再臨せし神の子   作:銀紬

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えー、皆さんこんにちは。いつも産み落としては消え産み落としては消えの銀紬です。

しかしながら今回は終わりが明確に定まっていますし、書き溜めもそこそこあるのできっと完結する筈です!はい。乞うご期待ください。

まぁそんなことより、明日はついにサキエルが襲来しますね。
そんな訳で、リアル・タイムでお送りしましょう。
「終局の続き」どうぞ。


Prologue:終局の続き

「うっ……うっ……」

 

少年は一人泣いている。

赤に包まれた世界で、ただ一人泣いている。

 

その腕の先には、少女が一人。少年は、少女の首を今にも締めようとしていた。

どうしてこんなことをしているのかは自分でも分からない。分からないが、こうしていないとならないような、そんな気がするのだ。

 

少女は、かつて惣流アスカ・ラングレーと言う存在として認知されていた。

しかし……全てが赤に包まれた今、この世界を客観的に見た際にその少女が誰であるか? という事が重要かどうかは、非常に微妙なところだ。

今、「少女」と呼べる存在はその少女しか居ないのだから、単に少女Aと定義してもそこまで差し支えはない。

もっとも、この少年にとってはこの少女が「アスカ」であることが何よりも重要だった。

それが故に、この少女は「惣流アスカ・ラングレー」という名前、そしてその定義を未だ失ってはいない。

 

 

「気持ち悪い……」

 

そう言い放たれると、ついに力が抜けてしまう少年。項垂れて、最早涙を流すのみ。

 

立ち上がるアスカ。

目の前の赤い海に飛び込んだと思うと、どこかへ泳ぎ去ってしまった。

少年に出来ることは、それをただただ眺めることだけだ。

 

拒絶されることを何より恐れた少年にとって、これほどに辛辣な言葉がかつてあっただろうか。

そしてその拒絶は、言葉通り実行された。

 

それは覚悟していたはずだった言葉。が、実際に相対すると現実、そして自分の認識の甘さを知る。

 

 

少年は後悔を募らせた。 

 

あの時ああしていればよかった。

この時こうしていればよかった。

そうしていれば。この少女は助かったかもしれない。

 

それだけではない。

学校で巡り合った様々な友達。

奇怪な運命の巡り会わせで出会った様々な大人たち。

そして……

 

 

「……父さん。母さん」

 

 

両親。

 

 

母は自分を遺して消えてゆき、父にはとことん拒まれた……いや、そう見えただけかもしれないが。

しかし最期、本当に最期にではあったが、父のことも僅かながら理解できた。

彼もまた、自分と似たように他人を恐れていただけだったのだ。

妻を失った悲しみを、物心ついていない自分よりも深く深く味わっていたのだ。

その恐怖、悲しみの矛先は、決して息子も例外ではない。

 

ならば。

もっと歩み寄るべきだったのだろうか。

前は分かろうとした、と考えた。でも、それも今となっては思い上がりだったように思えてしまう。

もっと歩み寄って、少しでも、少しでも普通の父子として生きればよかったのだろうか。

 

しかしそれを今悔やんでも、もう遅い。

 

 

少年は臆病であるとともに、お人好しでもあった。

そうでなければ、他人から拒絶される。

それを一番恐れるが故に、お人好しであった。

 

 

「…………」

 

 

少年は、静かに目の前の赤い海に沈んでみることとした。

 

赤い海の中で呼吸できることは少年の中では最早常識であったので、これが自害の意を持った行為なのかというとそうではないだろう。

けれど、別に死んでしまってもそれはそれで構わなかった。全ての溶け込んだ海に自分も交じり、一体になりたがった。

 

「(僕は……他人がいる世界を望んだ。でも、誰も戻ってこない。アスカもどこかへ消えてしまった。ならば、せめて溶けたい。溶けて、他人と共に居たい)」

 

そうしている少年の横に、一人の少年が歩いてきた。

銀髪に紅色の眼を持ち、静かに少年に向けている。

 

 

「……それが本当の望みだったんだね、シンジ君」

 

 

アスカの首を絞めた少年の名前はシンジと言う。

正確には碇シンジ。もう一人の少年という役者が現れた以上、少女とは違い客観的にも定義の必要な人間になった。

 

「そうだね……僕はただ、一人にしないで欲しかっただけなんだ。

だから、他の人たちが還ってくる世界を望んだ。でも、現実は甘くなかったんだね……。こうして待っていても、

戻ってきたのは、アスカ、そして君、カヲル君。二人だけだったんだから」

「僕は使徒だから、人間としては一人だけどね」

「あはは……どっちでもいいよ。人間もまた、リリンっていう使徒なんでしょ?」

 

くすりと笑う銀髪の少年の名は、カヲル。正確には渚カヲルという。

「最後のシ者」である彼は、シンジと二人、赤い海を漂った。

 

「ねえ……シンジ君」

「……なに?」

「君は、今、この世界の神であるのだという事に気付いているかい?」

 

唐突に発せられる妙な台詞に、きょとんとする。

 

「……相変わらず、君が何を言っているのか分からないよカヲル君」

「分からないのかい? 君はもう少し自分の価値というモノを分かった方がいい……」

「それ、前も言っていたね」

「事実だからねぇ。……僕はここでずっと浮いていることにするよ。

もし、なんとなく分かったら話してくれると良い。その時、答え合わせをしよう」

「? どういうこと?」

「大丈夫。この海はジオフロントのクレーターで出来ているから、精々半径5~10km程度の範囲で広がっているだけだ。

それに、君が気付きさえすれば例え全宇宙中を探すことになっても問題はない」

「いや、そうじゃなくて……」

 

その心配をしている訳ではないということを言いかけるが、カヲルは返事をしない。

ただ、いつも通りの笑みを浮かべた表情でそこを漂っている。

答え合わせとやらが出来るまでは応えないつもりなのか?

 

仕方があるまい。碇シンジは考えた。

 

神である……? 

僕が。

 

そんな高尚な存在なわけがないじゃないか。

僕は結局みんなを殺してしまったんだ。

いや、厳密にはすぐそこに魂と言えるものが赤くふわりと浮いている。浮いているし、事実「死んでしまった」訳ではない。溶けただけだ。

だが、「ヒト」としては死んでしまったようなものじゃないか?

何か喋りかけてくれるわけでもないし、人の形を微塵も取っていない。ただ液体であるのみ。

LCLはその組成上乾くことが無いので、

赤い世界にはところどころに海とは別にLCLの湖や沼と言えるものがあった。けどそれも、決して人の形を取ることはない。

魂はあっても、何一つ答えることの無いモノ。それを果たして生きていると言ってよいのか。

厳密に言えば、魂があっても何も答えてくれないならば死んでいるも同然、というのは、「植物は皆死んでいる」と「断言してしまう」程度の暴論ではある。

けれど、まだ十代も半ばに差し掛かる程度のシンジにとっては、そのことにまで気付くことはない。

 

ところで、今やこの世界に居るのはシンジ、そしてカヲルのみである。

厳密にはもう一人の少女……

綾波レイとかつて呼ばれ、リリスとも呼ばれる存在もあるのだが、今はその姿が見えない。

 

確かにカヲルは人類とは違った種。

人はかつて彼を、タブリスと呼んだ。また、ある者はアダムとも呼んだ。

 

カヲルは、人類より遥かに強大な力を持っている。これは確かなことだ。

だが、当のカヲル本人はシンジに楯突くどころか、シンジの決定を受け入れるつもりであった。

一度シンジを裏切ったことには少なからぬ罪悪感も覚えていたこともあるが、

何よりタブリス、アダムとしての本能が今こうしてサードインパクトが達成されたことで殆ど失われていたのもある。

今残っているのは、シンジへの好意と忠誠心のみだ。

 

そして、最後の時にゲンドウに諜反し、シンジの為に願いを叶えようとした恐らくレイもまた、シンジの決定を受け入れるであろう。

何より一度は受け入れたし、今後もそうするだろう。

 

いや、そうじゃない、それだけではない。

彼はひとり、いやかつては二人。惣流アスカと共にこの赤い世界という、「新世界」に二人、産み落とされたのだ。

 

ともすれば、そこから導かれる結論はただ一つ。

シンジは、実質的なこの世界の神である、ということである。

アダムとリリスたる存在を従えた今、彼は実質的に神以外の何物でもないのだ。

ある意味ではイヴとも呼べるアスカは今や自ら消えたことと、

アダムが二人になってしまっているということはあるが、もう一つのアダムは完全に従順なので、名前が同じだけの別の存在として捉えることが出来るだろう。

至極簡単な結論だ。

 

それでもシンジは百晩と百一日考え抜いた。

単純な結論ではあったのだが、悲しみに明け暮れながら考えたので思考力は過去よりずっと低下してしまっていた。

いや、思考が鈍っていたというよりは、余りにも悲観主義的になってしまっていたのだろう。そこに思い至るという発想がまず失われていたのだ。

 

それでもシンジは、ついには真理に辿り着いた。

 

ポチャリ、ポチャリと、LCLの音がする。血の匂いとかつての海の匂いとで交じり、奇怪な匂いではある。

しかし、不思議と不快でもない。

 

カヲルは本当にすぐそこに居た。

 

「……そっか、そういう事なんだね、カヲル君……でも、本当に僕に、アダムたる資格があるのかな?」

「そうさ、君は今……この世界でなんでも出来るんだ。その権利を、全て託されたのさ。

そして、僕は手伝えることなら何でもするつもりだよ。君の悲しむ顔は見たくない……そうだよね、レイ君。いや、リリス」

「……え?」

 

シンジが振り向くと、後ろにはかつての友であり……

恋い焦がれかけたその存在が居た。

 

「……いつから気付いていたの?」

 

かつてと変わらない無表情でカヲルに問うレイ。

 

「3日前からさ」

「そう」

「彼女もまた、君の為にこうして還ってきたんだよ。シンジ君」

「……綾波も、僕を助けてくれるの?」

「ええ。 碇君がもう……悲しまなくて、いいようにする」

「そうか……ありがとう」

 

もう拒絶されたくはない。

そんな一心で問うシンジに、一言で安堵感を与える。

 

「アダムである僕とリリスであるレイ君、そしてそれを従える、全世界の神となったシンジ君が願えば、

僕たちは何もせずとも最善の答えが導かれ、それが実行されるだろう。さあ、シンジ君、レイ君。手を繋いで」

「……今更かもしれないけど、僕に、出来るかな?」

 

希望の色が見えていたシンジではあったが、どうしても不安は残る。

 

「確かに、君ひとりでは無理かもしれない。でも、コレは僕たちの手で成し遂げるのさ。きっと上手くいくよ」

「そうね」

「……まあ、やってみないうちから諦めるのは良くないよね。……じゃあ、やろうか」

「うん」

「いつでもいいわ」

 

しっかりと手を繋ぎ合う3人。

 

直後、赤い海は輝き始める。煌めきは留まるところをしらない。

三人を球状に包むと、やがて膨張する。

そして、それは人の形を作り出し、やがて紫色に輝きだし、咆えた。

 

 

ウォオオオオオオオオオオオ……!!!!

 

 

世界の中心であいを叫ぶけもの。

紫色の鬼が、奇跡を今まさに起こさんとしている。

かつて緑色だった部分は紅に染まる。頭には天使を思わせる純白の円環が浮かび、やがて完全にシンジたちを包み込んだ。

 

 

「(そうか……君も、手伝ってくれるというのか?)」

 

 

ウォオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

シンジにとって最も畏怖する存在であり、忌避したい存在であり……

そして、一方どこかで敬愛もしていたその鬼は、かつては人造人間エヴァンゲリオンと呼ばれた人造兵器のその初号機である。

シンジがこの赤い世界に送り込まれたその日、宇宙の彼方へ飛び去ってしまったと思われたが、

シンジ達を希望へ導く箱舟としての強力な「イメージ」が彼を再びここに生み出したのだ。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

シンジがその世界で聞いた音は、その咆哮が最後であった。

暗転し、終わる世界。




次回は予告通り明日の更新になります(もう既に予約投稿を行っております)。

やはり書き溜めの存在は大きいですねぇ。
まぁ、何か要望というかそういうのがあれば、小ネタ程度であれば取り入れようと思います。
大まかにストーリーが変わってしまうのはNGですが。

まぁ、所謂典型的な逆行スパシンモノになる予定ではあります。
新ジャンルを開拓するのも、20年も経って今更感もありますしw
何より思いつきませんし。

なお、今のところはその後もリアルタイム投稿……と思いますが、
サードインパクトが起こるのがどうも来年の今頃ぐらいみたいなんですよね。
他にも時期不確定の使徒も多いので、やや早く終わるかもしれません。

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