フェイル   作:フクブチョー

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第六罪 力の片鱗

第六罪 力の片鱗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に踊る危険種を一刀の下屠る。だがまるで気は抜けない。どこから溢れているのかわからないが、危険種の数はいまだ数え切れない。ババラは苦戦していた。

 

闇の中で標的を消すのはこの老婆と少女には造作ない事であった。

だが唐突にどこかの扉が外れるような音が響き、次の瞬間、闇の中で躍動する獣達が殺到した事により、流れは一気に変わった。

 

危険種達に敵味方の区別はない。誰彼構わず食らいつき、その命を奪う。対して自分達はリストにあった人間は守りつつ、この危険種達と戦わなければならない。

さらにこの危険種達は通常とはまるで異なる存在だった。

強さも勿論だが、なにより見た目がおかしい。異なる獣と獣が混ざったような姿をしており、胴を両断した程度ではすぐには死なない。地面を這いずりながらも牙を突き立てる。腰を抜かしている文官達にとっては胴から下がなくとも充分に脅威たり得る。

 

ーーーーロクでもない実験の試作品かねぇ……

 

顎を潰しながら思考する。帝国の狂った研究の一つである動物実験など腐る程見てきた。ここまで異常な技術が必要な物は初めて見たが、現象は理解できる。

 

「ババラ!!」

 

後ろから 迫る危険種には気づいていた。今のタエコからの警告はその事ではない。

 

地面が大きく揺らぐ。地面というよりは屋敷が揺れたのだろうが体感では変わりない。衝撃に一瞬気が取られる。

 

戦場で命を失うには充分過ぎる隙だ。

 

ババラに危険種達が上空から殺到するーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、まだ生きてるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハズだったーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズチャと雫が落ちる嫌な音。煌めく刃は危険種達を一太刀で両断していた。

 

ババラの前に立つのは背中に茶髪の少女を背負い、大剣を右手に持った緋い戦士。

 

続いて黒髪ボブカットの少女が地下から現れる。全速力で駆け抜けたのだろう。その息は荒い。

 

「遅い!何をやっていた!」

 

「おまっ助けられといてその言い草……」

 

ブンと血飛沫を払いつつ剣を肩にかける。呆れたような言葉をババラに向けながらも、視線は危険種達に向けられている。こいつらの異常性は先の一太刀で気づいている。

 

「ヴァリウス!」

 

タエコが駆け寄ってくる。フェイルの背中に立ち、細身の剣を構え直す。

 

「おう、どうやらややこしい事になってるくせえな、弟子。具体的にどういう状況だ?三十字以内で簡潔に述べろ」

 

「無理です!」

 

「じゃあババラ、こいつらの特徴は?明らかに普通じゃねえだろ、三十字以内で簡潔に述べろ」

 

「何だいその出題形式!気に入ってんのかい!やめなウザい!私も詳しくはわからんよ。少なくとも胴を両断した程度じゃ死なない、コイツら」

 

「なるほど、それで顎を潰してるワケか」

 

「分かったらサッサと手伝ーーーー」

「バーナーナイフ、Lv.1。湧きでろ、アカイヌ」

 

ババラのことばを遮り、手に持った大剣から赤い炎が発せられ、フェイル達の周囲を覆う。その炎の波から犬のような猫のような、炎の獣の姿が湧き立つ。ブンとフェイルが大剣を一振りするとアカイヌと呼ばれた炎の獣達は危険種の群れに襲いかかり、噛みつく。

断末魔を挙げながら危険種達が燃え散らされていく。いかに強力な生命力を持とうと骨まで燃え散らされては生きてられるハズがない。

10程の時間が立つと危険種達は灰になった。

 

自分達があれ程手こずった敵を帝具の力が大きいとはいえ瞬殺。

そしてこれ程の力を持つ帝具だ。扱いの難しさが並でない帝具の中でも最高クラスの難易度に位置するであろう武器をこうも軽々と使いこなす目の前の男に戦慄する。

 

「この程度に手こずっているようではまだまだ」

 

バーナーナイフの能力を解除する。炎を纏った剣は通常の大剣に戻った。腰に剣を収める。

 

「……………流石」

 

「おお〜、お見事。瞬殺じゃん」

 

恍惚とした表情を浮かべるタエコとファンの傍ら、フェイルの背中に乗った少女は飴玉を咥えながら遠くを眺めるように手でヒサシを作る。

 

「おい、いい加減降りろ。もういいだろう」

 

「やぁだ❤︎気に入ってるの、ココ」

 

猫が甘えるように緋髪の青年の背中に頬をすり寄せる。逞しく、柔らかく、力強く押し返してくる筋肉質な背中が心地いいらしい。

その姿をタエコとファンがジト目で見ているのが可愛らしい。

 

「その子はなんだい?知り合いかい?」

 

「さっき拾った。まあ今回の俺の情報屋みたいなもんだ」

 

地下の異常性に気づいたチェルシーは再び調査に潜ったらしい。その時、この危険種の姿を見てしまい、捕らえられ、牢獄に転がされたそうだ。

 

「コレで終わりか?」

 

「私が知る限りはこれくらいかなぁ。でも私を使ってなんか実験しようとしてたっぽいしまだあるかも」

 

「そういえばさっき屋敷が揺れたの。原因は何か知っておるか?」

 

「まあこれ以上の化け物が現れる事はないだろうけど」

 

段々と戦闘モードをOFFにしていく最中、大広間のエントランスが破壊される。その爆風や瓦礫がパーティ会場に飛び込んできて、中にいた戦士達も動きが止まる。

 

乗り込んできたのは全長10メートルはあろうかという人型の巨大危険種。腕は機械仕掛け、額には人間の上半身のような物が飛び出ている。

 

「あーあ。チェルシーが余計な事言うから」

 

「わ、私のせいじゃないでしょ!!」

 

竜の鳴き声のような咆哮が闇夜に轟く。それが合図だったらしい。

全員が弾かれたように動く。タエコとババラはリストにあった人間達を救出し、会場の外へと退避し、フェイルとファンは巨大危険種に向かって跳躍した。

 

「お師様!ドコを狙えば?」

 

「足下!アキレス腱を狙え!取り敢えず一度コカすぞ!」

 

「はい!!」

 

危険種のスタンプを躱しつつ、足下へと潜り込む。踵の少し上をめがけて槍を突き通す。

 

ーーーーなっ!?

 

体重を乗せて放った一撃は想像以上に硬い手応えで弾き返される。師も同じような状況らしい。片手で振るった大剣が弾き返され、少し仰け反っていた。

 

ーーーー堅いな……

 

バーナーナイフを起動すれば斬れるだろうが出来ればソレはしたくない。俺一人ならともかく、背中のチェルシーがバーナーナイフの高熱に耐えられるとは思えない。

 

ーーーー焼切り(やぎり)をやるにはLv.2まで起動する必要がある。Lv.1はただの炎だから使えたけどそれ以上は背負いながらじゃ使いにくい。

 

全力で動けば斬れない事もないだろうがそれは出来ない。そんな事をすればたちまちチェルシーは緋の狼の背中から振り落とされるだろう。そしてこの少女は戦闘に関して素人だ。この鉄火場に置き去りにするのは忍びない。

 

スタンプが再び繰り返される。加減をしながら躱し、考えを張り巡らせる。

 

ーーーー斬れずに倒すなら重心を崩さなきゃならん。それさえ崩せれば子供でもコカせられる。

 

「湧きでろ、アカイヌ」

 

炎の獣が再び湧き立つ。パチリと指を鳴らし、足に噛みつかせた。一気に足下から炎が燃え上がる。炎を見たのは恐らく初めてなのだろう。致命傷ではないだろうに熱さと痛みに動揺していた。

 

「焼狼(しょうろう)」

 

アカイヌとは比べものにならない大きさの炎の狼が剣から放たれる。その炎はまっすぐ上空へ打ち出され、危険種の顔面へと食いついた。それと同時にフェイルも跳躍する。

 

「グォ……」

 

顔面を襲う熱に、一歩下がるため足をあげる。その瞬間を逃さず胸元に凄まじい威力の蹴りをカマす。

人間を倒すのに重要なのは力ではない。体のバランスだ。柔術に力を使わずに体格の小さい者が大きい者を投げ飛ばす技があるように、重要なのはタイミングと間合い、そして重心の流れだ。

重心を崩していた危険種に後方への衝撃が加えられた。高度な知性を持たない彼に態勢を整える術はない。

屋敷の壁を派手に破壊しながら背中から倒れる。身体の上に乗り、額目掛けて駆け抜ける。

 

「喰狼(どんろう)」

 

燃え盛る顔面に向けて剣を翳す。するとまるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように赤い炎は剣へと集束されていった。

 

紅く輝く剣を振りかぶり、額に飛び出ている人間の上半身へと剣を突き刺す。

 

ーーーー外がダメなら中からだ。

 

「キメラだろうが…………巨大危険種だろうが……」

 

 

 

 

俺の前では全てが燃える!

 

 

 

「燃え散れ」

 

体内に突き刺された剣から喰われた炎に加え、さらに新たな炎が放たれる。Lv.1の炎で皮膚から焼いた時は薄皮一枚焼いた程度だった。だがいくら外が堅い者だろうとナカはヤワい。紅く輝く剣から放たれる炎は危険種の体内を喰らい尽くし、暴れまわった。

 

目から、口から、耳から、ありとあらゆる危険種の穴から炎が溢れる。しばらくのたうち回っていたが、時期に動かなくなり、最後には全身から燃え上がった。

 

トンッと何かが落ちた音が聞こえた。

 

回避するように飛び下がったフェイルが着地したのだ。黒髪の弟子が駆け寄ってくる。お疲れ、と頭を撫でてやる。

 

「終わったの?」

 

背中から声が聞こえる。燃える危険種を見ながら簡潔な一言を述べた。

彼女もこの土地のために戦っていた人間の一人だ。心中は察して余りある。

 

「取り敢えずはな、これからロードの治政が始まる。まあ悪いようにはしないだろうよ」

 

「先生、一つ聞いていい?」

 

「一つな」

 

「貴方……一体何者なの?」

 

今回の戦い、一番近くでフェイルの戦闘を見ていたのは彼女だ。その強さは素人でも充分に感じる事が出来た。少なくとも、彼女には彼より強い人間など想像がつかない。だからこそこんな所で傭兵のような真似をしている事が信じられなかった。どんな所でも高禄で召し抱えられるだろうに。

 

「なんだ、そんな事か。教えてやろう」

 

背中から下ろしながら快活に笑う。その精悍な顔から浮かぶ無垢な笑顔にチェルシーの胸が高鳴った。

 

「俺の名はフェイル。テメエの間違いを教える狼だ」

 

この人の下で学びたい、そう思った。




*まあこれ以上の化け物が現れる事はないだろうけど
この小説も死亡フラグ満載
*湧きでろ、アカイヌ
昔、火事の事を炎の形がそう見える事からアカイヌやアカネコと呼んでいた。決してマダオな声の海軍大将の事ではない
チェルシー加入〜。ヒロイン候補は今の所ナジェ、タエコ、チェルシー、エスデス、ぎりぎりファンの五人です。これから増えるかもしれませんがそれはこれからの私の思いつき次第です。それでは感想よろしくお願いします

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