よくある転生の話~携帯獣の話~   作:イザナギ

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前回のあとがきで『次は人物紹介だ』といったな、あれは嘘だ。すんません





五話  カナタ、夢を見る

 ……よぅ。カナタです。

 

 今現在、俺は夢を見てる。

 自覚してんのにまだ夢が続いてるなんて、不思議な感覚だ。こういうのを明晰夢、とか言うんだろうか。

 で、どんな夢かと言えば、けっこう最近の夢だ。

 時間にすれば二か月ほど前かな。

 実はすでに何度か見たことあるんだけど、これは俺と『彼女』が出会った時の夢。

 よほど強烈なことだったのか、夢によくある脚色もほとんどなく、俺が記憶していることと寸分も違わない話を、ちゃんと順序良く見てる感じ。

 

 そう。あれは記憶に焼きつくような、強烈で、嵐のような話だった。

 

 

 二ヶ月前のことだ。

 俺が長期に渡って実施していたフィールドワークを終えてミシロタウンに帰って、研究所でレポートを提出。そのまま家に帰って旅の疲れを(いや)そうかと思っていたときに、彼女は現れた。

 

「あの……――――――さんですか?」

「えっ」

 

 呼ばれた名前は、俺の前世での名前。

 でもその時でさえ言われてどうにか思い出すほどに忘れかけてたし、今となっては何と言われたのかの記憶もない。

 そのことを自覚した時、何となく寂しかったが切り替えた。俺が生きる世界はここなんだ、って。

 だから前世の名前も、今の俺には関係のないことだと思うことにした。

 

 でもその時は、そこまでたどり着いてなかったから慌てたな。

 

「なんで、その名前を知ってるんだ?」

「あの……わたしが、取り違えた張本人だからです……グスッ」

 

 そうそう。あいつ、あの時いきなり泣き出したんだっけ。

 しかも、話してる場所が家の真ん前。

 もちろんだが、ユウキ君たちがまだいない頃。他の町の人たちの家も、離れたところにある。とはいえ、自分の家の玄関先で泣かれたんじゃ、もしも誰かに見られていたら後々どんなことを言われるのか、わかったもんじゃない。

 なので家に上げることにしたんだが、俺んちは玄関とリビングが短い廊下でつながってる程度でほぼ直結してる。しかも裏口もない。

 さらに間の悪いことに、リビングにはまだ母さんたちが(くつろ)いでいたんだが、帰ってきたばかりの俺が知るはずもなく、泣いてる女の子を連れた俺、という最悪の状況を家族に見られた。

 

 もちろん上がってくるのは俺への非難。

 

「あらカナタ。女の子を泣かせて、そのまま連れ込むなんて良い度胸してるのね」

「おにーちゃん最悪ー。どこで引っかけたのか知らないけど、自分の行動にはちゃんと責任持ちなさいよねー」

「……おにーちゃん。どんなことがあっても、女の子は泣かせちゃダメだって、ポケパンマンが言ってたよ」

 

 さらに続く俺への非難が前方から三方向。そして後ろには泣いてる『彼女』。

 ……いわゆる『四面楚歌』って状況だ。初めて経験したけど、確かに逃げ場は無かったな……。

 どうにかして切り抜けなければ……さいわい、『彼女』の方は特に突っ込まれていないので適当に設定を捏造することにした。

 

 ……どうせこの手の話題は俺が悪者扱いされるんだ。俺の秘密を知ってる――っていうか原因作った張本人らしいし、下手に突っ込まれないようにするには、相手の同情を誘うような境遇である方が良いだろう。

 まぁ多少、俺が泥をかぶることになるだろうけど。

 そう思って口を開いた。

 

「あ~……俺の彼女だよ。別れようって言ったら泣いちゃってさ。俺がミシロ出身なのは教えてたから、探しに来たんだと思う」

 

 こんな事をのたまえば、火に油を注ぐのと同じ。

 前方からの罵声がひどくなることになる……んだけど……。

 

「理由もなく別れよう、って言ったの? お母さんはそんな薄情な子に育てた覚えはないですよ。彼女がいたことは驚きましたけど。子供はいつの間にか成長するものね」

「やっぱりおにーちゃんサイテー。女の子の気持ち、全く分かってないんだから! でも彼女がいたのは意外だね。あんがい奥手の癖に」

「おにーちゃん、彼女さんがいたんだ……びっくり……」

 

 マサトに至っては非難の声でさえなかったな。そしてハルカ、お兄ちゃんは奥手じゃない! ただ異性がちょっと苦手なだけだ!!

 ……でも、ぶっちゃけ泣いてることに関しては、俺のせいでは無いんだけどなぁ。

 むしろこいつのせい。

 で、自分を責める意味で泣いてたのかね。まぁそれは今でも変わらないんだがな。

 

 しかし咄嗟にアドリブをついたといっても、この状況は改善しない。ここで押し問答しても(らち)が明かないと判断して、俺は部屋への逃げ切りを図る。

 手段としては、その『天使』の手をつかんで階段へ一目散。家族の目は気にしない。

 いきなり手をつかまれて『天使』はびっくりした様子で、しかし俺のなすがままに引っ張られていく。

 意外なことに後ろからは家族の制止の声はなかったが、『ちゃんと話し合え』と三者三様に言われた。

 ……なーんか()に落ちないなー……。

 

 階段を昇って二階の奥にある俺の自室に、『彼女』を連れ立って入る。

 部屋も――まぁ……今よりは――片づけられてたけど、十分汚かった。足の踏み場はあったぞ。床の隙間に。

 ――うん、こーゆーこともあるから片付けは定期的にやらないとな。出来ないけど。

 ……今にして思えば、俺もなかなか大胆なことしたなぁ、女の子を部屋に連れ込むとか。

 まぁあのときは、俺も正常な判断ができなかったしな。

 

 んで、いまだに涙目の『彼女』に、この世界にいて俺を探していた説明を求める。

 俺が特に怒っていないことや、なるだけ優しく声をかけたのが功を奏したのか、『彼女』は幾分か落ち着きを取り戻して話し始めた。

 けっこう長い話ではなかったが、要約すると

 

 ・初仕事でテンパり、『死にかけていた』俺の魂を回収してしまった

 ・そのせいで上司にこっぴどく灸をすえられ、存分に反省した。

 ・そして俺が転生すると知った時、謝るため、そして二度と取り違えないように俺の魂を持って帰るため、この世界へときた。

 

 と、こういうことらしい。

 俺が頭で整理してる間にも、また彼女は涙目になる。どうも本気で申し訳ないことをしたと思っているらしい。

 今の俺もそうだが、この時の俺も、『謝らなくていいのに』と思っていた。

 この世界は気に入ってるし、人生を最初からやり直して、最初っから真面目にやれてる。今、元の世界に戻してやると言われても、俺は速攻で首を横に振るだろう。

 そんな自信もあった。

 そのことを素直に伝えると、

 

「でも、それは今のうちだけかもしれません」

 

 なんて言われた。

 曰く、さらに年月が経つにつれて前世と現世の間でのギャップがひどくなり、体と魂の調和が崩れて自分自身を(たも)てなくなることが結構あるそうだ。

 そのため、そのような気配を見せた魂は前世の記憶を消すことで調和を回復しているらしい。

 

「で、そのが俺に兆候が出たわけ?」

「あ、いえ、そういうわけではなくて、これまで統計的に見て、えっと……」

「ん?」

 

 つらつらとスムーズだった彼女の話が、急に詰まる。

 先を促すと、おずおずと彼女は言った。

 

「えっと……こちらでは、なんとお呼びすればいいのでしょうか?」

「ああ、なんだ。――オダマキ・カナタ。これがこっちでの名前だから、気軽に『カナタ』って呼んでもらえると嬉しいね。あともっと、くだけた調子でいいよ」

「あ、はい、分かりました、カナタさん」

 

 俺の呼び名が決まったところで彼女は続きを話し始める。

 いろいろな説明があって長くなったが、今までの転生者の統計を取ると、体と魂の調和が崩れた者のうち、大体十三~十八歳の間にこの現象を起こす人数が圧倒的なんだとか。

 それで、転生者がこのぐらいの年代になる頃に対象人物を観察し、兆候があれば許可を得て記憶を消すらしい。

 

「で、その観察のために俺の前に現れたんだ。でも俺、もう十四歳だけど?」

 

 そんなことを言ったら、なぜか睨まれた。

 理由を聞いてみると

 

「一ヶ所に留まってくれなかったから……私が最初に探知した場所に行ってみても、そんな気配もなかったし、確かめれば別の場所。そのあとも探査するたびに場所が違って……ポケモン達にも苦労をかけちゃったんですから」

 

 なぜポケモンを持ってたのか聞いたら、『その世界のルールは厳守』らしい。

 詳しく聞いてみたら、すごく長~い答えが返ってきたので、はしょる。

 俺を捕まえられなかったのは、俺が一番忙しかった時期だったからだろう。

 確か十三歳なら、その頃はハルカもまだフィールドワークに出てなかったから、俺の仕事も多かった。

 長く滞在したとしても一ヶ月いたかどうかって具合だし、簡単な仕事が続けば、ミシロに戻らず旅先から旅先へ、なんてざらだった。

 ハルカが旅に出られるようになって多少なりとも負担が減り、ミシロに帰る回数も多くなったので、ヤマを張って俺を探していたんだろう。

 

 で、彼女は運よく俺を捕まえ、俺は運悪く家族にこの様子を見られた、というわけだ。ご苦労様。

 ……先輩から楽な方の仕事だとか言われてたらしい。まぁそりゃ、旅をする脇役なんてそういないだろうしな。

 なんか謝るのは違う気がしたけど、とりあえず謝っといた。

 

 で、今後はどうするかというと

 

「定期的に観察しますけど、カナタさんの場合は一度捕捉しても空ぶる可能性が高いので、私もこの世界で生活します」

 

 その方が俺を捕捉しやすいらしい。

 この世界にいる方が俺に会う確率が高くなるし、いざというときはミシロにヤマを張ってれば、まず必ず俺に会える。

 そう考えての決断らしい。

 さて、今後どうするかが決まったところで、今の状況の処理に移ることにした。

 現在の様子を二人で整理して、辻褄(つじつま)を合わせる。

 

 状況としては

 ・この『天使』は家族に『カナタの元彼女』として認識されている。

 ・俺がフって、納得できない彼女が俺の家まで押しかけてきた、と説明してある。

 この二つが重要なことか。

 二人で頭をひねりあって、それなりに辻褄の合う話を作ってみた。

 

 ・この『天使』とはフィールドワークの最中に出会った。

 ・彼女は町暮らしだが、俺は根無し草の状態でいつ会えるのかどうかも分からなかったので、俺が別れ話を持ちかけた。

 ・どうにか説得できたかと思ったら、ここまでついて来てしまった。

 ・とりあえず家に上げようと思ったら、こうなった。

 

 ……俺、最悪じゃね?

 まぁ『天使』の方にも変に突っ込まれると危ないし、ボロが出ないようにある程度の設定を作る。

 

 ・彼女はカイナシティの人。住民票などの『カモフラージュ』がカイナシティで登録されていたため。

 ・両親はいない。最近、事故で死んだことにする。これで余計な詮索はされないはず。

 ・遠い地方から引っ越してきたので、あまりホウエンには詳しくない。

 

 あまり細かく決めない。この程度なら、ある程度のアドリブも効くだろう。

 と、ここで重大なことに気が付いた。『天使』とか『彼女』とかを当てはめてたから全く考えてなかったけどさ。

 

 ……名前、決めてない。

 いや、この『天使』にも名前はちゃんと付けられているが、俺たちのような普通の人間には理解できない次元の言葉で構成されているらしく、名乗りはしたものの通じなかったらしい。

 よくそんな調子でこの世界に、少なくとも一年間も存在することができたな……。なに、周りが良い人たちだったのか。名前は通じなくても言葉は通じたから、『別の国から来た』って言ったら『遠いところからわざわざご苦労なことで。住む場所がない? 私らが用意するから気にするな』と言って寝床を用意してくれたらしい。良い人たちで良かったな。

 何を言いたいかと言うと、誰かから呼ばれるための名前を、この『天使』は持っていない、と。

 

 ふむん。

 しかし、俺はものの名前を考えるのは苦手だからな。

 

「んじゃあ……お前の名前、『ソラ』ってどうだ?」

「え、『ソラ』……ですか?」

 

 何故? って顔してんな。

 簡単なことだ。

 

「髪、きれいな空色してるからな」

 

 そんな程度の思いつき。

 でも

 

「え、えと、あの……」

 

 赤い顔でモジモジしてる。

 そんな顔されるとこっちまで照れちゃいます。

 

 それにしても、『天使』とは言いえて妙だ。

 可愛らしい顔立ちに白く、きれいな肌。つやつやの髪には光の反射で頭頂にできる光の環、その名も通称『エンジェルリング』が輝いている。

 これで背中に羽でもあれば、完璧に天使だな。

 そんなことを言うと、さらに向こうは真っ赤に。

 

「そ、それはさておきっ!!」

 

 めずらしく、天使が主導権を取り返して話を本筋に戻した。

 

「あの……『ソラ』、気に入ったので、使っていいですか?」

 

 使うも何も、あなたのために考えてたわけだし。

 俺も改名する予定ないし。

 

「あぅ……すみません」

 

 何故しょげる。

 

「ハァ――ほれっ」

「あ、わっ!?」

 

 なんか話が前に進みそうになかったので、俺は『天使』……もとい、『ソラ』の手を取って握手する。

 

「これからよろしくな、ソラ」

「……はいっ!」

 

 元気な声が聞けて、なによりだ。

 

 その後。

 

「……というわけで、『どうせ所在不明の場合が多いんだし、暇なときに顔を合わせる』って方向になったから」

「そ、そういうわけで、カナタさんとお付き合いさせていただくことになりました、そ、ソラ、と、い、言い、ます」

「噛みすぎだって」

 

 家族にさっきの『設定』を元に芝居を打ち、無事に家族(主に母さんとハルカ)の怒りを解くことに成功する。

 そのあと、(偽装ではあるが)恋人関係を修復したことを伝えておいたので、ソラは我が家に急激に溶け込むようになり、その正体について迫ろうとするような事態にはならなくなった。

 

 そのかわり

 

「お兄ちゃん、お義姉(ねえ)さんとはどこまで進んだの?」

「おいてめぇ何を前提にしてんだゴルァ!?」

「カナタ、もうソラちゃんと○○○○(放送禁止用語)したの?」

「あんた母親のくせになんてこと口走ってんだぁ!!?」

 

 そんなやり取りをさせられる羽目になったが。

 帰ってくるたびにこれだぜ……耳にタコができるし、胃がキリキリするから勘弁してほしい……。

 

 

 

 

 

 さて、大体はここら辺で、夢は終わる。

 だって、周りが真っ白になってきたからだ。

 こうなると、あと少しすれば目が覚めて天井、もしくは青空が見える。

 運が悪ければ曇り空だったりするけどな。

 

 だけど、今回はちょっと予想が外れた。

 

「……………」

「……………」

「……………」

「……なにしてんだ、ハルカ」

 

 目の前に、強い決意の浮かんだ顔で俺を真上から睨みつける我が妹が、俺の体に馬乗りになってたからだ。

 ……なんぞ、この状況。

 




ほっほー、一か月以上経ってから投稿とは……この作者、よっぽど肝が太いようだな……

と誰かに怒られそうな気配びんびんでビクビクしております、作者のイザナギです。
言い訳をすれば、大学が始まって忙しくなったんです……はい、マジの言い訳乙ですね。
ストックもあったしそれを加筆修正するぐらいどうってことなかろうに、この屑ときたらもう……

というわけで焼き土下座しときますジュー


とまぁ、深夜特有のへんなテンションはここまでにして。
よく考えてみれば、カナタってうらやましいですよね。可愛い彼女(偽装)いて妹弟いて、有名人の息子で旅で鍛えてあるから運動神経も結構いいんだろうと思いますよ。そしてふつーにイケメンです。カッコいいです。
なにこのちーと主人公。ごめんなさい。
そしてバトルも強いって設定です。まさに「ぼくのかんがえたさいきょーのしゅじんこー」状態……orz
こんなのが主人公です。

しかし『この世界の主人公はユウキくん』なので、カナタに世界の流れを変えることはできません。あくまで脇役です。
カナタも理解してます。そのうえで、彼なりのやり方でユウキくんを助けようと思っています。その辺もおいおい説明出来たらいいなぁ……

次の話を入れたら……整理のために人物紹介入れようかな。
次の話は、ハルカちゃんとのお悩み相談ですね。カナタは、この世界ではしっかり『お兄ちゃん』ができるのでしょうか。

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