やはり俺のSAOは楽しい。   作:Aru96-

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-12話-

 

 

-キリトside-

 

《月夜の黒猫団》という俺が一時期所属していたギルドがある。彼らは現実世界でも友人同士でとても仲が良く、ケイタ、ササマル、ダッカー、テツオ、サチ。そして俺で編成され6人となった。小規模ギルドだが皆んなのレベルもそれなりでこれならいずれ攻略組にも入れるほどとなっていた。

 

だが攻略組に入ってしまうと彼らには死ぬ確率が跳ね上がってしまう。このギルドに特別な感情を抱いている。俺は攻略組に入るか入らまいかを言えずにいた。

 

「キリトは攻略組なんでしょ? 攻略ってどんな感じなの?」

 

不意に隣に座ってサンドイッチを頬張っていたサチが顔をこちらに向け話しかけてくる。紺色の髪が揺れ、それに目を奪われていた俺は反応に少し遅れてしまう。

 

「ん、あぁ、大雑把に言えばボス戦前日に作戦会議して次の日に討伐かな」

 

「じゃあ注目選手じゃないけど凄い人とかいるの?」

 

首を傾げたり覗き込む仕草だったりがいちいち可愛い。SAN値がゴリゴリ削られちょっとヤバい。

 

「そうだな、ハチとアスナかな、現時点ではこの2人くらい。てかこれからも……かな」

 

ハチとアスナ。さっきも言った通り今もこれからもあいつらより注目できるやつはいないと思う。このギルド同様に特別な感情を持ち合わせ、戦闘においては戦いやすさはピカイチだ。それはそれは相当なことがなければ負けないくらいに。

 

「そっか、凄いねその人たち、キリトにそこまで言わせるんだから……」

 

俯きながら呟くサチ。落ち込んでいるようにも見えるし何かを考えているようにも見える。どちらなのかはわからないが俺はサチの膝に置かれている手をそっと握る。

 

「サチも十分凄いじゃないか、強くなりたいのなら無理してなる必要はない。焦ったらそれこそ死ぬ。ゆっくり行こう、俺がついてる」

 

「っ……、私もその2人みたいにキリトの隣に立てるかな」

 

涙ながらにそう言い手を握り返してくる。それを返すようにまた俺も握り返す。肩にサチの頭が乗り、泣き疲れたのか眠ってしまった。

 

「なれるさ、きっと」

 

小さくそう呟くと彼女は少し笑った気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

36層にある街、クリスメール。年中雪の降る街の中央に大きなクリスマスツリーがあり、生産業が盛んな街として知られ多くのアイテムや装備品が売られている。そこで俺はサチとともに買い物をしていた。

 

他の4人も誘ったのだが、俺たちを見てニヤニヤしレベル上げに行ってしまった。俺たちを見て何がそんなにおかしいのかね。

 

「あ、ねぇキリト、これなんかいいんじゃない?」

 

自分の体に合わせるようにして服を見せてくる俺はサチに苦笑いする。似合ってると言っちゃ似合っているのだが目的が違うため、注意をする。

 

「似合ってるけど今日は装備を買いに来たんだろ? ほら行くぞー」

 

「あ、待ってよー」

 

目的地に行く後ろをちょこちょこと付いてくる。俺はそれになんとなく歩幅を合わせ、並んで歩く。

サチは俺の服の裾を掴んでうっすらと微笑んでいるように見え、これが見れただけでも今日は一緒に来た甲斐があったなと心の中で思いながらまだ明るい街中を歩いていた。

 

「サチはなんで前衛で戦っているんだ? 後衛の方がいいだろう」

 

素朴な疑問だった。あいつら4人の性格上と普通に考えれば女の子であるサチは後衛に下げ安全を確保するだろう。だが反対に危険性のある前衛で戦っていた。それに単純に向いていなく、正直足手まといになっている。とそんな事は言えないのだがそれとなく質問をしてみる。

 

「……今の私が前衛で戦ってギルドの足手まといになってるのは知っている。私ね現実じゃあ引っ込み事案で人見知りなんだ、そんな自分に嫌気がさして、だからせめてゲームの世界だけでも強くなりたいの。そうしたら現実の私も強くなれる気がするから。」

 

「それでも死ぬかもしれないというリスクが--」

 

分かっている。とサチは続ける。

 

「でもその時は、キリトが助けてくれるんでしょ? そしてキリトがそうなったら私が助けるの」

 

 

そう言って真っ直ぐな瞳で前を見つめる彼女の横顔はどこまでも美しかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

《助け》

 

そうケイタからメールが届いたのは装備を買って店を出た時だった。嫌な汗を掻きはじめる。すぐに俺はケイタを追跡スキルで足跡を見つける。その足跡を辿るように街中を駆け抜ける。

 

「私も行く!」

 

最近敏捷スキルにステを割り振っていたサチが俺の後をついてくるように走る。街を出て密林に入り、奥まで進んでいくと地下に繋がる石畳の階段があった。

 

「地下迷宮区か、普通の迷宮区より強いモンスターが出ると噂されるが本当にあったとはな、行くか?」

 

横目でサチに問いかけると勿論と強い意志と共に応えてくるのだが心配があった。36層はサチを含めたほか4人のレベルでは苦戦するほどの強モンスターがうじゃうじゃしているのに地下迷宮区となると一撃くらっただけでほぼ確実にレットゾーンに入ってしまう。

 

どうしたものかと考えていると階段から人が登ってくる気配を感じ、とっさに剣を構える。段々と見えてくるその姿は見覚えのある2人組だった。

 

「ケイタ、ササマル! 他の2人はどうしたの?」

 

いち早くそれに反応したサチが2人の元に駆け寄り肩を貸す。ケイタとササマルはずっと押し黙っていた。大体の予想は付く、2人は死にそして2人は生きて帰ってきた。まずは街に変えることが一番と判断した俺はサチ同様ケイタに肩を貸してゆっくりと歩く。街への道中誰一人喋る人はいなく、ただひたすら沈黙が続いた。

 

宿を取り部屋に入ると2人をベットに寝かせ、俺とサチも寝ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「……嘘」

 

翌朝2人から告げられる言葉に分かっていながらも頭を鈍器で殴られたようなショックを受ける。それに耐えきれないのかサチは部屋を飛び出してしまった。

ウインドウを開いてフレンド欄からサチを探すと現在地が表示され街の中にいるということに安心する。

 

「サチは後で追い掛けるよ。街の中にいると思うから」

 

それで何があったと付け加えると彼らはあの場所での出来事を話し始めた。ケイタたちは密林の奥で知らないエリアを見つけ、レベリングついでに探索を行う事に。そして何とかモンスターを倒しつつ奥に進むと扉をがあり開くと無人の部屋で中央には宝箱があったそうだ。だがそれはトラップでモンスタールームと言われ、引っかかると大量のモンスターが出現し、プレイヤーを襲う罠。そこで2人はやられたと説明した。

 

言っている最中の彼らの顔は絶望にも似た顔つきだった。俺はケイタたちに今日はゆっくり休むといいと伝え、2人は納得しまたベットに横たわった。それを確認するとまた追跡スキルを使いサチを探し始めた。

 

「何やってんだ、こんなところで」

 

橋の下、目の前で水が流れる場所で膝を抱えてぼんやりとしている少女が1人涙を流していた。

 

「私、死ぬのが怖い。昨日はあんな格好つけて強くなりたいとか言っていたけど仲間があんな目にあったりして……私…私…」

 

震えているのが分かる。俺はそんな彼女を見て何も言えず、ただ隣に座って見守ることしか出来なかった。しばらく泣き続けるとサチは無理矢理笑顔を作り、話しかけてくる。

 

「ごめん、泣いてばっかでキリトに迷惑かけてるね。私、疲れちゃった。このままギルドにいても余計に足手まといだから一旦離れたい。ダメ……かな」

 

何故か俺はここで言わなければいけない気がした。こんな状況で状態で、可笑しいのは百も承知なのだがこれを逃したらもう二度と訪れない、そう思ってしまった俺は話し始める。

 

「その、もし離れるんなら俺と一緒に。22層に森と湖で囲まれた場所があるんだ、そこに2人で引っ越そう。それで……」

 

「……それで?」

 

死んでいった2人とケイタとササマルの顔が一瞬よぎる。だがその顔はいつもあの4人が俺たちに向けた笑顔で背中を押してくれた気がした。

 

「結婚しよう」

 

サチは胸に手を当てて、

 

「はい」

 

と返事をする。そうすると彼女はまた涙した。今日は彼女に苦しい顔しかさせていない。だからこれからは沢山笑顔を作れるように頑張ろうと心に決め、すぐにケイタたちに話をした。

 

彼らは案外すんなりと受け入れてくれた。そんな彼らに感謝しつつ、これまで死んでいった者たちを忘れることがないようにと建てられた石碑にダッカーとテツオの名前を見つけ、祈るようにサチと結婚することを報告した。

 

「これからも俺たちを見守っていてください」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

-八幡side-

 

キリトが結婚するまでの経緯を聞いたところでひとつ疑問に思うところがあった。

 

「じゃあ今そのギルドはどうなってるんだ?」

 

「あぁ、今は活動中だよ、もう二度とあんな事が無いように無理せずレベリングして頑張っているさ」

 

そうかと呟くと俺は物思い耽る。

それにしても休暇中にそんな事があったとはね。キリトは恋愛系のことに関しては疎そうなのにちゃっかりしてるな。ちっ、末長く爆発しやがれ。

 

「結婚かぁ、いいなぁー」

 

アスナが何かを言いたそうにこちらに視線を向ける。なんだよ、言いたいことがあるなら言いなさいよ、ほら怒らないから。

でも多分言いたいことは分かっているんだけどね。ただやっぱり一歩踏み出すのは怖い。

 

「今度サチさんに会わせてよ、会ってみたいな」

 

期待の眼差しでキリトに言いよるアスナだが若干困った様子のキリトはしどろもどろになりながら承諾した。あれ、俺は? 俺も会ってみたいんだけど。下心なんてありませんよ。本当だよ。

 

「ねぇハチくん。私たちもそろーー」

 

「あ、俺用事思い出したわ、そろそろ行く時間だから行く、じゃあな」

 

アスナの言葉から逃げるように立ち去る。最高に格好悪いのは分かっている。だがこれまで受けてきたトラウマの数が言葉を聞くを拒否してしまう。嘘ではないのか。勝手に期待して勝手に絶望する。嫌になる程学んできたはずなのに。また期待している自分がいる。

 

 

悲しい表情をしたアスナを尻目に俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 




そろそろ恋愛短編集の方も更新したいと思います。


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