーク? 何言ってんだコイツ。……ん? ってかちょっと待て」
青「今度はどうした。フォークにつられて触手でも来たか」
日「確かさ、マリちゃん言ってたよね。『色々悪戯すると可愛い反応する』って」
青「……ああ言ってたな」
日「ってことはだ。実は描かれていない裏で、二人の間にあんなことやこんなことが……?」
伊「……ほほう?」
青「マヤちゃん食いつくね」
伊「ちょっと今度色々聞いてこようかしら……その、先輩との参考に……」
青「具体的に誰かは述べずとりあえず先輩って言っておけば隠せてるって思ってるだろうけどアウトだからね」
伊「いえ、限りなくアウトに近いセーフなのでセーフですよ」
青「ゼロと小数点の後に延々と九を並べ続ければやがて一になるのと同じだからね。限りなくアウトに近いというのはそれ即ちアウトと同じだからね」
日「まぁマヤちゃん、そのあたりの話はまた後日、プライベートでということで」
「今でもいいよ」
日「ん?」
青「あれ?」
伊「え」
マリ「だから。今でもいいよ? 聞くの」
伊「ま、マリ? 今放送中……」
マ「ほら遠慮しないで聞いてみなよ」
伊「あ、え、えっと」
マ「可愛いなぁ~……ねぇそこオペレータ二人」
日「はい?」
青「なんすか?」
マ「ラジオ終わったらこの子持ち帰っていい?」
日「あ、どぞ」
青「はい」
マ「やったーマヤちゃん、許可でたから一緒にお話ししようね?」
伊「お、お話、って何かしら? それに私たち、大人と子供よ? そんな如何わしい話なんて」
マ「その子供に色々な部分で負けてる大人がなんだって?」
伊「お、大きさは関係ないでしょっ」
青「そもそも同性同士であることに疑問はないのか」
日「これ映像なら絵になるからセーフだけど、これラジオなのよね」
マ「……なんだったら、後で、実体験。させてあげるから。どうかにゃ?」ボソッ
伊「……!」クラッ
マ「……ふふっ。女は度胸。なんでも試してみるものよ」
伊「ぁぅ……」カァァ
青「あっ堕ちた」
日「堕ちたな」
マ「それじゃ皆さん、このことは内密に。じゃねっ」
青「いや内密も何も全国ネットでこのやり取りの音声流れたからね」
日「……や、なかなかインパクト強いなあの子も。まさしく規格外」
伊「……だ、大丈夫です。ゼルエルとか弐号機とかの捕食シーンとか明らかにR-18Gですもん。そういう描写がある作品なんですからタグなくてもR-15くらいは皆さん覚悟されている筈で」
青「まぁそれを見越してR-15くらいは入れてるけどさ、露骨なR18はまずいでしょ! どこぞの深夜四十二時を真似なくていいんだぞ」
日「深夜だからセーフ」
青「どうみてもアウトだからな」
伊「……き、気を取り直して最後の質問に行きましょう。
『物語進むの遅くね? というかもう明らかに時系列無視になってきてるよね』ということなんですが」
日「いやほら。次第に壊れてゆく碇シンジの物語とかよく言うでしょ」
伊「公式ですもんねそれ」
青「でも時系列が遅れてるのは事実だろ、今バルディエルだから……あ、でも一応ゼルエルとバルディエル自体はそんなに離れてないんだっけ。だったら何とか巻き返せるんじゃ」
伊「そもそも次がゼルエルなのかどうかってところから始まる訳ですが」
日「確かに。またバルディエルが実は生きてましたーとかなったらそれこそまーたバルディエルな訳だろ?
あと、ゼルエルを終えたら某所の日程表も日時一切不明とかになっちゃうしなぁ。もう割と適当な間隔でもいいんじゃないか」
青「一応前回から一月と少しは経っている設定だろ? あの時は三月後半で、今五月上旬って感じか。設定的なズレ自体はそこまでないよな」
伊「じゃあ描ける時系列は追いつこうと思えば追いつけると」
日「でもこっちの時系列がどんどんぶっ壊れてるし、本編の方もさっき言ったようによく分からなくなってるからな」
青「あるいは事前にこの日らへんに進みますよってのをある程度伝えるか、とにかく時系列が壊れるのは仕方ないから矛盾だけはないように願いたいもんだ」
伊「ですね。あっと、そろそろ葛城さんを呼びましょうか……」
日「……」
青「……」
伊「……」
日「……こないな」
青「うん」
伊「ええ」
日「……よし分かった! 今日は俺がやろう」
青「えっ出来るのかよお前」
伊「不安ですねえ」
日「いーから任せろ。何、いつも通りにやればいいんだろ?
ささ、いつものミュージックスタート!」
チャーチャラーチャラーチャラララーチャララチャーチャチャーラチャー♪
『使徒との戦闘を終え、家路に向かうシンジ達』
『疲れからか、不幸にも戦略自衛隊の戦車に追突してしまう』
『全ての責任を負った青葉に対し、車の主、自衛隊員たn』
青「おいちょっと待て」
日「んだよ折角ノッてたのに。残るは『次回、戦自脅迫! パイロットたちの逆襲』と続けるだけだったのに」
青「続かねえよ! だいたいなんで俺が全ての責任を負うんだよおかしいだろ」
日「ほら、部下の尻ぬぐいは上司の役目だろ?」
青「俺司令部直属なんだけど、シンジ君たちと直接上下関係ないんだけど。というかこの流れで尻ぬぐいって別の意味にしか聞こえねえよ」
伊「青葉君、突っ込むところ多分そこじゃないと思うんですけど」
日「マヤちゃん。女が突っ込むとか言うもんじゃないぞはしたない」
伊「なんの話ですか。
あーもう神様私は死んでもいいのでこの二人地獄送りにしてください、いっつもこんなグダグダ」
青「二人って俺も含まれるのかよ」
日「先生によろしくな」
青「お前も死ぬんだぞ」
葛「はいは~い、遅くなってごめんなさい……アレ? なんかもめてる?」
伊「あっ葛城さん漸く来ましたか。いつものことなので早く予告やってください」
葛「ほーい。
『唐突に現れたアスカはシンジに並々ならぬ感情を抱いていた』
『そこへ降り立つのは最強の使徒、ではない新たなるイレギュラー』
『飛来する彼を倒す術は如何なるものか』
『次回、「せめて、人間らしく」。さ~て、次回もぉ?』」
「「「「サービスサービスゥ!」」」」