雪が降りしきる中、車で移動すること30分。ようやく旦那の実家に到着した
ここまでくると家々の屋根にはこれでもかというくらい雪が乗っていた。これはさっそく明日から雪かきをしないといけないようだ
お義父さんが車庫に車を停めるの待っていると
「あら! オータムさん! いらっしゃい~、待ってたわよ」
「あ、お義母さん! お久しぶりです! 今年もお世話になります」
「もう、気にしなくていいのに。ささ、上がって上がって♪」
この人懐こい笑顔を見せている女性が旦那のお義母さんだ。 旦那と二人でご挨拶に行ったときに自分の職業を言った時は
「ふ~ん、世界征服を目指す秘密結社か。……面白そうじゃない♪」
と豪快な性格の持ち主である
「二人とも、晩御飯はもう済ませたの?」
「あ、そういえば食べてなかったね?」
「そういえばそうだね」
ちょっと待ってなさいと言って、お義母さんがどこかに行ったと思ったら
「ほい♪ これ食べて暖かくしなさい♪」
そう言って持ってきてくれたのは青森のご当地料理のせんべい汁だった
せんべい汁とは鶏肉などでだしを取ったスープに人参やごぼう、きのこなどの旬の具材を入れ、しょうゆでゆでた煮立てたものに南部せんべいを割り入れた鍋料理。 モチモチとした食感がたまらなく、せんべいに鍋のうまみが凝縮されて美味しいのだ
去年これを食べてすっかりファンになってしまった
「ありがとうございます♪ あ、そうだ。 お義母さん、これお土産です」
「あらあら。 悪いわね。気を遣わなくても良かったのに」
「何かいるものとかあった? 母さん」
旦那にそう言われていや、特にと言い掛けたと思ったらもの凄く笑顔になった
「ああ、あったわ。 今すぐ一番欲しいの」
「うん?なに?」
「孫♪」
「「ブフッ!?!?」」
いきなり放り込まれた爆弾発言に私と旦那は吹いてしまった
「おいおい母さん」
「あはは、今すぐなんて冗談よお父さん。 ごめんなさいね♪」
「あ、あはは。 冗談でしたか……」
「あ、でも孫が欲しいのは本当よ? でもこればっかりは神様にしか分からないから追々、気長に楽しみにしてるわね♪」
気まずいながらも晩御飯を頂いてしばらくした後、寝る準備もしてくれていたらしくお風呂に入るように勧められた
仕事納めからそのまま直行でここまで移動してきたので疲れもあったのでお言葉に甘えてお風呂を頂き、今夜寝る部屋に移動した時だった
ひとつ問題が発生したのだ。 確かに布団が敷いてはある。 だが布団は一組しか敷かれていないのである
つまり、つまりそういうことですか!? そういうことなんですかお義母さん!?
気長に待つと言っておきながら早々に仕掛けてくるとは!? 侮りがたしお義母さん
などと考えているとお風呂から出てさっぱりした様子の旦那が入ってきた
「ん? 何かあったの?」
「い、いや、実は……」
私はそういうと一組だけの布団を指差すと旦那も察したようで
「……ったく。 母さんめ」
「ど、どうしようか?」
「布団をもう一組出そうにも他の部屋にあるし。 もうこんな時間だからな、父さん達もう寝ちゃってるし」
時計を見ると結構遅い時間帯だった
「え、えーと。その……『そういうこと』する?」
「もしかして母さんに言われたこと気にしてる?」
「………(こくり)」
私が黙って頷くと旦那はしゃがみ込むといきなり私の頭を撫でた
「?」
「オータムは………バッカだな~」
「人の頭撫でたと思ったら第一声がそれってどうなの!?」
「気にするなって事。 母さんの事考えてくれるのは嬉しいけど、俺らのペースで進んで行けたらいいんだから焦ることなんてないんだよ」
そう言うとまた優しく頭を撫で始めた。 ずるい、ずるいよ。 こんな事されたら顔がにやけるに決まってる
私は顔を見られたくない為に旦那に抱きつき、顔を隠した
「ととっ!? どうしたの? 」
「……恥ずかしい事ばっかり言うからこうするの!!」
「……そっか。 時間も遅いし、このまま寝ようか?」
その晩の布団はすごく暖かく、穏やかだった
一夜明け、朝を迎え目が覚めると一緒に寝ていた旦那の姿が無かったのでリビングに向かってみると台所でお義母さんと一緒に朝食を作っていた
私がリビングに入って来たことをお義母さんが気づくと、私の元に駆け寄り謝って来た。 話を聞くと昨日のアレは冗談でやったものだったらしく、私が赤面で自分達の部屋に来ると思っていたのだが予想に反して来ないので昨晩はかなり焦っていたらしい
旦那にたんまりとお説教を受けていたようなので気にしてないとフォローを入れておいた
朝食が出来上がるまで時間があったので、今のうちに雪掻きをしておこう
外に出てアラクネを起動させ、まず雪を落とす際に窓ガラス等に当てないようにガラスに簡易的シールドを張ってから屋根に溜まっている雪の所まで移動した。 軒先を確認し、下に誰も居ないこと確認してから雪搔きを始めた
雪掻きと言っても闇雲に雪を搔き出すというわけではない。 屋根に10cmほど雪を残しながらやらないといけない。 10cm残すことによって屋根材が露出することを防ぎ、屋根材で滑って転ぶのを防ぐ役割もあるからだ
アラクネのたくさんの腕を使っての雪掻きは端から見るとかなり奇妙な光景なのだが近所の人達は去年ずっと見てきたため慣れてしまっていて
「今年もやってるのかい? 朝から精が出るね~」
「あはは、なんか慣れちゃいましたから」
などと受け答えが出来るくらいである。 それからしばらく雪掻きをしてからキリのいいところで終わらせ、一息つくことにした
やっぱりIS使ってるから速いわな~とぼんやりと思っているとこちらに近づいてくる駆け足のような足音が聞こえてきた
うん?なんだろうと足音が聞こえてくるほうに顔を向けたと同時に「お・ね・え・ちゃーーーーん!!」と声と共に二つの物体が私にぶつかって来た
ゴフッ!?と見事なタックルに吹きながらも受け止めて突撃してきた人物の顔は見知った顔だった
「あ、相変わらず元気、だね……。日向ちゃんに佳奈ちゃん」
この元気爆発の姉妹と知り合うきっかけは私の結婚式で、二人にエスコートガールをしてもらった時の事。控え室で出会ったときはお互い初対面のためか緊張した様子であまり喋らなかったけど、去年久しぶりに再会した時に話をするうちに懐いてくれて今のような関係になっている
「オー姉ちゃん」より「お姉ちゃん」のほうが呼びやすいらしいのでそう呼ばれている
「お姉ちゃん、まだこっちにいるの? また遊んでくれる?」
「うん、大丈夫だよ。 また遊ぼうか」
「ほんとう!? やったー!!」
まあこんなに喜んでくれるなら悪い気はしないよね。 そんな微笑ましい光景を見ている時だった。彼女達が肩にかけているカバンについているとあるキャラクターのキーホルダーが目に付いた
「どうしたの? あ、これ? かわいいでしょ? おかあさんにかってもらったんだ♪」
「ね~♪」
そのキャラクターは黄色い球体を押し潰したような体に手足と口、青い帽子を被り、右目が「O」 左目が「n」と変わったキャラクターだった
「そ、そうだ、ね。 可愛いよね?」
二人が可愛いという中、私だけはかなり複雑だった。 実はわたしもこのキャラクターを知っている。 ただし彼女達とはちがう目線で……
それは去年こっちに来ている時だ。深夜、テレビをつけてみるとそのキャラクターが出ていて。 ここからは記憶が曖昧なのだがそのキャラが釣りをしたり、何故かラリアットと貰っていたり、蹴られたりと酷い目に合っていたような記憶がぼんやりとあるのだ
あとこの目の「O」と「n」を見ると何故か漢字の「安」という字が頭の片隅で出てくるのは一体……。うーん、思い出せない……
このマスコットは一体……。し、萎むだと!?(笑) 感想お待ちしてます