ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~   作:白野威

2 / 12
一般人が三頭龍に成り代わるそうですよ?

 水辺に三つの顔を映し出したまま硬直すること一時間。

 ようやく現実を受け入れることが出来た“彼”は、少量の水を飲んだ後、水辺から少し離れたところで状況を整理するために座り込んでいた。

 

――“絶対悪(アジ=ダカーハ)

 “拝火教(ゾロアスター)”神群が一柱であり、元となったライトノベル内において五大魔王に数えられる三つの双眸に六つの紅玉の如き瞳を持つ異形のモノ。公式チートと言ってもいい主人公でさえも絶対に勝てないと思わせてしまう程の実力を持った魔王であり、ヒロインの故郷である月の都を一刻で滅ぼした“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”。最終的にヒロインが投げた必勝の槍を避け切ったところを主人公が受け取り、それを心臓に刺されたことで彼は消滅したが、その強さは下層のあらゆるコミュニティ総出で挑み、無数の犠牲を生み出し漸く消滅させるに至った存在。

 その爪による一撃は地盤を容易く引き裂き大地を溶岩で紅く染め上げ、己の影を操って数多の敵を刺し貫き、双掌(そうしょう)から生み出された灼熱の渦は主人公の最強の一撃と引き分ける力を持つ。己の身体に傷ができ、血が流れれば神格を宿した分身体が現れる。そして“疑似創星図(アナザー・コスモロジー)”が一つ“アヴェスター”による敵対者の(相手の特殊能力を含めて)額面上の力全てを己に上乗せする。またアジ=ダカーハの脳内には魔術・錬金術・科学技術などの歴史ごとに名称を変える「術の全て」の知識が収められているとされ、かつて封印された際に無数の制限を掛けられた状態で尚簡単に封印されなかったのは、その制限を解くための鍵を無条件で手に入れられたからだとされる。

 

 ざらっとアジ=ダカーハの特徴を挙げて行き、

 

『なぁにこれぇ』

 

 某相棒のセリフを言いながら、悪夢か何かか。と“彼”は頭を抱えた。

 いくら“彼”が三頭龍に憧れを懐いていたとは言えど、三頭龍本人になりたいなど思ったことは一度も無い。そもそも憧れを懐いていた要因は、あの三頭龍のカリスマとも言うべき雰囲気によるものだ。例えるなら某奇妙な世界のWRYYYY!!な吸血鬼や、戦争大好きな狂気の少佐だとか、ようはそこら辺の人物なのだ。後者の二人にも憧れてはいるが石仮面をかぶるつもりは無ければ、残機∞チートな吸血鬼との闘争を楽しみたくもない。というか遠慮願いたい。特に後者。

 あくまで“彼”は争いとは無関係な場に居た、探さなくても何処にでもいるような一般人なのだ。争い事は嫌うし、ちょっとした小競り合いさえも嫌うような平和主義なのだ。

 だがしかし、現実とは非常なモノであり、今この身体は“絶対悪”――魔王アジ=ダカーハ。この世の悉くを打ち砕き、世の全てに牙をむき、ただ己の生を持って悪を示し、己の死をもって善を築く。それが魔王アジ=ダカーハの生きざま。三頭龍の不退転の覚悟。

 とてもではないが一般人であった“彼”には出来ないことだった。

 

 と、そこまで考えた時に、“彼”の脳内に僅かな電流が奔った。

 

『……“俺”がアジ=ダカーハになる必要はないじゃないか。“私”そのものがアジ=ダカーハなのだから』

 

 その考えはこうだ。

 

 身体(からだ)能力(ちから)までもがアジ=ダカーハになったのなら、その思考(こころ)が一般人であるのは実におかしい。衝動のままに悪行を成す事こそが“拝火教”神群、引いては魔王アジ=ダカーハなのだ。ならば"その思考すらアジ=ダカーハ(・・・・・・・・・・・・・)にしなければならない(・・・・・・・・・・)"と、そう考えたのだ。

 その思考はおかしい、と“彼”の周りに誰かが居ればそういったかも知れない。しかしここに居るのは“彼”と自然のみ。彼の考えを止められる者は居なかった。

 

『……そうだ、“私”こそがアジ=ダカーハなのだ。それ以上でも以下でもない』

 

 立ち上り、長い首をコキッと鳴らした“彼”――否、魔王“アジ=ダカーハ”は、その三つ首の全てを用いて、天地に産声をもたらす。

 

 

「――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

 アジ=ダカーハとして生まれ変わった今、彼の目的は"悪行を成す事(・・・・・・)"のみ。

 

――――今ここに、三つ目の   が生まれた。

 

 

 

 

 ある二匹の龍が、その産声を聞いた。

 

 

 

 

 何もない空間。虚無の世界。或は次元の狭間とも言うべき場所で、黒の神龍は彼の者の産声を聞いた。

 

「……我、探す。三つ目の  」

 

 客観的に述べたような口調で話すその龍は、何の動作も無しに、その場から消え失せた。

 

 

――――その口に、僅かな三日月を携えて。

 

 

 

 

 何もない空間。虚無の世界。或は次元の狭間とも言うべき場所で、紅の神龍は彼の者の産声を聞いた。

 

『………………………』

 

 虚空を暫く見つめ、そして紅の神龍は再び泳ぎ始めた。

 

 

――――その口に、獰猛な笑みを携えて。

 

 




アジさんや他キャラの性格等に違和感がある場合、感想にて報告or質問していただければある程度対応いたします。
なお、意図的にキャラの性格を変えている場合がありますので、その時はご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。