Re:DOD   作:佐塚 藤四郎

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用語説明回と言ったな。あれは(ry


3.「静謐」-4

     4

 

 

 

「それで、2006年5月2日から3日にかけての国立超自然第二研究所の事件以降は日本中を回っていたと?」

 

 軽食を交えながらの会話で、事件後から今現在に至るまでのおおよその動きを説明し、今現在の大阪堺に至った所でヴィオラが手に持ったグラスを傾けながら確認するように聞いて来た。既に2、3杯のお酒であるが酔っている気配は無い。

 ヴィオラ曰く、他国の干渉や、それこそヴィオラがいう所の『異界』からの接触の可能性を考慮しての事らしい。不都合な場合が予想される場合、揉み消しが必要になりますから。と良い笑顔で言い放つ彼女の言に嘘の色は一切無かった。

 

「宿泊施設やキャンプ場、車で点々と左回りにね。ここに腰据えたのが……、いつだっけ?」

「去年の7月末です。一昨年の夏は北を巡ってて実感しなかったですが、梅雨明け初夏も初夏の段階で本州の夏をキャンピングカーで迎えるのはヤバいってんで、地主さんトコにちょっかい出したのが7月の中頃です」

「去年の夏はひどく暑かったですわねぇ。にしても、渡り鳥みたいな生き方してますこと」

 

 ヴィオラはちゃぶ台こたつにデンッと広げた日本国地図の各所におつまみの柿ピーを配置している。発端の東京新宿、第二研究所が在った箇所と、今現在の大阪堺の拠点にピーナツ。その他、諸々立ち寄った日本津々浦々に柿の種を並べている。ヴィオラからして柿の種よりピーナツの方がポイントが高いらしい。

 

「教授が一年は完全に身柄躱すって決めたんで止む無しです」

「普通失踪が7年、特別失踪が1年で失踪宣告で死亡扱いになるからね。研究所の件は十二分に危難扱いでしょうから。私達に接触したい者がいれば何かと都合が良いかなって」

「あぁん。では、ワタクシはまんまと釣られたというわけですわね?」

「全てが想定通りと言う訳ではないよ。私達に接触したい人の都合に合うようにしておいた方が、ゆくゆくは私達にも利する事になるかな、なんて軽い想定。実際、ヴィオラにとっては都合が良かったみたいだし?」

「ええ。とても都合が良かったですわ。財産や権利等も丁寧簡素に纏めてられておりましたので手続きも滞りなく、ですわ。よく分かりましたわね?」

「ヴィオラが言ったんじゃない、私とちゆりが死亡扱いになってるって。書面だと私の赤目は見えないからね」

「一年とは言え、その研究試料と研究員が研究から離れていたのは勿体無く思われますわね」

「研究なんて鉛筆と紙さえあれば何処でも出来るわよ。もとよりほとぼりが冷めるまで逃げ隠れするつもりだったしね。私やちゆりの容姿は日本国内では目立つけど、カイムのゲシュタルト体の姿は世界どこでも目立つ有様だったからね。もしヴィオラに真っ先に拾われていたら、相応の権限と独立性を有しつつ研究に専念できたのかしらね?」

「無理ですわね」

 

 ちゃぶ台こたつの周囲は足の踏み場が無いほどにゴチャついている。

 私とちゆりの側は、諸々の説明に必要な資料やら試料で研究者の巣となっているし、ヴィオラはヴィオラで外交官として関係各所の資料と、甘い香りのする偽電気ブランに合う(らしい)割り材やらで雑然具合は独身女のクローゼットの中のよう。ヴィオラは独り身らしいし敢えて比喩に必要は無いかもしれないが。

 混沌(カオス)混沌(カオス)がぶつかり合い、原始の地球も斯くやの荒れ具合である。生命の海の如く、新たな存在が生まれてきても何ら疑わないまである。

 

「しっかし、ヴィオラさん寛ぎ過ぎでは?」

「あぁん。そうカタい事をおっしゃらないで下さいまし、ちゆりさん。いかがです? 一杯」

「いや、未成年なんで」

「私も遠慮する。匂いだけで酔いそう」

「あぁん、つれませんこと。竜騎士殿はいかがでしょう?」

 

 私ら二人にご相伴断られたヴィオラはカイムへターゲットを変え擦り寄る。ヴィオラは酔ってもいないだろうクセに顔を赤らめている。あざとい。

 カイムのパーソナルスペースは私とヴィオラその両勢力から征服される形で見る影も無い。当の本人は、すっかり擦れてしまったのか、さっぱり慣れてしまったのか、異を唱えることも無く侵略を受け入れている。当人からすればそんな事よりも、肉まんの包装箱裏面に記載された成分表示表に大きな関心を向けて熟読している。

 文字の学習でもあるのだろうけど、味も気に入ったのかもしれない。カイムはこれで料理上手だ。料理が上手と言うよりは、刃物と火の扱いに秀でていると評すのがより正確ではあるのだけれど。ゲシュタルト体から今の人間らしい感覚の伴った器を得てからは、料理はカイムの学習の一つでもある。今の人間的な器を得た際に、五感、感覚を刺激する学習を薦めはしたが、それ以上に当人の関心があるのだろう。

 

「ム。一口いただこう」

「お注ぎいたしますわ♪」

「これが……、ハニートラップッ!!」

「失望しました。カイムさん」

「待て、違う」

 

 面白がってひそひそと耳打ちしたちゆりからのガチトーン失望宣言に狼狽するカイム。お腹を抱えて一頻り悶絶するも、ちゆりの眼差しに釘付けされたカイムからアイアンクロ―が飛んでくることも無い。まさに笑い得くだ。カイムからは物凄い眼差しが一瞬向けられるもそれまでだ。愉悦。

 カイムの教育はちゆりに任させていたのもあってか、二人の間には独特の空気感がある。年の離れた兄妹だろうか、いい意味で遠慮が無い。カイムもカイムで、私とヴィオラがダル絡みした時は諦めて流したのに、ちゆりに対してはきっちりと誤解を解こうとしている。解せぬ、いや解せる。

 投げっぱなしジャーマンはあんまりなので一応の助け舟を出すことにする。とは言え、カイムが自ら弁明するのが一番ではあるのだけれど、弁明する原因の一端は私にもあるわけで、仕方が無い。

 

「いい勉強になるんじゃない? お酒や酒造の知識が深まれば、カイムの元の世界での食文化から気候、風土にも研究になるんだし」

「そぉなんですか? カイムさん?」

「ム、」

「貴方が酒を好む人でないのを知ってるからちゆりは気にしてるのよ。美人に絆されてんじゃないかってね。さっきまで席外してたし、貴方の教育係ゆえの責任感ってやつね」

「……興味がある。どのような香りや味わいがあるのだろうとな」

 

 気まずそうに言うカイム。ちゆり不在の際の会話は無駄ではなかったようだ。

 カイムの話を受け、ちゆりは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。ちゆりもまた感情が表情に出やすい。

 

「どうしたの? ちゆり?」

「いえ。ただ、カイムさんが気後れしたような感じ無く、自身の事を自発的に語るの初めてじゃねぇです? 教授、もしかしてイジメました?」

「ちょっと? いや、まぁ、ちょっと?」

「ま、わかりました。ただし、1杯にしといてくださいね。ヴィオラさんケロッとしてますが、度数50と高いんですから」

「うわ、道理で匂いだけで酔いそうになるワケだ」

「ですです。新しいグラスと氷持ってきてあげますから、とっとと離れて下さりやがれ」

「あぁん、手厳しい」

 

 ちゆりがカイムからヴィオラを引っぺがして床に転がし、ヴィオラが愉しそうな嬌声を上げる。ちゆりはそんなヴィオラをまたぎつつちゃぶ台周りの空き瓶もろもろのゴミを盆に纏めて台所の方へ片付けに行ってしまった。よく見れば、ちゆりの後を『黒の手』を展開してゴミを運ぶハオが追随していた。一応私の魔剣なんだけど……、いや、私の魔剣だから気を汲んでちゆりに付き添ってるのだろうか? 流石の私にも分からない事はある。

 

「楽しそうね、ヴィオラ」

「そう見えますか?」

「懐かしそう、の方が正しい気はするけどね。私自身の経験としては薄いから確固たるものではないけど、ビーンタウン時代のグループホームの年寄り連中がよく漂わせている空気感だから」

「レディに向かって無作法ですこと。けど、正解でしてよ。貴女って油断なりませんわね」

「酒飲んでつまみを広げといてよく言うわね。それで? 私らの今までは話したけど、このまま研究の話して酔っ払いの頭に入るわけ?」

「ご心配には及びません。人よりも出来の良い頭であることは自負してますので。それよりはワタクシと異界、そして日本国や合衆国など、この世界の主要国の姿勢をご説明した方がよろしいかと」

「『異界』の話ですか? 本当にしてなかったんすね?」

 

 幾つかの空のグラスと、かち割り氷で満たされたアイスペールを乗せた盆をちゆりが運んでくる。付いていったはずのハオの姿が無い。奥の方から食器を洗うような音がしているけれど、まさか魔剣にさせているのだろうか? いや、出来る出来ないの可否でいえば出来るのだけれど。

 

「ねぇ、ちゆり。ハオは?」

「少し手伝ってもらってますよ」

 

 いやぁ、まじかぁ。使いこなしているのではなく、手懐けられているやつね、これ。私が言うのだから間違いない。しかし、ペットと飼い主は似るとは言うけど、魔剣と持ち主もそうなのだろうか。うん、そんな気がする。

 

「お話はちゆりさんが戻られてからとのお約束でしたので」

「信用無いわねぇ」

「話題が無くて場繋ぎ的に事務話、学術話で時間潰すんじゃねぇかと考慮してなかったらハナから禁止にしてねぇですよ。ま、カイムさんと夢美の具合見るに善い時間過ごせたんじゃねぇですか? はい、カイムさんグラス。グラス一杯に注がないで下さいね。一口程度に止めるんですよ。ヴィオラさんは氷。飲ませといてなんですが飲み過ぎんじゃねぇですよ?」

「あぁ、ありがとう、ちゆり」

「頂きますわ。なんというか、ちゆりさんに取り入るのが貴方達を懐柔するのに一番の手に思えてきましたわね」

「謎の美女エージェントが様になってるじゃない。ちゆりに手懐けられてなければだけど」

「……!! 酷い、いや。独特な風味だな……」

 

 カイムが少し噎せながら酒の感想を述べる。噎せた事を誤魔化す為に感想が口から出ているのかもしれない。如何やら一口は一口でも、ストレートを一口で煽ったようだ。その顔は眉尻まで歪めている。度数ゆえか、味わいゆえか。

 その反面、ヴィオラは笑顔そのものだ。Sっ気からくるの愉悦か、飲み友達を開拓した事で喜びかは分からない。幾ら私でも酒の席での人の表情の変化の記録はほぼ無いので理解にも限界がある。ただ、嬉しそうなのは確かなようだ。

 

「でしょうね。その度数と甘い香気の中に薬草の青っぽさもある。蒸留酒であり混成酒、しかも少なくとも3種以上の酒が混ざってる。勉強の最初に飲むお酒じゃないわね」

「……知っていたのか?」

「知らないわよ。匂いとかでそんなかなって思っただけ。どう?」

 

 ヴィオラに顔を向けて尋ねる。

 

「良い鼻しておりますわね。概ね当たりですわ、調合の酒類は4種ですが」

「そ。ならカイム。君がその酒を理解するには最低でも4種の酒を理解する必要がある訳だ。今回の教訓は、学ぶ物事には順序がある、ということね。そこまで知る必要もないし、知らなくてもお酒はお酒として飲めるし楽しめるけどね?」

「飲まれないのに、お詳しいですのね?」

「褒められたもんじゃねぇですよ。月夜酒で身に着けた知識なんですから、ね? 教授」

「あらあら、手広くやってらしたんですのね」

「知恵を貸しただけよ。正直覚えてないわ」

 

 ちゆりが持ち出した昔話を流しつつ、私の言葉にカイムは酒の入ったグラスの底を見詰めている。まじまじと見るその瞳には酒の色味や粘度を計っているのだろう。鼻孔も微かにひくついている気がする。なんともまめな男だ。

 そんなカイムは放っておいて、ちゆりに目配せをする。ちゆりは一つ頷いてから、ちゃぶ台こたつ周りに用意していた研究者の巣から録音機材を取り出し、会話ログを録る用意を手早く整えた。

 

「それじゃ、いちから、先ずは『異界』の事から聞かせて貰いましょうか? 八雲紫?」

 

 私の呼んだ名前にヴィオラ、否。八雲紫は綺麗な笑みを浮かべた。

 金の髪、紫の瞳、赤の下、肌の白さ。彼女を彩る色彩が目が覚めたかのように色付いていく。

 何処から取り出したのか、手慣れた優雅な所作で扇を拡げ口元に当てる。

 

「――――古と変わらずに続く幻想郷。それはそれは残酷な話ですわ」

 

 妖しく笑う女。八雲紫と初めて私達は対峙した。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「……幻想、郷?」

 

 沈黙を破ったのはちゆりだった。聞いたことのない文言であるけれど、理解としては正解だろう。

 幻想の郷。幻想郷。それがなんだと訊ねる間抜けはいない。それこそが八雲紫が語った『異界』であることを理解した。『異界』そのものがどう定義されるものであるかの疑念はあるが、先に確認しておくことが有る。

 

「これだけは先に答えた方が良い。『異界』は【6.12】の"巨人"及び白塩化症候群の原因に連なる存在か、否か」

 

 これだけは明確に確認しなければならない。

 その答え如何に因っては友好的な関係を望んでいるであろうヴィオラとの距離を見極めなければならない。

 "巨人"に連なる存在だから絶対敵というワケではない。"巨人"の側であっても訳有りな者はいるかもしれない。ただ、"竜"と"巨人"は相容れない性質であることは忘れるべきではない。それはカイムの元の世界からの因縁でもあるし、客観的な事実として魔力の性質的にも相容れないものだ。

 なにより、"巨人"の性質は人類に極めて敵対的である以上、こちらが許容の意思を持ち合わせたところで限度がある。関心の尽きない未知ではあるが、相容れない『敵』であることは線引きしておかなければならない。手を取ろうと差し伸べた手を噛みつかれては敵わない。

 

「断じて否、であることを誓いましょう」

「何に」

「――――幻想郷に」

 

 そう言う八雲紫の表情は悲痛なまでに物悲しそうな顔をしていた。

 望郷、郷愁、懐古。幾度となく見た色、最近にも見た色だ。はて、どこで見た色だったか。視線を横にズラしカイムと目が合う。あぁ、そうだ。この男が生国にして亡国のカールレオンでの幼少の頃、妹や幼馴染と心穏やかに過ごしていた頃を語る顔、郷愁に駆られている顔に似ているのだ。

 全ては遠き、過去の面影、夢の跡。決して手の届かないモノを想う鎮魂の顔だ。

 

「ちゆり、全ての記録を停止。今現在までのも完全破棄」

「あいあい」

「……よろしいので?」

「こうした方が話聞き出し易そうだからね、私の為よ」

 

 ちゆりは二つ返事で録音機材を停止させ、記録内容を抹消していく。

 突如の対応にこちらの顔を窺うようなヴィオラに端的に返す。大儀や信念を抱く意思の強さを私は見縊らない。敵として全て奪うのでなければ、味方として全てを与える。つまりは私の都合、私の為だ。

 

「最初から『幻想郷』や『異界』と語って近付いた方が私の関心を買えたでしょうにそうしなかった。遠ざけた。隠した。何故か。大切だからだ。記録に残さない方が良いでしょう?」

「思いの外、思いやりがありますのね?」

「心にも無い事言うもんじゃないわよ」

「心無い事を言うよりはマシで御座いましょう?」

「どうだか。先にも言った通り私の為よ。他者の為の記録は要らない。私の為の記憶に在ればそれでいい。それで『異界』とは?」

「実在と影、というよりはコインの表と裏の方が良いかもしれませんね。コインそのものが一つの宇宙、世界であり、表が人間界、裏が異界との具合でしょうか」

「異界の反対は人間界なの?」

「ワタクシの勝手な呼称です。人間が沢山いて、人間が支配しているのですから人間界と呼称するのが最も適当かと。現世、と称しますと異界の方が冥界や死後の世界のイメージに囚われますでしょう? 物質界と称しても精神界と対比称されるのも不適。『異界』は幅広いので。世界を『人間界』という言葉で切り取った後に残されたモノを『異界』と認識するのが一番かもしれませんわね」

「『異界』という大きな括りの中に『幻想郷』が属するのかしら?」

「認識としてはそれで不都合は無いかと。イメージしやすいところとして天国や地獄、天界や仙界ような様々な『界』が存在致しますが、『異界』と呼ばれる『異界』は存在致しません。様々な『界』の総称を『異界』と称している、と言う方が正確でしょう。全体で共通した形式体系はありませんので、ワタクシの個人的所見にはなりますが」

「『幻想郷』としてではなく『異界』として関与はしていないと断言していた割りに曖昧ね。『界』毎に独自性、独立性があるように聞こえるのだけれど。貴方は『幻想郷』の八雲紫でしょう?」

 

 『幻想郷』、一つの『界』に根差した貴方が、どうしてそれで他の『界』の事情を知ったように語るのか、とは敢えて口にしない。私の言外の問いに、彼女は少し誇らしげな顔をしたからだ。

 

「表に非ず、裏に非ず。ワタクシだからこそ、『幻想郷』だからこそ、夜明けに、夕暮れに、境界に佇む者だからこそ見える景色もあるのです」

 

 そう語る彼女、八雲紫の顔はとても美しかった。

 表、裏、そして境界。詩的に意味深な言葉の意味は理解し損ねるが、『幻想郷』なる異界は、異界の中でも特別、或いは特殊な環境のようだ。それこそ、客観的に他の異界とは異なる優位性を有しているのだろう。

 

「八雲紫と『幻想郷』は『異界』の全域に関与できる立場にあり、『異界』の代表としてヴィオラが来た、と?」

「ええ、よしなに」

「関与してないのは分かった。なら対抗手段、その可能性はある?」

 

 関与の次に気になっていた事を尋ねるも、ヴィオラは瞑目したまま静かに顔を横に振った。

 

「御座いません。"巨人"や白塩化症候群に対抗する手段は可能性すら確認できませんでした。これはワタクシ個人ではなく、各界の賢者達とも協議、検証を重ねた上での見解です。関与していない以上、予想された結果では御座いましたが」

「全うな対抗手段でなくとも、不思議な異界パワーでドーンと出来ないの?」

「『異界』と申しましても、神話やお伽噺、天使や悪魔、魔法使いのような力は期待なさらないで下さいまし。表舞台にいられないが為に、表から姿を消し裏に居場所を『異界』を見出した存在です。並の常識から見れば"巨人"も『異界』も同じ非現実、非常識に映るかもしれませんが、表舞台であれ程の権能を振るえる"巨人"は非常識の側から見ても非常識なのです」

 

 ヴィオラはそう語ると、グラスの酒を一口呷り窓の外、冬の空を忌々しそうに見上げた。その所作に釣られて私も空を見る。薄暗いも雲一つなかった空は灰の曇天となっていた。ヴィオラが言っていた晩から雪の模様、というやつがやってきたのだろう。

 ヴィオラの視線には【6.12】に空から落ちてきた"巨人"の事を想起しているように思われた。根拠は無いが、同じ空を見上げた私は今までの話から"巨人"のことが想起されて仕方が無かった。

 

「『異界』は毒でもなければ、薬にもなれない。それは分かったわ。それで? 貴方は何をしに来たの、ヴィオレッタ=ハーン」

 

 私からのパスに幻想郷の八雲紫は一息のみスーツの襟を正してエージェントとしてのヴィオラの顔になる。

 

「『幻想郷』と『異界』の安全保障の為、世界の"巨人"が巻き起こした諸問題の解決を望みます。その為には"巨人"と敵対していた"竜"と竜騎士、そして岡崎夢美、貴方に与するのが最善であると、ワタクシの意思と『異界』の総意により、ワタクシを売り込みに罷り越した次第です」

 

 嘘ではないが、真実でもないなと鼻につく。彼女自身も隠す気はさほど無いようで、綺麗すぎる笑顔には景気の良い胡散臭さが戻っていた。

 ヴィオラの言葉に嘘は無い。とすれば嘘は行動にある。それほどに『幻想郷』が大事で、離れることが苦痛で惜しい事なら代理を立てればいいだけの事。少なくとも、私達からしてヴィオラでないといけないという事由は何も無い。関与が無い事も、対抗手段が無いことも伝えればそれで済む話だ。とすれば、彼女がわざわざ出向いた事には何か理由があるのだろう。

 

「ヴィオラの要求は理解した。与する事で私達が得られるメリットは?」

「ワタクシ、他の異界の者とは異なりまして人間社会でも密に秘密に活動しておりました。そのお陰で表でも方々に顔が利きます。穏便な橋渡し役、外交官として申し分ないかと。白黒つけたがりな貴方とはまた違った外交、利益を提供できることでしょう」

 

 ヴィオラはそう自らをプレゼンすると妖艶に微笑んだ。採用! と心の変態オヤジが叫ぶも黙らせる。確認事項はまだあるのだから。私とカイムは互いに他に縋るあての無い身の上であったが故に、寄り添う事に疑いも不安もなかった。

 ただし彼女の優先度は『異界』、……いや、『幻想郷』だ。ヴィオラがわざわざ出向いた事の理由があるとすれば、それは『幻想郷』に他ならないだろう。ヴィオラ個人の事は信頼しているし好感を抱いている。

 故に確信する。もし、彼女が『幻想郷』を天秤にかけられた時、その皿は決して揺るがない事を。

 

「ヴィオラなら、私やちゆりが交渉に当たるのと変わりない程度の戦果は固いでしょうね。それだけ?」

「人間世界の外交官としてだけでなく、『異界』との外交官としても務まりましょう。この協定が結ばれれば、『異界』が敵対する事を防げます。『異界』は先にも申した通り一枚岩では御座いません。各界の指向もそうですし、同じ界の中であっても様々な派閥がございます。それらの中には、今の表舞台の混乱に乗じて表舞台に復権、返り咲かんと狙う派閥も……。多数派ではなく、勢力の中身も現実の見えてない愚者ばかりではありますが、いざ事を起こされては面倒なのは確かです。あなた方との協定が結ばれれば、協定を提言決定した『異界』の賢者達の影響力は増し、愚者共を確実に抑え込むでしょう」

「政治ね」

 

 深々と溜息を吐く私。

 極めて、極めて甘い蜜だ。すぐにでも飛びつきたくなる。百戦勝利してもそれは最善ではなく、戦わずして事を収めることが至上の勝利だ。双方の戦力を削ぐことも無く、関係も良好なものが築けるだろう。ゆくゆくは今の問題が片付いたら、この縁から『異界』の研究をさせてもらうのも面白いかもしれない。

 それでも、どうしても拭えない懸念がある。少なくとも、ヴィオラがここに来る必然性が無いのだ。それこそ、『幻想郷』を辛そうに離れてまで赴く理由は何処にある。

 

「後背を突かれることがなくなるのは悪くないのではないか」

「『異界』の勢力が"巨人"、白塩化症候群の影響下に入り、敵対しないとどうして思えるの。カイム、貴方、元の世界で"巨人"の勢力、『天使の教会』の支配下に入った人間以外のゴブリンやワイバーンのような魔物、魔獣、果ては"巨人"と相対する性質のはずの"竜"と同種のドラゴンとも戦ったのよね。『異界』の勢力が似た事にならないと思わない? 私は私とちゆりとカイム、そして"竜"、この集まりにヴィオラを迎え入れてカールレオンのようにするつもりはないよ」

 

 カイムは静かに私を見つめ、ただただ穏やかに頷いた。今は亡き祖国を引き合いに出されたことへの怒りをあらわにするかとも思われた、そのようなことはなかった。寧ろ、そうまで語り執着する私の意思を理解してくれたようで、思案するように引き下がってくれた。

 

「その可能性も込みで敵対しない事をお約束しましょう。『幻想郷』は、『異界』は、何人(なんぴと)にも侵されません」

 

 そう語るヴィオラの視線は遠く、心ここに在らずと言った具合だ。

 未知を相手に断言してのける彼女の言葉に嘘の色は無い。そう断言するに至る要因と、彼女が今ここにいることと関わりがあるのか。

 

「八雲紫。貴方は何故ここに来た。貴方の『幻想郷』への想いは本物。だからもう一度問いましょう。何故、貴方は『幻想郷』ではなく、ここにいる。それがどうしても分からない」

 

 私の問いに八雲紫は幻想郷に誓いを立てた時のような悲痛な笑顔を見せた。私には出来ない顔だ。

 

「――――とおりゃんせ。八雲紫の名に於いて神であろうと何であろうとも境界を侵すこと能わず。全ての境界は我が手の内、『異界』の遍く境界は内と外から念入りに閉じられました。境界を操る能力は、境界を閉じる為、閉じたが為に殆ど失ってしまいましたけれど」

 

 ヴィオラは静かに微笑み、ちゃぶ台上に転がるコルク抜きに手を伸ばす。偽電気ブランを開栓する為に、ヴィオラが持ち出したもの。ただのコルク抜きではなくソムリエナイフだとか呼ばれる、要は品の良い十徳ナイフであり、畳まれていた小さな刃物を手の平に当てて一条の赤い線が引かれた。

 

「境界の妖怪、妖怪の賢者が一柱、それが八雲紫。遍く境界はワタクシの手の内、でしたわ。今のワタクシはヴィオレッタ=ハーン、ただのヴィオラですわ」

 

 ヴィオラに苦痛の表情は無い。人間と同じような赤い血が一条の傷に赤く滲む。傷そのものは浅く、薄皮一枚を裂いた程度か。

 まじまじと見る私とカイムをよそに、ちゆりが慌ただしく駆けずり回り救急箱を取り出して手の具合を診た頃には出血も止まり、傷跡さえ残っていなかった。

 

「……驚かれましたか?」

 

 ヴィオラの顔は美しくも物憂げだ。超然とした態度を好むだろう彼女にしてはらしくないように思えた。

 過去、似たような手段か状況で自身が人ならざる存在であることを知らせたか、知られた際に苦い経験があるのかもしれない。彼女は最初、『異界』の出であること、人ならざる存在であることを隠して接触してきた当たり、拒まれることの恐れ、恐れとまでいかないにしても懸念は本物であるのだろう。この物憂げな顔の全てが演技ではないように思えた。ただ、それ以上に気になることがある。

 

「……カイムの方が傷の治り早いわね」

「女史。そこの赤いのに限界まで血を抜かれたくなければ下手に血を見せないことだ」

「……あら?」

「――――フンッ!!」

「ミッ!?」

 

 研究に纏わる事を口にしたせいで、カイムが余計な口を挟む。私とカイムの発言にキョトンとするヴィオラ。彼女なりに覚悟しての告白だったのかもしれないが、気になったモノは仕方が無い。ヴィオラが妖怪なら、カイムは契約者だ。常人の域を越えているのはこの空間に於いては珍しくもなんともない。

 気を吐くとともに放たれたちゆりの拳が呆けたヴィオラの脇腹に刺さる。蹴りに続き本日二度目であるが、ちゆりは心配して救急箱探すのに駆けずり回ったのもあり、ぷりぷり怒っているようで一度目の蹴りより強烈のようだ。声にならない苦鳴を漏らしちゃぶ台に突っ伏すヴィオラに物悲し気で様になっていた美女の姿は何処にもない。

 

「……心配かけたら怒られる、ありがたいことよね」

「ふ、風情というものがありませんわね……」

「ヨーカイというのは脇腹が弱点なのか」

「何と戦う気なのよカイム」

 

 しみじみ語る私にヴィオラは苦い顔をした。彼女はあまりこの手のノリは不慣れなのかもしれない。極めて人を惹きつける容姿をしていながら人を寄せ付けないオーラ、『異界』とか『幻想郷』とかさっぱり分かんないけれど、賢者と周りから称される程度に地位・能力を持った上の立場だったのだろう。

 ヴァイオレンス馬鹿は馬鹿真面目に自分なりに推察している。良い傾向だけれども、どうしてもヴァイオレンスなのはもはやサガだろう。しかし、妖怪のイントネーションがどうにも怪しい。人工声帯の所為でなければ後で辞書を引かせよう。

 

「教授、ヴィオラさんって……」

「ええ、違いないわ。……つまり、閉め出し喰らった家なき子ね」

「もう少し労わって下さいまし……」

 

 私のざっくばらんとした評価にヴィオラは不服そうに訴える。とはいえ、的を射た物言いだろう。

 

「ねぇ。その結界? 封印? は大丈夫なの?」

「……ええ、問題御座いません。『異界』総出とワタクシの能力、全存在を賭したものなれば」

「敵対しない事の断言はそれ故か」

「解ける可能性があるとすればワタクシだけですが、肝要のワタクシの境界を操る能力は使い物にならない。境界の妖怪として自らの境界すら危ぶまれる程に力が落ちております。今は、貴方と似た長い三つ編みをした医者から餞別に少し手を加えた人間の器、実体を得ることで如何にか生き長らえているのが実情です」

「リバースエンジニアリングしたいけど、ヴィオラをバラバラにするワケいかないものね。傷治ってたけど、どこまでイケるの?」

「恐ろしいことを平気で言いますわね。この肉体を調整した竹藪医者曰く、死ねるようには調整してようなので、即死したらそれまででしょう。基本的な性能、身体能力や生理現象などは並の人間と変わりません。ただ、回復力は老化から回復する程に微調整してあるようです」

「老化を? それはすごいわね。テロメア再生? 保護? 回復と言ったなら再生か」

「さぁ。妖怪、人外の身の上でありましたので、人間の肉体の細かい仕様までは存じません。知ろうにも、扉は既に固く閉じられておりますわね」

「むぅ、まぁいっか。ヴィオラは表の世界から『異界』を閉じたらしいけど、表で力振るえる"巨人"は非常識と言ってなかった?」

「ワタクシもまた非常識格な存在だっただけのことです。ワタクシと『幻想郷』は一心同体と言っても差し支えないモノ。境界を操るワタクシは『幻想郷』との繋がりから権能行使のエネルギーを得ておりました。信仰や生贄を必要とするような脆弱な存在より自由に能力が使えただけです。『幻想郷』を閉じ『異界』とのパスも絶たれ、境界を操る権能の殆どを捧げた今となっては、肉体の維持と境界の境目を見るので精一杯ですわ」

 

 聞いた話に身体が自然と頷く様に揺れているのを俯瞰する。 

 

「エネルギー! エネルギー!! エネルギー!!! ……どんな世界でもしょっぱい話はあるものね」

「そんなものです。超然とした仙人でも霞食まねばやってられませんし、優雅な白鳥も水面下では頑張ってバタ足してるものです」

 

 お互いにとぼけたように語る様に小さく吹き出して笑った。

 

「ヴィオラの話は理解できた。"竜"と、おそらくは"巨人"も同じ手段で別世界から魔素供給をして魔力に変換し、魔法を行使しているから。八雲紫の境界に干渉、いやより上位の操る能力なるものがあれば、魔素供給のパス形成は容易いだろう。そして『幻想郷』はプールだ。供給した魔素、魔力を溜めおく器。それもただの器ではなく人間界と異界の境界にある特異点的異界、表裏双方に接続・干渉するハブであり、その最終出力端末として纏まったモノ。それが『八雲紫』、貴方か」

 

 脳から垂れ流しの言葉を受け、ヴィオラは満足そうに笑う。

 

「50点を差し上げましょう♪」

「えー、100点満点中よねそれ。厳しくない?」

「イイ女に秘密が憑き物と申しますでしょう?」

「呼称は別として大まかな仕組みは間違っていないと思うのだけれど」

「ええ。間違っては御座いません。ただ足りないのです」

「足りない、」

「誰しも、最初から今のままの姿で生まれてはこないのです。自己も他も、境界無きカオスの状態から最初の小さなモノが見出される。それから次第と大きくなっていくものなのです。誰よりも境界を知るが故に、その前段階の混沌を軽視すべきでないと、元・境界の妖怪からの金言として送りましょう」

「……参ったね。教壇に立つことはあっても、立たれたのは初めてよ」

 

 ヴィオラは口元に人差し指をあて、艶めかしく微笑む。

 ヴィオラの言は、『八雲紫』も『幻想郷』も最初からその形で存在していたのではないという事。当たり前と言えばそうだが、その当たり前のことだから故に気にも留めず知覚すらしないのかもしれない。だが、その自覚は確かに重要なものだと思えた。

 

「……溜め込んだもの吐き出してスッキリしたらしたで、今度は奇妙な空虚感が残りますわね。こう改めて自覚しますとクルものが御座いますわね」

「まぁ、なんとかなるわよ」

「竜騎士殿との会話を横で窺ってる時も思いましたが、本当、簡単におっしゃいますわね?」

「言わなきゃ分かんないでしょ? それに簡単でもない。ヴィオラはそれに値する代価を払って自身と異界の潔白を証明した。その追い詰められた状況でなお、私達の元に赴いて活路を模索した。だからこそ言えたこと。私、味方には優しいし、意思が強い人は好きよ?」

「口説いていたつもりが、何時の間にやら口説かれる側に回ってたなんて笑い種ですわね」

「さぞかし心細かったでしょうね」

 

 自然とそう口に出た。

 大事なモノの為に大事なモノを捨てなければならない。そうしてなお、自分の人生は続いていく。私にはヴィオラ、八雲紫のように故郷、或いはそれ以上のモノを想う気持ちは正直理解も共感も出来ない。私の歴史にも経験にも無い事だからだ。賢者も愚者も学びようが無い事は私と言えど知りえない。

 ただもし、その想いとやら今のちゆりやカイム、そしてヴィオラに抱いているような感情なら、それらがもし失われたとしたら、とても、とても苦しいのだろう。今の私にはそれ以上に表現の仕様が無かった。

 私の言葉にヴィオラは気を悪くすることも無く、僅かに口角を上げ微笑んだ。

 

「今はもう、平気ですわ」

 

 そう短く語りグラスに残っていた黄金の液体を飲み干した。

 

「――――私もお酒頂こうかな」

 

 私の言葉にヴィオラは目を丸くし、カイムは静かに立ち上がり何処かへ行ってしまった。何、何なの。

 何故口走ったのかは私が一番聞きたいが、答えてくれる者はいない。

 振り返って見たちゆりには鼻で笑われる始末だ。

 

「教授ぅ。ヴィオラさんの事情を窺った以上、次はこちらの研究成果の提示になると思うんですが、アルコール入れた頭で話出来んですか?」

「飲めば分かるわよ。それに、飲んでみてもイイかなと興味出ただけ」

「いぃんじゃねぇです。私のとついでにグラス持って来ますんで大人しく待っててください」

「あっ! いけないんだ! ちゆりまだ未成年じゃない」

「ヴィオラさんと教授のお陰で死亡者扱いなんで良ぃんですよ。仮にパクられたとしても、飲んだ本人には罰いかねぇですから」

「え?」

「この国の法では処罰の対象は保護責任者になるんでしたっけ、ようは何かあったら教授差し出せばおーるおっけーです」

「ノンッ!」

 

 ちゆりとやいのやいのやっていると、おそらく台所から戻ってきただろうカイムが片手にグラス二つ、もう片手に魔剣ハオを掴んで帰ってきた。

 グラス二つを私とちゆりの前に無言で差し出し元の席に戻ると、カイムは魔剣の刃毀れの確認や表面を磨いたりと手入れしている。手入れに勤しむ横顔の表情は乏しいが、如何にも私の表情を窺っているようである。

 

「……何?」

「ヴィオラに注いで貰うと良い」

 

 その一言にちゆりが一息派手に噴き出す。それに釣られたのかヴィオラまで小さく上品に噴き出した。

 この男、ハニートラップだとかで茶々を入れた意趣返しかこのヤロウ。ただの無神経、朴念仁、天然の可能性を考慮しても、わざわざ無言でグラスを取りに行き、さっさと手渡してきてこちらの表情を窺っているあたり確信犯だろう。チクショウ。

 

「そいや、頂き物のイチゴまだ出してなかったすね。持って来ましょうか、蜂蜜マシマシで」

 

 カイムから受け取ったグラスに氷を入れたものをヴィオラに手渡しながらちゆりはやらしく笑う。急に歯車が噛み合いだしたかのように、周囲の状況が次々と変わっていく。ヴィオラは手慣れた手付きでグラスに注いでいる。

 

「アー! ゴメンナサイ! 私がわるかったです!」

「わるいなんて誰も思ってねぇですよ。ただ、成長したなーって」

「ちょっと?」

「……フッ、」

「いや、カイムさんも同じレベルなんで気は抜かないように」

「……ッ!?」

「ま。こんなメンドクサイのばかりですが今後ともヨロシクです、ヴィオレッタ=ハーン」

「ええ、よしなに」

「乾杯しましょーか。何に乾杯します?」

「何にって、どこの世界の風習?」

「地球だバカタレ」

「それ頂きますわ。親愛なる馬鹿者達に」

 

 ヴィオラがグラスを掲げる。

 

「――――馬鹿者達に」

 

 カイムは酒席に慣れているのもあるのか、静かにグラス突き合わせる。

 

「え? あ、親愛なる馬鹿者達に!」

 

 ちゆりは不慣れな手付きながら楽しそうに掲げて少し酒を零した。

 

「む、馬鹿者達に」

 

 私は拭えない違和感を心のどこかに抱きながらも、合わせるように後に続いく。

 小さく打ち鳴らされたグラスに黄金の液体が揺らめき、照明の輝きを反射して煌めいた。

 雰囲気か勢いに飲まれて一息に酒の呑まれた私とちゆりが噴き出すように噎せる様を肴に酒を嗜むヴィオレッタ=ハーンの顔はとても穏やかなものだった。

 

 

 




八雲紫加入回 紫様チートすぎてナーフ不可避

◆裏話
兄ニーアの誕生日は兄の日6月6日
 カイムの誕生日は不明、ただ公式設定ではおうし座(4/20~5/20)であるとのこと
『ゴエディエ』では53番目に記される悪魔Caimから、本作独自設定ではカイムの誕生日は5月3日として、カイムが"岩"からパッカーンしたのも5月3日と決めた、という裏話

偽電気ブラン
 森見登美彦作品で登場するお酒。実在する電気ブランがモチーフ。電気ブランは各文学作品内でも登場していることもあるお酒。悪酔いするお酒としてはゴッホの耳削ぎの原因のアブサンと並んで謂れがあって雰囲気が良い
 電気ブランに関しては、東方萃夢想にて八雲紫とレミリアの掛け合いで、紫が言葉にしている。幻想入りしたものか、現実世界で手にしたか、ともあれ八雲紫にゆかりのあるお酒として、本作では偽電気ブランは八雲紫の好物の一つとした

蓮メリはいいぞ 八雲紫の瞳の色は公式設定で金か紫かの2種あり悩むも、メリーが紫瞳なので本作では紫に決めた

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