部室の戸締まりを確認した後俺達3人は昇降口に向かい歩き始めた。放課後、とりわけ下校時間が迫っているこの時間の廊下は閑散としている。普段より気持ち肌寒く感じられるのもそのせいだろうか?
しかし・・・コートにマフラーと、手袋と防寒具をしっかり身につけていても肌に感じるこの寒さ・・・『肌を刺す寒さ』とはこのような寒さの事を言うのだなと
考えながら廊下を歩いているうちに昇降口はすぐ目の前にきていた。俺達同様部活帰りの生徒や委員会で残っていた生徒、はたまた放課後ただただ残っていた暇を持て余した生徒がチラホラ見える。
「うわっ、外めちゃ寒そう!?」
「校内でもこの寒さだものね・・・気が滅入るわ」
「そうだな・・・これ以上寒くなる前に早く帰るか」
陽が落ちると気温は一気に落ちるからな・・・
比例して俺のテンションも下がり続ける一方である。
いや、まぁ元から高くはないけどさ・・・
上履きからローファーに履きかえ外に出ると予想した通りの寒さが俺達を迎える。そんなお迎えゴメン被りたいまである。戸塚か小町のお迎えならウキウキなんだけどね!やはり校内と違い風もあるため、肌に感じる寒さはより強く感じられる。
「やっぱ寒っ!?寒すぎるよ!?ゆきの~ん!温めて!」
と雪ノ下の腕を組みくっつく由比ヶ浜。
雪ノ下もこの寒さに滅入っているのか平素なら抗議やその意を示すのだが、特に何も言わずに受け入れている。雪ノ下の頬がやや赤いのは・・・冬の寒さのせい・・・だけじゃなさそうだ。少し照れも入ってるな、あれ。
二人ともお熱いですね・・・俺はお独り様でお寒いですが・・・あっ、俺が独り寒い人生歩んでるのはいつもだったな・・・とにもかくにもお熱い事はなによりだ。
そんなゆるゆり、もとい百合百合している二人を見ながら歩いていると駐輪場が見えてくる。
「んじゃ、俺こっちだから」
「うん、バイバイ!ヒッキー!」
「比企谷くん、また明日」
二人に別れを告げて独り駐輪場へ向かう。
駐輪場に生徒はチラホラとはいるが普段のこの時間の割には少ない。多くの生徒は家に帰って心身ともに温かく過ごしているんだろうか?
普段少数派にいる・・・いや、下手すればその少数派にすら入れない逸材であるぼっちマスターな俺も今日ばかりは彼等を見習って早く帰るか・・・
自転車の鍵を外し自転車にまたがるとふっと一息つき、『さて帰りますか』と今日一番の気合いを入れ帰路に向けてペダルを踏みだそうとするとパタパタという足音が徐々にこちらに近づいてくる。
「せ~んぱいっ、今お帰りですかぁ?」
トントンと肩をつつかれ後ろを振り向くと冬の寒さかあるいは駆けてきたせいなのかやや顔を紅潮させた一色が立っていた。いや、まぁ誰なのかは言わずもがなわかったけどさ。俺の知る限り『先輩』と呼ぶのはこいつだけだし、いまとなっては聞き慣れた可愛いらしい、だがあざとい声でわかったんだけどな。
「なんだ、一色か。」
「むっ、リアクションが薄すぎてつまんないですねぇ、先輩は」
ぷくっと顔を膨らませつまらなさそうな様子の一色を見てため息が出る。
なんで俺は帰ろうとした矢先に急に声を掛けてきた後輩につまんないってディスられてんの?雪ノ下といい由比ヶ浜、一色といい俺の事ディスり過ぎでしょ・・・他人様に迷惑を掛けないようひっそりこっそりしている俺をディスるなよ・・・泣いちゃうよ?ワンワン泣いちゃうよ?泣き過ぎてワンワンパラダイスになるぞ・・・パラダイスじゃねぇな・・・
「つまんないってお前・・・」
「ですよ?せっかく可愛い後輩の私がすすけた背中で独りトボトボと帰ろうとしている先輩に声を掛けたんですから・・・まぁ、先輩にテンプレ通りのリアクションとか求めてないから良いんですが・・・つまんないです。先輩つまんないです」
テンプレ?なにそれ美味しいの?
あとつまんないつまんない2回も言うなよ
「そうですか・・・で、なんかようか?見て分かると思うが帰るとこなんだけど?」
寒いし疲れたし早く帰りたい・・・
「あっ、それです。私って今から買い物行くじゃないですかー?」
何だ何だよなンですかァ?
そんな情報知らないンですけどォ・・・
いや、知る必要もないけどさ
「いや、知らんし・・・買い物?この寒い日に?お疲れ様。風邪ひかないようにな」
「それがですねー、買うものが意外と多くて荷物も少し多くなっちゃいそうで・・・私独りじゃ大変そうなんですよねー」
チラチラとこちらの様子を上目遣いで伺う一色・・・あざとい・・・さすがいろはすあざとい・・・あざといろはである。まぁ、薄々と今のでこいつが何を言いたいかはわかったが・・・
「だから先輩、付き合ってくれませんか?」
「寒いし疲れたし面倒臭いし帰りたい。だから断る」
「薄々そう言われると思ってましたが・・・即否定されると流石に傷つきますね・・・」
少しショボンとした表情で肩を落とす一色を見て少し・・・ほんの少しだが良心が痛む。だが断る。
痛みに耐えて人は強くなるんじゃよ、とじっちゃんも言ってたしな。
「ていうか、先輩暇なんだし・・・買い物も生徒会関連の物ですから手伝ってくれてもいいじゃないですかー」
ショボンとした様子の一色だったが顔を上げるとぶーぶーと文句を言ってくる。
それを先に言えよ・・・
一色のプライベートな買い物にまで俺が付き合う必要はないが生徒会関連の仕事なら出来る限りのサポートならしていくつもりだ。でもなぁ、なんでもかんでも
するつもりはないんだが・・・実際昼を一色と過ごすという事にもなったし・・・放課後じゃねぇな下校の時まで一色のサポートというかわがままを聞くのは・・・聞いちゃうと俺の一日は一色一色になりそうだ。今の上手いな。いや上手くないな・・・
「ナチュラルに人を暇人扱いするなよ・・・俺忙しいよ?帰って本読んで飯食って風呂入って宿題してゲームしてゴロゴロして寝る・・・帰ってからのスケジュールは埋まっている。超多忙といっても過言ではないね」
「それ世間一般では暇って言うんですよ?あと過言過ぎます。まぁ、世間からズレてる先輩じゃ仕方ないですか。聞く限り暇そうなんだから良いじゃないですかー。先輩は可愛い後輩と過ごせる、私は安心して買い物出来るwinwinじゃないですかー」
winwin!!それある!いや、ねーよ。
「いや、葉山とか戸部とか・・・それこそ生徒会の連中に頼めよ」
「葉山先輩はちょっと・・・アレです。今は頼み辛いっていうか・・・というか葉山先輩も戸部先輩も放課後先輩の教室に行ったら何処かに遊びに行くとか言ってたんで・・・」
あぁ、そう言われば部活行く前教室で戸部が
『遊びに行かね?』とかなんとか言ってたな・・・
ていうか教室来たんだな一色は
戸部辺りに頼みに来たんだろうが・・・
葉山に関しては何かあったのか?
真っ先に葉山に私大変なんですアピールすると思ってたんだが・・・荷物持ちに葉山を使いたくないとかか?
しかし、その割にはアレやら今はやら何か妙な事を匂わせてくる。本人が言葉を濁してる辺り言いたくない事なんだろうか・・・この件は少し気になるが突っ込まず心に留めておくか
「生徒会の連中は?」
「生徒会の皆さんは先輩と違って塾やら約束やらで忙しいんですよー。先輩と違って」
だーかーら俺は(以下ry
放課後の下校時間はもうかなり迫っている。気付けば駐輪場付近には俺と一色しかいないし校門付近にも生徒はいるが数人程度しかいない。それと
「・・・・・」
下校時間がかなり迫っているせいかさっきから用務員のオッサンが迷惑そうにこちらをチラチラ見ている。
ゴメンねオッサンすぐ出るから
葉山が無理で戸部も無理、生徒会の連中も手が空いてない。用務員のオッサンがチラチラ見てくる。俺は一色に責任を果たす必要がある。
となれば
「・・・だからな」
「へ?」
「今日だけだからな」
「先輩っ!」
パァっと笑顔を浮かべる一色。
このくだり今日の昼間もあったな・・・
「さっきまで渋ってたのに・・・もしかして本当は嬉しかったとか?照れ隠しだったんですか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる一色は本当に嬉しそうだ。そりゃ荷物持ちが出来たら嬉しかろうよ
「アホか・・・アレだよ、いい加減こうでもしないとお前しつこそうだし・・・責任を果たすというか・・・アレだ、用務員のオッサンが迷惑そうにチラチラ見てたからだよ」
「用務員さんのせいにする辺り捻デレてますね~ま、そういう事にしといてあげます。先輩のいう用務員さんもチラチラどころか既にガン見してますから早く行きましょうか!」
「へいへい」
俺と一色はそんな話をしながら校門に向かい始める。
雪ノ下が由比ヶ浜に甘いように俺は俺で一色に甘いようだ。小町に少し似ているからか・・・一色に責任を感じているせいか・・・はたまた・・・いや、そりゃねーな。
隣であざとい笑顔を浮かべる一色をチラリと見てそんな事を思う俺だった。
あと、用務員のオッサン、ごめんね。
もう帰るから
続く
中々更新が捗らず・・・
思っていた以上に難しいですね
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