『ベストプレイス』   作:victory

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終ぞ彼女は理由を語らず

「一色、何故俺と昼を過ごす必要がある?」

 

一色にそう問い掛けた。

 

何故俺が一色と昼を過ごすのか・・・

よくわからん・・・

 

俺と一色の付き合いはそれほど深いわけではない。だが、平塚先生と城廻先輩からの奉仕部への依頼・・・生徒会選挙の一件で知り合って以来、思いだすだけで意識が高くなりそうな海浜総合高校とのクリスマス合同イベントや三浦からの依頼を受けてのマラソン大会等を通してある程度ではあるが、一色いろはという人間の人となりは理解しているつもりだ。最も知っているのは知っている事だけで、彼女の知らない一面もあるのだが・・・

 

一色はあざといがあざといなりにしたたかさを兼ね備えているし、人付き合いも良いイメージがある。そんな一色は昼を一緒に過ごす相手どころか友人関係には事欠かないはずだ。ましてや一年生にして総武高校の生徒会長となった一色は今や雪ノ下や葉山と並ぶ有名人である。校内屈指のトップカーストの一員だ。そんな彼女が校内カーストの最底辺に属する俺と昼を過ごす等おかしな話である。

 

「理由、理由・・・ですか・・・・」

 

俺の問い掛けに一色は何故か顔を俯かせ思案する。

 

・・・『やはり』何かあったのか?

 

最近の一色に俺は何か違和感を感じていた。こいつが俺のこの場所、ベストプレイスに初めて来た辺り・・・確かマラソン大会が終わってから少し経った辺り位からか?勘違いならそれにこした事はないのだが妙にモヤモヤする何かが最近の一色にはある。

 

そもそも本来のというか以前の一色なら俺の問い掛けに対して即座に

『なんとなく先輩といたいからですかね~せ・ん・ぱ・い、と』やら『そんなの暇潰・・・暇潰しに決まっているじゃないですか。あれ?何か期待してましたか?だとしたらごめんなさい、先輩の期待にはまだ応えられません。もう少し待ってください!』

等のあざとい返答やいつものよく分からん返答があると思うのだが・・・あれ?普段通りもおかしいな・・・慣れって怖いな慣れって・・・

 

だが、今の一色は返答を用意してなかったようだ。返答につまる程余裕がないのか、あるいは理由などなくなんとなくなんて事かもしれないが・・・少し気になるな・・・

 

最近ふとした時に見せるはかなげな表情や俯き考え込む頻度、それに伴いつく溜息等おかしな点はいくらかある。ふむ・・・

 

ってあれ?もしかして、いや、もしかしなくても俺ってば一色の事見すぎか?見すぎだってばよ・・・

それはまぁ、きっとあれだろ、一色が醸し出す庇護欲だとか小町と少し似ている(当然小町の方が可愛いぞ)故に俺の108あるお兄ちゃんスキルの、一つ『異変察知』がオートで発動したのだろう。千葉県民のお兄ちゃんスキルの高さは異常。同じ千葉県民の高坂さんもお兄ちゃんスキル高いしな・・・

等と考えていると一色はようやく口を開いた。

 

「先輩、女の子のお願い事に理由を聞くなんて野暮ですよ?野暮。そんなだから先輩はモテないんですよ~」

 

と、いつも通りの・・・そう極めていつも通りの笑顔で返してくる一色。

 

その言葉には『理由は言いたくない』あるいは『理由は言えない』そういう意味が込められているのだろうか・・・

 

あとモテないのは言わないで自覚しているから・・・モテモテ甘甘の人生等送っていない。むしろ俺の人生は常にビターなのである。ビターな人生だからこそコーヒー位甘くていいじゃない・・・

 

「まぁ、先輩は理由なんか関係なく私のお願いを聞く義務があると思いますよ?」

 

「義務って何んだよ義務って?あと俺に断る権利がないみたいな言い方やめてくれない?」

 

「先輩が言うから私は生徒会長になったんですよ?生徒会のお仕事、もう大変なんですからね?へとへとです。だから、先輩には責任を取るというか・・・これくらいのわがまま聞いてくれてもいいんじゃないんですかね~」

 

ふむ・・・どうしたもんかね・・・

 

一色が言う『責任』という言葉に俺は弱い。平塚先生と城廻先輩からの依頼を受けた生徒会選挙の一件で俺はある思惑の為に一色をたきつける、唆す形で一色を生徒会長にした。その事に責任は当然感じているし、できる限り、俺がやれる範囲での責任は果たすべきだ。だが、それはあくまでも生徒会関連の事に限る。一色のプライベートな事までサポートする必要はないはずだ。

 

「先輩・・・」

と一色は縋り付くような声を出す。

 

ほんとどうしたもんかね・・・

 

 

俺が生徒会関連以外で一色に対する責任を果たす必要はない。だから一色のお願いを断るはできる。ここで要件を飲んでしまうと今後も何かとつけこまれそうだしな・・・つけこむのは胡瓜や大根だけで大丈夫。

そう思い俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかったよ・・・責任、取ればいいんだろ。面倒臭いけど・・・昼休みだけならいいぞ。面倒臭いけどな」

 

そう答えた。

 

今回、責任なんてものは考えちゃいない。正直ベストプレイスでの一人優雅に過ごすベストな時間を潰されるのは癪だ。

 

癪なのだが・・・それ以上に最近の一色に感じる違和感が分からないまま・・・モヤモヤしたものを抱えながら今後を過ごす方が癪だ。気持ちが悪い。こいつともう少しいれば自ずと違和感の正体が分かる筈だ・・・

まぁ、生徒会関連の仕事ではない分心労もさほどなさそうだし、昼休みは1時間にも満たない。これくらいなら許容範囲だしな。

 

俺の返答に一色は満足したのか笑顔を浮かべたがすぐさま顔を曇らせた。

 

何?何か言ったか、俺?

一色さん、あなた笑顔だったじゃないですか・・・花咲くいろはだったじゃないですか・・・

 

「先輩、お願いを聞いてもらえて嬉しいですけど・・・面倒臭いって酷くないですか!あと二回も言わないでください!」

 

「大事な事は二回言わないとな」

 

お前さっき俺の事残念残念って二回言ったの忘れたの?何?健忘症なの?

 

 

ぐぬぬと憤慨していた一色だが次にはふっと小さな笑みを浮かべていた。

「面倒臭い発言はポイント低いですけど、そう思いながらも私に付き合ってくれる先輩はとてもポイント高いですよ♪」

 

そんな話をしていると昼休みの終わりをつげる、予鈴が鳴った。

 

っべー、俺そんなに一色と話してたの?次平塚先生の授業じゃん。物理的な制裁喰らっちまうわぁ・・・マジないわぁ

 

一色も少し慌てた様子で5限目の授業があるという特別棟に向かってパタパタと走り出す。そして一色は特別棟に入る直前に

「せ~んぱい、明日からお願いしますね~♪」

と笑顔で言い残し去っていった。

 

さて、平塚先生への言い訳はどうしたものかと思案しながら教室に向かい思いだしたのは最後に見せた一色の笑顔。

その時の笑顔は何の違和感も感じない至極魅力的なものだった。

 

 

続く

 

 


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