先輩のともだち訓練   作:そーだー

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第6話

「どうしましょうか?もう日も落ちかけてますけど」

「帰えー」

「帰るのは無しで、と言いたいところですが先輩と出来そうな友達らしいことって中々思い付かないんですよね…」

「友達、か。食べ物は食べたしな…」

あのあと、飲み物以外も少しお腹に入れた為、夕飯にはまだ早いだろう。

友人でするとこという前提が良く分からないのだが、俺がよく読む小説だと誰かの家に集まってゲームでもするというのが定番だったはずだ。

ぼっちを極めている俺だが、その手のゲームは小町という相手がいた為困ることは無かった。

そう、友人が居なくてもスマブラで相手を飛ばす楽しみは知っているのだ!あと、飛ばされたらむっとして怒ってくる小町の顔はいつ見ても可愛い。

そんな事を考えていたからだろうか、不意にこんな事を呟いていた。

「ゲームでもするか?俺の家で」

「え」

目の前に居る後輩はぽかんとしていた。

いつものコイツ何言ってるのという顔ではなく、コイツ今なんて言ったのという顔がわかり易く見えている。

しばらくすると、一色はこほんと一息入れてか視線を落としつつ答え始めた。

「別にゲームするぐらいなら構わないですけど・・・どうせ先輩の事だから友達と自分の家でゲームとかしたこと無いでしょうし」

「俺には小町が居るからな。わざわざ友達なんて呼ばなくて良かったんだよ」

意外にも断られなかった事に驚くが、そういう日も有るのだろうと深くは考えない事にした。

交渉の時ならいざ知らず、一色いろはという人物が普段何を考えているかなどぼっちである俺にはわかりようが無いのだから。

「先輩のシスコン発言にはもはや何も思うことは無くなりましたが…まぁいいです。じゃあ早速先輩の家に行きましょう!」

 

「ここが先輩の家ですか…普通ですね」

「普通の男子高校生にお前は何を求めてるんだ…」

「いえ、先輩をこんな人にしてしまったのはひょっとしたら環境のせいかなと思ったんですけど先輩は根が腐ってるから環境なんて関係ないんだなって再確認してましてっ」

てへっと舌を出す後輩を見て酷いこと言うな八幡だって人権はあるんだぞ!と心の中で訴えるも小心者なりの努力は虚しく彼女は取っ手に手を掛ける。

「お邪魔しますっ」

勢いよく扉を開けて入っていく後ろ姿は何処か楽しそうだ。自分の知り合いを友人という前提の元、家に招くのは初めてなので俺もこころなしかワクワクしているのは否めないが。

勢いよく入っていった一色は玄関で足を止めた。

物凄く不安そうな顔でこちらを見てくる。

「あの先輩、小町ちゃんは?」

そこでやっと彼女の意図していることがわかった。

彼女の中では小町が既に家に居て俺と小町と3人になる予定だったのだ。

だがその前提は残念ながら間違っている。

小町は受験勉強の為学校で先生に分からないところを聴いてくると言っていたので、まだ家には帰ってきていない。

つまりこの家には一色と俺しかいないという事になる。

「ま、まだ帰ってきていないと思うが…そ、そのわざとじゃないんだすまん。俺も小町が帰って来てるもんだと思ってて…」

すると目の前の彼女ははぁとため息をついた後、微笑みながら言った。

「別にいいですよ。先輩がそんなことわざわざするとは思えないですし。ただそうですねー借りにしておきましょう!それで手を打ってもいいですよ?」

相変わらずあざとく計算高い彼女らしい提案だった。

普段あざとく可愛く振舞うことに振り分けられているあざとさがここに来て素の彼女に現れていた。

「借り…じゃあそれで頼む」

彼女のお願いには弱い。それは雪ノ下達からも指摘された事だ。弱みを握られていないとは言い切ることが出来ないが、断る事が出来そうなお願いでも聞き入れてしまう。

小町との生活で鍛えられたお兄ちゃんスキルなのか、一色の才能なのかは分からない。

ただ、それで構わないと思う自分が居るのだからそれでいいのだろう。

「せんぱ〜い、ゲームどこなんですかー?」

いつの間にかリビングへ移動していた一色は家を物色し始めていた。人の家でも固まらない一色さんマジ尊敬っす。

彼女の態度は固まる固まらない以前に自然体過ぎる気がするが。

釣られて小町に普段している様な対応をとってしまう。

「あぁ、テレビの下。飲み物何飲む?」

目を丸くした一色はこちらを見てボーッとしているが、はっとしてテレビの方を向いた。

「なんでもいいですよ!先輩と同じで!」

同じと言われると少し困る。とりあえずコーヒーでいいかと用意をする。こちらがお湯を沸かしていると、いつの間にか一色が台所に来ていた。

「用意できました!」

ビシッと敬礼する一色は上目遣いが無ければ子供っぽいのだろうが如何せん上目遣いのせいであざとさが隠しきれて居らず、ある意味その方が年相応に見えた。

「なんか失礼な事考えてません?」

「はい、コーヒー」

「あ、ありがとうございますって先輩」

流石いろはすそう簡単には流せなかったか。

「じゃあさっさとやろうぜ。あんまり遅くなったらまずいだろうから」

「お、そこはちゃんと考えてるんですね」

「まぁな」

八幡初の小町以外との対戦が遂に始まった。

まさか一色がその相手になるとは思いも寄らなかったが。


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