ハイスクールD×D ~絶対悪旗のラスト・エンブリオ~ 作:白野威
グレートレッドがネタキャラになってしまったが、まあいいか←
槍を手にした瞬間、光亡き暗闇に引きずり込まれる感覚が私を襲った。
上を見上げる。何も無い。
下を見下げる。何も無い。
左右を見る。やはりというべきか、何もない。
後ろには龍神――――オーフィスだけがいる。
暗闇に居るというのに、オーフィスの姿ははっきりと見える。不思議ではあるが、それ以上に不気味な空間である。
槍を手にした影響だろうか、と一考するも、ありえないと断言する。
ルーの槍――――引いてはブリューナクに“昼を夜に変える”などという力があるなど聞いたことが無い。それにこの空間は夜という、生半可でやさしめな表現では表しきれない。
荒れ果てた大地も、黒く染まった空も、無数にある星も、直視できる程近い銀河も。
本来動いているべき時や空間さえも……確かに、そこに
こんな空間が存在していいのだろうか。
思わず驚愕の意を表に出してしまう。アジ=ダカーハとしては珍しいだろう感情だが、しかし……表に出すな、という方が無理だろう。ここまで死に満ちた世界は、少なくとも“自分”は初めて見たのだから。
『……此処は……』
「次元の狭間」
驚愕のあまりに呟いたその言葉は、いつのまにか隣で立っていたオーフィスが答えた。
左の首で左下を見れば、どこか懐かしげな表情で辺りを見回すオーフィスの姿があった。
「
『……この死に満ちた世界で?』
「そう。だからこそ我等は
驚き以外の何物でもなかった。
ここで生きてきた、というオーフィスの言もそうだが……彼女以外にもまだ生まれ育った存在が居るという、その事実に。同時に“無限”という大層な名前が付けられる、その所以がこの空間にあるのだと納得してしまう。この異常空間で生き延びるには、それこそなにかしらの異能が必要となるのだろう。
生まれた時より強者足り得る要素があるのだから、相応の努力鍛錬を積めば世界を取ることなど容易いだろう。あるいは“強者”であるからこそ鍛錬が必要ないのか。どちらにせよもったいないことである。
「あまり、今のお前が長居する場所じゃない」
忠告の様なものをしてくるオーフィス。彼女の発言をまっすぐに受け止めるのなら、この空間は今の私では毒になるという事だろう。
『分かっている。こんな何もない所ではすることもない、さっさと元の場所へ戻りたい』
【――――まあまて、アジ=ダカーハ。お前には用がある】
瞳を見開く。先程まで私はオーフィスを注視していた。それはつまり背後を見ていた、ということになる。
だが、それは
【随分久しぶりだな、オーフィス。元気でやってたか?】
それを一言で表すのなら、“紅蓮”という言葉が真っ先に思い付く。
全身を鮮やかな紅蓮に染め上げた巨躯のドラゴン。その鱗一つ一つが帯びる絶対強者としての風格。その瞳は全てを見透かすような輝きを持ちながら、深淵の様に取り込まれそうな色合いを持つ。顔の表面から生える一角は見ているだけでも凶悪な切れ味を持つことが分かり、地球程度の質量を持つこの身体など容易く切り裂かれるだろう。
突然幻の様に現れたこともそうだが、なによりもその身体に宿す力の質がオーフィスを超えている。“無限”を超えるなど起源的に考えれば有り得ない事だが、この世界は恐らくそういう“ありえない”ことが許される世界なのだろうと思考する。
そんな私の思考を他所に、そのドラゴンはオーフィスと会話しようと言葉を発したが……
「…………………………」
当の本人(本龍?)が無視を決め込むうえに、紅蓮のドラゴンを睨み続けていた。
【…………なんで俺睨まれてんの?】
『知らん』
【ですよねー】と悟ったような表情でオーフィスを見ていった紅蓮のドラゴン。分かってるなら最初から問うな、と言いたいが、心の内に留めておく。
何気なく持ちっぱなしだった槍を地面に突き刺し、ついでとばかりに用は何だ、という意思を込めて睨みつける。悪業しかやることがなくとも、
【まあオーフィスについては触れないでおくか。触らぬ神に祟りなんとやらだ】
そこまで言ったなら最後まで言えよ、と思った。思うだけで口には出さないが。
“これ”の言に振り回されてたらいつまでたっても会話が終わらない、と本能的に察知した。いつかの
【――――さっさと用件を済ませろ、という視線が痛いのでさっさと進めるとしようか……】
『………………………』
残念そうな表情……というよりは雰囲気でオーフィスに向けていた視線を此方に向けた。その光を帯びながら闇も帯びている翡翠の瞳はとても大きく、今の身長程度の大きさを持っていた。縦に長い瞳孔を見つめつつ、どうしてか目つぶししたくなる衝動を抑える。本当に謎である。
【まず用件は三つある。一つはオーフィスからも聞いているだろうが、お前を見定めることだ】
瞬間、握り拳を作る。だが紅蓮のドラゴン目掛けて飛びかかるような真似はしない。
それを疑問に思ったのか、紅蓮の龍が話題を中断して問うてきた。
【……オーフィスの時は理由も聞かず暴れたが、今回は耐性が付いたか?】
『二度も同じことを言われては、聞かざるを得まい。そこにどんな理由があり、どういう意図でその発言をするのか、私はそれを聞かねばならん。下らん案件だったら貴様と龍神諸共この場で殺すつもりだがな……』
発言するとともに殺気を混ぜた視線を紅蓮のドラゴンとオーフィスに送る。
オーフィスは案の定無反応だが、紅蓮のドラゴンは違った。
【あー待て待て待て、今ここでお前と取っ組み合いするつもりはねえよ。これからもな】
紅蓮のドラゴンの発言を聞き流しつつ握り拳をほどき、腕を組む。
どのみち彼らとは雌雄を決する時が来るだろう。己はこの世の何よりも罪深い、
【聞いてねえなお前……】
『いずれ敵対するだろう貴様の言など聞く気はない』
【……まあいい。なら一つ目は後回しとして、二つ目の用件を言おう】
己の発言を聞いた紅蓮のドラゴンはこれまでの少しふざけたような雰囲気から真面目な空気を漂わせた。
【お前の傍らにある、それについてだ】
そう言って紅蓮の龍は私から視線を外し、そのすぐそばを見た。
――――傍らにあった、ブリューナクに。
『……これがどうした』
【どうもお前達は思い違いをしているらしいのでな、それを訂正してやろうという親切心だ】
ピクリ、と指が動く。あの龍はブリューナクについて此方が決定的に間違っていると良い、それを訂正しようと言う。普段ならばそんな言など聞き流すが、話題が話題だ。謎に思っていた部分もあるのは確かであるし、なによりどこか見落としている部分がある気もしていた。
故に私は、目の前の龍の話を聞くことにした。視線で続きを催促すれば、ニヤリと口に三日月を描いた。
【では教授してやる。ついでだ、オーフィスも碌に働かせないその頭フル回転させてよく聞いとけよ】
先程から無視を貫くオーフィスに釘を刺した龍は、一つ息を吸ってから口を開いた。
【お前達がブリューナクだと思っているその槍は、確かに“ブリューナク”ではある。だが
「……? ブリューナクはルーの槍のはず。何が違う?」
オーフィスは理解できないようで首を可愛らしく傾げた。その姿を右の首の視界に納めつつ、龍に続きを促した。
漸く会話してくれたことがうれしいのか、龍の口は僅かに三日月を描いていた。
【正確には、“あるもの”の雛型として模されたのがそのブリューナクだ】
『あるもの?』
【あぁ。最もお前は知らなくて当然だし、こっちに帰って来てもそこら辺を漂わずにその場で眠るオーフィスも知らんだろうがな】
「答えは?」
【いきなり答えを言うんじゃあつまらんだろう。一種のクイズだと思って謎解きしてみな】
「…………グレートレッドのバカ」
【言われ慣れたぞ、それ。もうちょっと引き出しを増やしてから出直して――――】
「赤トカゲ、最強ボッチ、盗み見変態、からかい中毒者、いつも一人で寂しがるわりに表に出てこないヘタレ【お願いですからもう勘弁してください俺が悪かったですハイ】
二人(二匹?)の戯れを聞き流しつつ、さて、と思考を回転させる。
龍――――オーフィスの言葉を信じるなら、グレートレッドと呼ばれる龍の言う事をそのまま受け取るのなら、光を失ったブリューナクは正確には“ルーの槍”ではないという。そしてこのブリューナクは“あるもの”の雛型、あるいは原型とも言うべき存在である。そして
アジ=ダカーハの知識量は“術”のつくものであれば何でも内包されていると言ってもいい。その知識量をもってしても知らないと断言されてしまえば、たどり着く可能性は一つ。
この世界独自の技術、あるいは代物であること。
情報こそ少ないものの、この程度の謎かけであれば容易に回答を求められる。あのサラマンドラの女のゲームの方がまだ歯ごたえがあった。
【ゴホン……まあアジ=ダカーハの方は答えにたどり着いたようだし、答えを言うとしよう。
あのブリューナクは“
『
【そうだ。聖書の神が造りだした、人間でも人外相手に立ち向かえるような力の塊、それが
数瞬の思考を挟み、私は口を開く。
『つまり、ニムロドが持っていたこの槍はそのプロトタイプの一つである、と?』
【いや、
グレートレッド(仮)の言葉を聞きつつ、思考と仮説を並び立てる。
アレの話を聞く限りでは、
仮に神々さえも滅ぼすような代物だった場合、多少なりとも警戒しておくことに越したことはないだろう。
【でだ、要はヤハウェによって一から創られたのがそのブリューナクなわけだが……】
『……なんだ』
急に歯切れが悪くなるグレートレッド(仮)。何故かその後の言葉に嫌な予感がひしめいた。
【プロトタイプなだけあって不完全な代物でな、通常の
最も異なる点は所有者を選ばない事だ。つまり人外でもそれを扱うことができるんだが、人外では真の力を発揮することは難しい。元々が人間用に作られたものだから当たり前だな。次に所有者のその時々の意思によって、纏う光の色が違う事だな。喜びなどの正の感情であれば白に近しい色になり、憎悪などの負の感情であれば黒に近しくなる。
そして所有者が死んだとき、
なにやら不穏な言葉がグレートレッドの口から出てきた。だが箱庭の世界にも所有者の魂を喰らい力を得ていく
【これは
『………………………』
三つの首全てを使って辺りを見渡す。やはりというべきか、そこに存在していながら皆すべからく死んでいる光景しかなく、ある種のおぞましささえ感じ取られる。そんな光景の中、オーフィスが暇そうに地面に絵を描いている光景はとてもシュールであった。
そんなオーフィスの頭をつまみ、己の眼前へと持っていくグレートレッド。
【お前はなんで地面に絵をかいてるんだよ】
「暇だから」
【俺、頭使えって言ったよな? 言ったよな!?】
「そんなことよりお腹減った」
ブチッ、と何かが切れる音と共に大怪獣戦争(うち一匹は人型)が勃発した。
『………………………ハァ』
自然とため息が出た。
アジ=ダカーハは伝承でも、三つの首を持つドラゴンとして描かれている。事実アジ=ダカーハは三つの首を持ち、その醜悪さは(外見上は)同じ龍種からみても嘔吐感をもたらし、高位な神々さえも嫌悪感を露わにするものだろう。しかし考えてみてほしい。首が三つあるということは、単純計算でも頭が三つあることになる。それはつまり、
アジ=ダカーハはその三つの頭のうち一つを使い、次元の狭間に訪れた経緯を考えていたのだ。
槍を手にしたその時から今までずっと。
そしてグレートレッドが発したある言葉によってその思考は急速に纏められ、一つの答えにたどり着くまでに至った。
すなわち、
目の前の大怪獣戦争を観つつ、アジ=ダカーハはボンヤリと思考する。
(気を抜いていたとはいえ、
まだまだ精進が足りない、と気合を入れつつ、アジ=ダカーハは目の前の喧嘩を止めるために一歩踏み出した。
喧嘩を止めるアジ=ダカーハの図
閣下「イヤーッ!!」
ムゲンs「グワーッ!!」
終わり