ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~   作:白野威

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難産した挙句前話より少ない文字数

泣いていいかな(´・ω・)


三頭龍が拉致られたそうですよ?

 絶望の色を瞳に宿したまま、男――――ニムロドの首が宙を舞う。

 ベチャリ、と、泥を地面にぶつけた様な音と共に生首が地面に落ちる。何回か転がった後、まるで狙ったかのようにオーフィスを見つめる様に止まった。

 

「………………」

 

 オーフィスもまた、生首となり果てたニムロドの目を見つめる。見れば見るほど絶望の色が濃く、奈落の底を見ている気分になる。または次元の狭間特有の、あの空間か。どちらにせよ、今となってはオーフィスにとってどうでもいい存在となり果てた。多少過程が異なったものの、結果だけ見れば戦闘が始まる前にオーフィスが呟いた言葉と同じ結果となった。ここで相討ちか、アジ=ダカーハが敗れる、という未知の結果も見てみたかったとは思うものの、有り得ない事だと分かり切っているためそう期待していない。

 そうえいば、と、神槍の方を見る。宿主であったニムロドが殺されたからか、その槍に纏わりついていた光は跡形もなく消え失せていた。あの槍にあるはずの加護さえも、どこへなりと消え失せている。

 誰がどう見ても多少大きめのただの槍としか見えなかった。

 オーフィスはその事に、微かな違和感と不安を覚えた。

 

 あの槍は神造兵器(しんぞうへいき)。ある神が将来持つことになるはずだった、神々の槍。

 “全てを貫くもの”という名を持つあの槍はあの神話勢に必要なモノのはずだが、どういうわけか正史では持っていない筈の(・・・・・・・・・・・・)ニムロドが持っていた。その事さえも未知であるというのに、肝心の槍本体から加護が消え失せたとなれば後の世に響く事だろう。

 さて、とオーフィスは考察を開始する。加護を失った要因として考えられるのは、所有者の命を糧に加護を発動しているという説。別段、所有者の命を糧に加護を与える神造兵器はそう珍しくない。おおよその神造兵器は自身さえも気づかない程度で削られる程度なので誰も気にせず、誰もがその加護を使って寿命を縮めていく。この場合の“寿命”とは、一般的に言う命ある間の長さではなく、原因がなんであれ(・・・・・・・・)死ぬ時間までのことを指す。異なる言い方をするならば、自身の今生の運命を糧にして加護を発動している、と言えなくもない。純粋な人間や半神半人などの英雄英傑が寿命・事故死・病死に関係無く早死にするのはこれらが原因である。

 だが、あの槍は神造兵器の中でも上級に位置する武具。その加護は強力ではあるが、その分おおよその神造兵器とは比べ物にならないほど代償は高くつく。人間程度の寿命で加護を一回用いるとすれば、単純計算でも数十人分の寿命は必要である。神造兵器に宿る加護とは、そのくらい効果が高く、また代償も高いのだ。

 これが真の使い手とも言うべき神々であれば、その加護を使う時に寿命を削ることはない。否、そも神々には“寿命”という概念そのものが無い。正確には、厖大な生命力と驚異的な回復力によって寿命で死ぬことが無い。“在り方(そうあれかし)”という人々の総意がある限り、それによって神々が神造兵器を十二分に扱うことを可能とするからだ。

 

 だが、あの男はごく普通の人間であった。そう、普通の人間のはずなのだ。

 だというのにあの男は何の苦も無く加護を発動させていた。最後の攻防、命が失われる最期の時まで、加護を発動させ続けていたのだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 永続して加護を与える類のものがないわけではない。だがあの槍は、オーフィスが覚えている限りそういう類の代物ではない筈。

 であるならば、なぜ持続的に加護を発動させることができ、かつ生命力が失われる気配が無かったのか? 考えてみるも、答えは出ない。

 オーフィスが脳内至高の海を漂っていた時、宿主を失った槍を見たままであった三頭龍――――アジ=ダカーハが声を上げた。

 

『――――龍の神よ、幾つか問いがある』

 

 振り向きながら言ったアジ=ダカーハ。その胸に突き刺さった跡は無い。

 血液から生物を生み出し、その回復力も目を見張るものがある。全ドラゴンの中でもトップクラスの回復力を持つオーフィスさえも、アジ=ダカーハの回復力には僅かに目を開く。

 

 ――――あぁ、愉しい。

 僅かに感じた愉悦が、オーフィスの身体を支配する。ゾクゾクと身体を奔る刺激を堪えつつ、オーフィスは答える。

 

「……なに?」

 

『先程の神造兵器――――あれは“ルーの槍”か?』

 

 

 

 

 ルーの槍。

 この槍については不明な部分が多く、ただケルト神話の太陽神・ルーが持っていたというだけで、正式な名前はない。後に世界的に有名となる神槍“ブリューナク”がルーの持っていた槍ともされるが、詳細は不明のままである。

 “槍”と一言に言っても、ルーの持つ槍は大まかに分けて六つある。

 

 一つは四秘宝のルーの槍。

 “ドゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝”の本文では、ルーの槍はその内の一つとされる。またその本文では「ルーやその槍を手にした者に対し戦(の優位を)保ちつづけることこれかなわず」とされ、不敗の槍と称される。

 その出自については謎が多く、“アイルランド来寇の書”では「トゥアハ・デ・ダナーンがアイルランドに来寇した際、それ以前に暮らしていたロフラン(=北欧)の都市ゴリアスからルーの槍を持込んだ」と記され、また四秘宝本文では「ヌアザの槍は都市フィンジアスから」という文章がある。またジェフリー・キーティングのアイルランド史によれば「ルーの剣はゴリアスから」「ルーの槍はフィンジアスから」と、両方ともルーがもたらしたかのような文章もあり、意見は多々分かれている。

 

 二つ、アッサルの槍。

 ルーが己の父であるキアンを殺された賠償として、トゥリル・ビックレオから要求した一振り。Ibur(イヴァル)と告げれば槍自身が宿した呪いによって敵に必中し、Athibar(アスィヴァル)と告げればその槍が手元に戻ってくるとされる、必中必殺の槍と記される。

 

 三つ、アーラーワル。アラドヴァルとも呼ばれる。

 “トゥレンの息子たちの最期”という物語に登場し、ルーがトゥレンの息子たちから求める賠償の一つ。槍の穂先を水につけておかなければ、都市一つを燃やし尽くすと伝えられる代物だ。槍の名に関しては諸説あり、「屠殺者」や「殺戮者」など、物騒極まりない名前が挙げられる。

 

 四つ、イチイの名木。“森一番のイチイの名木”とも呼ばれる。

 “トゥレンの息子たちの最期”において、「森でこよなきすばらしきイチイの樹」と詩人に扮したブリアンに歌われる。

 奇しくも、上記とほぼ同じ文言の美称「森の名だたるイチイの樹」。これもまた、ルーの槍の呼び名として16世紀にあったある写本の一部のくだりに記されているのだが、そのくだりではアルスター戦士時代にあった“ケルトハルのルーン”と同一とされており、西暦160年ごろのコルマク・マク・アルトを失明させたクリヴァルと同一視されている。

 

 五つ、ルイン。

 アラドヴァルと称すルーの槍。アルスター伝説に登場する英雄“ケルトハル”や“ドゥフタハ”が用いていた槍、ルイン、ルーンと呼ばれる槍は共通点が多い。

 イチイの名木にもある通り、度々同一視される事もある。

 

 六つ、五つに分かれた穂先を持つ槍。

 “クアルンゲの牛捕り”に曰く、疲れ果てた息子・クーフーリンを助けるためにルーが現れ、その手に持っていたのが五つの穂先を持つ槍であると言われる。

 なお、この五尖槍(ごせんそう)はルーのみならず、無数にある神話・伝説に数多く登場する。五つの穂先を持つ槍はルーが手にするこの槍のみだが、穂先の数は兎も角、最も一般的な武器として登場する。

 

 以上の六つがルーの槍として知られる。

 

「……そう。あれは、ルーの槍」

 

 オーフィスが口にしたのは、肯定の意。

 やはりか、とアジ=ダカーハは己の考察が当たっていたことを確信する。

 六つ、あるいは五つあるとされるルーの槍だが、その存在は非常に曖昧(あいまい)なものだ。まともに形が描かれているのは“クアルンゲの牛捕り”のみであり、その他については能力についてしか書かれていない。アジ=ダカーハはそこに疑問を持った。

 今から見て未来である現代の視点で考えれば、ルーの槍=ブリューナクというのは人間界における一般的常識。とするならば、未来から見て過去に当たる今においても、それは例外ではないだろう。

 とするならば、ブリューナクは槍に纏わる六つの伝承をまとめ、形としたものではないか? その結論に達した時、オーフィスはニムロドが持っていた槍を横目に見た。伝承全てをまとめ、ブリューナクと化したのがあの槍ならば、あまりにも、

 

『――――私が知っているものと形が違うが(・・・・・)、まあ厳重に施されていてば見れるはずがないか』

「…………!」

 

 アジ=ダカーハの呟きにオーフィスはピクリと肩を動かした。まるで心の中を読まれたような気分だった。

 そう、ブリューナクはその大元の伝説でも“五つの穂先を持ち、その穂先から放たれた光は一度に五人の人間を射殺した”とされ、その能力は“絶対的な勝利へ導く”、“投降しようと手元から離したその刹那、槍は強大な稲妻となり、敵を焼き殺す灼熱を持つ”と言われる。そう、伝承でのブリューナクは五つの穂先を持つ槍として描かれている。

 だが、ニムロドが持っていた槍の穂先は一つしかない(・・・・・・)。最も一般的な槍の形をしているのだ。これはおかしい。

 先程まであった神聖さを感じさせる灼熱の光も、ニムロドが絶命した瞬間に微塵も感じなくなった。果たして、そんな事があり得るのだろうか。

 

「――――偽物?」

 

 一つの仮定が思い浮かんだのだろうオーフィスが、そう呟いた。

 だが、アジ=ダカーハの仮定とは少し異なる答えだった。

 

『いや、あれは“本物”だ』

「? 一つしか穂先は無い」

『見ていればわかる』

 

 オーフィスの問いに軽く返事をしたアジ=ダカーハはそのままスタスタと槍の元まで歩いて行く。

 その答えに疑問を持つオーフィスだったが、アジ=ダカーハの言う通りであれば見ているだけで結果が分かるらしいので大人しく見守る。

 

 アジ=ダカーハが槍の元までたどり着き、その柄を握り、抜いた。

 

 

 

 瞬間、ニムロドが握っていた時よりも遥かに眩しい光が辺りを包み込み――――

 

 

 

 

 

 光亡き暗闇へ叩き落とされた




※タイトルの意味は次話で分かります(無駄に引っ張る)

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