ようやく区切りに辿りついた感じですかね。ここからは原作に添いながらオリジナルを組み込めたらと思っています。
「八幡、あんた国立受けてみる気はない?」
明日も学校だしそろそろ寝ようと思っていると母親から声が掛かった。
「は?」
「沙希ちゃんは国立志望みたいよ」
あいつならそうだろう。家の経済事情もあるが、同じ教育が受けれるのなら安く済む方を選ぶ筈だ。
例え掛かる労力が増えようとも厭わない。川崎沙希はそういう奴だ。
「…川崎と一緒の大学にでも行って欲しいのか?」
「なんだ。わかってるなら話は早いじゃない。
そういうことよ。嫌?」
「嫌も何も…そういう理由で進路なんて決めたら駄目だろ」
「まぁ、そうよねー
けどあんた私立希望でしょう。お母さんとしてはしっかりした娘がそばにいると安心出できるんだけどねぇ…」
「……俺なりに自分の学力とかを照らし合わせて決めた進路なんだが…」
「まぁ、あんたならそう言うと思ったわ」
なんとか納得してくれたららしい。悪いとは思うがホッとする。
「仕方ない最終手段を取るしかないようね。
八幡、あんたが国立に行けば私学との差額を自由にして言いっていえばどうする?」
「なん…だと…!?」
国立と私学の差額は多く見積もれば200万そこそこ、一番差が少ないとしても100万弱はある筈だ。
それを自由にして言いってことは…
「目の色が変わったね。うん、良かった良かった。
これで靡かれなかったらどうしようも無かったからね」
「…まだ、国立受けるとは行ってないだろ」
「いらないの?200万」
「全力で国立を目指ささせてもらいます」
呆気なく母親の思惑に乗ってしまう。しょうがないだろう。
お金には勝てなかったよ…
「但し、沙希ちゃんと同じ大学に現役合格することを条件とします」
「……わかった」
川崎はあんな見た目だがそれなりに勉強ができる。この間のスカラシップも難なく受かって見せたし、志望校もそれなりの大学だ。
俺が国立志望に進路の変更を余儀無くされたいま、川崎の志望校も候補に入るレベルだ。
しかし、国立大を受けるに当たりどうしても見過ごせない問題が一つ出てくる。数学だ。
国立大の入試には数学がある。しかも二つ、二つかぁ…
2年の初夏に差し掛かろうかという時期から始めて間に合うのだろうか。いや、間に合わせなくてはならない。200万のためにも!
頼み辛くはあるがあいつに頼むしかなさそうだ。
翌日。
「一つ依頼がしたい」
翌日、奉仕部にて早速俺は雪ノ下に頼ることにした。
雪ノ下はゆっくりとこちらに向き直った。
「何かしら?」
川崎もガハマさんもこちらに視線を向ける。
「勉強のやり方を教えて欲しい」
「何故か…を聞いてもいいのかしら?」
「あぁ、2年のこんな時期だが志望校を国立に変更することになった。
勉強を教えて欲しいと言っても主に数学になるな。他は自分でなんとかする」
「どうしたの急に?」
川崎が驚いたようにこちらに問いかけてくる。
「まぁ、いろいろあったんだよ…」
「そう、別に構わないんわ。
あなたの勉強を見て上げるわ」
「国立かぁー。ヒッキー大丈夫なの?国立って大変だよ」
馬鹿な娘に馬鹿にされた。
「失礼な、俺ができないのは数学だけだ。
国語に至っては学年3位!ちょっと数学ができないだけで後は問題無いからな」
「…参考までに一番酷かった時の数学のテストの点を教えて貰ってもかまわないかしら?」
「……9点だ」
「は?」
「はぁ…」
「に、苦手なら仕方ないよね」
ガハマさんの優しさが痛い。
「あなたその程度しか出来なくて国立大目指すなんて舐めているのかしら?」
「今まで受験に必要ないから勉強はしないで来たが状況が変わったんだ。
苦手とはいっても気合を入れるさ」
自分でも9点というには驚いたが、進学校の苦手教科だ。
高校生になって数学への理解がより求められるようになった。つまり、俺みたいな初めから勉強する気もなければ授業にも身を入れていないものには当然の点数かと当時1人納得したのを覚えている。
「…流石にそこまで出来ないとなるとどこから手を付ければいいのかしら?」
雪ノ下は口に手を当て考え込む。
俺もそれが知りたい。どこから手を付ければいいものか?それがわからない。
いっそ始めからかとも考えたが、それでいいのだろうか悩みは耐えなかった。そして苦肉の策として、雪ノ下雪乃に頼ることにしたのだ。
「いっそ始めからやるしかないんじゃないの?」
川崎が考え込んでいた雪ノ下を見て、そう発言した。
「えぇ、それが確実だとは思うのだけれども…
比企谷くんがそもそも基礎から全く駄目な場合、それだけでは不十分になるかもしれないからどうしようかと考えていたのよ」
中学生レベルから心配されていた!
まぁ確かに勉強なんて昔からの積み重ね。つまりは土台が重要になってくるわけだし当然のことだった。
「……比企谷くんのレベルを見る為にテストをすることにしましょう。
いきなり今日はなんてのは無理だから、3日後にすることにしましょう。範囲は1年時の数学全体とします。
それと中学校レベルのものと2種類のテストにしましょうか。
しっかり勉強してきてね比企谷くん」
「わかった」
「私も受けてみよーかな?なんか楽しそうだし!」
「私も…まぁ、暇潰しになりそうだし」
何故か2人がやる気を出していた。
「ちなみにテストは私が作るわ。
比企谷君の点数を考慮して、そこまで難しくするつもりはないわ。ただ基礎が出来ていなければ解けないレベルの問題だと思っていてね」
「わかった。よろしく頼む」
◆
雪ノ下に依頼をした日は週末の金曜日。
つまりテストは土日を挟んで週初めの月曜日に行われることになっている。
そのための勉強をするために俺は川崎と共に図書館に来ていた。
ここなら参考書の類は事欠かないし、何より静かだ。
「数学の勉強の仕は公式覚えて問題を解く。
これをひたすら繰り返すが一番だよ」
とは川崎の弁だ。
なので現在。ひたすらに問題を解いている。
目の前では川崎が国語の勉強をしている。川崎の場合は勉強といっても俺と違って読書をしているので毛色が少しばかり違う。
互いに勉強を始めてどれくらい経っただろうか?そろそろ場所を移動するか、このまま続けるかを俺は考えていた。
勉強を教え合う場合はサイゼとかでドリンクバー頼んでするのが無難だろう。
個人の勉強を重視する場合はこのままが望ましい。
前者は質問し合うのに丁度良よく、後者は静かな環境で勉強できる環境だ。
両者にメリットがあるが、現在の俺たちには前者のメリットは薄い。
問題解いて自己採点というループで完結している俺と、終始黙々と読書する川崎。
互いに質問する必要性が今ところ全く存在しないからだ。
「ねぇ」
何度目かのループが終了し、一区切りついたと伸びをしていると声が掛かった。
見ると川崎も本を閉じており、一端の区切りがついたのだろう。
「どうした?」
「そっちも区切りが付いたみたいだから帰らない?
夕飯の時間も近いし、そろそろ帰らないと遅くなる」
どうやら川崎も一旦の区切りを付けていたみたいだ。
思っていたよりも時間は過ぎてようで閉館時間も差し迫っていた。
「だな。
どこかに寄るか?」
「ううん、今日は家にあるもので充分だから買い物は大丈夫。
真っ直ぐ帰るつもりだけど、どうしよっか?」
「そうだな…真っ直ぐ帰るか」
「うん、そうだね」
互いに持って来ていた本を戻し、玄関に向かう。
並んで出る。西日が少し眩しく、急がなくてはいけない訳では無いが、ゆっくりしている時間もない事を知らせる。
近くの駅まで2人で歩く。最近、特に2人でいることが多くなったように思う。
奉仕部の存在で交流する人物が増えたが、川崎沙希といる時間が身内を除けば一番だ。
そうともなれば意識してしまうのが男というものだろう。
今も内心は穏やかでは無い。勉強中は気にならなかったが、それを終えた今となっては意識せざるを得ない得ない。
「ねぇ、あれ雪ノ下じゃない?」
そういって川崎は俺の腕を取り、車道を挟んで向こう側の歩道を差す。
突然に腕を取られ体の向きを変えられたため自然と川崎との距離が近くなる。ていうか近過ぎる。
腕に感じる柔らかな感触と近くで見る川崎の横顔にドギマギする。
なんとか視線を川崎が指差す方向に向ける。
「そ、そうだな」
そこには確かに雪ノ下がいた。
なんとか返事をする。少し詰まってしまったが仕方の無いことだろう。
「1人で買い物でもして……」
そういって振り向いた川崎が固まる。
「ご、ごめん!つい…」
「お、おう。気にすんな」
取られた腕は離され、川崎は気まずそうに視線を逸らす。夕陽のせいか顔が紅く染まっていた。
少しの居心地の悪さで俺も川崎から視線を外した。
逸らした視線の先には雪ノ下が見え、此方を向いているのがわかった。
雪ノ下はポケットから携帯を取り出すし何やら操作し始めた。するとポケットの中の携帯が震えた。
小町か密林からのメールだと思ったら雪ノ下からだった。
部活の連絡事項などのためと交換し、今まで一度も連絡し合わなかったそれが初めて役割を果たした。
雪ノ下 雪乃
宛先
×××-⚪︎⚪︎⚪︎@◻︎◻︎◻︎.ne.jp
件名なし
2015年⚪︎月◻︎日 16:37
お似合いよ。
けどイチャつくのなら公衆の面前は控えた方が懸命だと思うわ。
……川崎に送らない辺りに優しいのだろうか?
「なっ!?」
驚いたような声に携帯から視線を上げるとさっきよりも川崎は顔紅く染め、ワナワナと震えながら携帯を見ていた。
そして、射殺せんばかりの目で雪ノ下を睨み付けた。
そんな視線に晒されても、どこ吹く風と雪ノ下は満足そうにその場から離れて行った。
…やっぱり川崎にも送ってたんですね。
比企谷母「癖のある息子に脈ありな娘ができたので逃がす訳にはいかない。100万〜200万なら安いもの」