-リズベットside-
私は32層にある街の中心部にある小さな武具店、鍛冶屋を営んでいる。自分で言うのもあれだけど結構人気があり、日々店にはお客さんが絶えない。
数日前、私の親友のアスナから紹介されたハ…ハ…ハツ?だっけな。めんどくさいからハッちゃんでいいや。ハッちゃんからオーダーメイドの品を作ってくれと頼まれた。
「こんなのどう作れってのよ」
彼が私に依頼したのは意外にもブレスレットだった。アスナから聞いた話ではなんとなく依頼の予想はしていたけどまさかブレスレットとは思いつかなかった。
そしてそれがどうしても欲しいのか、ブレスレットを作るのに必要な素材は全て渡してくれた。
何個か試作品を作ってみたもののハッちゃんのメモと一致しない。そしてなにより私の納得のいくように出来なくてイライラしていた。
「早く現実世界に帰りたいし、こんな作れるかわからないような品は頼まれるし、もうやだ。店を閉めようかな……」
「早くなるかは分からんが必ず現実世界に帰してやるぞ。俺が保証する」
俯いていた顔を上げ、店の扉の方を見ると印象的なアホ毛がひょこひょこと動くハッちゃんがいた。
彼は私の隣に来ると壁にもたれ腕を組み始めた。そして何を言うでもなくずっと黙ってくれている。
「何も言わないの? 何か言いなさいよ。私の気持ちも分からないくせに、何が現実世界に帰してやるよ!いつになるか分からないじゃない、早く帰りたいのに、攻略組がモタモタしているから、私みたいに戦闘に参加できない人たちはみんな怯えて暮らしているのよ!!」
私自身何を言っているのかわからなくなってきた。早く帰りたいのは彼も同じなのに、攻略組が頑張ってくれているから現実世界へ一歩一歩進んでいるのに。そして攻略組が一番死ぬ確率が高いことも知っている。そう思ってはいても口から出た愚痴は漏れ出すと止まらなかった。
「なぁ、これは俺の友達の友達の話なんだけどな」
そう言って話し始めたハッちゃんの顔は少し照れくさそうに、少し嬉しそうに話していた。それがなんだとっても可愛らしくて、思い詰めてた私がバカみたいに思えてきた。
「奉仕部という部活に強制的に入れられたんだよ。そこには1人部員がいてそいつは馬鹿正直なやつで自分の言ったことは曲げない。そういうやつだった。そのあと部員がもう一人増えたんだよ。その人はいつも真っ直ぐで空気を読むスペシャリストでバカでアホっぽい。けどどこか憎めないやつ。そいつらと過ごしていく時間はとてもかけがえのない……って聞いてるか?」
ハッちゃんは覗き込むように私を見た。顔を見て何かを察知したのか急に頭に手を乗っけて撫で始める。
「まぁその、お前の不安も分かるけど、あれだ、いつかは分からないけど必ず。必ず帰してやるから待ってろ」
少し胸が締め付けられる感覚。この感じは多分あれだ。でも今はこの気持ちを言っちゃいけない。言うとしたらそう。最高の出来でブレスレットを渡すとき。
「ありがとう、私もう一回作ってみるよ」
全力の笑顔で笑うとハッちゃんは頬を人差し指で掻き、そうかとだけ言い店を出て行った。
それを見送ると私はまた部屋にこもる。