やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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星なき夜のアリア編に入ります


奉仕部、活動開始
奉仕部はトールバーナに訪れる


デスゲームが始まり、おおよそ一月が過ぎた。奉仕部設立からは3週間ちょっとと言ったところだろうか。

森の秘薬クエストを安定してクリアできるようになったのを皮切りに、俺達は行動を積極的に始めることとなった。

森の秘薬クエストを周回し、アニールブレードを集めつつクエスト慣れさせる作業は由比ヶ浜……最近ではウイという呼び方に慣れてしまい、口頭で呼ぶときに本名を呼ぶことはほぼなくなった……の担当だ。

理由としてはホルンカの村は始まりの町に比較的近く、子供に強い由比ヶ浜をあまり長時間始まりの街から引き離すことは出来なかったことだ。

報告に寄れば日に日にドロップ率が悪化しているらしく、アニールブレード集めは一区切りうつべきかもしれない。

 

スノウこと、雪ノ下と俺の担当は交代制での第一層の攻略だ。

といっても、俺達が攻略するための攻略ではなく情報をリークするための攻略である。

アルゴは俺達の集まりの外部顧問という形に収まり、情報を格安で提供してくれることを承諾してくれた。

そのアルゴへの返礼も兼ねて、手となり足となり。広大な第一層を西へ東へ。馬車馬のごとく駆けまわる日々を過ごしている。

 

そして、森の秘薬クエストを奉仕部で最初にクリアした6人。

彼らにはアニールブレード以外のレア……第一層の最強装備のことだ……と、その強化素材を集めるために、俺と雪ノ下とは別の意味で西へ東へ走り回ってもらっている。

奉仕部の初動は彼らの肩にかかっていると言っても過言でない以上、可能な限り……移動先が被ったり、途中まで同行できるようなら誰かが必ず一緒に移動するようにもしている。

シリカに誰かが手出しをしないかと警戒しているわけではない。断じて違う。でも手を出したら許す気はない。天使だし。

週に一度は始まりの街で全員顔を合わせるようにしているものの、まだまだ保護者気分が抜けないことに苦笑いを浮かべるのがいつものことになってきたと全員で笑ったのはつい昨日の事だったか。

そんなこんなでなんとかこのゲームが始まって一月が過ぎた。

誰かが欠けることもなく、順調に俺たちは成長していた。

 

その裏で2000人ものプレイヤーが死んだことから、目を背けたまま。

 

 

✕ ✕ ✕

 

 

俺達、奉仕部が揃って始まりの街を出立したのは昨日のことになる。

始まりの街から、現在の最前線……第一層の最北端トールバーナに向けての移動だ。

この第一層は直系10kmの広さ……つまり、到着だけ考えるなら日を跨ぐ移動は必要ない。

だが、俺達がとっているのは団体での行軍である。

エネミーとの戦闘は袋叩きで終わるとはいえ、他所事をしながら歩いて10kmだ。そのうえ、ただ直進していけば良いわけではなく、起伏や他の村もある。余裕を持って街を出る必要性があった。

アルゴは本業もあり同伴していないが、奉仕部3人。子供プレイヤー21名。

合計4PTの大所帯が一斉に移動する様は圧巻の一言だろう……端から見ればの話であるが。

実際のところは、まったくそんなことはない。

雪ノ下が全グループから見ての殿につき、俺と由比ヶ浜で先頭を歩く。

では、真ん中、他のメンバーはといえばホルンカの村より外に出ることが多い主要メンバー6人以外からしたら初めての超遠出。警戒心よりも好奇心が溢れでて、列を乱すわ、よそ見しまくりだわ……遠足気分満々であった。

「はぁ……千葉村の時もだが、どうして子供ってのは集まると静かにできねぇんだ」

きゃいきゃいと騒いですっごく煩い様子はどうしてもあの時を思い出させる。

「ヒッキー、あの時何してたっけ」

隣を歩く由比ヶ浜の疑問に千葉村に到着してからのことを思い返す。

「広場に集まった時はなるべく木陰に入るようにしてたな。あと、教師の発言の一つ一つに思うところがあっていろいろ考えてた」

静かになるまで何分とかな。実際に子供の世話をする用になってもああいう言葉は使わない俺まじ偉い。

いや、別に説教するような関係でもないだけかもしれないけどね?

「あ、わかる。私も小学生の時ああいうの言われたなー」

やはりどの小学校でも共通事項らしい。場合によっては高校でも言われるらしいから常套文句なのだろう。

「あとはお前も知ってる通りルミルミ周りのことがあったくらいだな」

俺の発言に、由比ヶ浜は少し嬉しそうに微笑む。

なんだと思って視線を向けると、優しく微笑んで……懐かしむように口を開いた。

「クリパでさ、しっかり、解決できたじゃない? だから、よかったなーって」

「……そうだな」

この世界に来る前の、学校での奉仕部の最後の依頼。

俺から持ちかけた依頼の解決。解消ではなく、解決。

俺はいつも解消手段を取ってきた。それを踏まえて考えれば、ちゃんと解決を出来たのは初めてのような気もする。

最後に解決ができたことは俺達がこれから変わっていくことに、きっと繋がる。

 

そしてそれはたぶん、いつの日にか。俺の求める本物に繋がるのだ。

 

 

✕ ✕ ✕

 

 

トールバーナの街についたのはそんな会話をした2日目の午後の事だった。

「とりあえずご苦労さん。アルゴに金を渡して、この街の教会を借りてもらってる。荷物運びこんだら今日は休憩だ。明日は午前はこの周囲のエネミーで素材集め。夕方、時間になる前に教会に集合しておくこと。以上だ」

そう言って、再び先頭を歩いて教会へ向かう。

さすがに最前線の街だけあって、こちらを見てくるプレイヤーの数も多い。

こっちの目的や予定としては好都合だ。大々的に名乗るほどではないが、噂になってくれれば十分。

全ては、明日が本番だ。

教会に荷物を置いた俺はアルゴにメッセージを送り、ここ数日攻略しているダンジョンに潜ろうと思い立った。

俺は戦闘が下手だ。

だが、いつまでもそれを言い訳に戦闘を回避していくわけにも行かない。

素材集めや武器集め、クエスト情報のリサーチ、クエストの達成。

ありとあらゆるところで剣の腕はこの先も必要となっていくのだから。

働きたくはないが死にたくない。死なせたくない。生きて帰る。そのための奉仕部だ。

ならば、生きるための努力を惜しんでは本末転倒だ。

「ウイ、スノウ。ちょっと出てくる」

必ず一人は子どもと居ること。

明言したわけではないが、これはいつの間にか暗黙のルールとなっていた。

そのため、離脱するときは一言どちらかに告げる。

ルールが定められた後から、必然的にこのやり取りは日常となっていった。

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてねー」

由比ヶ浜は笑顔で送り出してくれる。いつも置いてけぼりにしがちで悪いし、帰りは差し入れを買って来てやるのがいいかもしれない。

 

そんなことを考えながら装備を整えると、何故か雪ノ下も出てきた。

「……どうしたよ」

「どうせ狩りに行くのでしょう? 付き合うわ」

なぜ分かったし!? 思わず由比ヶ浜みたいなリアクション取ってしまった。

顔に出てたのか、似てないわよ。とでも言いたそうにジト目で睨んだ後に雪ノ下は口を開いた。

「……噂になっているプレイヤーが居るの。アルゴさんから聞いたのだけれど、迷宮に潜りっぱなしの女性プレイヤーがいるって」

「それは……」

流石に死んだのではないか。

思っても、口にだすことは出来なかった。この世界で、今の状況で、死はある種のNGワードだ。不用意に使っていい言葉ではない。

だが、言いたいことは十分に伝わっているのだろう。雪ノ下は首を振って否定する。

「昨日、街を出る前に生命の碑を確認したけどその人の名前に横線は入ってなかった。なら、まだ生きてるのよ」

故に、心配だ。

そういうことなら今日は探索ではなく捜索に目的をシフトしたほうが良さそうだろう。

 

「で、どのダンジョンか心当たりはあるのか?」

「この街から出たとしか聞いてないから……明日まで。時間の許す限り総当りね」

ハードスケジュールになることを確信し、俺は思わずため息を付いた。




攻略会議第二回前後で4週間経過の記載が本編中にあったために多少書き直し。

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