それでは今回はマユミ回が完結です。最後の方少し駆け足になっている感もありますが……
あのイスラフォンを突き破った攻撃にもかかわらず、それですらも対処不可能なレベルの超硬度を見せつけているかの使徒に、発令所にいる人間の驚きは隠せない。
【今ので無傷だというの!? マヤちゃん、解析して】
【はい……厳密には、構成物質五十パーセント程度の破壊は認められています……が、驚異的な回復力で既に殆どダメージはゼロパーセントと言っても過言ではありません。一方の使徒の風力は先ほどより二十メートル毎秒向上していますから、先ほどより強化された可能性も……】
【そう……だそうよ? ミサト】
一方のリツコはそこまで驚いている様子でもなかった。
イスラフォンを殲滅したのは、あの攻撃ではない。
あの攻撃の威力に加算された謎の高エネルギーこそが、イスラフォンを殲滅するに至るパワーの源だったからだ。
それがないのならば、別に空中でロケット噴射をしたりしたわけではない以上、中和しているとは言っても単にエヴァ三体の質量を重力加速度で上乗せした攻撃に過ぎない。
無論それだけでも前史の使徒程度のATフィールドであれば余裕で突き破るのだが、
流石にN2航空爆雷や抗ATフィールドミサイルを何百発と打ち込む破壊力にはまるで及ばないエネルギーである。
【日向君……エヴァの状況は?】
【直接的な攻撃を受けたわけではないので、ダメージ自体は軽微なものです】
【そう……三人とも、大丈夫?】
「まぁ、何とか……」
「私達は大丈夫です。でも……」
「今のが効かないって、結構人類ヤバいんじゃないかにゃあ。心なしか風もめっちゃ強くなってるし、今のでむしろ本気にさせちゃったかも」
【……幸いエヴァ自体の損害は軽微だわ。使徒もメチャメチャ強い風を起こしてるだけで侵攻する気配は――】
「いえ、来るわね」
レイが再びその言葉を発したかどうかの時、使徒から青く煌めいた触手のようなものが超高速で差し迫ってくる。
辛うじて躱しきるエヴァ三体。しかし、その一撃だけでは終わらない。
その触手は五体ほどに分裂したかと思うと、エヴァより若干背の低い「何か」に変質した。
それは表面上の色こそ違うが、形そのものはまるで、
【これは……パターンレッド、複数出現! 波長そのものは完全に人間と一致!】
【なっ……】
ヒト、そのもの。
それは一度地面に降り立つと、やがてエヴァに突撃を開始する。
【……構わん。戦闘を続けろ】
【司令!? しかし、あのパターン・レッドは恐らく……!】
【フン。元が人だろうと、今は人類に仇なす存在だ……やれるな、パイロット三名】
「「「……はい」」」
元が人なだけに、気は進まない。
気は進まないが、人の形を成しているだけで細かい造形まで人と同じでないだけマシだったかもしれない。
それを破壊するのに、躊躇はしなかった。
人型の「ソレ」自体は大した強さではなかった。
一撃か二撃与えれば、簡単に消滅する。被弾してもやはりそこまで大きな痛みのフィードバックもない。
やはり元が人だからなのか? それは敵としてカウントするにはあまりに脆弱なものだった。
しかし問題は、それが何体も何体も現れることだった。
弱いとは言っても、エヴァの八割くらいの大きさの存在が大量に犇めいているとなると話は少し変わってくる。
少しずつではあるが、確実にエヴァの装甲にも傷が入り始めていた。
そして何より厄介な事実が、使徒はどうやら取り込んだ人間をコピーして発現させているらしいことだった。
その証拠に、既に百を大きく超える、使徒の使役するいわば「使い魔」のような存在が倒されているが、未だにその使い魔が途切れる気配はない。
不幸中の幸いとして、この場合取り込んだ人間そのものを殺したことにはならないのでこの使徒を倒せば取り込まれた人々が助かる可能性はある。が……
「ダメだ、倒しても倒してもキリがない……」
それを絶たない限り、この圧倒的な劣勢が崩れることもまた、ない。
「……現在、使徒は第三新東京市直上を時速十キロ程度で進行中。ジオフロントに接近及び離脱を繰り返しています。明確にジオフロントに降りようという意思はまだないようです」
「とはいえ、必ずしも時間はあるとは言えないわね。さて、どうしたものか……」
ミサトとマコトの目の前のスクリーンに映る使徒は相変わらず暴風を纏い、直立姿勢を見せていた。
何か行動に移す気配がないのは、顔面に乗り移ったレリエルの性質の表れなのだろうか。
「これまでの兵器がまるで歯も立たないなんて……」
「あら、意外と合理的よ。
いつも何らかの物理攻撃で倒されてしまうのならば、いっそのことその物理攻撃を一切通さなくなれば負ける要素も多分に減るもの」
「リツコ、ドヤ顔で語るのはいいけどこれ人類の危機なのよね」
「そういえば、どうやってもプレイヤーにすぐ倒されるからといっそ攻撃が通らない敵を作ってしまったというゲームもありますね」
「うわ、性格悪ッ……」
「一応救済措置はあるにはありましたけどね、特定のアイテムを使うと解除できたりして」
「……でもこの世は生憎ゲームじゃないから、そういう救済措置がある筈もないわけよ日向君」
「そ、そうですね……でもシンジ君とかならもしかすれば」
「子供たちに頼ってばかりではどうしようもないわ。ここにいる全員の力が必要よ」
大量のN2ミサイルでもダメ、ATフィールド中和込みでの三体荷重攻撃も効果なし。
その現実にネルフ本部内の士気もこれまでになく落ち込んでいた。
その落ち込みようたるや、それこそ前史でのレリエル戦をも上回る勢いである。
そしてこの時、誰も口にこそしないが一つ確実に言えることがあった。
現段階でかの使徒を倒せるだけの戦力は……
人類には、ない。
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少女が気が付くと、その身は先程同様に生まれたままの姿でそこにあった。
しかし不思議と今度は不快感はなかった。
……ここは?
少女の長い黒髪が、ゆらりゆらりとそこを漂っていた。ただ白い、果てしなく白い空間であった。
いや……白、なのか?
わからない。
いやそもそも、色という概念が果たしてこの空間に存在するのだろうか?
暖かい? 寒い?
わからない。
いやそもそも、温度という概念が果たしてこの空間に存在するのだろうか?
そして何より不思議だったのが、これ程までに広い空間にも拘らず、人は勿論他の生命、何もかもいないということ。
いやそもそも、生命という概念が果たしてこの空間に存在するのだろうか?
もはや、何が存在して、何が存在しないのかも分からない。
いやそもそも、「存在する」という概念が果たしてこの空間に存在するのだろうか?
なにも、わからない。
いや、
なにも、ない。
あるいは、「すべて」あるのだろうか?
「すべて」があるのならば、「なにもない」という状況もまた、「すべて」に包含される。
一見矛盾しているようだが、それもまた些細な問題。
「すべて」が存在するならば、「矛盾」もまたそこに存在して然るべきなのだ。
そんなニュートラルな空間に、少女は浮かんでいたのだった。
そういえば、昔お伽噺で似たような状況を読んだことがあった。
何もない、己のみがそこに存在する精神世界。
そこは自分と、いるとすれば絶対の神のみがその存在を許された空間。
そうでありながらも、自分の知る限りの「すべて」がそこにあるのだ。
一度目を閉ざすと、視界が晴れた気がする。
見慣れた細い黒縁が視界の端にあった。
身体にはいつもの服、いや違う。これは、純白のドレス。
歩こうとすると、浮遊感はなくなり、代わりに地面を確かに踏みしめる感触があった。
少女は駆け出した。
ここは何処か分からないが、どこまでも走ってゆけそうなそんな感覚がする。
身体の弱かった自分としては信じられない感覚だった。そのスタミナは無尽蔵にあふれ出し、駆ける速度は次第に速くなる。
いや、本当に速くなっているのかは分からない。けれど、自分の足が地を蹴る速度は確かに上がり続けていたのだ。
ふと、ふわりと身体が浮かぶ。ついに、空を飛んだのだろうか。
するとそこには一面の青い空が生まれる。地を駆けることをやめ、只管に青い空を羽ばたくのだ。
いや、羽ばたきすら要らない。只管に青い空を突き進んでいく。
やがて明るかった空は次第に黒に染まる。大気圏を超え始めたのだろうか。
突き進んでゆくとその黒は深まり、やがて目の前は完全な黒へと染まるのだった。
しかし、そこは宇宙ではなかった。太陽はおろか、輝く星はどこにもない。
どす黒い世界。先程とは違い、ひんやりとしている。
自分の髪色のような、自分の心の闇を映しているかのような。
次第に縛られてゆく。すべてがあるが故に、束縛もまたその空間に包含された。
やがて少女の身体は、見えない何かに完全に束縛された。
救いの手を求めるが、誰もそれを救おうとはしなかった。
締め上げる力はやがて少しずつ加わっていく。先程までの自由な空間とは打って変わり、苦しい。
だが、救いは来ない。
むしろ救いを求める程に皆が離れて行ってしまうような、そんな感覚。
見る間に孤独になっていく感覚がする。けれど、全くいなくなるわけでもない。
むしろ増えているような、そんな感じもする。でも同時に、いなくなっている感覚もする。
けれど不思議と混乱はしなかった。なんとなく客観的にそれを見ている感覚もまた、するのだ。
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使徒は依然として暴風をまき散らしていた。
今日この日までエヴァンゲリオンによって殆ど無事に保たれてきた兵装ビル群は大部分が破壊され、見る影もない。
もはや前史で言うところのアルミサエル戦後にも近い被害状況となっており、修復には暫く時間が掛かることだろう。
とはいえ問題はそこではない。
こうして被害を許しているのも、この使徒への対抗手段が全くと言っていいほどないという、最大にして不落の問題があるからだ。
突然の窮地に立たされたネルフ本部のムードも依然として最低値を更新し続けていた。
これまでにもラミエルなどそれなりに危機に瀕したことはあったものの、それでも前史ほど緊迫感があるものではなかった。
そこへ来て今回のレリエル、いやそれが変異した「何か」。
シンジ達としては、前史でもゼルエルは殆どの物理攻撃が通らず、エヴァ初号機の覚醒で辛勝という状態だったのでこうした物理耐性のある使徒も全く経験がない訳ではない。
問題はその物理耐性の高さだ。
一応覚醒していない初号機であっても、前史においてゼルエルを半ば圧倒していた。
フルパワーモードになっていたためすぐに電源が落ちてしまったものの、それでもエヴァ三機があればゼルエルに関して言えば覚醒抜きでも勝算がない使徒ではない。
ところが今回はどうだろうか。三位一体の中和攻撃もまるで通用していない。
覚醒したエヴァの戦闘力は未知数だが、それでも先程の攻撃を大きく上回る威力を叩きだせるのかというと疑問は残るところである。
しかも直接攻撃を加えようにも、未だ収まらぬ使い魔たちの援軍がそれを阻む。
一度戦線を退き、まだ無事な兵装ビル群の傍で使徒の出方を見る……が、それで何か状況が変わるという訳でもなく。
「こりゃーにっちもさっちもいかないねぇ。どうしよっかわんこ君にレイちゃん?」
「どうしましょうっても……この状況では」
「……」
「やっぱりキミ達でもこればっかりはお手上げかぁ」
二人にも未だ、これと言った打開策がある訳でもなかった。
カヲルも、これと言って何か策を発言することはなかった。
ネルフも、かの敵に有効な妙案が浮かんだりはしなかった。
が、一人だけ策を持っている者もまた、いた。
「……よっし。しゃあない、それじゃちょっと試してみっか。リッちゃん、アレやるから」
【ちょっとマリ? アレって……まさか!】
マリの言う「アレ」を状況から推察するが、それは余りにも危険すぎた。
命すら削り得るそれを、安々と許可するのは難しい。
ところがマリの言う通り、実行せねば間違いなく人類も滅びてしまうだろう。それが故に。
【リツコ。何か知らないけど、今は手段を選んでいる場合ではないわ……作戦部長としてそれを実行することを求めます】
それを否定する理由もまた、ないのだ。
【…………分かったわ。但し保証はないわよ】
「さっすがミサトちゃん、話が分かるね。それじゃあ行くよ二人とも」
「へ? 真希波さん?」
「……何をするの?」
「ま~見てなさいって。レイちゃんは援護、わんこ君は突撃ね。何、ちょ~っち本気、出すだけだからさッ」
突然声を掛けられた二人はきょとんとした様子だったが、マリは既に臨戦状態だった。
ビルの陰から使徒の方向を向く、そこから攻撃に向かえばまず間違いなく使徒に直接攻撃を加えられるのだろうが、それを阻むかのように使い魔もまた大量に蠢いている。
ビルの陰から出てきた弐号機に気付いたのか、ゆらりゆらりと使い魔の群れたちがこちらへと向かってくる。
侵攻は遅いが、一分足らずでこちらまで到達するだろう。
が、それも全ては彼女の予定調和。
「モード反転・裏コード、ザ・ビースト」
マリのコード提唱と共に、その場で悶えだす弐号機。
いや、それは違った。
全身に溢れんばかりの力を解放し、ぐっと全身にその力を滾らせている姿があたかも悶えだしているかのように錯覚する様相だったのである。
背中からは次々と青緑色のギアパーツが発現する。左右五本ずつ、計十本のそれはシュウシュウと白煙を上げていた。
やがて弐号機の赤い装甲からは、より血の乾いた後の色にも近い、弐号機の素体と呼べるものが露呈し始めていた。
一方のプラグ内において、マリもまた苦悶の様相であった。
しかし、それは弐号機同様に違う。溢れんばかりの力が弐号機とのシンクロを通じ、流入してくる感覚。
苦痛と共に、漲ってゆく強大な力を全身で味わっていたのだ。
「うぐっ……やっぱキッつい。でも、ここで負けたら、皆死んじゃうからさ。
……我慢してね弐号機。あたしも……我慢するッ!」
自分の中に強大な力が漲る感覚に、身体を襲う苦痛とは反して笑みすら浮かべている。
その赤みを伴った瞳はやがて、弐号機同様の狂乱に満ちた黄緑色の輝きを得ていく。
その時、何かに打ちひしがれるかのようにややふら付きながらも地を掻く弐号機。
やがてその体勢は四足歩行動物のようになると、少し安定したのかその地に自らの爪を穿ち、クラウチングスタートのような体勢を取っていた。
翠色に煌めく四眼は既に眼前に迫った使い魔の群れ群衆、ただその一点のみを見つめている。
得られる限りの力を得たマリは、苦痛と歓喜との混じった人の物とは思えぬ妖しい笑みを浮かべ、弐号機同様に使い魔を睨み付けた。
兵装ビルに繋がれていたアンビリカルケーブルが外され、弐号機内のタイマーが五分からのカウントダウンを開始する。その光すら、目の色と同じ妖しげな黄緑色であった。
「身を捨ててこそ……浮かぶ瀬も……あれッ!!!」
その距離、僅かに十メートル。いよいよ使い魔たちが弐号機に手を掛けるその時、炸裂した。
一際その瞳を輝かせた弐号機が、手を伸ばした使い魔をもれなく引き裂き、使徒に向かいがっぷり四つ牙を剥く。
その度に使い魔たちがその行く手を阻むが、その度にそれは全て引き裂かれる。
「……凄い」
「レイちゃんは援護よろしく! わんこ君。道は私たちが開く、あの化けモン食って来い!」
「……は、はい!」
マリの宣言通り、道は開いた。
初号機に手を伸ばす使い魔は悉く牙を剥く弐号機に引き裂かれ、噛み千切られ、弾き飛ばされた。
もしくは零号機の遠距離射撃により、やはり撃破されてゆくのだ。
とは言っても、初号機単騎で撃破できるほど、かの使徒はやわではない筈だ。使徒への直接攻撃が可能になっただけで、止めを刺せるわけではない。
しかし、外部からの攻撃がダメなら、内部から……ではどうだろうか?
それを悟ったシンジの行動は早かった。かの使徒は未知ではあるが、同時にレリエルの性質も持ち合わせているのだから。
使徒へ向かい一直線に突き進む。向かうのは使徒の顔面、レリエルのマーブル模様が映し出されたその場所だった。
「! これなら……行けるかもしれない……!」
空高く飛び上がる初号機は、使徒の顔面に強烈なフライングキックを叩きこむ。
するとシンジの思惑通り、初号機の身体は勢いよくその中に沈んでいった。
【!! 初号機の反応、消失!?】
【何ですって!?】
突如初号機が使徒に飲み込まれたことにネルフ本部内はてんやわんやになる。
しかし、一方のパイロットは落ち着いたものだった。
「よし。アタシたちの役目はここまでね……レイちゃん、退却よ」
「でも……碇君が」
「流石にこれ以上乗り込むのは敵が多すぎて無理だしね。それにあの子あれで結構カンは鋭い方みたいだから大丈夫よ」
「…………そうね」
それでもレイは少し腑に落ちない様子ではあったが、マリが余りに自信たっぷりに言うので思わず少し同調した。
迫りくる四方の使い魔を一通り振り払うと、残された二体のエヴァは指示を待つことなくネルフへと戻った。
格納されるエヴァンゲリオンを傍目に、マリとレイの前にミサトとリツコが何かメモのようなものを手に現れた。
先程のザ・ビーストからの内部進入は完全に命令を無視した行動であり、恐らくはそれによる何らかの処分が言い渡されるのか、と思われた。
が、
「……で、外部からの攻撃が効かないと判断したシンジ君は内部からの攻撃に臨んだ、と」
「そーゆーコト」
「いや、ノリ軽過ぎだから……完全に命令無視してたわよね」
「でもやっちまっていいって言ったのはミサトちゃんじゃない」
「そうだけど、使徒内部に侵入するなんての聞いてないわよ……」
「まぁ、許可を出したのはミサトだしね。今回はどの道なすすべがなかったのだから不問でいいでしょう」
「そうもいかないわよ。勝手に使徒の内部に潜入するなんて。帰ってきたら叱ってやらなくちゃ」
そう言いながらではあったが、ミサトには、いやこの場にいる全員が少しだけ希望を持ち始めていたのも確かだった。
シンジの意図したとおり、確かに内部からの攻撃の効能はまるで未知数だからだ。
更に幸運なことにそれからというもの、使徒の起こす風や使い魔といった類は不思議なことに全て発生しなくなっており、異形のものがそこに立つのみとなっていた。
現状維持のままであれば危機に陥ることもないということで、こうして一連の事情の聞き込みを行うことすらできていた。
「それにあのザ・ビーストってのは何なのよ?」
「まぁアタシが言ってもいいけど、リッちゃんに聞くのが早いかなっていうかアタシじゃ言っていい範囲とか分かんないし」
「だそうだけど」
「……ま、簡単に言えばエヴァの強化モードね。まだ試作段階だけれど、フルパワーモードにならず……
つまり電力消費は従来通りにしたまま、擬似的にエヴァンゲリオンの潜在能力を理論値、いえその数倍にまで向上させることが出来る。
単純な戦闘力で言えば軍隊一つじゃ足りないでしょうね……それこそこれまでやってきた使徒でも二、三体くらいまとめてお相手出来るんじゃないかしら?」
突然振られたリツコがやや気だるげに答える。
「そんなものがあるなら、初めから……」
「言ったでしょう? まだ試作段階。
エヴァの根本的なシステムにアクセス、シンクロシステムも従来のものとは大幅に変更しています。
その結果として、現状の開発段階では機体への負荷もこれまでの数倍ではきかないし、勿論身体への負荷も尋常ではない……何故かこの子はぴんぴんしてるけども」
「へへっ」
「なるほどね。で、なんで試作段階のものをもう積んでたのよ」
「……本当はパイロットそのものを自立させるシステムが計画されていたけど、技術的な問題で中止になりました。
そこでこの強化コード、「ザ・ビースト」を投入して、現存するパイロットを最大限に強化する計画が立った……前々回の使徒のように、圧倒的硬度を誇る使徒は現れるかもしれないし、現に今来ているでしょう?
だから、少し早いけど近いうちにパイロットを乗せての実験を検討していたのよ。
そして何より決め手なのが、弐号機は零、初号機よりも優れた制式タイプのエヴァンゲリオン。
実験段階ではあるけど、弐号機でなら辛うじて実戦配備も可能なレベルになっているわ。だから、いざという時の隠し玉として載せておいたのよ」
「……筋は通っているわね。分かったわ、より詳しい話は後日聞きます」
勿論、詳しいシステム面が話された訳でもないく、ミサトもまだ少し納得がいかない、という表情こそしていた。
が、かといってリツコの話にこれといった矛盾点がある訳でもなく、あったとして実に巧妙なものであろう。
詳しい詮索よりも戦場における状況の把握などを優先したのだろう、モニターをにらむマコトの傍にその足を向け始めていた。
『なるほど、ダミープラグの代用品といったところか』
「(恐らくダミーの元になる私がネルフにいないから、その埋め合わせで強化モードが作られたのでしょうね)」
リツコの言っている、「パイロットそのものの自立システム」がダミープラグ計画に相当するものだったのだろうか。
「(……というかなんで貴方はここにいるの。碇君は?)」
『なんでって言われてもシンジ君があの中に入った時に何故かはじき出されちゃったんだ』
「(折角だしそのまま消滅してもよかったのに)」
『今は知恵が多い程いいだろう。このノリはシンジ君が帰ってきてからでも遅くはない』
「(…………それもそうね)」
使徒から弾きだされたカヲルは、もう一人自分の声が聞こえるレイに代わりに憑依していた。
レイもまた少し納得がいかない顔をしていたが、やはり状況が状況なだけにそれ以上の追及はしないことにした。
そんなことよりも、内部へと侵入したシンジのことが不安だったから。
「(……碇君。大丈夫かしら)」
『大丈夫……いざという時は、僕が弐号機を動かす』
「(出来るの?)」
『まぁ、その位はね。……あの使徒を倒すに至るかは分からないけど、大きなダメージを与える位はきっとできる筈さ』
「(……私としてはそれでいいけど、今はダメ。碇君の為に貴方はまだ生きていなさい)」
『……やれやれ。死ねと言ったり生きろと言ったり君は本当に忙しいね。これがいわゆるツンデレという奴かい?』
「(碇君が帰ってきたら覚悟することね)」
『そうだね、その未来が来ることを望むことが、今僕達に出来ることだろうさ』
「(……)」
カヲルの尤もな発言に、レイも沈黙を守ることにした。
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エヴァンゲリオンで使徒の中に突入して間もなく、シンジはふわっとした浮遊感に襲われた。
真っ白な空間? 適温? いや、違う。
「なにもない」。
その中は正にそうとしか形容できないものであった。先程まで乗っていたはずのコクピットの感覚は今やなくなっていた。
「ここは……?」
フワフワとした感覚。まるでいつだったか、そうゼルエルの時に身も心も初号機に溶けたような、そんな感覚にも近い気がする。
「あれ、カヲル君? ……居ないみたいだ」
進入時に弾き飛ばされたのだろうか? カヲルの気配は消滅していた。
強いていえば仄かな暖かみを持っているそのなにもない空間は、まるで無限の彼方へと続いているのではないかと思う程に広い。
しかし、自分がどうやら前に進んでいるらしいという感覚ものこってはいた。
大地を踏みしめる感覚はないし、風を切る感覚もない。だがそれでも、何となく漠然と、進んでいるのだということが分かる。
仮に時間が意識を持つ存在だとしたら、こんな感覚なのだろうか?
やがて暫く進んでいくと、明確な「有」を感じられる空間になり始めた。
周りは次第に灰色から黒へと変わってゆき、そして完全な闇になるのだ。闇というものが有るのだ。
先ほどまで感じられた仄かな暖かみも、どこかうすら寒いものに変質する。
更に奥へと向かうと、何らかの小部屋に繋がっているかのような扉が一つ、目の前に現れる。
鍵は掛かっていないのか。いや、最初から開くことが予定されていたかのように、それは開かれた。
そこには、見覚えのある少女が一人、鎖に繋がれていた。
「……山岸、さん?」
その少女の名は山岸マユミ。つい先日転校してきたばかりの内気な少女。
その彼女が、鎖に繋がれていたのだ。
どうして彼女がそこにいるのかという疑問はあったが、それよりまず彼女を呼ぶ声が先に出た。
「……あ。碇……君?」
マユミに呼びかけられてふと気が付くと、先程まではなかったはずの地面を足で踏みしめる感覚が今は確かにする。
「どうして、こんなところに?」
「……分かりません。……でも、そう。貴方のことは、分かる」
「えっ?」
「でっかいロボット……そう、エヴァンゲリオン、っていうのね……それで、使徒、っていう怪物を倒すために、ここまでやってきたのね?」
突然妙なことを口走り出したマユミに、きょとんとした表情をするほかなかった。
ところが、エヴァンゲリオン、使徒、という名前が出たとたんに驚きの表情へと変わる。
ネルフの人間及びケンスケなど一部のモノ好きを除いてそれらの名前を知る者は居ない筈だからだ。
ところがマユミはそれを知っている……いや、知っているというよりは、今シンジを見た瞬間知ったかのような様子だった。
怪訝そうな様子をしていると、それをすぐに察したのかマユミがくすりと笑った。
「……驚いた? ふふ、でもここはどうやら「私」の空間らしいんです」
「どういうこと?」
「どういうわけかは私もまだ分からないけど……私の意のままに……好きなことが出来るんです。
草花生い茂る大地を駆け巡ることも、晴天の下で羽を広げて優雅に飛ぶことも」
「そうなんだ……え、待って? ということはそうして鎖で繋がれてるのも……」
「あ、いやその……、こっ、これは違うんです。な、何故かとつぜんへんなくさりがあらわれて」
「……」
「……コホン。ともかくそれで、どうやって碇君がここにやってきたんだろう? って思ったら、パッとその時の映像のようなものが頭の中に」
「……なるほど」
いまいち腑に落ちないが、どうもそういうことらしいと受け入れる他もないように感じた。
暫く手持無沙汰になったところで、マユミがにこにこと微笑んだまま再び口を開く。
今度は、それ以上に信じがたい言葉を紡ぎながら。
「……でも、こうして碇君のことを見て一つはっきりしたことがあります」
「というと?」
「私が恐らく、碇君がエヴァンゲリオンで倒そうとした使徒の……そう、コアになっているということですよ」
「……へっ!?」
「恐らく時間にして数時間ほど前に、目が覚めたら変なところ……海の上に浮かぶ船に居たんです。本当に、全くどこなのかわからない……そこで光っていた何かに触れてから…………それからの記憶がなくて、気が付いたらここで色々出来るようになっていたんですもしかしたら気付かないうちに船が沈んでて死んじゃったのかな、って思ったんですが、あまりに感覚はリアルで……それから碇君がやってきたことで、私はまだ生きているんだな、ってことが分かったんです。
そして同時に……恐らくあの光は、碇君たちが戦っている「使徒」っていう化け物の……そう、種のようなものだったのかもしれませんね」
「……そ、そんなまさか……人間がコアになるだなんて、有りえないよ」
「私だっていまだにこんな状況は信じがたいですが……貴方の記憶を読み取る限り。ほら、見てくださいよこの服装」
「それは……使徒、の……」
純白を基調にしたドレス。それは、使徒のものと全く同じカラーリング。
勿論、それだけでは詭弁になる……が、それまでのマユミの発言一つ一つからして、これもまた一つの裏付けになっているようにしか思えなかった。
「そうです。貴方が見てきた使徒。それに、…………成る程。碇君…………そっか。貴方は、そうなんですね。道理で「有りえない」と言えるはずです」
「……?」
「貴方は、そう遠くない未来……サード・インパクトと呼ばれる、三度目の災害から時間遡行をしてここにいる……隠したって無駄です。ここは全て私の思うがままの空間なんですから」
ずばり、ずばりと真実を告げる。ここまで暴かれているのならば……最早隠す必要そのものはないだろう。
「……そう。僕は確かに、サードを止める為に時を戻した」
「やはりそうなのですね。それでは……やることは一つですね」
微笑みを絶やさないまま、マユミがこちらに促す。どういうことなのだろうか。
もしも本当にマユミが使徒と同化していたとすれば。
恐らく正しいのだろうが、この空間が本当にマユミの思うがままの空間なのだとしたら。
恐らくこのマユミに、自分は跡形もなく消されるのではないだろうか。
少なくともそう考えるのが自然だし、それはシンジも同じくそう思っていた……
そう、思っていた。
「さぁ、私を殺してください碇君」
「……へっ?」
あまりに衝撃的な内容に、頓狂な声が出る。
しかし、マユミは微笑みをやはり崩さないままだ。
「いいんです……私。この世界、全く面白みを感じなかったから。
本……そう、本。本さえあればそれでよかった。時にはヒトの理想が、時には非情な現実がつらつらと無機質に描かれ、私たち読み手に無限の想像を促す本さえあれば。
……そんな私にも一つだけ望みがあるとすれば、誰でもいい。誰か一人の、完璧な自伝。
生い立ちから、ここまで生きてきていたその証。誰でも良かった。その人の自伝が読みたかったのです。
それこそが理想も、現実も、何もかもを包含しているから。
そして……その願いは今、叶いました。碇君の記憶を、余さず読むという形で」
今までにまして、その表情が慈愛にすら満ちた。
「そ、そんな……でも、出来ないよ。突然殺せって言われて、殺すなんて」
「ふふ、そうですか? でも言ったでしょう。この世界は私の思うがまま……そう、他人さえも自由に動かすことが出来る……こんな風に」
微笑みを絶やさないマユミ。
シンジの腕が……脚が……ゆっくりと前へ向かう……意に反して、ゆっくりと。
「な、何を……」
「ふふ、決まっていますよ。貴方に殺してもらうんです」
マユミの宣言通り、進行方向は確かにマユミの方向。
そして腕は、徐々に上がりつつある。
「や、止めるんだ……、こんなこと、僕はしたくない」
「あら。一度貴方、友達を殺しているじゃない。渚、カヲル君っていうヒトを、いえシトを」
「それは……」
「あの時と同じよ。私を殺さないと、人類は滅びてしまう。そうでしょう?
貴方には私を殺すか、私が世界を滅ぼすかの選択肢しか残されていない。そう、今に限らず、人生は選択肢の連続だもの……。
けれど私は既にこの世界は興味がないし、かといって別に壊したいとも思えない。ならば、選択肢は必然的に一つに定まりますよね?」
「……だったら……そうだ。もしここが君の思い通りになる空間だというのなら、使徒を内側から打ち滅ぼして、僕と初号機と一緒に元の世界に帰ろう。それでいいじゃないか」
「ダメです……そう思って先ほどからそういうことをしようとしていますが、まるで反応がない。どうやら自殺願望については受け入れられないようです」
「そんな……」
思いつく言葉を、なんとか目の前の少女と共に生還する方法を考えてはぶつける。
しかしその全てが否定される。
そして否定されている間にも、足は一歩ずつ、繋がれた少女へと向かう。
手は次第に上に挙がり、ついには少女の首の位置へ。
「……そうですね。最期に一つだけ。貴方って……私にとってもよく似ていますね。どうやら貴方も、薄々感じていたようですが」
「そんなこと、どうだっていいじゃないか……だから、これを止めてよ……!」
「碇君の記憶を見て、貴方がどういう人なのか。内気で、内罰的で、事なかれ主義。でも、きっと貴方の優しさがそれを生み出していたのでしょうね。
私は貴方のような人、嫌いじゃありませんよ。むしろ、好意に値します」
「君が……君は、一体何を言っているんだよ、山岸さん」
「ふふ、好き、ってことですよ。
たった二週間足らずで何を言っているのか、とお思いになるかもしれませんが、私はここに碇君がやってきてからで碇君のこれまでが全て分かりました。
そして、ある程度は人間性も……それこそ、永遠の時間に等しく愛し合ったとしても恐らくは足りない程に」
「な……じゃ、じゃあ、僕にこんなことをさせるのを止めてよ!」
受容の言葉に返されるは拒否の言葉。
でも、聞き入れられることはない。その証拠に、首の位置に、シンジの両掌が。そして、ついに首に触れたのだから
生暖かな感覚。生きているその証が、ありありと感じられる。人が生きている、その証。
「それは出来ません……好きだからこそ、生きていてほしいから。碇君。貴方には、生きていてほしいから」
「そんな……」
「それに……似たもの同士って、結ばれない運命にある、とよく言いますからね。
こうしてお別れになってしまうのもまた、予定調和というものなのでしょう」
「……お別れだなんて、そんなこと言うなよ……嫌だよ、こんなの嫌だよ!」
「ふふ……最後のとても、楽しい思い出でしたよ。本の中に生きた私が、生まれて初めて現実で生きた心地のした数日間……あの人たちにはお礼を言っておいてください。鈴原君、相田君、洞木さん、綾波さん。
……さ、遺言タイムはここまで。さようなら、碇君。貴方のこと、生まれ変わってもきっと忘れないわ」
「な……あ…………! 止めろ、止め……うわあああああああッ……!」
マユミがそう言った矢先、首を締める感覚がする。
拒否をしようとすればするほど、どんどん力は増していく。
夢じゃない、現実のまさにその感覚。ゆっくりと、ゆっくりと……
微笑みを絶やさない少女。自分の意に反して強まっていく腕の力……
ギュウ、と締め上げるごとに、首越しに響く鼓動。
いや、これは、マユミのモノなのか?
ドクンッ。
「畜生……止まれ、止まれ止まれとまれ止まれ……ッ……!」
叫び
「もう嫌なんだよ。折角、折角仲間になれた人たちを、友達になれた人を、殺すのはもう嫌なんだよ!」
慟哭
ドクンッ……
「だから……止まってよぉっ……!!!!」
鼓動
ドクンッ…………
最後の鼓動が聞こえたその時突然、シンジの視界は完全にブラックアウトを遂げた。
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「初号機潜入から、既に十六時間が経過しています」
「……」
「生存優先モードに切り替えていればまだ生きてはいるでしょうが……それでももうそろそろ、デッドゾーンに突入しますね」
悲痛な面持ちで自らの仕事を全うするマコトの声は、最早耳に入らない。
画面を睨み付けたまま、一同は固まっていた。
「(……碇君)」
『大丈夫……前回ときっと同じようにいくさ。そう、大丈夫だ。シンジ君はきっと帰ってくるよ』
レイの表情もあからさまに不安げな様子だった。
表情としては薄いが、それでもどことなくしかめ面をしているな、程度の表情変化は見て取れた。
その落ち着かなさをカヲルが何とかなだめる、というのが今の図式である。
一方のマリは、モニターを睨み付けたまま何時ものおちゃらけた雰囲気を抜いていない。
あたかも完全に初号機がこちらに戻ってくるということを分かっているかのようだった。
いや、初号機ではなく、正確にはシンジが、だろうか?
使徒の姿は、先程と特に変わらない。が、エヴァ三機で戦っていた時ともう一つ違いはあった。
それは、やはり風の存在だろう。
空は暴風の影響を今更受けたのかすっかり雲が吹き飛ばされており、もうすぐそこに朝日を湛えつつあった。
風がなくなり充分な時間も確保されていたので、ネルフもまた行動に出ていた。
といっても作戦は前史と全く同じだ。
恐らくではあるが、流石に十六時間も経過していては初号機での攻撃は失敗に終わってしまった可能性が高い。
そこで千分の一秒だけ敵ATフィールドに干渉し、零及び弐号機で中和しつつ初号機の救出を行うという算段になっていた。
尤も、それはあくまでも前史でのみ通用した、いや前史ですら通用したかは分からない戦法だ。
今回のようなあまりにも高い防御力では、N2兵器程度では微塵も傷がつかないのではないかという嫌な予感は、ネルフ本部内に充満していた。
けれども、ほんの僅かでも、可能性がゼロでないならば、それに全てを賭ける。人類にはもはやそれしか手はないのだ。
攻撃開始まで、残り五分を数えた。
依然として使徒に変化は見られない。
攻撃開始まで、残り四分を迎えた。
依然として使徒に変化は見られない。
攻撃開始まで、残り三分を見た。
依然として使徒に変化は見られない。
攻撃開始まで、残り二分を読み上げた。
依然として使徒に変化は見られない。
攻撃開始まで、残り一分を切った。
依然として使徒に変化は見られない。
五十。
四十。
三十。
二十。
そのとき、使徒の身体に、一瞬ひび割れが入ったように見えた。
十。
九。
八。
七。
六。
バキン!!!
七、八、九、十、二十、三十、四十、
グシャッ!!!
百の、千の、万の、
ベキベキベキベキッ!!
ヒビが、入る。
グググッ……
ついには鮮血が吹き上がる。それは朝日に照らされ、虹を描いていた。
その液体と共に出てくるのは、
指、
手、
腕、
「ウルォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!」
大地を裂く、咆哮だった。
そう、帰って来たのだ。
エヴァンゲリオン初号機が、自力でこの現実世界へと帰って来たのだ。
「パターンEVA-01、間違いありません。初号機、です……!!」
誰もが待望したその瞬間。
けれどそこにあるのは歓喜の声ではなく、マヤの報告に始まる畏怖の声であった。
シトはシトの膝を折り、やがて地にひれ伏す。
ヒトはシトの首を折り、やがて天を仰ぐ。
「グルルルルルッ……ウワォオオオオオオオオオオオオッッッ……!!!!!」
最後の一掻きと共に、紫の鬼が声高に勝利の雄叫びを上げ続ける。
既に動くことを永劫禁じられた、足元のソレを無慈悲に踏みしめ、猛り続けるのだ。
「シンクロ率……四百パーセントを超えています」
「その他全パラメータ振り切られています、計測不能……!」
空には朝日がすっかり昇り、空は青一色に染まる。
その青と引き換えに、パターン青は消えたのだった。
しかし、目の前のあまりに衝撃的過ぎる、血塗られた光景。
圧倒的なグロデスクとそれに似合わぬ眩しい陽光、麗しき青空を湛えたその景色に圧倒されたネルフの人間が、
パターン青の消失に気づくのは大分後のことだった。
日「皆さんこんにちは、日向マコトです」
青「青葉シゲルです」
伊「伊吹マヤです」
パーパラッパッパパーラパッパー♪
パーパラッパッパパーラパッパー♪
日「ん? 何か微妙に違う?」
青「BGMは一応同じな筈だが」
伊「ちょっとしたアレンジバージョンですかね? まぁそんなことはどうでもいいんですけど」
日「そういや本当は本史で言うレリエル襲来、これの更新日って本当は三月の二十三日だったんだろ?」
青「うんうん。でも何かの手違いでこの日になっちまったんだよなぁ」
伊「ダメダメですねぇ……次は四月二十日でしたっけ、そちらはちゃんとして貰いたいですね」
日「あ、そういえば今日は八年前くらいに発売された大ヒットゲームの八歳の誕生日だな」
青「えっそうなの? って言われても正直凄くどうでもいいんだが」
伊「どうせ日向君のことだからまたろくでもないゲームでしょうしね」
日「失礼だな、その時発売されたゲームの名前は『エンジェルハンターポータブル2ndG』と言って」
伊「いやもういいですから今回ほんと尺ないですから」
青「えっそうなの? これは割と気になる」
伊「ええ、色々と諸事情で余り時間がないので、今回は質問も二つでおしまいです。
それでは早速……
『シンジ達の学校の授業少しおかしくね?』ということですが」
日「そういえばなんか此間も等比数列とかやったってシンジ君が言ってたな」
青「それについては俺が説明しよう。
この世界では実はセカンドインパクトの混乱から未だに脱せていない国々も多いので、比較的被害の少ない日本などが主体になり、未来への人材を育て、復旧を目指していかないといけない。
そこで本来の義務教育プログラムを大きく変更、高校三年までを義務教育にした上で従来の大学レベル……といってもより実用的な分野に限るけど、兎も角そこまでの教育を行うっていう方針になってるんだ」
伊「へぇーっ。詳しいんですね青葉君」
青「一応バンドやってた時代に色々資格も取ったからね。教員免許も取ってその時に色々教わったんだよ。バンドだけで食っていける程セカンドインパクト後の混迷の時代は甘くなかったし」
日「えっそんな話初めて聞いたんだけど」
青「聞かれなかったからな」
伊「……というか余りにも出来すぎてていま思いつきました臭が凄いんですけど……?」
青「……と、とりあえずだ。そういうことだから俺達からするとシンジ君の学校も色々と進度が少しおかしく見えたりするって訳だな」
伊「ふーん……まぁ、そういう事にしておきましょう、時間もありませんし。それじゃあ次ですね。
『なんかこの使徒どっかで見たことがあるんだけど』とのことですが」
日「……」
青「……」
伊「……」
日「待ってなんでそこで俺の方を見るの二人とも。今回は何もないよ? ほんとに」
伊「……じとーっ」
日「いや口でじとーっなんて言う子初めて見たんだけど。ほんとに何もないから! 魔法少女アニメ作ろうとしたけど頓挫したから!」
青「結果的に何もないだけで何か作ろうとはしてんじゃねえか!」
日「作ろうとするぐらいいいだろ……いや、その名も「技術少女マヤか☆MAGIか」と言ってぐぼろぐぼろっ?!」
伊「……日向君。道理で最近技術部の近くをうろちょろしていたと思ったらそういうことだったんですね?」ニコニコ
青「……モノスゲー綺麗に顔面ストレート決まったなというかマヤちゃん割とマジでボクサーの才能あるんじゃないのこれ」
日「……こうなると思って頓挫させたので許してください」ボロォ
伊「……まぁ、これ以上はないみたいだから今回は見逃しましょう。でももしまた此間みたいに邪魔するようでしたら……殺しちゃうぞ?」
日「ハイ」
青「……マヤちゃんってホントたまに暴走するよね」
伊「何か?」
青「いえ」
伊「そうですか。それじゃあ巻き巻きで行くのでもう葛城さん呼んじゃいますね。葛城さぁン?」
葛「はいは~い♪ 今回はあのBGM付きで行くわよん♪」
チャーチャラーチャラーチャラララーチャララチャーチャチャーラチャー♪
『マユミを殺したという自責の念から第三新東京市より姿をくらました碇シンジ』
『そんな第三新東京市にはエヴァンゲリオン参号機が満を持してアメリカから輸送されてきた』
『同時期に再び姿をくらますマリ、少しずつ明かされる謎の少女・朱雀の素性は如何に』
『次回、「雨、逃げ出した後」さぁ~て、次回もぉ~?』」
「「「「サービスサービスゥ!」」」」
チャーチャチャーチャチャーチャチャーチャテーテン♪