私、セイバーことアーサー・ペンドラゴンは突然の襲撃にあっている。
下手人は黒い靄に包まれて正体がわからないバーサーカー。
アレが突然現れて攻撃を仕掛け、暫く暴れてから何処かへ逃げ去っていた。
まるで嵐が過ぎ去ったかのようにボロボロになった室内で、私のマスターに従っていた女性が死んでいた。
「アイリスフィール。
ここはあのバーサーカーを追いかけて討つべきです。
このような被害を今後は出さないためにも」
「……ええ、そうね。
セイバー、バーサーカーを追いかけるわよ!」
「わかりました!」
私はバイクに跨り、後ろにアイリスフィールを乗せて、バーサーカーを追いかけていった。
「ここは……」
バーサーカーが逃げ込んだのは、地下に作られた駐車場であった。
所々に柱があるため、意外と死角が多い。
私は、緊張感を高めて、バーサーカーの攻撃に備える。
だが、予想を反してバーサーカーは普通に私の前に出てきた。
「…………」
……?
何かがおかしい。
無言で私の前に出てきたところもそうだと言えるが、何故すぐに襲いかかってこない?
前に私が会った時は、それこそ叫びながら襲いかかってきたと言うのに。
「……王よ」
私が訝しがっていたら、バーサーカーが声を出した。
まさか、バーサーカーに理性があるとでも言うのか?
いや、それ以前にくぐもってはいたが、私のことを、確かに王と……。
バーサーカーは、身体を包んでいた靄を消し去り、徐に兜を外した。
「何故……何故貴方がここにいるのです……サー・ランスロット……!」
バーサーカーの正体は私がよく知る人物。
円卓の騎士最強と謳われた、ランスロット卿その人であった。
「王よ、今は剣を交えましょう。
共に聖杯戦争に呼び出された身。
なれば、闘う以外に他に道はありますまい」
ランスロットはそう言い、その手に剣を喚び出す。
それの銘は『無毀なる湖光(アロンダイト)』。
湖の騎士の異名を持つランスロット卿が持つ宝具だ。
だがその剣は、刀身も柄も全てが黒く染まっている。
「くっ……!」
ランスロット卿は本気だ。
私はそう感じたからこそ、彼と同じように剣を喚び出す。
「……行きます!」
私は先手必勝とばかりに、ランスロット目掛けて勢い良く突っ込んでいく。
ランスロットは円卓最強。
主導権を握られてしまっては、私ごときでは勝ち目がない。
ならば握られる前に握ってしまい、そのまま手放さなければいい。
「はあっ----!」
裂帛の気合いと共に剣を袈裟懸けに振り下ろす。
ギィィン!
私の剣は弾かれ、思い描いた軌道から大きく横に逸れる。
だが私は諦めずに何度も何度も斬りかかる。
しかし、
「……どうしたのです?
貴女の願いにかける信念とはこの程度のものなのですか?」
その全てをまるで息をするかのように弾かれてしまう。
技量に隔たりがあることはわかっていたが、ここまでのものだっただろうか?
「王よ、もし私が強いと感じるのなら、それは願いにかける想いの差です。
私は、貴女の願いを成就させるわけにはいかない……!」
「何故、私の願いを知っているのですか!
それに、何故バーサーカーのふりを……舞弥を殺したのですか!」
「武器を持っている相手を殺すのは至極当然のことでしょう。
それに、そうしたら貴女がやってくるとわかっていましたからやらせてもらいました」
「何故です!
貴方は高潔な騎士であった筈!
それなのにどうして----!」
「騎士道に悖る行為をしてでも!貴女の願いは私に、いや、我等にとっては否定すべきものだからだ!」
「……ッ!」
ランスロット卿が語気を荒げて言う。
私は彼の気迫にのまれて、思わず後ずさる。
「騎士王よ、我等が王よ。
私はこの聖杯戦争においてバーサーカーのクラスで呼び出されました。
参加した理由は狂えるから、という今にして思えば逃げでしかないものです。
私は、貴女が言ったように高潔な騎士であったが故に、愛した女を救うことも貴女を裏切ることも出来ないジレンマに陥ってしまい、結果は貴女が知っている通りです。
私は、ブリテン崩壊の一端を担ってしまった男だ。その罪の重さに耐え切れなくなり、貴女やギネヴィア様に対する決して答は出ない愛憎の念に囚われてしまい、それらを一時的にも忘れたいがために、バーサーカーに成り果てた身だ。
バーサーカーとなったなら、本来なら狂化の影響で理性がなくなり、狂気に突き動かされるだけの獣となっていたのですが、そこを今のようにしてくれたのはブロントという男です」
「ブロント……ナイトのことですか?」
「ええ、あいつは私と貴女にとって関係があると同時に、全くの無関係な男です」
「マズイわね……」
私、アイリスフィール・フォン・アインツベルンは、セイバーとバーサーカーの戦いを見ていた。
一見セイバーが優勢に見えるが、その実バーサーカーはセイバーの攻撃を難なく弾いたり、逸らしたり、受け止めたりしている。
幸いなのは、何故かは知らないけどバーサーカーに攻撃する気がないことでしょうね。
けど、いつその気が変わるかはわからないし、このまま意味ない攻撃をし続けていてはセイバーのスタミナが切れてしまう。
ここは相手の気を一瞬でもそらせるのなら御の字ってことで攻撃を……。
「そうは……コヒュー、コヒュー……させ……ない、ぞ……ゴクッ」
なんか出た。
いや多分バーサーカーのマスターなのだろうけれども、なんで最初っからあんなに息切れしてるの?喘息持ちなの?
「バーサーカーから聞かされてたけど……予想以上に魔力消費がキッツい……!
ブロントさんから大量にジュースもらってなかったら危なかったな」
「……取り敢えず、貴方は何がしたいのかしら?」
「そりゃバーサーカーの願いを邪魔させないためにあんたの前に立ち塞がるんだよ。
バーサーカーにも助けられているから、今度は俺の番だよなって感じで」
「……そう、ならこういう時は日本の文化に則ってこう言えばいいのね。
----アイリスフィール・フォン・アインツベルン、推して参る!」
「いやそれ日本の文化かもしれないけど何かが違う!……って、アインツベルン?それって聖杯を汚染させたってブロントさんが言っていたとこか?」
「……え?」
聖杯を……汚染させた……?
アインツベルン家が……?
「ち、ちょっと!それは一体どういうことなの⁉︎」
「どういうことも何もあんたらがやったことだろ?
前回の聖杯戦争の時に『この世全ての悪』ってのを召喚して結果として聖杯を汚染した。
お陰で今の聖杯で願いを叶えようとすると、確実に人が死ぬことになるってブロントさんが言ってたんだけどな。
……まさか知らなかったのか?やらかしたところの出身なのに」
知らない、そんなこと知っているわけがない。
私達を騙すための嘘っぱちという可能性は大いにある、と言うかその可能性の方が高いだろう。
けど騙すとして明らかに嘘と捉えられそうな大きい嘘を吐くだろうか?
ある程度真実を織り交ぜた、現実味のある嘘の方が騙すとして効果的であるはずなのに。
「……じ、じゃあ、もしも、人と人の争いがこれ以降起こらないようにと願ったら、どうなるの……?」
信じたわけではない。信じたわけではないけど、それでも一抹の不安を覚えた私は目の前のバーサーカーのマスターに訊く。
「えーっと、確かブロントさんが言うには……ああ、そうそう。
人間という種を絶滅させるって感じだったな。
そうしたら、人間同士の争いなんて起こりようもないし」
私は鈍器か何かで頭をガツンと叩かれたような衝撃を受けた。実際に叩かれたわけではないのに、目の前が真っ暗になり、マトモに立つこともままならなくなる。
そんな……。
もし仮にそうだとしたら、切嗣の願いは意味の無いものとなってしまうじゃない……。
「……よくわからないけど、足止めになってるのら、まあ、いいか」
「ナイトの中に、私達に仕えた下級騎士の魂があるですって……⁉︎」
私は未だにランスロット卿に斬りかかりながら、彼と会話をする。
彼が語ったのは、ナイトと語る者の中に私達に仕えた下級騎士もいるということ。そして、彼らもまた、ランスロット卿と同じく私の願いを阻止したいと思っていることだった。
「ええ、その通りです。
ここまで言っても、まだ考え直す気はないのですか?
まだ、貴女の願いを何としてでも叶えたいと思っているのですか」
「……っ、当たり前です!
私が王にならなければ、ブリテンが滅ぶことはなかった!
民も、騎士も、貴方達円卓の騎士にも不幸な思いはさせずに済んだのです!」
私は自分の思いを吐露する。
そうだ、私があの剣を引き抜きさえしなければ、ブリテンは、民達は滅びを味わうことなどなかったのだ。
こんな情けない王についてこなければ……。
「……そうですか。ならば!」
ランスロット卿は私が振り下ろした剣を大きく弾き、私の腹を狙って蹴りを放ってきた。
私はどうにか腕で彼の蹴りを受け止め、衝撃を殺しきれずに柱にぶつかる。
「かはっ……!」
柱に背中から強打したせいか、肺の中から空気が抜け出る。
こんな大きな隙を彼が見逃してくれるわけがなく、此方に肉薄してきて何ら迷いなく剣を振り下ろす。
私は痛みを我慢しながら横に大きく跳びのき、柱が真っ二つにされるところを見ながら剣を構える。
「王よ、貴女は人の心がわからない!」
「……ッ!」
「確かに貴女は剣を引き抜く前はただの少女だった。そんな貴女に全てをわかれとするのは酷でしょう。
ですが!それでも我等に仕えてきた彼らの、他の円卓の騎士の人生を否定させるわけにはいかないのです!他ならぬ貴女には!」
ランスロット卿は何を言っている……?
私が、彼らの人生を否定している……だと……?
「裏切ってしまった手前、私が言うのも何ですが、私を含め円卓の騎士も、下級騎士も皆貴女を慕っています。
そして貴女を慕い、貴女に仕え、貴女に尽くした日々を程度はあれ皆幸せと感じているのです。
アーサー王という存在に惚れ込み、アーサー王の下に集い、アーサー王の為に戦う。
我等は貴女と過ごした日々にとても充実感を感じておりました。それなのに、当の本人が我等の為だと吐かし、何をしようとしているとお思いか!
貴女を唯一無二の主君として剣を捧げたのに、その剣を目の前で放り投げるのと同等の行為だ!」
「ち、ちがっ……!私には決してそのようなつもりは……!」
ランスロット卿の言葉を私は否定する。
騎士にとって剣を捧げると言うのは、その主君に絶対の忠誠を誓うということ。
それを放り投げると言うことは、その忠誠が信じられない、どうせ裏切るつもりだろ?と言っているようなもの。
無論、私にそんなつもりは毛頭ない。
ただ、彼らの幸せを思って----。
「もう一度言います。
我等騎士は『貴女』を王として定め、『貴女』に仕えてきたんです。決して他の『誰か』を王としたわけではない!
貴女が願いを叶えてしまえば!我等が仕えたいと思わせてくれたアーサー王の記憶がなくなってしまう!
我等にとっての幸せとは!貴女と共にあった、それだけで充分なのです!
我等から貴女の記憶を奪わせはしない!他ならぬ、貴女からは!」
ランスロット卿が剣を構え、突進してくる。
私も剣を構えるが、その時には既に彼の間合に私が入っていた。
「ぐうっ……!」
彼の一撃をどうにか受け止めて、その衝撃を利用し、後ろに下がろうとする。が、彼がそれを許してくれるわけもなく、怒涛の猛攻にただただ私は防戦一方にならざるを得なかった。
既にわかりきっていたことだが、やはりランスロット卿は強い。その上、私の願いを否定する、その想いの強さが更に彼に力を与えているように思えてくる。
私は一向に攻勢に転じれないまま、ランスロット卿の攻撃を受け止めるだけとなっていた。
ずっと受けっぱなしだったせいか、腕に痺れがきて、結果大きく剣を弾かれてしまう。
「覚悟!」
私の剣が弾かれたと同時に彼は大上段から私を真っ二つにしようとする。
私は剣が間に合うことはないと、死を覚悟しつつ、苦し紛れに剣を前に突き出した。
ああ、私もこれでおしまいか。
だけど、ランスロット卿にやられるのであるならば、それはそれでいいのかもしれない。
そう、考えていたのに----。
「何故……なのです。何故貴方に私の剣が刺さっているのですか!」
彼の剣は振り下ろされておらず、私が苦し紛れに放った一撃が彼を貫いていた。
彼は口の端から血を垂れ流しながら、私にこう言った。
「お見事、です……王よ……。
一瞬だけできてしまった私の隙をよくぞ突いてみせました……」
「おかしいでしょう⁉︎貴方の攻撃は、間違いなく私を殺せたはずだ!
もしかして、手を抜いたのではないのですか!」
「勘違い……しないでいただきたい。
我がクラスは……バーサーカー……。魔力消費が増えてしまう……クラスです……。
我がマスターは……お世辞……にも、魔力量が多いとは……言い難い……。
故に……私がマスターの魔力を喰らいすぎた……ただ、それだけなのです……。ゴボッ」
ランスロットが口から大量の血を吐き出す。
彼の命は風前の灯だった。
「王よ、最後に一つだけ、貴女に言いたいことがあります……。
貴女は、我等に縛られなくともよいのです……。貴女は貴女の幸せを、求めてください……。我等のことなど一切合切放り捨てて……」
どうして、どうして死の間際にそんなことを言うのですか⁉︎
貴方は私にどうしろというのですか⁉︎
もう、わからなくなってきた……。
私が困惑していると、後ろからドサッと何かが倒れる音がした。
見れば、アイリスフィールが倒れている。
……今は、彼女を安全な場所まで連れ戻そう。私が何をすべきか、それから考えても、遅くはないでしょう……。
(結局、口ではなんだかんだ言いながら、王を手にかけることを躊躇うとはな……。最期の最期くらいはそれでも騎士でいたかった、というわけか……。
すまんな、ブロント……。
楔は打ち込んだ。
やるかどうかはともかくとして、お前に、託すぞ……)
なんだかんだで結局は手を出せないランスロット。
アルトリアprpr(^ω^)し隊である騎士どもがprprするための記憶がなくなるとわかっちぇしまったら絶対に止めようとする俺だってそうする。
まあブロントさんはなんだかんだやってくれるからよ。
そんじゃ闇系のデュエルがあるからこれで