あの男が死んだことを、魂魄妖夢は納得した面持ちで聞いていた。
それ自体に驚きはない。この前自分を訪ねてきたのはそういう目的だったのだし、あの男は適当そうに見えて生きることと死ぬことに対しては真摯で誠実だ。
その程度ならば、あの愚直極まりない剣閃を受けた身として理解が出来る。
ただ、それを伝える役目を主である西行寺幽々子の友人、八雲紫がこなしていることには少々驚いた。あの男の神出鬼没には彼女が一役買っていたのか。
相変わらず掴みどころのない雰囲気をしていたが、身にまとう道士服は黒く染められており、喪服としての意味を持っていることに妖夢は気づく。
「――そうして、あの男は死んでいったわ。何が面白かったのかはわからないけれど、最期まで嗤っていた」
話を聞いたのは妖夢一人だった。紫は幽々子相手に聞かせるべきじゃないと言っていた。
妖夢が紫と幽々子の話から仲間外れにされることはあっても、逆は初めてなので驚きを隠せない。
「あの子は……昔から剣鬼の知己なのよ。だから教えるのは忍びない……いいえ、ここは本心を語りましょうか。――あの子に剣鬼の死を喜んでほしくないのよ。我がままだけれど」
「……随分と買われているのですね、あの男を」
「一番最初にあの男の剣に惚れ込んだのは私よ。最低の男だったとは私も思うし、あなたにとっても良い印象の相手じゃないだろうけど」
素直だなあ、と内心に感嘆を隠す。ここまであけすけに自分の感情を語る紫など初めて見た。
それだけ剣鬼に対して誠実であろうとしているのだろうか。
「ええ、まあ、それはもちろん。口はばかることなく言えば憎んでいます。奴を許すことは生涯あり得ません」
「そうよね。でも、私はあなたに伝えようとした。どうしてかわかる?」
「剣を交えたから、でしょう?」
普段なら紫の考えていることなど殆どわからない。だが、今は考えている相手が同じだからか、不思議と理解が出来た。
あの男の剣は魔性だ。
実際に戦ってみてわかった。剣鬼の振るう刃は本人の性格とは似ても似つかぬほど愚直で、誠実で、一振り一振りに込められている苛烈な意志を感じ取れてしまう。
もっと上へ、まだ上へ――自分にも想像できない頂を。
剣を振っていた本人は最期まで知らなかっただろう。相手を煽り、時に憎しみまで植え付けてまで強者を求めていたあの男と、実際に剣を交えたら憎しみが薄れてしまうことなんて。
同時に魅了される。妖夢の祖父ですら例外でなく、いやむしろ剣の技量があるからこそ魅入られる。
この男と刃を交えたらどこまで強くなれるのか、夢想してしまう。
「……まあ、ハッキリ言ってバカだと思います。自分にも想像できない剣の果てなんて、あるわけないじゃないですか。もう並ぶ者がいないのに、上を目指し続けても果てなんてありませんよ」
「そうね。私も何回笑ったか数知れないわ。その度に殺されかけたけど」
だが――本気だった。
そのために全てを投げ出し、そのために全てを踏みにじり、そしてその願いに恥じない生き方をした。
悪逆非道も行った。誰かの大切な人を斬って捨てた。しかし――畜生に落ちることだけはなく、彼なりに真っ直ぐ生きてそして死んだ。
「……私はあの男を憐れだと思っています。だってあの男は、何かを斬らなければ自分の剣を確かめられなかった」
「そういうものじゃないの? 剣は相手を斬って初めて意味を持つ」
やはりというべきか、八雲紫という女はあくまで妖怪であって、妖夢のような剣士じゃない。だから剣鬼を憐れと断ずるその意味がわからない。
「いいえ。何かを斬らずとも、自分の剣こそ最強であると示す方法が私にはあります」
「それは、今一度あの男を前にしても言い切れる?」
「もちろん。あなたが相手でも言い切れます」
自信を持っている。剣鬼の振るう刃を知ったからこそ、自分の剣に価値が有ることを理解した。それは――
「――幽々子様がそばにいる。それだけで私は誰にも負けない剣士でいられます」
かつて妖忌が気づけなかった、大切なものを守るための剣だった。
「……幽々子は良い家族を持ったわね」
妖夢の宣言を聞いて静かに紫は笑う。これが剣鬼の与えた影響――否、妖夢自身が掴み取った答えだ。
剣鬼が生きていれば、声高に妖夢の覚悟を賞賛していただろう。その後斬りかかる。
「良い答えも聞けたし、そろそろお暇するわ」
「幽々子様には一声かけられないのですか?」
「……今日はやめておくわ。あの男の死を喜べるようになったら、今度は酒でも持って向かうことにする」
「そうですか。その時は私にもお声掛け下さい。あの男のやらかした所業を余すところなくお伝えしますよ」
きっと愚痴ばかりになるだろうけど、死んだ彼もそれを望むだろう。
悪鬼羅刹の鬼畜外道と自己を定義していた存在が、死後に良い方向にばかり語られるのは受け入れられないと言って。
「それは楽しみね。じゃあ、また」
「ええ、幽々子様には私からお伝えしておきます」
「お願いするわ。剣鬼が死んだのは、あなたの口から伝えて」
「はい、わかりました」
スキマに消えゆく紫を見送ると、妖夢は彼女が飲んだお茶を片付けてから幽々子に探しに行くのであった。
話を聞いた妖夢が驚いたのは、幽々子自身も剣鬼との付き合いがあったことだ。てっきり妖夢と同じ回数ぐらいしか会っていないのではないかと思っていた。
「幽々子様もあの男を知っていたのですか?」
「妖忌に粉をかけていたもの。付き合いそのものはあなたより長いわ。ひょっとしたら妖忌より――」
そこで幽々子は言葉を切る。遠い何かを思い出すように、あるいは決して思い出すことのない過去に思いを馳せるように。
「――いいえ、推測を語るのはよしましょう。ともかく、私はあの男のことは多少知っていたわ。彼も滅多にここまで来ないから、本当に付き合いは少ないけどね」
「幽々子様……」
主にとって妖忌と剣鬼、どちらも知己だったのか。
ならば――妖忌が死んだと聞いた時、彼女の胸中を占めた感情は筆舌に尽くしがたいものに違いない。
そしてただ一人残された妖夢も復讐に燃え、それを危うく喪うところだった、あの瞬間の心境はどういったものなのか。
そして――その感情を抑え込んで自分を応援してくれた、この主の器の広さは自分ごときで足りるのか。
自然と頭が下がる。復讐のため、祖父の剣こそ最強であるという証明のために磨き続けていた、未だ半人前も良いところな自分だけど。
「妖夢?」
「――私は強くなります。お師匠様も超えて、強く」
「……妖夢、私はあなたに強くなんてなってほしく――」
ない、幽々子はそう続けるつもりだった。
だってそうだろう。妖忌は剣士として強かった。強かったがゆえに、剣鬼という自らを超える剣士に挑まずにはいられなかった。
妖忌が剣鬼に勝負を求められる度、彼に心惹かれているのを幽々子は見抜いていた。見抜いた上で、幽々子は妖忌を引き留めようと家族として精一杯愛した。
かけがえのない家族と、くだらない勝負事。どちらを取るかなど、真っ当な判断ができるものならば明白だろう。そう信じてやまなかった。
――だから彼は手の届かない遠くへ逝ってしまった。
妖忌の死を剣鬼の口から伝えられた時、思い知ったのだ。男というのは根本的に馬鹿な生き物で、時に大切なものすら投げ出してしまうことを。
故に強さなど不要。なまじ強いから、危険な場所に行ってしまう。そしてまた自分を置いていくのだ。
そうなってほしくなかった。だからこその言葉を言おうとして――
「そして、幽々子様を守ります。師匠がやりたくてもできなかったことを、私がやってみせます」
妖夢の言葉に、思考と共に遮られる。
「…………」
「……あれ? 幽々子様?」
絶句している幽々子に、妖夢は自分の言葉が場面を外していたかと一瞬だけ不安になる。
一瞬で済んだのは、幽々子が妖夢の身体を抱きしめたからだ。
「ゆ、幽々子様!?」
「……ありがとう、妖夢。あなたの言葉で救われたわ」
剣鬼の言葉では理解できても実感はできなかった。だけど、妖忌の孫娘である妖夢の口から聞いてようやく実感がやってきた。
遠くへ逝ってしまったけれど、彼を家族として愛したのは決して無意味ではなかったのだと。その思いは妖夢に受け継がれているのだと。
「あぁ……」
息が零れる。今度こそ手放さないという願いを込めて、幽々子は腕の中の小さな従者を抱きしめる。
「ありがとう、妖夢……」
「……私は幽々子様の剣であり、盾であり、家族ですから」
半人前であっても、その意志だけは誰にも――あの男にだって負けやしない。
妖夢と幽々子は静かに抱き合って、その家族としての暖かさを確かめるのであった。
誰もいない道場で、妖夢は二刀を虚空に向かって構える。
「…………」
相手もおらず、素振りぐらいしか出来ない空間。
しかし妖夢の表情に浮かぶのは明確な殺意であり、相手を滅殺せしめんとする強靭な意志。
「――はっ!」
短く、鋭い呼気と共に踏み込みが右斜に伸びる。
実戦を想定した動き。相手の攻撃を避けながら懐に潜り込もうとするそれは――
「っ、きゃあっ!?」
何かに弾かれたように吹き飛ばされ、呆気なく打ち破られる。
空中で体勢を立て直す技術には熟練のそれが感じられ、妖夢は瞬く間に体勢を整えてクルリと着地する。
警戒すべき追撃はない。
「ふぅ……一歩前進」
一瞬の動きの中に、妖夢の体力の殆どが注がれていた。大粒の汗を垂らしながら、二刀をダラリと下げて妖夢は息を吐く。
さながらそれは相手との激しい稽古を行った後のようだった。
だが――改めて言うが、この場には彼女以外の誰もいない。静寂が支配する空間だ。
にも関わらず、妖夢はまるで誰かと戦っているかのような動きをして、そして実際に吹き飛ばされていた。
「……実のところ、まだ実感沸かないのよね」
妖夢は誰もいない――否、彼女にはしっかりと見える誰かに向かって声をかける。
成人男性にしてはやや高めの身長。
頭に編笠を被り、着ている服はボロ布に近い着流し。
腰に佩いている刀はお世辞にも名刀とは言えないもの。白玉楼にあるどの刀よりもナマクラと言えた。
顔立ちはわからない。皮肉げに笑っているのか、妖夢の成長に喜びを覚えているのか。
……まあ、妖夢がこの男に求めているのは顔ではなく、その剣術のみだ。顔がわからなくて不便は感じない。
――見間違えることのない、剣の鬼が妖夢の視線の先にいた。
「…………」
剣鬼は一定の場所に佇んだまま動かない。ただ無言で剣を脇構えに持ち、いつでも妖夢の首を刈り取れるようにしているだけだ。
それもそのはず。この男は妖夢が見る限り、全く同じ動作しか繰り返さないのだ。
脇構えからの首狙い。あの日の戦いの最後に振るわれた剣閃を、壊れた機械のように繰り返す存在。それが今、妖夢から見えている剣鬼だった。
「……あの日からずっと、少しでも気を抜くとお前が見える」
網膜を通して頭に、頭から心に。まるで烙印のように剣鬼の一太刀は妖夢に宿り、今なお彼女の前に立ち塞がっていた。
たとえ剣鬼が朽ち果てても、妖夢に見せたあの一閃だけは色褪せることなく、妖夢の中に残り続けている。
剣術の師であり祖父である妖忌が、自分たちのもとを離れた理由もわかるのだ。これを四六時中見せられて、実物相手に試したくなるのは痛いほどわかる。
この斬撃を越えた時こそ、妖夢は本当に師匠を越えたと胸を張ることが出来るのだろう。
「お前が死のうが生きようが、私には関係がない。だって――今でもお前は私の前にいるのだから!!」
己の心に焼き付いた剣鬼を討ち倒すべく、妖夢は二刀を振るい続けるのであった。
「ねえパチュリー、何か面白い本はない? この辺りの本はもう読んじゃったわ」
「……無理を言わないで欲しいわね。畑違いの剣術指南書なんてそんなに数がないのよ。あそこにあったので全部よ」
「ちぇー」
宝石の羽をパタパタと動かしながら、フランドールはつまらんと言うように床に寝転がる。
魔法の本は読んでも大して心動かされない。昔は目を輝かせていたというのに。
「それにしても……どういう風の吹き回しかしら。妹様が剣に興味を持つなんて」
パチュリーは書き物をしていた手を止めて、フランドールに視線を向ける。
「んー……自分でもよくわかんないけど、剣を見ていると胸が熱くなるの。イライラとも、壊したくなるようなムカムカとも違う。
もっと……負けたくない、まだ戦える! って胸がザワザワするの。それが何なのかわからなくて、調べている所」
「…………」
自分の感情を持て余すフランドールを、パチュリーは複雑な顔で見つめていた。
あの日――誰にとっても悪夢で、同時に停滞した屋敷を動かす奇貨となった日。フランドールはいつ覚めるとも知れぬ眠りについた。
眠り自体は比較的早く、半年程度で覚めた。まあそれは良いことだが――いくつか彼女には変化があった。
一つは非常に落ち着きを得たこと。以前も比較的落ち着いてはいたのだが、何が切っ掛けで狂気に落ち果てるかわからない部分があった。
それが鳴りを潜め、何かと騒がしいレミリアより上に立つ者としての風格が出てきたようにすら思える。
もう一つは、あの日の記憶をフランドールは一切覚えていなかったこと。剣鬼と話した内容、激しく交わされた互いの狂気。そしてその結末。全てを彼女は忘れていた。
これは主人であるレミリアの意向で教えないことに決まった。下手に思い出させて変な刺激を与えるのは避けたかった。
だが、彼女の何かが未だ剣鬼のことを覚えているのか、フランドールは目が覚めて以来、何かを求めるように剣術の指南書を読むようになった。
実際に剣を振るうわけではなく、ただ知識としてそれを頭に入れては納得の行かない顔で次の本を読む。そんな日々に没頭していた。
「ところでパチュリーは何書いてるの? 魔法の理論じゃないよね」
「……少しだけ興味のある研究テーマがあってね。魔法使いというのは例外なく、理論で世界を眺めている。全ての事象には原因があり、過程があり、結果がある。これを覆すことは基本的にない」
「魔理沙も?」
「ええ。あの泥棒はあれでしっかり理論に基づいた魔法を使うわ。なんだかんだ努力はしているのでしょう」
魔法は勘で扱える分野じゃない。豊富な知識とそれを用いる演算能力。そして自らの力で世界を切り拓くという意思がなければ魔道の闇に呑み込まれてしまう。
「でも……それは魔法使いが世界の全てを知っていることと同義ではない。既存の真理では読み解けない事象も確かに存在する」
「パチュリーでもわからないことってあるんだ」
「わからないことだらけよ。でなきゃ本なんて読まないわ。で、これはその一つってわけ」
パチュリーが指差す紙の上には無数の字が踊っており、それだけこの少女があらゆる理論を用いて、問題を解き明かそうとしているのだということがわかった。
「どういう問題?」
「――道理を越えた先にある力とは、何か。結構昔に面白いものを見たのよ。読み取れるスペック差は絶望的どころか戦いにすらならないってくらいなのに、その圧倒的弱者が強者を打ち倒す結果を」
結構昔、と言ったのはパチュリーなりのささやかな嘘であり、伝えないことを決めたレミリアへの義理でもあった。
「パチュリーが読み取れなかった部分に強さがあったんじゃない?」
「その可能性ももちろんある。確かにその存在はとある一芸において、凄まじい練度を持っていた。……でも、それだけでは結果に何の影響も与えないはずなのよ」
過程と結論が咬み合わない。剣鬼は剣を振って、本来届くはずのないフランドールの分身を斬り飛ばし、挙句の果てにフランドールの狂気だけを斬ってみせた。
常識的に考えて、ただの剣一本で出来て良い現象ではない。白玉楼の庭師のように特殊な剣を持っているならまだしも、彼の持つ剣はそんな特異性もなかった。
「何らかの能力が行使されている可能性を考えた。でも無から有は生み出せない。仮に――あくまで仮に斬りたいものを斬る程度の能力と付けましょうか――」
他者に話すことにより思考が整理されたのか、パチュリーの口がなめらかに動いて新説を作ろうとするも――
「違うよ」
「ん?」
「それは違う。理由はわからないけど、確信がある」
フランドールが静かに、それでいて確信を持った表情で断言する。
「妹様、記憶は……」
「何も思い出せないけど、それだけは否定しなきゃいけない。そんな気がしたの。……お姉様に言われて隠そうとしたんでしょ」
「……レミィの言葉が正しいと私も賛同した。問い詰めるのは私だけにして」
「お姉様は良い友だちを持ったね。怒らないわよ。それに、私も思い出したと言っても少しだけだから」
その紅玉の瞳を細め、遠くを見るように――追憶に浸るように何かを見る。
「私は誰かと戦った。そして今の状態になった。わかるのはそれぐらいで、それ以上を知る気もない。ただ――その誰かが振るっていたのは紛れもなく自分で磨いた力。決して能力やそんな言葉で片付けていいものじゃない」
「……そうね。能力と言えば何でも片がつく、というのも魔法使いとしては面白くないわ。やはり謎は解き明かしてこそなのよ」
熱意を燃やすパチュリーにフランドールは微かに笑う。と、その時だった。
「パチェ、お茶でも……って、フラン、あなたもいたの」
「あ、お姉様。暇なの?」
「暇って……一応雑務は片付けたわよ。咲夜が」
「完璧で瀟洒なメイドって凄いのね」
率直に思う。自分の世話に来た時に労ってやろうと内心で決意するフランドールだった。
「それで……えーっと……だな」
あの日以来、いくつかの物事が変化した。
だがその中でも最も大きいのは――
「フラン、一緒にお茶でもしない? あなたの話を聞かせてほしいわ」
レミリアが妹との時間を、一日にある程度は必ず持つようになったことか。
狂気だからと遠ざけ、目をそらし続けてきたそれに、レミリアは決して器用とは言えないけれど、向き合おうと努力を始めたのだ。
「うん、お姉様! 示現流の真髄を教えてあげる!」
「いやそれは遠慮したいなーっというかパチェ、逃げるな!」
「姉妹水入らずの時間を邪魔するほど無粋じゃないわ。どうかお幸せに」
わざとらしい事この上ない仕草で目元を拭い――目薬が見えた――ながら去っていく薄情な親友を見送り、レミリアは諦めた顔で力なく笑う。
「はぁ、どうして私の妹は剣術オタクになっちゃったのかしら。咲夜ー」
「なんでしょうか、お嬢様」
「紅茶を二つとお茶菓子をちょうだい。長くなりそうだから、多めにね」
「かしこまりました。パチュリー様の分はいかがいたしましょう?」
「来たら親友からのプレゼントって言ってわさび入りの紅茶でもあげといて」
「承りました。ですがわさびは在庫が希少ですので、醤油直飲みでよろしいでしょうか」
「やだメイドの発想が私よりエグい」
「インク混ぜたら?」
「それはいじめよフラン。私が見たいのはパチェの涙目であって、泣いてる姿じゃないの」
あんなにわざとらしく涙目を作ったのだ。親友として本物の涙目とはなんたるかを教えてやろう。うむ、私は良いことをしている。閻魔様も拍手喝采間違いなし。
などと自己完結をした後、レミリアは注がれた紅茶を片手にフランを柔らかな笑みで見る。
「さ、話して。あなたが何を好きで、何を嫌いか。私も教えるから、フランも教えてちょうだい?」
「うん!」
誰にも邪魔されることのない、穏やかな時間がそこにはあった。
これを成し遂げたのは彼女ら自身の強さであり、選択の結果だ。あの男のおかげ、などと言うことは口が裂けてもないだろう。
かくして少女の狂気は消え失せ、吸血鬼の館には温かな幸福が訪れたのであった。
「次は、私が勝つけどね」
「フラン?」
「なんとなく、言わなきゃいけない気がしたの」
「誰に?」
「――もうどこにもいない人に、かな」
思いついたので書いてみました。文体が違う? 気のせいだ(強弁)
みょんちゃんは心に焼き付いた残滓に打ち勝つべく修練を積み上げ、フランちゃんは大半を忘れていますが、それでも剣術に対して興味が出ている状態です。
自分で振るうことはないでしょうけど、それでも剣を使うものに対する評価は超厳しくなります。あの一戦で目が剣術への審美眼が尋常じゃなく肥えている。
その他の人? 気が向いたらな!