再臨せし神の子   作:銀紬

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第十二話 死に至る病、そして

少なくとも、日本ではない場所にある薄暗い空の倉庫でのことである。

 

「はい、おしまい」

 

細身の拳が一閃、対象の顔面を穿つ。

腕の細さに反して、あまりに太い一撃であった。

 

「グオォ……」

 

場所の空気に似合わぬ若々しい声の主がそこに立ち続けたのに対し、

場に似合った太い呻き声を上げながら一人の見るからに屈強そうな男が倒れ込む。

まだ意識は残っているようだが、息も絶え絶え。既に起き上がる気力は失われていた。

 

その周囲には、数十人ものごろつき風の男たちが、老若問わず血塗れとなって倒れていた。

床に散らばっている男たちが持っていたのであろう拳銃は殆ど原型をとどめておらず、ナイフは全て持ち主の心臓を抉っていた。

 

たった今倒れた男の前には、目立ちそうな赤い髪を後ろに纏めた少女が一人、退屈そうに溜め息をついていた。

細い目をしており、一見可憐な笑みを浮かべているかのように見える。

いや、実際に笑みを浮かべていた。見る者が見ればたいそうな値が付くほどの笑みだ。

ただ、その笑みはあくまでも貼りつけられた表情である。

 

「……ここにも居ないのね、アタシとマトモにやり合える、強い奴……つまらないなぁ。

此間の使徒以来、誰もがちっともアタシをワクワクさせてくれない」

 

少女は退屈していた。余りに弱い、弱すぎるこの人類という生き物に失望すらしつつあった。

その笑顔が貼りついたものであるとは、そういうことだ。退屈だが、いや退屈な故に笑っている。

 

笑い門には福来たるとはいったものだが、笑っていればいつか「楽しいこと」が訪れるのではないか。

それが彼女の信条であった……が、彼女が待ち望むそれがやってくる気配はまだ見えていない。

 

「……というか、コイツら、んでアンタも男でしょ。立派なモンぶら下げてこのザマですか?

力無き者は持つべきものを持つ資格も無いのよ」

 

退屈さの頂点を迎えた彼女は、今さっき倒した男の股間を、彼女にとってはふんわりとした力で。

男の知り得る程度の力にとっては全力で踏み抜いてやった。

 

「あ…………アッ…………」

 

グシャリと生々しい感覚が彼女の純白の足裏に響く。その感覚は男の生物としての機能を完全に失ったことを無言で物語っていた。

男は呻き声と共にピクリと一度震えたと思うと、そのまま動かなくなった。

男の顔に溜まっていた唾を吐き捨て、薄暗い倉庫の扉を開く少女。

先ほどまで倉庫を照らしていた月は沈みかけており、代わりに眩いばかりの日光が倉庫の中の彼女を出迎えた。

 

「ヨーロレイヒ~でレーリレイホ~……社畜及び学畜の皆さん朝ですよー? このアタシが起こしてやるんだから感謝しなよ」

 

彼女は周囲で倒れている者に声を掛けるが、誰一人として起き上がる気配はない。

その様を見た彼女は再び笑みを貼りつけた退屈そうな表情に戻った。

私を満たす人はこの世の中には居ないのだろうか。ああ、つまらない。面白くない。楽しくない。

 

その目にはもう何も映ってはいない。ただ、とてつもない欲求不満のみが彼女を蝕んでいた。

 

「……つまんないの。じゃ、何時までも寝ている怠け者のアンタ達とは違ってアタシは勤勉なので仕事に戻ります」

 

倉庫の中に球状の物体を放り投げると、彼女は倉庫を後にした。

軽やかな足取りで、死んだ笑みを貼りつけたまま、彼女は歩く。

 

「……アンタならアタシの飢えを満たしてくれるのかしら? 記憶の中にうすーく残ってる、アンタなら」

 

 

彼女の脳裏では、白いカッターシャツを着た一人の少年が自分を殺していた。

憎悪とも、悲哀とも付かぬ目で、どこか見慣れた部屋の中でただ静かに彼女を殺していた。

 

そして、気付けば浜辺で。

 

殺していた。

 

 

物思いに耽っていると、誰かに肩を叩かれる感覚がする。

 

「おっと……少し待ちなお嬢さん。すぐに去っちまうのはちょいと早すぎやしませんか」

「……アンタ、誰?」

「なぁに、通りすがりの自由主義者です」

「何それ?」

 

後ろを振り向いてみると、赤眼鏡の少女が一人。

目の前に居る少女は、自分より少し背が高かった。

そして、スタイルもそれ相応に自分より上だ。同い年か、若干年上と言ったところだろうか?

 

しかし、彼女の興味は目の前の少女の見た目ではなかった。

別に、自分より巨乳だとか、自分より背が高いとか、そういうことには今の彼女の興味の対象ではない。

 

では何が興味かと言えば、この自分に気配ひとつ察させることなく背後を取れるその技量だ。

無論、雑魚狩りを終え、既に誰もいないことを確認してからのことだ。多少なりとも隙はあったのだろう……が、それを抜きにしても、自分の背後を取れる者は恐らくそう多くはない。

 

先ほどまで指先で転がしていた男共とは、また別の雰囲気がする。

記憶の中の少年とはまた違う、だが間違いなく毎日相手にしているようなゴロツキのような弱そうな雰囲気でもない。

 

この女……人類の割には出来るのだろうか?

 

だとすれば面白い。実に面白い……彼女なら今の退屈な私を少しは満たせるかもしれない。

彼女は再び笑みを浮かべた。

 

「まずアタシさぁ、とっても……退屈なんだけど……戦ってかない?」

 

今度は貼り付けられた偽りの笑みではない。心からの笑顔であった。

 

----

 

「西区の住民避難、後5分かかります」

「目標は微速で進行中。毎時2.5キロ」

 

第三新東京市に突如現れた巨大な白黒マーブル模様の球状生物。

オペレータたちは、目の前に次々と映し出される物体のデータを忙しく読み上げ続けていた。

 

同時にそこに居た金髪の女は一人苛立ちを隠せないでいた。本来その場に居るべき者が三人も居ないからだ。

 

そうして苛立ちながらも正体不明のマーブル模様の球状生物を前に様々な対処法を考えている点から見るに、

彼女の仕事と機嫌の切り離し方の上手さといった、有能さの一つの指標にもなる能力は約束されている。

ともあれ様々な可能性を思索していると、女は居るべき人間の一人の今更な来訪に気が付いた。

 

「遅いわよ……ミサト」

 

その人間の一人であるミサトは自分の学生時代からの友人ではあるが、

このような事態に遅れるとなればそのような相手であってもその目に冷徹さを帯びさせずにはいられない。

 

「ごめん……、で、状況どうなってんの? 富士の電波観測所は?」

「探知してません、直上にいきなり現れました」

「パターンオレンジ、A.T.フィールド反応無し」

 

初めてのパターン「オレンジ」という聞きなれない反応にミサトは耳を疑った。

 

いや、知識としては頭にある。ヒトでもなくシトでもない正体不明を表すコード、パターンオレンジ。

目の前に浮かんでいる球状の生物、いや生物かも定かではないが、ともかくそれが少なくとも人類の知り得る存在ではないということ。

その事実に耳を疑ったのだ。

 

「どういうこと?」

「分からないけれど、恐らくは新種の使徒と推測されるわね。前回の使徒から3ヶ月以上経過しているし、時期的にもそろそろやってきてもおかしいことではないけど」

「MAGIも判断を保留しています……が、本来であれば少なくとも地球上に存在しない何かであるのは間違いないようです」

「もう、こんな時に碇司令はいないのよねー。あんな怪しい球体使徒以外の何があるってのよ……子供たちは?」

「ファースト、サードは既に本部に到着したとの報告を受けています。セカンドは……ロストしている模様」

「はあ? ロスト?」

「はい、ロストです」

 

思わぬ不在に頓狂な声を上げるミサトに対し、オペレータは飽くまで淡々と返した。

ここでウダウダ言っていても埒が明かないので、ミサトはすぐに頭を切り替えて次の指令を下すことにする。

 

「全くどこ行ったのかしら……至急捜索隊を出して。

戦力も同時展開するわ。全機出撃準備。初号機及び零号機を優先して出して頂戴」

「はい」

 

ミサトから命じられると、その通りにきびきび動く現場。

不在のマリはともかくとして、レイとシンジであればこの分ならすぐに準備は整うだろう。

 

ともすれば一先ずこの二人が出た後のことを考えねばなるまい。

 

もしかしたら何時もの様に思わぬ戦法をどちらかが言い出すかもしれない。

しかしその保証はないので、まずは現状の目の前の敵のデータを一通り脳内のメモに纏め、有効な作戦を捻りだそうとした。

 

「兵装ビル一班、対象に数発のミサイルを撃ち込んで。威嚇射撃ではなくしっかり命中させて」

 

まずは敵戦力の調査だ。第六使徒の例に倣えば決して無駄ではないだろうと判断してのことだった。

 

一応、兵装ビル一班は最もネルフから離れた兵装ビルを扱っているので、いざ何かとんでもない攻撃が飛んできてもこちらへの被害も最小レベルに出来ると踏んだのだ。

 

そして、結果はすぐに出た。

 

結論から言えば、前史におけるレリエル戦同様のことが起こったのだ。

攻撃を加えた兵装ビルの周辺に移動する球体がそこに巨大な円状の『影』を発生させ、

周囲の建造物諸共兵装ビルを音もなく丸ごと飲み込んでしまったのだ。

 

それとほぼ同時に、目の前のモニターには「BloodPattern:Blue」の文字が浮かび上がる。

 

ビルを飲み込み終えると再びパターンオレンジに戻るが、その行動からパターンオレンジは仮初の姿に過ぎなかったことを現場の全員が知ることとなった。

 

「やはり、使徒のようね。次、航空機による爆撃。急いで」

 

ミサトの指示が飛ぶと、滞空していた戦闘機が影に向けて数発のミサイルを発射した。

ミサイルは勢いよく影に飲み込まれたと思うと、何事もなかったかのように消滅してしまった。

しかし空中までその影を伸ばすことは出来ないのか、目の前の使徒は何か行動を起こそうとはしていなかった。

内部でATフィールドを展開したのだろうか、数秒だけパターン青が検出されるが、やはりすぐに元に戻った。

 

「成る程ね……」

「葛城三佐。ファースト、及びサードが到着した模様です」

「一刻も早く搭乗させて。……何か知恵があれば、それも聞きだしておいて頂戴」

 

この時点で彼女の脳内に構築された作戦は三つあった。

 

まず一つ目。ポジトロンスナイパーライフルで目標のATフィールドごと影を空中から破壊する。

流石に空中まで影は伸びないらしいので初撃としてのリスクが小さいが、どこまで効果があるかは疑問である。

外向きのATフィールドが観測されていない、つまるところ外部を守る必要性がないほど外部の守りは硬い……外部からの攻撃がそもそも無効であるのではないかという懸念すら抱いていた。

そして何より、なまじ有効であったと仮定しても、空中でのPSRの使用自体が困難である。

例え改良が成された今回のPSRであっても、ネルフを数時間稼働させられるレベルの発電は未だに必要である。

 

二つ目は、影に対し何らかの形で直接陽動、殲滅するというものであった。

影が出てきたと同時にパターン青が出たということは、恐らくは影に本体の秘密があるのだろうと踏んでのことだった。

但し、極めてリスキーな方法であるのも事実。下手に行動すればかの影に取り込まれてしまうかもしれないし、もしネルフの位置を感付かれたら一巻の終わりである。

そして一つ目の作戦でも懸念したように、外部からの攻撃が無効である可能性すらある。

 

そして三つ目は、エヴァを潜り込ませて内側から破壊するという作戦。最も危険だが、同時に最も可能性があるのではないかと考えられた。

攻撃した時の使徒の行動から察するに外向きのATフィールドはどうやら持ち合わせていない。

つまり内向きのATフィールドをかの使徒は持ち合わせている、という推論に基づいたものだ。

ならばそれを中和してやれば殲滅できる可能性はある。もし実現出来れば他二つより確実であろう。

 

ただ、普段エヴァに繋いでいる電源が影の中まで伸びる保証はどこにもない。消えてしまった物が引き上げられないように、その電源もどこかに消えてしまうという推定だ。

そうなれば五分間、あるいはフルパワーの一分間で完全に殲滅しなければならないし、もし殲滅出来なければそれは人類の完全な敗北すら意味している。

 

なまじこの方法で殲滅出来たとしても、方法が方法だ。

恐らくこの場合の殲滅方法としては内向きのATフィールドの中和で使徒を内部から崩壊させることになるだろうが、

もしあの影の中がこの世界とは全く違う、例えば『使徒の世界』とでも仮称すべき場所であれば……殲滅と同時に、その出入口が崩壊する可能性を否定することはできない。

つまり、永遠にエヴァがあの影から出られない可能性がある。

 

どれも微妙な作戦故に、頭を抱えていたのである。

そこに、いつも使徒に何らかの有効な知恵を思いついたりするチルドレン達の意見があれば、場合によっては取り入れてみるのも選択肢としては充分なものであった。

 

 

一方でネルフの最前線の二大重鎮たる赤木博士はミサトの命に応じ、出撃前にシンジにいろいろと策を聞いてみていた。

 

「……ということなんだけど、シンジ君はどう見る?」

「はぁ、そうですね……」

 

シンジはしばし長考するフリをした。この方が、いま思いついた感を出せるかなと判断しての行動である。

が、リツコの視線に耐えかね、一分少々で顔を上げてしまった。

 

「……アレ、見た感じ多分ただ単に太陽で映し出された影とかじゃないと思うんですよ」

「そうね、恐らく使徒によって作られたものだけど。それが何?」

「僕としてもまだ完全な判断はついてないんですが……影を地面、地球に投射しているならば、その影をどこかに投射している物体……あの丸いのを照らしてる光源のようなものがどこかに用意されてるんじゃないかと思うんですよね。

もしそれが、使徒をこの世界に実体化させているのだとすれば……」

「……成る程。光源を絶てば、影が出現しなくなる、というワケ?」

「はい。厳密に殲滅したことにはならないと思いますが、要はあの影が危ないんですよね?

それさえなくなってしまえば事実上の殲滅で良いのではないでしょうか」

 

事前にレイ、カヲルと立てておいた計画をほぼそのまま伝えてみる。

 

「…………ホント、突拍子もないことばっかり思いつくわね。また例の「予知夢」かしら?」

「うーん、予知夢も一部あるんですけど、今回はあまり参考にならないというか。でもほら。影があそこだけ違うんですよ」

 

シンジが指した先には、使徒の影が見えた。

兵装ビルなどの影と比較して、使徒の影だけは妙に濃かった。というより、他の影は若干青みがかっているのに対し、こちらはほぼ完全な黒といってもよかった。

 

確かに、他と見比べれば異質な影であることは一目瞭然である。

 

「……確かに。影の色は光の強さ・種類などの特性によっても左右されるし、あそこだけ妙に色が違う。

けれど、それは単に使徒の特性なのだと考えられなくもないわね。影を操るのだから、単純に独自の影を持っているのかもしれない」

「そう、実際に光源の力によって実体化しているのかは分かりません。

しかし幸いにしてこれまでの使徒のように突然に動き出す気配はありませんし、もしあの場所にあの大きさの影が出来るとしたら、どこに光源が存在していなければならないのか……」

「算出できる、という訳ね。いいわ、MAGIにやらせれば数分で終わるから」

「あ、そうですか? 一応大まかな予想も立てたんですが」

「幾ら貴方が天才の血を引いているからって流石に機械の正確さには負けるでしょう? ここはより確実な選択肢を取ります」

「まぁ、そういうことなら……」

 

実際にどうであるかはさておき、余りに筋の通った作戦提示に、最早苦笑いするしかない。この少年は一体どこまで使徒のことを知っているのだろうか?

 

だが、今はそのような知的好奇心を発揮する時ではない。

まずは目の前の使徒の殲滅を優先させるべく、再び話を切り出した。

 

「……まずはその光源の破壊を目指しましょう。まだ午前十時前、夜までアレを放置するのはリスキーだもの。その上、それだけで倒せるならばエヴァを失うリスクもなくなる……聞こえたミサト? そういうワケだから、エヴァ射出は一時見送り。まずは光源の特定を急ぐわよ」

 

本来ならばこの年の少年の意見一つで作戦全体が変わるというのはほぼ起こり得ない。

しかし、シンジの積み上げてきた確かな実績は容易にネルフの作戦に関する意向を動かしたのであった。

 

そしてその結果として、光源は発見された……いや、厳密には発見された訳ではない。

発信地は第三新東京市にほど近い、若干高めの兵装ビルのある地点に「取り付けられて」いたようであった。

レリエルを現実世界に「投射」しているのは特殊な光線か何かであるようで、そこからは特別なエネルギーの類が観測されることはなかったのだ。故に、光源が発見された訳ではなかった。

 

恐らく使徒が存在すると推測された虚数空間上、あるいは四次元以上の空間上ならば観測できるエネルギーだったのだろうが、人類にそうしたエネルギーを特定する技術はまだなかった。

 

だが結論から言えば、使徒・レリエルは簡単に殲滅された。

 

いや、殲滅されたという表現が正しいかはともかく、確かにパターン青は消滅した。

ではどのような方法を取ったのか、というと、

 

【シンジ君、用意はいい? 

いつものように、ポジトロンスナイパーライフルによる超長距離からの遠距離射撃。

今回は陽電子による誤差修正は必要ないけど、一撃で破壊するためにあの時同様のモニターを付けたわ。目標と標準が一致したらボタンを押す。後は機械がやってくれるわ】

「了解」

 

試しに計算結果から算出された座標にあるビルそのものを破壊したのだ。

兵装ビルは一層建てるだけでもでもかなりの値が張るが、

例え周囲の建物が一部巻き添えになったとしてもレリエルのようなあまりにも不可解な使徒を殲滅する対価としてはあまりに安いものであった。

 

ミサトら作戦部が作戦提示をした際にはゲンドウもあっさりとそれを許可したので、作業開始は迅速であった。

 

無論その作業こそ慎重である。一撃で破壊出来ないと光源が移動してしまう可能性も考えられたので、超長距離からエヴァに最大出力でポジトロンスナイパーライフルを撃たせ、一瞬で対象のビルを破壊。

 

いや「消滅」させたのであった。

 

その結果使徒の実体は見る見るうちに消滅していき、実体が消滅するとともにパターンオレンジ・青もともに消滅。

これほどまでに呆気なく決着がついたのは恐らくシャムシエル以来であろう。ネルフの人員としても、仕事が減り有難いものであった。

が、シンジとカヲルとしては何だかんだで非常に厄介であったレリエルの消滅は、安堵するとともに複雑な心境でもあった。

 

「(とても呆気ないね)」

『前回は暴走したのに今回はただ撃つだけで終了したね。こうあっさりと終わるならば出来れば何か別の使徒と融合していて欲しいものだけど……』

「(でももしそうだとしたら、ちょっと予想がつかないね。

バルディエルやアルミサエルあたりとなら融合できそうだけど、内部に入った訳じゃないから特定は無理だ……次にどの使徒が来るかの予想が少し難しくなってしまった)」

『そうだね……まぁ、レリエルはシンジ君のお母さんが覚醒する、即ち半ば運で勝った部分もあったようだから、厄介な使徒が簡単に露払い出来たのは素直に喜ぶべきなのだろうけど』

「(まぁ、それもそうだね)」

 

 

やがて、午前中のうちに一般市民に対する警報も完全に解除され、今回の作戦は完全に終了したのであった。

シンジ達も帰路に付き、この日の昼食及び夕食の買い物に出た。

 

 

……が、その平穏はネルフ内においてはすぐに失われた。

 

既に使徒対策モードを離れたMAGIはネルフ各支部の管理モードに移っていたのだが、

 

その時ある一つの支部において『Vanished』という表示を浮かばせた。

その瞬間、本部では警告アラートが鳴り響いた。モニターは赤く染まっている。

 

「なんだ!?」

「第一支部の状況は、無事なんだな!? いいんだよ! 計算式やデータ誤差はMAGIに判断させる!」

「数秒前に内部において膨大なエネルギー波が確認されています。恐らく、このエネルギー波が干渉したものかと……詳しい計算に時間は掛かりそうです」

 

様々な声が飛び交い、本部の緊張感が再び先ほどまでの戦局同様にうなぎ登りになる。

やがて、一つの結論が出た。

 

「消滅!? 確かに第二支部が消滅したんだな!?」

「はい、全て確認しました。消滅です」

 

第二支部。アメリカ・ネバダ州の第二支部の消滅。

普段冷静沈着な冬月が上げている明らかな焦りを伴った声色に、現場の緊張感は最頂点を迎えていた。

 

シチュエーションは前史同様、S2機関の実験中の事故である。

事故の原因は不明だが、前史同様二の十五乗通りの可能性があった。

 

実のところ、一応後日談的にシンジもこのことは前史で知っていたので、一応可能なら防ごう、防げなくても人員は守ろうくらいには考えていた。

 

しかし前史においてはレリエル戦から少し経ってからこの事故は発生していたためまさかこの日に起こるとはつゆほども思っていなかった上、

自分たちの使徒が予想の斜め上をゆく変貌ぶりを見せる昨今、対岸の火事に構っていられるほど暇でもなかったのだ。

 

チルドレンたちは既に帰宅を済ませていたので第二支部の消滅はまだ知らなかった。

前史でも彼らはそのことをこの時点では知らない。

今回も知ることになるかどうかは分からないが、恐らくはまた後日談的に何らかの方法で知らされることになるのだろうか。

 

 

----

 

使徒レリエルが殲滅される十分ほど前。

 

赤髪と赤眼鏡の彼女らは依然として戦いを続けていた。既に三時間ほどは経過しているのだが、未だに両者疲弊を見せない。

 

 

「あんた……何時まで逃げるつもり? もうそろそろお腹すいたんだけど」

「逃げる? ねえねえお姫様、アタシは可憐なるお姫様から逃げる気なんて毛頭なくてよ」

 

弾丸の如く、雨の如く迫りくる赤い少女の拳や蹴脚を一発一発丁寧に受け流す眼鏡の少女。

先手を決めたのは赤い少女。しかし、その初撃以来彼女はずっと攻撃をただただ受け流され続けている。

攻撃を受け止め、前後左右にステップを繰り返すのみ。スパーリングのような状況である。

 

こうした行動は赤髪の少女にとって逃げそのものでしかないように思えた。

このメガネ女、戦う気がないのか? 赤い少女に少しばかり、苛立ちが募る。

 

「じゃあ、逃げる暇を与えなければいいのね」

「へぇ?」

「まさか、生身の人間相手に少しばかりとはいえ力を解放させることになるとはね……このアタシに少しでも本気にさせたこと、冥土の土産にするといいわよ。アンタ」

 

少女の拳が止まる。

 

いや、止まったのではなかった。あたかも止まったかのように見えるだけだ。

その余りの速さに、拳は最早ただの残像となっていた。

手の動きよりコンマ数秒遅れて、凄まじい破壊力が眼鏡の少女に迫る。その力はもはや人間のそれを凌駕していたと言えるだろう。

場には小さなソニックブームが生まれ、周囲を土煙で覆ってしまう。

 

更に数瞬遅れて、その小さな手に目には見えずとも確かな手ごたえを、確実に相手のボディを抉った特有の手応えを赤毛の少女は感じた。

拳に抗力として突き刺さる、柔らかい内臓独特の感触が、確かにその拳に伝わったのだ。

再び失望の目に戻りつつある少女の顔。その時点で彼女は既に勝敗はついたモノと確信していた。

 

「……少しは出来る奴と思ったけど、やっぱり逃げてただけ、か。つまらないの」

 

土煙がもうもうと上がっており目視は出来ないが、恐らくこの煙が晴れたら血みどろの少女が一人倒れているのであろうか。

 

いや、最早原型すらも留めていないかもしれない。

 

……が。

その割にはやけに離れない。

感覚が。

既に戻したはずの拳から、殴った時の感覚がそのまま抜け落ちない。

 

生き血を纏った、あの生暖かい感じが抜けないのだ。

 

 

気になった少女が自分の拳を眺める。

 

「……あら」

 

拳からは、一本の赤い筋が流れ落ちていた。これまで何百人もの男を砕いてきた自分の拳がいとも簡単に砕けていたのだ。

 

「危ない危ない……お姫様ダメですよ、こんなところでオイタしては」

 

眼鏡の少女が手を翳したその先には、非常に薄い赤いバリアーのようなものが展開されていた。

それは一見薄いようにも見えたが、少女の拳を止める程度には充分の硬度であった。

 

少女が本当に本気を出していればこの程度の障壁など余裕を持って砕いただろう。

が、相手をただの素人と侮ったのが悪く、壊れることのない堅い壁を殴った位の衝撃が上手いこと響き、少女の拳は砕けたのだ。

 

ただ……赤い少女が本当の本気を出して戦っていたとしても、それはそれで拳は砕けていたかもしれない。

眼鏡の少女からしても、この程度の薄いバリアーは本気など微塵も出していなかったのだから。

 

「はぁ。逃げる一つとってもアンタ、そこらの奴らとは比較にはならなそうね……つまんない毎日だったけど、久々に楽しめそうよ」

「そいつは何よりです、お姫様。でも私がやりたいのは戦いじゃない……話にきたのよ。コーヒー奢るから、この後の都合が良ければおいでなさいませ?」

「えー、アタシもっとアンタと遊びたいんだけど」

「今日はお互い万全じゃないでしょ、こっちだって結構眠いのよ、早起きしてきたんだから……やるならお互い最高の状態でやり合うのが面白いんじゃない?」

「今日初めて出会ったけど確実に言えることがあるわ。アンタってホント逃げに関しては天才的。

…………ま、アンタの言うことも一理ありそうね。人類史上初、アタシの拳を砕いた褒賞に付き合ってあげるわ。朝ごはん」

「有難き幸せでさぁ」

 

相手の実力を一定量見極められたことに満足した赤髪の少女はその拳を下ろした。

もっと戦ってもみたかったが、少女としては久々にやりがいのある相手を得ただけでも、目の前の女には付き合いを持つ価値があると見做したのである。

 

「ああそうそう、アタシ、コーヒーよりカフェラテの方が好きだから。それと後パンね、とびっきりのを用意しておいてよ」

「お金も時間もあるからそう慌てなさんな、御姫様」

「じゃああたしの行きつけの店行きましょ。こっからは少し遠いけど……結構美味しいんだから、あたしに殺される前にあんたにも食べさせてあげる」

「それはご光栄です、御姫様。殺されないけど」

「あっそ。…………てか、そのお姫様、っての、なんかむず痒いからやめてくれる? 職業柄色々通り名があるのよあたし。アンタも知ってるでしょ? せめてそのうちのどれかで呼んでもらえるかしら」

 

赤髪の少女は頭を掻きながらそう言った。なんというか、漫画的反応をする少女であった。

ところが、眼鏡の少女は彼女の存在は知っていたが通り名は殆ど知らなかった。なので、適当に呼んでみることにした。

 

「あ、そう? じゃあ……ヒメちゃんで」

「……いやどっから来たのよヒメちゃん」

「だって「ヒメ」って感じだし」

「……」

「……」

「……もしかしてアンタ、アタシのことあまり知らない?」

「うん」

「うん、って……よくそんなんでここまで来れたわね」

「まぁ足に関しては色々と自信があってね」

 

眼鏡の少女は、デニムを捲ると自慢のむっちりとした脚をパンパンと叩き、誇らしげにする。

 

「……そんなことされてもアタシ別にビアンじゃないから靡かないわよ」

「アタシはビアンだけどね」

「嘘っ!?」

「嘘でーすっ。きゃはは姫可愛い~」

「……殴っていい?」

「暴力的なのはいかんねキミィ。えーっと、で、貴方の通り名は?」 

「……、朱ざ」

「可愛げないからやだー」

「あのさ、まだ全部言ってないんだけど。

それに、そう言われても皆あたしのことをそう呼ぶんだもの。あんたもそうじゃないと何か違和感あるし」

「しょうがないにゃあ……じゃあ、朱雀お姫様で」

「だから、御姫様ってのはやめなさいよ。てかやっぱり通り名知ってるんじゃない」

「じゃあ……姫で!」

「アンタ、何言っても聞かないタイプでしょ。もう好きになさい」

「えへへへ~……あら? 何やら向こうから煙が見えるわね」

「あらホントね」

「まぁあたし等には関係なさそうだし、早く行きましょ」

 

この日赤髪の少女は、この世界で初めての友と言える存在を得た……のやもしれない。

二つの影は、朝日に向かいながら、少女の知る行きつけの店へとも足を向けたのだった。




伊「はい、皆さんおはようございます。伊吹マヤでーす」
日「おはようございます、日向マコトです」
青「青葉シゲルです」

デンデデデデデデデン! デデデデデデデン! 
デデデデデデデン! デデデデデデデン!
デーデーデデデーデデーデーデー! デーデーデデーデデーデーデー!

日「おお! コレ勝利確定フラグBGMだからなかなか燃えるよなあ」
青「正直初号機が強すぎる気がする」
伊「まあ勝利確定したところで、今日もいつも通りやっていきましょう」
青「いつも通りだとまーたカオスになっちまうから出来れば穏便に行きたいけどな」
日「そんな時にいきなりだけど三日後に更新するとか言って四日後になったらしいな」
伊「い、一応原本は半年近く前に完成してたんですけどね? ちょっと投稿ボタンを押し忘れただけで」
青「そんなこと言われても誰も分かんないしもう素直に遅れたことにした方がマシだろ。ごめんなさい」
伊「ごめんなさい」
日「ごぺんなさい」
青「……ん?」
伊「……へんなの混ざってましたけど、とりあえずいつも通り質問コーナーに入りましょうかね。えーと……

「レリエルの倒し方が結局よく分からない」ということですが」
伊「確かに、今回は久々の出番&レリエル編ということでしたが……」
日「……呆気なかったな」
青「うん」
伊「ですね。いや、出来るだけ科学的にレリエルを討伐しようとしたんですけど結局よく分からなくなってしまったというのが事の真相のようですが、
要約して解説すると、
『ある球体が作っているある特定の影は、どこからその球体を照らせば出来るのか』
を求めた後、その照らしている場所を破壊する、という手法ですね。
レリエルの本体は人類から視覚的に見えるあの球体というよりはその「影」なので、
「影」を作り出せないようにすれば人類にとっては殲滅も同然の状況に至るという訳です」
日「それ根本的な解決にはなってないような」
伊「ですから本編でもシンジ君も『厳密には殲滅とは言えない』と言っていますね」
青「とはいえ、あの丸いのも照らされなくなるわけだし視覚的にも居なくなるからなぁ。
その辺をふわふわしてたとしてもまず弊害はなさそうだし」
伊「そう、ですから殲滅も同然というわけですね。
ちなみに球体の影の存在範囲は高校レベルでも求められるようなので興味があれば調べてみてください。それでは次ですね。

『最近特別編多くね?』ということですが」
日「いやそう言われてもなぁ」
青「現実のイベントが多すぎるんだよな色々と。
去年なんてエヴァの年だったし、それで放送開始20周年記念、そこから間髪入れずにクリスマス、正月と来て」
伊「ぶっちゃけ今年も舞台になっているという意味ではエヴァイヤーですからね。というか、「まごころを君へ」が放映された1997年まではほぼエヴァイヤーってことでいいんじゃないですかね」
日「スゲー適当だなオイ」
伊「でもエヴァ新幹線だってそれを見越してか来年の今頃くらいまで走っていてくれてるみたいですよ。折角なので今度乗ることにしました」
青「へぇ~」
日「俺も乗ってみようとは思うんだけどなかなかチケットがな。一日一本しか走ってないからなかなか難しいよ」
青「そうなんだ。じゃあ俺も折角だし購入にチャレンジしてみよっかな。その時はマヤちゃんも一緒に」
伊「……もしもしセンパイですか? ……えっ、予定が空いた!? やったぁ、それじゃあ二人分のチケットがあるので一緒に行きましょうね。それでは失礼します」ガチャッ
「……ん? 青葉君何か言いました?」
青「……いいえなんでも」
日「……どんまい」
伊「??? よく分かりませんね。それじゃあ最後の質問に行くことにしましょう。

『朱雀』って何者? ということですが」

青「ふむ」
日「確かに」
伊「誰なんでしょうねぇ」
日「ひとまず、設定上はかなりの美少女らしいけど。赤と金色が混じった長髪……ブロンドっていうのかな? に少し釣り目」
青「ほうほう」
日「強気な性格で、自分なりの信念があって、人類離れした強さを持っていて、シンジ君たちと大体同じくらいの年齢に見える、と」
伊「ふむふむ。なかなか凄いキャラみたいですね」
日「そう。そして凄いのは人物像だけではないんだよ」
青「へぇ? 何か凄い秘密でもあるのか」
日「ふふふ……」
伊「なんですか、そんなもったいぶるくらい凄いことなんですか?」
日「そりゃあそうさ。なんせ……
…………年の割にはスリーサイズがそれなりにあって、葛城さんには負けるけど少なくともマヤちゃんよりはおうぐふっ!?」
伊「…………それで?」
日「」
青「何の躊躇もなくマコトの子孫を殺しに行ったよこの子」
伊「……ったく。まぁともかく、神秘のベールに包まれてるってことですねー」
青「ま、まぁそうだな。一部の読者には看破されていそうな気がするけど」
伊「いーんですよ。どうせエヴァの二次創作に辿り着くような人たちって大抵勘は鋭いですから。どうカモフラージュしてもバレるもんはバレます」
青「そういう問題かよ……」
日「世阿弥とTatshの関係のようなもんだな」むくり
青「誰それ。ってか相変わらず復帰はえーなお前」
日「そりゃまぁ。葛城さんの酒乱っぷりにいつもつき合わされてついでにおうふぅっ?!」
青「えっ」
伊「あたしは何もしてないですぅ」
葛「……あっごめんねぇ~放送中に。ちょっちシンちゃん達が此間やってたカム・スウィート・デスの練習してたら日向君に突き刺さっちゃった」テヘペロ
青「あの葛城さん。正直こんな奴の子孫はどうでもいいんですけど頭を攻撃するのはオペレータ業的にまずいというか。それもハイヒールで破壊力倍増と来てます」
葛「えへへ、起きたら伝えといて。『てめぇの代わりは幾らでも居る』って。それじゃあ予告まで待ってるねん♪」
伊「……いやもう予告なんですけどね。三つ終わりましたし」
青「今回はマコトもそんなに暴走してなかったのに結局殲滅されてるな」
伊「まぁ静かでいいことですよ。葛城さーん、戻ったばっかでなんですけど予告お願いします」
葛「はいは~い、そう思ってスタジオ裏でずっとスタンバってましたっ☆
『無事にレリエルを無力化した数日後、第一中学校にやってきた未知の少女』
『少女と碇シンジ達の親交が深まる一方、相次ぐ不審な事件、見え隠れする別組織の介入』
『そして降臨する暴風に三機のエヴァはどう立ち向かうのか』」
「次回、『咲き乱れし彼岸花』さぁ~て次回も?」

「「「サービスサービスゥ!」」」



日「……ふぅ」むくり
青「ようやく目を覚ましたか」
日「ん? もしかしてもう終わったのか?」
青「うん」
日「そっかそりゃ残念だ。折角新アニメを作ったのに。『最弱無敗の人造人間』と言ってな」
青「無理やりネタ引っ張り出さなくていいから」

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