ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~ 作:白野威
漸く書けたのはいいのですが、話の流れが急すぎる気がするので後々修正するかもしれません(;´Д`)
最強の一角である
突然何の話だろう、と思われるかもしれないが、まあとりあえず聞いてほしい。
オーフィスが会話を不得手とするのは、話し相手となる人物がグレートレッドぐらいしかいなかったからだ。人間相手に話をしようとしても、オーフィスは言葉が拙い上に話したとしても単語――「久しい」や「うん」などの単語や短い文章――「グレートレッドのバカ」といった程度しか話さない。よほど気の長い人物でなければオーフィスの話し相手は務まらないのだ。グレートレッドの場合は少々異なり、彼は好き勝手に話してからオーフィスに同意を求め、何かしらの単語を話した瞬間に、単語の内容によって話を変えていくスタイルだ。ある意味オーフィスに一番適した会話だと思われるが、オーフィスはそれが不満だった。
また長い間グレートレッドと共に過ごしていたからか、重度の人見知りでもあるオーフィス。仮に彼女が求めた「自分の話を聞いてくれる人物」が現れたとしても、グレートレッド以外に話したことがないため会話に詰まる。
――――故に、現状が一番心地いいのだが、現状が一番ピンチでもあった。
「…………………」
『…………………』
現在、12、3歳程度の少女の姿となっているオーフィス。その目の前にいるのは身長(体長?)3mに届くだろう、ドラゴンとしてはごく小さい部類に入る白亜の三頭龍――アジ=ダカーハ。向こうを見れば、喧嘩を仲裁するためにアジ=ダカーハが放った一撃で気絶したグレートレッドの姿があった。
まあグレートレッドの事はオーフィス的に路傍の石に意識を向けることよりも無駄なのでスルーするとして…………自らを“悪の心髄である”とニムロドに対し誇張したアジ=ダカーハだが、オーフィスはその事を不思議に思っていた。
――――“悪”とは、
例えば。とある王が統べている国は奴隷制度が常識であった。にもかかわらずその中で「奴隷たちにも人権はあるのではないか?」と問いかける人物がいたとしよう。その時代では奴隷制度が常識であるが故に、その人物は王族らに逆らう
例えば。近代化が飛躍的に進んだ国は世に生けるもの全てに人権を持っているのが常識であった。だがその中で「奴隷の存在があってもいいのではないか?」と考える人物がいたとしよう。その時代ではみな平等であるという思想が主であったが故に、その人物は古臭い
このようにその場その時の状況によって“悪”と見なされるものは千差万別である。前者と後者で共通する“悪”も確かにあるのだろうが、それらを含めてもなおオーフィスは理解できない。
故に、オーフィスは意を決して口を開き――
「………………アジ=ダカーハ」
『……なんだ』
ざっと5秒ほど息を吸って、吐き出せた言葉はそれだけだった。
もどかしい気持ちに怒りを感じつつ、オーフィスは問おうと思っていたその内容を、しかし口にできずにいた。
目の前のドラゴンが、歴代のアジ・ダハーカとは違う――いや、その根底から別の存在であることは既に確信している。オーフィスの知っているアジ・ダハーカが用いる魔術は、アジ=ダカーハが使っているようなものではない。古今東西の魔術・魔法を片端から習得し用いているのがオーフィスが知るアジ・ダハーカであり、アジ=ダカーハが用いたあの口にした言語のみで不可思議な現象を発生させる術など見たことが無い。それにオーフィスの記憶内にある術式にも、そのようなものは覚えがない。
またその外見も、共通点こそあれどその他すべてが異なっていた。オーフィスの知るアジ・ダハーカは全身が黒く、巨大な翼を持ち、三つの首それぞれが意思を持っていた。その内の二つはヒトを苛立たせる天才である。その天才ぶりは、感情が希薄と言われるオーフィスさえもイラッと来てつい9割殺しを行ったくらいだ。それに比べてアジ=ダカーハは動物の骨の様な白さを持ち、その身体の色に反して背にある影の様な翼は漆黒且つ非常に薄い。三つある首は全て一つの意思で動いているのも、アジ・ダハーカと異なる点だろう。なにより傍にいて苛立たないのが良い。
それに、アジ=ダカーハが付けている首飾り――――
――――なぜ、絶対悪という最も業深いモノを自ら背負うのか。
それらが気になってしょうがない。気になってしょうがないのに……
「…………なんでもない」
『…………………』
オーフィスは、それらについて聞く事が出来なかった。
どうしたのだろう、とオーフィスは自身の行動について不思議に思った。
なぜ自分は気になることをアジ=ダカーハに言えないのか。今までにない未知の感覚……なのに――――歓喜と興奮を覚えない。その事に、オーフィス自身でも分からない謎の感覚、感情に苛立ち、自然と不機嫌になった。
ごく短い間しか会話していないアジ=ダカーハさえ、その行動を訝しみ、一つの首を動かしオーフィスを見る。その視線から逃げるように、とりあえず――
【……zzz……zzz】
「起きる」
【……zz――ヴォゴァ!?】
気絶ついでに眠りこけていたグレートレッドの顎を蹴り上げた。衝撃で浮かんだ頭部を見据え、とりあえずもう一発、流れるような足運びで再度蹴り上げた。名古屋城のしゃちほこのような体勢になったグレートレッドは、そのまま重力に引かれて大地へその頭を落とす。巨大な衝撃と共に砂煙が舞い散り、オーフィスの前方を解放しすぎた衣装のスカートがめくれ上がる。
【――――ってめぇ! 今顎外れそうになっただろうが!】
「眠ってるのが悪い」
【なっ……んの野郎……!】
アジ=ダカーハによって気絶させられたとはいえ、そのまま眠ってしまったのはグレートレッドの自業自得だと、オーフィスはそういうのだ。まあその気絶させられた原因こそオーフィスがグレートレッドの話を聞かずに地面に絵を描いていたことからなのだが、それに気づかないグレートレッドは凄まじい勢いで悔しげに歯軋りする。
そんなグレートレッドが気に食わなかったのか、僅かに不機嫌そうな表情でオーフィスは片手に
「【ッ!】」
二匹の間に入ってきた黒い刃がそれを遮った。其の刃は大気を紙のように斬り裂き、干乾びた大地に巨大な溝を作り上げる。
『いい加減にしろ、貴様等』
黒い刃が出てきたところを辿って行くと、そこにいたのはアジ=ダカーハただ一人だ。その背に生えている影の様に薄い翼は、彼の体長並に膨れ上がり、そこから刃を出していた。オーフィスはそれを見て、初めて邂逅し戦った時の鋭い刺突攻撃の正体はこれであると確信した。グレートレッドもまたオーフィスとの戦闘を見ていたためその答えに行きつくが、同時に戦慄する。
『私は貴様等の喧嘩を見に来たわけではない。喧嘩をするなら私を現実に返してからやれ』
それはつまり……
【……まあ俺も本気でオーフィスと殺り合う訳にはいかんしな。ここらで終わりと行こうか】
そこで思考を中断し、呆気からんとそう宣言する。いつもならこのまま喧嘩に発展するはずだった流れを中断したことから、オーフィスはグレートレッドを不思議そうな目で見る。その視線を感じ取ったグレートレッドは、あえてそれを無視した。
【とりあえず、ルーの槍についてはもういいか?】
そう二人へ問う。5秒ほど待ってみるも声は上がらない。
ルーの槍についてはこれで終結した、そう判断したグレートレッドは本題を話すべく真剣な表情でアジ=ダカーハを見つめる。
【んじゃ、そろそろ本題へ入らせてもらうぜ】
『……見定める、というやつか』
【おうそうだ…………だからその闘気を納めてくれ頼むから】
土下座しそうな勢いで頼み込むグレートレッドを見かねてか、渋々と言った感じで闘気と殺気をしまう。その眼光は依然鋭いままだが、グレートレッド的には眼光が鋭い程度なら無視する範囲のようで、そのまま話を続ける。
【オーフィスは見定めると言ったが、ちと違う。正確には……アジ=ダカーハ、俺達はお前を見極めなきゃいけない】
『…………………』
【だから殺気立つな! これから説明するから抑えろ!】
にわかに殺気を放つアジ=ダカーハを必死に諌める。長ったらしい前置きは嫌いらしい、頭の片隅にそう留めながら口を開く。
【見極めるって言っても、これまでのお前の行動を見て粗方の見当はついてる。故に俺から……いや、俺達が問うのは一つだ】
グレートレッドはそういうと、直下の地面を指でトンと軽く叩く。その刹那、地面より少し浮かんだところに鏡が出現する。ひとりでに浮かんだまま固定される鏡は、その面にある光景を映し出す。
映し出されたそれは、アジ=ダカーハが今までやってきた悪業の全てだった。
【お前が今まで行ってきた悪業は既に星の数を優に超えるだろう。無知の赤子を一片の容赦なくその爪で引き裂き、童たちを喰らい、時には生きたまま飲み干し、勇敢に立ち向かってきた者達には抗えぬ絶望を与え、怯え逃げ惑うものには躊躇なくその翼で貫き引き裂いた。力無き老人らがお前に抗えるはずもなく、恐怖と怒り、嘆きが篭った眼差しでお前を見つめ、それさえもお前は無感情に殺した】
グレートレッドが言葉を述べるたびに、鏡に映し出された光景は変わっていく。
骸となった母親の手中で、血の大輪を咲かせる赤子が居た。
約束されていたはずの未来の光景を浮かべつつ、無慈悲に食われ呑まれる子供らが居た。
絶望に染まった表情のまま立ち向かい、その命を散らせた戦士が居た。
怯え惑い、足が絡まったがために命を落とした平民が居た。
こちらに怒号を浴びせ、涙を流し、嘆きながらも、敵意のこもった眼で見る老人らが居た。
それらの光景を見つめたまま動かないアジ=ダカーハを横目で見つつ、グレートレッドは続ける。
【それに、お前は先程ニムロドにこう告げていたな。「我が心の臓腑を貫いてみよ」と……あれは、そのままだと受け取っていいわけか?】
『……それ以外になにがある』
【話は変わるが。俺はな、アジ=ダカーハ。古今東西、あらゆる自殺願望者を星の数を超えるほど見てきたよ。そのどれもが小さくない絶望を抱え、その命を絶やすものばかりだ。そんな光景を見続けていた……見せられ続けてきた俺はある程度分かっちまうんだよ、そいつが今現在持つ心象って奴がな】
鏡から目を逸らし、アジ=ダカーハを見つめ、告げた。
【だからこそ分かる。お前には、自殺願望者のそれを
最初こそ俺の見通しが甘いのかと思っていたが、それも違う。奇妙な違和感を感じた俺は、オーフィスと戦闘を繰り広げた日から常にお前の行動を見て来て、確信に至った。お前は確たる意志で、確たる
『……………………』
【お前がどういう決意を持ち悪業を成すか、どういう心持で人間どもに地獄を見せるのか、それは構わん。俺達ムゲンはそれら一切の事情を聴かんと約束しよう……だからこそ、たった一つ。たった一つだけ答えて貰えればいい】
もったいぶったような言い方に苛立ちを感じつつ、アジ=ダカーハはその先の言葉を待つ。
そして、真紅の龍の口から、その言葉は放たれた。
【アジ=ダカーハ、悪の心髄と名乗る悪徳高き龍よ。お前は