プロローグ 幼き日の夢
―――お母さん……お母さん……
『
お父さんは?
『お父さんは、お仕事に行ったわ。でも大丈夫。すぐに帰ってくるわ』
また、悪い人たちが来たの?
『そうよ…今日は、少し近くまで来てしまったみたいね…』
ボクも、お父さんみたいに動けたらいいのに…
『そうね…お母さんも、はやく連理が元気に動いてる姿が見たいわ』
今日もちゃんと、薬のんだら、元気になれるかな…?
『えぇ、きっと』
……注射は?
『注射は、昨日したから、今日はしなくてもいいわ。でも、明日はまた、注射の日だから…』
注射は…きらいだな…
『ウフフ…でも、注射しないと、また体が痛くなってしまうわよ?』
うん…がんばる…
『いい子ね…さぁ、このお薬飲んで、少し眠りなさい』
うん…また、薬、増えた?
『新しいお薬が、ふたつね……さぁ、お休みなさい』
…おやすみ…お母さん…
………
……
……夢…
夢を、見てた。
あぁ、これは、いつのことかな…
この頃は、何一つ疑うことなく、幸せだった。
お母さんがいて、お父さんが仕事へ行って…
いつか自分の身体が自由に動くようになって…
お父さんの仕事を手伝うために、強くなるんだって、毎日、毎日思ってた。
だんだん増えていく薬に、不安で、怖くて、涙が止まらない日もあった。
そんな時は必ず、お母さんが傍にいて…
『大丈夫、大丈夫…もう少し貴方が大きくなったら、きっと身体も自由に動くようになるわ』
そう言って頭を撫でてくれた。
ベットからお母さんを見ると、長くてサラサラした金色の髪が、キラキラと光っている。
光を受けて暖かく輝くその金色が、大好きだった。
お母さんと同じ色の髪をしている自分が誇らしかった。
そのことをお父さんに言うと、いつものように優しく微笑みながら…
『ボクも、お母さんと連理の髪が大好きだよ。とても、とても綺麗だから』
将来はきっと美人さんになるねと、お母さんと同じように頭を撫でてくれる。
お父さんは、自分が思う「正義」を守るために、戦う仕事をしていた。
いつも、お父さんの「正義」を邪魔する人たちと戦っていた。
ずっと遠くで戦っていて、なかなか会えないことも多かった。
時々、邪魔する人たち、悪い人たちが、家を襲いに来ることもあった。
怖かったけど、お父さんと、お父さんの仲間たちが、いつも守ってくれた。
だから、いつか身体が自由になったら…
お父さんと一緒に皆を守れるように、戦いたかった。
皆を守る、力が欲しかった。
強くなりたかった。
今、ボクの身体は自由に動く。
薬も、注射もいらない体になった。
普通の人よりはやく走れるし、重たいものも持てるようになった。
強くなった。皆を守る力を、手に入れた。
……でも、
お父さんも、お母さんも、もういない
仲間たちも、皆いなくなってしまった。
悲しくて、心が痛くて、ずっと泣いてた。
大きな声で、ずっとずっと泣いてた。
ただ、今はもう泣いてない。
どうすればいいか、わかったから。
だから、笑いながら、楽しみながら、世界を楽しんでる。
そして、いつか―――――
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