二月十四日、バレンタインである
この日は本命、義理、友チョコと丸一日チョコで忙しい日である
当然、亡国機業内でもバレンタインは一大イベントとして盛り上がっていた。機業内で盛り上がる人間は二種類に分かれており、一つはこのイベントに並々ならぬ気合を入れて挑む者。もう一つは落ち着いた感じで楽しんでいる者
つまり前者は片思いで意中の人に思いを告げようと躍起になっている者。 後者は既に彼氏が居るもの、もしくは既婚者である
「今年も色々凄そうな日になりそうだな~」
この日の為に気合を入れる乙女達を遠くから見ているオータムさん。 既婚者として温かい目で頑張る後輩達を見守っていた
「いや~バレンタインですね。 盛り上がってますね~」
「あれ? マドカちゃんはいいの? お兄さんにチョコ渡すんでしょ?」
この日を気合を入れて挑むであろうとおもっていたがやけに落ち着いた感じのマドカちゃん
「兄さんのはクール宅急便で送っておきました。 ……ど~せ今日丸一日兄さんの周りには女の人でいっぱいですからね」
ヤケクソ気味にこう語るマドカちゃん。 苦労してるな
「あ、でも嫌なことばかりじゃないですよ? 今日は告白だけがメインじゃないですからね! 友達に色々チョコレートあげたり貰えたりしますし、明日になればバレンタイン用のチョコ半額で買えますから!」
……すっかり食いしん坊キャラが板についてきたなこの子
「あ、それじゃあ友チョコという訳でこれいる? さっき取引相手の方から頂いたんだけど」
「こ、これってイタリアの有名チョコ店が出してる奴じゃないですか!? いいんですか!? 」
「いいよいいよ。それじゃあ、私上がるね。 お疲れ様」
「はい! チョコ有難うございます♪ お疲れ様です!!」
私服に着替え、支部を出たオータムさんが向かったのはとあるデパートだった
中に入るとバレンタイン特集のコーナーが多く見られた。 またチョコを買いに来る女性やカップルの姿もあった
懐かしいな~、そういえばほんの数年前まで私も向こう側の人間だったっけ。 付き合っている当時、旦那にチョコ渡そうとして無理して作ろうとしだけど大失敗して大慌てでチョコ買いに行ってたっけ
当時の事を思い出しながらバレンタインコーナーに向かった
「あの、すみません。チョコを予約してた者なんですが・・・・・・」
「いらっしゃいませ。 お名前よろしいですか?」
名前を言い、店員から受け取ったチョコは5000円の生チョコだった。少々値が張るが年に一回のこのイベントを旦那と一緒に楽しむ為なら安いものだ
チョコを受け取ってデパートを出たとき、ふと早歩きで帰途を急ごうとする自分自身に気が付いた
な~んだ、もうあっち側じゃないと思ってたけどまだまだマドカちゃん達と同じじゃない
夫婦になっても恋というのは終わらないらしい。はやく旦那と一緒にチョコたべたいな、と歩を早めるオータムさんだった
おしまい
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おまけ
オータムさんが甘い甘いバレンタインを過ごしている裏で凄惨な事件が起こっていたことを皆さんはご存知だろうか……
それはたまの休日に一夏と千冬が自宅に戻っていた時の事だった
自身の部屋に居た一夏がリビングに降りてみるとお風呂上りの千冬が缶ビール片手にカレンダーを見ていた
「うん? どうかしたのか? 千冬姉」
「ん、もうすぐバレンタインだと思ってな」
「そういえばもうそんな季節か……」
「今年は私も何か作るか……(ボソッ)」
「……え?」
これが全ての始まりだった…・・・
それから一週間が経ったバレンタイン前日
「いきなりの教官の呼び出し。 一体なにがあったのだろうか?」
織斑邸の前に一人の少女が立っていた。 彼女の名はラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツの代表候補生であり、特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長でもあり、一夏の事を嫁と呼ぶ恋する乙女でもあった
そんな彼女が突然、千冬に自宅に来て欲しいと呼び出された。 何回か来た事がある織斑邸だったがこの日は何故か空が暗雲に包まれ不気味な感じがしていた
恐る恐るインターホンを押すと中からコック服の千冬が現れた
「よく来てくれたな、ラウラ」
「きょ、教官? その姿は一体?」
「ああ、これか? もうすぐバレンタインだろう? たまには私もなにか作ってみようかとおもってな。そこでラウラに試食して貰おうかと思ったんだがダメだったか?」
「いいえ。教官のお手伝いができるなら喜んでお手伝いさせて頂きます!」
「そうか、すまない。 ではリビングのほうで待っていてくれ」
「失礼します!!」
玄関に入ると一夏の物と思われる靴の隣に女物の靴が隣にあるのを見つけた。 教官の物ではないな、では一体誰の?と考えているうちにリビングに到着すると一夏とその持ち主がいた
「お前は箒! 貴様、どうしてこ、こに・・・、ってどうした!? 二人とも!?」
リビングにいた二人はとてもじゃないが生気を感じられる表情をしていなく、分かりやすく言えば刑の執行を待つ囚人のような顔つきだった
「来てしまったか、ラウラ」
「すまない、ラウラ。 俺が千冬姉を止めていれば……」
「一体、どうしたというのだ嫁よ」
「……黙ってコレを食べてみろ、ラウラ」
そう言って箒が出してきたのは小さい丸いチョコレートだった
「これが一体なんだというのだ?(パク)!? に、苦!? な、なんだこれは?」
「これを見て、千冬姉が作ったチョコだ。 そのせいで料理とは意外に簡単だなと自信をつけてしまったんだ」
嫁がそう言って見せてきたのは一冊の料理本だった
本には「本場!!イタリア のチョコレートの作り方」と書いてあるのだがよく見てみると小さい文字があって
「本場!!イタリア風の学校のチョコレートの作り方」と書いてあり、裏には何故かピザのマークが書かれていた
内容を見てみると材料や味を調整するところが「ケチケチしな~い」や「適当適当」などと書いてある。これは本当に料理本と言っていいのだろうか
「この事を教官に教えたのか?」
「いや、折角千冬姉のやる気になっている所に水を差すようなことはしないほうがいいかなと思って言わなかったんだけど……」
奥から教官の鼻歌らしいものが聞こえてくる
「言わなかったせいで自信がついたというか増長してしまったというか、『もう基礎は学んだ。次はわたしのアレンジしたチョコを作るぞ』と言い出して」
「……そう言ってもう三時間は経過しているな」
三時間!? 私も料理に関してはあまり詳しくはないがチョコを作るのに三時間以上かかっているのはどうなんだろうか?と考えていた時だった。 奥にある調理室から足音が聞こえてきたのは
それを聞いて振り向いた私の目に飛び込んできたのは
「待たせてすまない。 もうすぐ完成するから待っていてくれ」
それは目にゴーグルをし、口にはまるで毒ガスを防ぐかのようなマスクに所所何か赤くなっているエプロンを装着した教官の姿だった
「「………」」
再び調理室に入る教官を見た後、三人は無言でイスに座っていた。しかし表情は絶望に染まっていた
三人はあれを見た時、悟ったのだ。 本当の地獄はこれからなのだと……
「さあ、食べてみてくれ♪」
教官が自信たっぷりに出してきたのは三つのハート型のチョコだった。 見た目は確かに美味しそうなのだが調理中のあの姿をみると怪しげなオーラを感じ取ってしまう
「い、いただきます!!」
嫁が意を決してそのチョコを一口食べた瞬間、ガタガタブルブルと震え、バタッと意識をなくした、いや、意識を刈り取られたと言った方がいいかもしれない
「一夏の奴は寝てしまったか。 昨日は夜更かしでもしていたな」
「あ、あの、千冬さん。 こ、このチョコに一体何が入っているんですか?」
箒が恐る恐る聞いてみると
「お前達はカレーに隠し味として蜂蜜やチョコレートを入れると旨みを増すということを知っているか? 私はそれを知ってこう思ったんだ。 ならば逆にチョコの旨みを増すにはカレーと同じ理論に元ずくならば辛いものだと思ってな、北極というラーメンに使われている香辛料を入れてみたんだがどうだ?旨みが増しているだろう?」
さあ食べてみてくれと言わんばかりの笑顔でこっちを見ている教官の前で拒否することも出来ず、私達は二人で同時に食べ、そして狩られた……
「なんだ二人も寝てしまったか? 最近の学生は寝るのが遅くなりがちだと聞いていたがこれはなんとか改善させないとな。 う~んしかし弱ったな、あともう一品作ったのだがこれでは感想が聞けないな。 ん?そういえばまだあいつが学園に残っていたな。あいつも中華料理とか得意だったしいい感想が聞けるかも知れんな」
もはや死神と化した料理人が次のターゲットを求めて学園へと足を向けた
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「よ~し、これで準備万端。 待ってなさい一夏!! 必ず私の事惚れさせるんだから!!」
彼女の名は凰鈴音。中国の代表候補生であり、まだ一夏とはセカンド幼馴染であり、そして彼女もまた織斑千冬と面識のある人物だった
明日の用意をしていた時、ドンドンと誰かがノックしてきた
「はいはい。 こんな時間に一体、」
誰よ?とドアを開けるとそこには
「一夏の姉の織斑千冬だ。 知っているだろう?」
「ち、千冬さん!? あ、あの、一体どうしたんですか?」
千冬から何かを感じ取ったのだろ、ゆっくりと距離を取る鈴音
「なあ? 鈴音。
パイ食わないか?」
この日、IS学園で少女の悲鳴が木霊した。こうしてまた一人犠牲者が増えていった
これを読んでいるそこの貴方。気をつけて下さい? もしかしたら貴方のすぐ後ろにパイを持った料理人が立っているかもしれませんよ?
どうですか? 甘いお話だったでしょ?(全部とは言ってはいない) 感想おまちしてます