よくある転生の話~携帯獣の話~   作:イザナギ

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明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

お待たせしました……
二か月近くお待たせして、申し訳ございません……オリジナルとか構想中の二次とか書いてたらこんな時期に……

前回予定していた人物紹介はキャンセルします。『自分の本文の文章でどこまで他の人に設定を伝えきれるか』というのを試してみたいからです。
……「長らく待たせてるのにただの延命策再投稿とかダメだろ」って考えたわけじゃないですよ?(ぉ


七話  カナタ、挑む

 

 

 おっす、カナタです。

 俺は今トウカシティに来てます。

 なんでかって言われれば、やっとトウカジムのジムリーダーが就任して挑戦できるようになったからさ。

 

 そう、ユウキ君のお父さん、センリさんだ。

 

 このトウカジムで解禁される技マシンは『なみのり』。

 今まで海上でのフィールドワークもそれなりにこなしてはいたけど、その時に採る方法は『民間の船をチャーター』したりとか、『親父のポケモンを借りる』とか。

 前者は大抵の準備を俺がやんなくちゃいけなかったりするわけで、手続きとか面倒だし、後者は後者でポケモンが俺に打ち解けるのに時間がかかる。自分一人だけで海を行ければかなり楽になるわけだ。

 まだまだアルバイトの身だしフィールドワークなんだから大層なことはやっていないので研究用の器材なんて『ずかん』程度で十分だし、一人の方が身軽だし。

 

 ちなみに今はトウカジムの前にいるわけだが、周りにもちらほら人がいる。

 バックパックを背中に背負ったり足元に置いてたりするのを見るに、この人たちもジムに挑戦しに来たんだろう。

 今は朝だから、この後も挑戦者は多くなっていくはずだ。

 なんせ、ホウエン地方のジムの唯一の空席が、やっと埋まったんだからな。

 ここまで俺と同様にバッジを七つ集めた奴らからすれば、ようやく届いた朗報だろう。

 

 なぜなら、バッジを八つ集めれば予選をかっ飛ばしてポケモンリーグの決勝トーナメントに進出できるからだ。

 今までトウカのジムリーダー不在のせいで、七つ持っていた奴らも(多少の優遇はあったものの)予選から這い上がることになっていた。

 それはつまり予選の分だけ数多く戦う、ということであり、その分だけ戦術や手持ちの傾向をライバルにさらすことになる。

 そのリスクを減らすために、彼らは八つ目を集めてトーナメントに直接入ろうとしているんだろう。

 つまりそれだけ、ここにいる奴らは必死なんだろうか。そうなったら少々面倒くさい事になるかもなぁ。

 

 俺も、仕事のためとはいえバッジを集めている身だ。

 バッジを多く持つほど“リーグ”の『有力な選手』として他のトレーナーや挑戦者、揚句の果てにはマスコミにまでマークされる。

 今までは予選トーナメントさえ出場せずに大会をスルーしてきて、訳を聞かれれば『研究のため』と言ってきたが、八つも集めたとなれば、決勝進出という『特権』とも言える特典がついている。

 いくら研究者と言えども八つのバッジを集めて『参加しない』と言うのは少々勇気がいる話だ。

 

 別にバッジを八つすべてとったからと言って、必ずリーグに参加しなければいけないわけじゃない。

 でも手に入れたバッジは『強さの証』なわけで、そんなことをマスコミあたりが取り上げてしまうと『力試し』なんて言って挑んでくる奴も出てくるようになるわけで。

 それが何もなくてブラブラしてる時にやってくるならまだ良いけど、最悪なのはフィールドワークの真っ最中に勝負を挑んでくる奴だ。

 こちとら真面目に定点観測やったり気づかれないように静かに生態を調査したりしてるのに、どっかの馬鹿が俺を見かけた途端、勝負を大声で吹っかけてきて調査を台無しにしてくれる。

 それも一度や二度じゃなく何度もこんなことがあったもんで。

 最初のうちは一人ひとりに事情を説明して(憂さ晴らしに)バトルを受けてやったりしてたけど、何度も頻繁に起こるもんだから俺もキレた。

 

 んで、『実際に戦って強さを確かめてみましょう』なんてほざいて、またもや俺の調査を台無しにしてくれたアナウンサーとカメラマンを文字通り秒殺して、ホウエン全域に放送させることを約束させてから、俺は宣言した。

 

『俺はリーグなんかどうでもいい。それより大事なことがある。今度また俺の調査を台無しにしたら、ただじゃおかない』

 

 もうちょっとオブラートに包んだけど、大体こんな感じで。

 

 もちろん、ポケモンリーグを目指す奴らからは『ふざけるな』とか、『なめてるのか』とかいう脅迫文まがいの抗議文が届いたけど、特に気にしない。

 ポケモンをそんな暴力的主張などに使うことは禁止されてるからだ。その手段に出たら最後、ポケモンリーグへの出場権は、予選でさえも永久凍結され、ポケモンの所持も制限される。

 また、放送があった一時期は挑んでくるトレーナーが増えた。

 大半が面白半分のちょっかい出し、他には『その根性を叩き直してやる!!』とかいってはた迷惑な使命感を掲げて突っ込んでくる奴とか。

 後者の方はまだ熱意がある分、話し合えば分ってくれた(しかし調査は台無しになったりした)から、話し合った後に真剣勝負ができた。

 前者の方は……下火になってはきたものの、まだ結構いる。そろそろ協会に通報しようかな。最近は度が過ぎてきたし。この前挑まれた時はポケセンで飯食ってた時だったからな。いよいよ我慢の限界も近いんで。

 

 ……話がだいぶ横道にそれた。

 どうも俺は、話を横道にそらすのが得意なようだ。

 さてそんなこんなで、俺も――ぶっちゃけ一発屋に近いが――ちょっとした有名人になってる。

 まぁ、確かに俺はそこそこバトルの腕はあるとは思っているが、ハルカにも言った通り俺たちの家系は学者なのでそれほどバトルは得意じゃない。騒ぎ立てられるほどの実力があるのかと言われれば、回答に詰まる。

 じゃあなぜバッジを七つも集められたのか。

 それはただ単に『傾向と対策』をやっただけ。

 

 ポケモンジムは、一つ一つにそれぞれ専門とする『タイプ』がある。

 たとえばこの先の――おそらくユウキ君がいるであろう――カナズミシティにあるカナズミジムの専門は『岩』タイプだ。

 なら、手持ちを水や草タイプ中心に構成すればいい。攻撃も草や水タイプの技で。

 ……まぁ、俺は手持ちを固定するタイプの人間だから、六匹のタイプにはあまり偏りがない。たまに入れ替えたりはするけど。

 万能型、と言えば聞こえはいいが、対応した手持ちが倒されれば状況が不利になる可能性も高い、器用貧乏ともいえる編成だったりする。

 

 このトウカジム、ジムリーダーのセンリさんは、『ノーマル』が専門。

 ならここは格闘タイプで、と行きたいところだが、センリさんの手持ちにはヤルキモノがいる。

 ジムリーダーだって自らの手持ちを敵にさらすようなマネはほとんどしないが、センリさんが俺のバッジのことを聞くと、自分の手持ち全てを見せてくれた。

『不利な状況に身を置くことも、自らの成長の糧となる』とのこと。確かに理屈はあってるように思うけど、ストイックすぎる……さすがセンリさん。

 で、俺もどうすべきか迷ったが、けっきょく自分の手持ちを見せて、『このパーティで行きます』と宣言した。もちろん手持ちには格闘タイプの奴もいる。

 ……けど、センリさんは動じてなかった。それはそうだ。あの人が見せてくれたヤルキモノには、俺の知る限りでも格闘タイプへの対抗手段がある。

 

 “つばめがえし”。

 飛行タイプの技だが、わざマシンでヤルキモノも覚えられたはず。

 センリさんも、わざまで教えてくれなかった。当たり前だけど。

 だから、本当にヤルキモノが“つばめがえし”を覚えているという確証はない。でも用心するに越したことはないことも、確かだ。

 

 ノーマルタイプ相手、ということは“ゴースト”も有効手段の一つに数えたかったが、無理だ。

 俺の手持ちのゴーストタイプは、“つばめがえし”が当たった瞬間に“ひんし”になる。

 それによく調べてみると、ヤルキモノは『悪』タイプの技も使えるとのこと。

 これが、『ノーマル』タイプの厄介なところだ。

 ほとんどのノーマルタイプが多種多様な技を覚える。

 それによって弱点のカバーが容易になっているので、初心者はもちろん、熟練のトレーナーまでノーマルタイプを愛用している者も少なくない。

 一番シンプルで、一番奥深い存在。それがこの世界でのノーマルタイプだ。

 

 そのノーマルタイプの専門家(エキスパート)を自他ともに認めるセンリさんなら、弱点のカバーをするのは当然のはず。

 誰を使うか。どんな技を使うか。作戦は基本的に行き当たりばったりだから、この二つだけは決めて。

 

 そして今ここに至る、と。

 少し回想をするうちに日は昇り切り、少々蒸し暑くなってくる。

 ジムはもう開いているようで、周りにトレーナーの姿はない。

 ――木陰で昼前になるまでボーっとしていた俺。

 やべぇ、見ようによっちゃ変人じゃねぇか!

 急いでリュックを背負い、トウカジムへと歩き出す。何人かはもうクリアしちゃったのかな?

 ジムを朝っぱらから尋ねるなんて、よほど気合の入った門下生か急ぎ過ぎた挑戦者くらいなもんだろうからな。

 

 ジムの中は涼しかった。

 冷房をかけているわけではなく、隣接する森の木陰を借りて直射日光を防ぐことでジムの内部が涼しくなっているのだ、と入口からすぐ近くにある石像が語ってくれた。

 この石像はジムの事務室とのインターホン代わりに使われている。

 ……初めて見たときはビビったけど、その石像自体がホウエンの訛りで接してきたので案外すぐに慣れた。耳に馴染みのある言葉は聞き心地が良いね。

 

 さて、挑戦者たちの様子はどうかというと。

 

「……ぅぇっ」

「なんで……」

「――――――」

 

 この状況を見てくれ、どう思う。

 

「すごく……死屍累々です……」

 

 前世で耳にした程度のネタをポロッと口から出すと、なんと石像が答えてくれた。

 ……なに、この世界にもそういうの、あるんか?

 それはそれ、これはこれとして、状況はあまりにも酷い。

 目の前に広がるのは、屍のように打ち倒された挑戦者たち。あるものは膝を抱えて震え、またあるものは白目になって口から泡を吐いている――ってそいつやばくないか!?

 な、何があったんだ……知りたいような、知りたくないような……。

 せかせかと事務室から駆け付けた事務員さんたちに担がれて、どこかへ運ばれていく挑戦者たち。

 

 そんな光景の先に仁王立ちで待ち構える、センリさんの姿。

 足元にはポケモンがいた。

 あれは見たことがある。『パッチール』だ。

 このホウエンの北に位置する、『えんとつやま』からの火山灰が降りしきる町『ハジツゲタウン』の近くに生息しているポケモン。

 常にフラフラして危なっかしい姿だとは思うが、その風貌に反してなかなか手強い。

 “フラフラダンス”や“ピヨピヨパンチ”といった“こんらん”を誘う技を持つし、レベルアップで“サイケこうせん”やその他強力な技を覚えられる。

 おそらく死屍累々としているのは、“かくとう”で挑もうとして見事に返り討ちにあったからだろう。

 メインを“かくとう”にしなくて良かった。

 

 っと、センリさんが俺に気付く。気合を入れていたのか、眼光が鋭い。

 おっかないねぇ。さすがジムリーダーになったお方だ。俺なんかよりも威厳にあふれてる。

 今まで出会ったジムリーダーも、いくら若かろうと能天気であろうと、瞳の奥には威厳とジムリーダーとしての『誇り』がいつも灯っていた。

 

 そして目の前の一人の男の瞳にも。

 

 うん。

 ――合格ですね、センリさん。

 

 センリさんに射竦(いすく)められながらも、俺の心がそう呟く。

 挑戦者に抱かせる、巨大な壁に立ち向かうような絶望。それでも俺の心はざわめき、体が心から震えてくる。

 これを何と言ったかな……そうだ、武者震いだ。

 一目で強敵とわかる相手に感じた感覚。

 

 まぁ、やってやるさ。

 震える心で宣言しながら、深呼吸して少し荒くなっていた呼吸を落ち着かせる。

 センリさんも眼光の強さを緩めてくれた。

 それと同時に、パッチールもボールに戻す。

 

「やぁ、カナタ君。いつ来るかと楽しみにしていたよ」

「買いかぶらないでくださいよ。『バッジ』を貰えれば、それで良いんですから」

 

 そう言いながら肩をすくめれば、センリさんは爽やかに、はっはっは、と大笑いした。

 

「そう、『バッジを貰うためだけに』ジムリーダーを倒すだけの腕前を身に付けたんだろう?」

「……むぅ」

 

 その方が手っ取り早かった、なんて言えば次はどう返してくるのやら。

 バッジを貰いたいだけならジムで修業をすれば良いだけだ。『ひでんわざ』の解禁程度なら、1週間かそこらで修められる。

 正直、ジムリーダーに直接挑戦したのは、自分と共に旅をした仲間たちでどこまでやれるのかを確かめたかったんだが、リーグに行くつもりは最初からなかった。つまりはただ単なる腕試しなんだけどなぁ。

 

「君は君自身を過小評価しすぎているよ。七人ものジムリーダーを十歳の少年がたった一年で倒せるなんて、ホウエンどころか全国でも珍しいことだからね」

 

 そんなことないですよ。

 ほら、カントー地方のチャンピオンはまだ十一歳の少年だったって聞きましたし。

 

「彼らもまた、君と同じように強かったからだ。

 そう、君は強い。君の手持ちを見れば、よくわかる。

 君によく懐き、全幅の信頼を置いている。“クロバット”がいるのが何よりの証拠だ」

 

 クロバットは、ゴルバットの進化形だ。

 その条件が『トレーナーによく懐いている』こと。

 ムロタウンの『いしのどうくつ』でズバットの頃に怪我してたのを介抱したら、ついて来たので手持ちに。

 旅の中盤にはすでにゴルバットに進化していて、“そらをとぶ”が使えるようになったころに、ちょうどクロバットになった。

 それ以来だし、付き合いも長い。

 メンバーも多少変わるけど、その中で『もう一匹』とともにレギュラーの座を守っていた古株。

 今のパーティには移動用としてクロバットしか残ってないけど。

 

 そう、今日は俺のベストメンバーじゃない。『研究者』として持つには、少し強力になり過ぎてしまったから。

 だから最近はパーティを再編して、新しいチームを作ってる。センリさんに見せたのも、このパーティだ。

 そのパーティで俺は今日、センリさんに挑む。

 いつものチームじゃないから、勝てるかどうかは微妙。

 だけど、そう易々と負ける気も無い。

 

「私の一匹目は、パッチールだ」

 

 さぁっ、とセンリさんの気配が変わった。

 戦いに向かう戦士の気配に。

 そしてゆっくり、俺を睨みつける。

 

「はじめようか、カナタ君?」

 

 俺は黙って腰に手を伸ばす。

 一匹目はすでに決めてある。六つあるボールのうちの一つを手に取った。

 

 一つ、瞼を閉じて大きく深呼吸。

 瞼を開いて、センリさんの眼光に負けないように睨み返す。

 

「……はじめましょう」

 

 俺の宣言とともに、俺たち二人はボールを宙に投げた。

 

 




短いですね。ある意味バトル回の前編みたいなものなのですが。

次はバトルだー……描写が甘いのが自分の欠点ですんで、そこを煮詰めていくためにまた時間がかかるかも……

お気に入りに入れてくださってる、そしてこの拙い小説を見てくださってる皆様方に百万の感謝を申し上げます。
皆様の一年が、より良きものであるよう、祈っております。
それではっ!

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