やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
街からフィールドに出る際に、視界に1つのメッセージが浮かんでいることに気がつく。
Outer Area
それは、圏内から圏外へ出たことを示す文字列だ。
この先は、死のリスクが伴う世界。実感は湧かずとも、それはとても恐ろしく思える。
「……ハイキー君。やはり私一人でも」
隣を歩く雪ノ下がそう言ったのを聞き、首を横に振る。
「問題ねぇ。やるぞ」
言いながら短剣を抜き、周囲を見渡しながら歩き出す。
街を出て暫くは圏外と言ってもまだモブは居ないようで、少し離れた場所まで行くと先程狩りをしていた場所となり、フレンジー・ボア等を見かけるようになる。
始まりの街から離れすぎないように。そして互いが視界に入る範囲でモブを狩ることにして、俺と雪ノ下は互いに距離を少し取りながら狩りを開始した。
× × ×
ワーム系モンスターの攻撃に合わせて、カウンター気味に短剣の基本刺突スキルである<ピアース>を差し込む。
昼に使った時は名前なんてわからなかったが、スキル説明の時に自分のスキルを見てみたら使用できるソードスキルがリストとして表示されたのだ。
これからは練習を重ねていかねばいけないだろう。
今倒したモンスターなど、練習台にはちょうどいいかもしれない。
このモンスター、比較的倒しやすい上に一匹で30コル程度落とすので金銭効率が割と良いようだ。ボアのような突進攻撃もないので気をつけるべき点も少ない。
ただし、ドロップ品も所詮は虫といった程度の内容であった。
「これならボアの方がいいのかねぇ……」
誰に言うのでもなく呟き、同行している雪ノ下の方に視線を向ける。
あちらも余裕を持った対応をしながら、モブをソードスキル……<リニアー>と言うらしい……で刺し殺している。
「さすがにリアルで武器を握ったことはないだろうに、よくもまぁ扱えるな……」
つぶやきに反応したのか、こちらを振り向いた雪ノ下は武器を収めてこちらに歩いてくる。どうやら聞こえたらしいが……え、なに? お前聞き耳スキルでも取ってるわけ? 地獄耳持ちになるとかなにそれ怖い。
俺の思考を遮るように雪ノ下が俺の呟きの答えを口に出す。
「少しならあるのよ。私が帰国子女だというのは知ってるわよね」
「ああ、まぁ」
「その時にフェンシングの体験とか受けたの。それに、日本では授業で剣道を習ったから、武器の間合いとかを把握する癖が付いてるのよ。剣系統なら扱える自信はあるわね」
何この人完璧超人? あ、基本的にはそうだった。ハイキー超うっかりてへぺろ~。
思った以上にキモ過ぎて自己嫌悪に陥っていると、ポツりと呟くように言葉が聞こえる。
「私としては貴方の適応力の方が異常だと思うのだけれど……さっきの広場での機転とかも含めて」
「あー……まぁ理性の化け物とか自意識の化け物とか言われたからな。お前の姉さんに。非常時こそ、そう言われるだけの冷静さを発揮しようと強がっただけだ」
「そう……なら、今はなぜそうも躊躇なく短剣を扱えるのかしら?」
そう言われ、手に握る獲物を見る。
まだ扱い始めて数時間だろうに、たしかにこれは手に馴染んでいる。
だが、それこそなんてことはない。
「別に、突き刺すのには距離が要らないってだけだ。慣れてるわけじゃねぇよ」
言いながらも、フレンジーボアを見かけたので駆け出す。
相手もこちらに気が付き、突進をしてくる。だが、こいつのルーチンはもう覚えた。
無駄に戦闘をしているわけではない。
横に避けて体を反転。回避されてボアはブレーキを掛ける。
こうすることで大きな隙ができるので、そこに<ピアース>を放つ。
自分の体が自動で動くこの感覚にはまだ慣れそうもないが、今は生き残ることが最優先だ。
ボアが倒れたのを確認し、一息着くと、目の前に1つのウィンドウが出てくる。
ドロップなどがいつも出ているのだが、今回は1文多い。
それを読むのと同時に雪ノ下の言葉が耳に入ってきた。
「あなた、やっぱり異常だわ」
Congratulations! Your level up!
たしかに異常に見えるかもしれない。その文字列を読みながら頭の隅でそう考えるが、同時に雪ノ下なら、と考える。
あいつもすぐにレベル2になることだろう。
× × ×
狩りをそこで切り上げて街に戻る。
ストレージのドロップ品を空にしたり、やることは多い。
とりあえずどこかの店で処理しようということになり、それを探している時だった。
視界の隅に子供が写る。まだ小学の上級生くらいだろうか。
宿屋にも入らず、かといってNPCハウスで雨風を凌ぐのでもなく、ただ街の中で座っている。
精神的に危ないのかもしれない。
「……スノウ。少し待ってくれ」
「ええ、分かったわ」
雪ノ下もその子の存在に気が付き、俺についてくる。
子供は……どうやら女子らしい……その場で丸くなり、塞ぎこんで座っていた。
ムリもない。親から突然切り離されて、しかも死んだら本当に死ぬときたもんだ。俺達だって、手一杯なのに、俺達よりも小さい子供だとどんな気持ちだろうか。
「……」
何も言わずに隣に座る。こういう時、ムリに話しかけてもこじらせるだけだ。ソースは俺。塞ぎこむとか毎日のようにやってた。
俺が隣りに座ったのを見て、少女は顔を上げてこちらを見るが、直ぐに前を向いて俯いてしまう。
……こいつは長くなりそうだ。
「スノウ。先にウイと合流して情報屋探し、手伝ってやってくれ。俺はもう少しやることやるから」
「……分かったわ」
雪ノ下は素直にその場を離れていく。
少女は黙って俯いている。
俺は黙って隣に座り、夜空を見上げていた。
これの前の話、そのうち加筆修正するかもです。
修正したら報告いたします