「先輩、覗いたら通報しますよ」
「安心しろ、自分に得の無いことはしない主義だ」
「妙に信用出来ますね・・・ていうか何気失礼じゃないですか」
「気の所為気の所為。長居してると倒れそうだから早くしてくれ」
「はーい」
試着予定の服を手にした一色は少し緊張した面持ちでカーテンの向こうに消えていった。
カーテン越しに聴こえてくる布が擦れる音のせいで煩悩が持ち上がってきそうだが、付近に吊るされているオシャレな服に意識を集中する。
あの服胸元ガバッと空いてて由比ヶ浜が来たらやばそうだなぁ・・・
一色がきたらそれはそれで、と思考が後輩の方へ向かってしまい、嫌でも音に意識が向いてしまう。
カーテンを見ていると、ちょうどカーテンがまくられた。
「どうですかね、先輩?」
計算づくされたいつもの一色ではなく、慣れていないデザインの衣服に包まれて何処か初々しさを醸し出しており、表情も不安げである。
上目遣いがあざといことを除けば凄く可愛い。
「まあ、似合ってるんじゃないか」
「そんな目を逸らしながら言われても・・・あ、もしかして恥ずかしいとか?先輩、可愛いですか?可愛いですよね?」
「さぁなてかあざとい」
「可愛いか可愛くないかなら?」
「・・・可愛い」
「先輩も素直になれば楽なのに」
「うるせぇ次着ろよ次」
「早く見たいならそう言ってくれればいいのにー」
「なっ」
ニヤニヤしながら棒立ちの俺が持っていた服を1着手にとってまたカーテンの中に入っていった。
これがあとこの手にかかっている衣服の分だけ繰り返されるのか。
可愛い後輩の姿を見れると思えばこれはこれでいいのだろうと思うようにすることにした。
一色のプチファッションショーが終わったあと、どれが一番良かったかという会話をしばらくして、八幡の残念センスをお披露目すること無く何とか終える事が出来た。
意外にも買ってくれとせがまれる事はなく、友人同士がやりそうなことを二人で相談した所、またまた卓球をすることになった。
前回デートの練習の時は何かしら理由をつけられてやったと思うのだが、今回は特に理由はなく何となくという一色曰く友人らしい理由でやる事になった。
「先輩、今回は負けませんから!あれから結構練習したんですよー」
「意外に負けず嫌いなんだな」
「買ったら奢りですし!」
「現金な奴だな・・・」
むしろそれだけのモチベーションでよく練習出来たと思う。
「イメトレですが」
「奇遇だな、俺もよくする」
「先輩のはただ相手が居ないだけです」
この後輩、俺の事をよく分かっている。八幡検定準二級ぐらいは出せそう。検定ってどんなものでも持ってると就職面で有利そうだが実際はそうではないと聞くので、八幡検定もそうはならないようにしたいものだ。
「じゃあかかってきてください!」
「あ、あぁ・・・って玉お前が持ってるだろ」
「・・・えっと、てい」
「ちょっ、おま!」
なんてな。ずるいろはすの手元は確認済みだった上、行動も予測できていたため、全力で返そうとするが前回の事を思い出して接待卓球に切り替える。
結果、不意を突かれた様な滑稽な玉が返っていった。
一色は満面の笑みでスマッシュを叩き込む。
その笑みを見て、こんなことを彼女達と共有する事が出来るのかな、などと柄にもなく考えながら返す。