やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
ディアベルの調査に赴いた俺達は宿に併設されている酒場で騒ぐディアベルやキバオウ……だったか? インパクトは強かったが俺はが割って食ってしまったこともあり、いまいち覚えてない。
とにかく、攻略組の面々が騒いでいるのを見つけた。どうやらこれから先頑張ろうぜ! 的な? そういう感じの集まりらしく、参加は任意といった感じだ。あの場に居た44名が全員揃っているわけではない。
ざっと見渡した限りではあるが、集団となって騒いでるのは攻略組の半数にも満たないだろう。
さて、話を会場から自分のことに戻すと一つの問題点がある。
俺が入店すると嫌でも目立つということだ。なにせ一躍時の人だしな、俺。奉仕部の窓口としてではあるが、有名になりすぎた。
そんな俺に何ができるのか今ひとつ理解ができない。
だが自分から依頼を投げた以上は最低限の仕事だけはこなさねばならないので、アルゴに声をかける。
「手伝いって何すればいいんだよ。足手まといにならないように帰るくらいしか思いつかないんだけど?」
「自分から調べるって言っておいてそれはひどすぎだろ腐れ目……」
呆れたように言いながらも隠蔽スキルを使いながら中の様子をアルゴは伺っている。
「……とりあえず、ハイキー。スキルスロットに余裕は……ないヨナー。行っててもレベル5くらいだろ?」
アルゴの言葉に頷きで返す。
スキルスロットはレベル1で2つ、6で3に増え、12で4に、20で5になって、そこから先は10レベル刻みで増加する。
つまり、現在5レベルである俺のスキルは初期に取得した短剣と軽業のままである。
「次の成長では疾走スキルを取るつもりだしな。ハイディング系の調査は12レベルのスロット増加まで待て」
「期待しないで待っておくヨ」
アルゴは軽口を言いながらストレージから何かを取り出して渡してきた。これは……。
「アスナと同じフード?」
「西でのクエスト報酬だナ。顔隠すのには便利だロ」
なるほど。当人に見られたら殺されかねないが実用性は確かだ。
「これ被って飲み物でも飲んで時間つぶしててくレ。オイラは本業やってくるから」
アルゴの言に従って俺はこれで顔を隠し、彼女の後ろについて店に入店した。
✕ ✕ ✕
店内は外から見た以上にごちゃごちゃしている。夜は宿で即寝していたので賑わいを知らなかったが、毎日こんなものなのかもしれない。
アルゴは店内に入るとすぐにディアベルのいる集団の所へと向かった。
俺は開いてる席に着席し、NPCにテキトーにやすい飲み物と食事を注文する。
そのまま視線をアルゴの向かったディアベル組に向けると……キバオウを連れてアルゴは出て行ってしまった。今の顧客なのだろう。
アルゴとうちが協力関係にあるということもあってか、奇異の視線でアルゴを見つめる攻略組のメンバー。まぁあのガイドブックの作成者でもあるのだからこれくらいはありえない範疇ではないだろう。
このままディアベルを監視するだけで俺は本当に求める情報を得られるのだろうか。
そう思いながら視線をディアベルに向けると……
「…………え?」
笑っていなかった。
楽しい筈の宴の席で。これから頑張ろうと指揮の上昇をす図る場でリーダーが笑みを浮かべず、真顔でキバオウとアルゴの背を見つめている。
奇異の視線や好奇心ではない。そこに妙な引っ掛かりを覚える。
その表情は一瞬で、仲間に声をかけられるとすぐに柔和な笑みを浮かべている。
その姿はまるで俺が知っているあの男のようだ。
あいつの真意を俺は知らないし知れない。ディアベルのも同じく理解することはできないだろう。
だが、あいつが……葉山隼人が笑みを浮かべて場を取り繕うのを。俺は何度も見ている。
それは修学旅行が終わった後で、生徒会選挙の時で、クリパの時だ。
取り繕い方を俺はもう知っている。ディアベルの浮かべた笑みがそこに関してだけは同じだと判断できる。
つまり。
あの男はなにかを隠している。その手がかりはキバオウにある。
俺はフレンドリストを表示し……なにげに初めて使うが……そこに登録してあるアルゴにメッセージを送って店を出た。
✕ ✕ ✕
「アルゴ。キバオウに何の情報を売った」
「1000コル」
「高い」
「こっちは値段のふっかけ合いだからナー。割引は無効なんダ」
「……ならせめてこっちの情報に2000コルの口封じをかけておいてくれ」
俺の文句にニャハハと鼠が笑いながら応じた。
俺が今やったのはアルゴの商売システムの一つで、簡単にいえば「客が何の情報を買ったのか。その情報の価値を決めるオークション」だ
情報購入者は自分が何かを情報を買ったという情報がアルゴに握られることになる。
それを商品にさせたくない時、またその情報が欲しい時。こうして金額の掲示と支払いが発生する。
俺はしぶしぶ1000コル硬化をオブジェクト化してアルゴに差し出した。
アルゴはインスタント・メッセージを高速でタイピングしていく。うわ、すげぇ。材木座も見習えばいいのに。
しばらくし、これ以上ふっかけるかの返信が来たようだ。
「どうだ」
俺の問にアルゴは笑顔を浮かべたまま応える。
「問題ないソウダ。キバオウがオイラに頼んでるのはキー坊の持つアニールブレード+6……もう7かもナ。今度教えてもらおう。まぁ、それの購入交渉だナ」
「キー坊?」
聞き慣れない名前だが、おそらくこいつ特有の呼称だろう。
実際そうだったようでアルゴはアア。と応じてからこちらに改めて剣の持ち主の名前を告げる。
「キリトだヨ。知り合いだったよナ?」
「…………ああ」
情報が俺の頭の中を錯綜していた。
キリト。あいつは隠しているのだろうがベータテスターだ。これはあいつと話をしたし確信を持って言える。たしかに装備も最優秀級と言えるだろう。
だがなぜ。なぜ『全員の武器を強化した後で』まだ優秀な装備を求める。しかもキリトを……ベータテスターをピンポイントで。
たしかにキバオウの武器はアニールブレードだった。
だがそのキバオウはディアベルの仕込みである可能性が高い。
ディアベルの武器はなんだ。
ホルンカの村で出会っている。だから俺は知っている。あいつはあの時アニールブレードを入手のためのパーティーを探していた筈だ。
そして、今日もあいつはアニールブレードの強化素材をもらっていたはずだ。十分に装備は整っている。ではなぜこの状況でさらにいい武器を求めるのか。
自分ではなく、自分の身近な仲間の装備強化のため?
違う。まだ攻略組は同じ目的を持っては居るが烏合の衆だ。それに総合力が変わるわけでは無い。むしろキリトの装備が悪くなる分でマイナスになる。
マイナス……キリト……ベータテスター。
「……どこだ」
ポツリと、口から言葉が漏れた。
胡乱げにアルゴは俺を見る。この女なら知っているかもしれない。こいつもベータテスターだ。であれば。
「キリトをベータテスターだと知れる機会がディアベルにあったのか。それが知りたい」
どこであいつはソレを知ることができたのか。
俺の疑問にアルゴは無言で首を振って言った。
その言葉により、俺の考察の道はここで途切れることになる。
「ベータテスターについての情報は売らないって決めてるんダ」
先週は更新できずに申し訳ありません。
一応、全体の簡単な書き直しをしたのは小説トップに告知してますがこちらでも報告します