東方妖火煉   作:超絶暇人

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ライターと仮面と鈴蘭と……一触即発?


六話 類は友を呼ぶ、あだ名も呼ぶ

「誰なの、と聞いてるの」

 

 黒紫を基調とした可愛らしくも刺々しい服の少女は、小さい体躯からは想像し難い敵意と殺気を煉とこころに向け、鋭く睨み付ける。少女の顔あたりに浮く彼女を小さくしたような羽根の在る妖精のような存在も同様に睨み付けてくる。同時に一面に生える鈴蘭から香気が目前の少女に集まり始め、嫌な予感がしたこころは口元を手で塞ぎながら煉を連れて一目散に逃げようとした。

 

 しかし逃げ足が途中でつんのめる。煉は微動だにしないのだ。

 

「煉さん何を!」

 

 こころは口を手で塞いだ状態から煉に声を掛けるが、その時煉は生きた空気のみをたっぷり吸い込み、腕を組んでから叫ぶように喋り始めた。

 

 

「何だかんだと聞かれたら! 答えてあげるが世の情け!」

 

「え?」

 

「れ、煉さん……?」

 

 困惑する二人を他所に煉は続ける。

 

「幻想郷の破壊を防ぐ為、幻想郷の平和を守る為。愛と真実の悪を貫く! ラブリーチャーミーなカタキ役……」

 

「ちょ、ちょっと────」

 

「煉ッッッ!!!」

 

「ひぃ!?」

 

 突如始まった前口上の最中、少女が状況が掴めず近づこうとすると、突然煉が力の込もった声で名乗り、彼女に悲鳴じみた声を出させて驚かせた。無論、こころも少女同様動揺して、煉の声にビクッとした。

 

「……あの、本当に何を」

「ちょっとココロン! ノリ悪いよ! 私が名乗ったら大きな声で名前言って、ほら早く!!」

 

 こころが意味の解らないまま煉に問い掛けた瞬間、煉は彼女の問い掛けなど丸々無視してこころも同様の行動を執るよう急かしてきた。突然振られた無茶振りに当然ながら困惑するこころだが……

 

「うぇ、えぇぇ!? く、こ、こころ!!」

 

 煉と同じように腕を組んでみたら、吹っ切れた。

 

「銀河を駆ける"ろけっとダン"の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

 

 煉、こころと台詞を放った直後、この場の3人の頭の中で"なんてな!"と言う声が聞こえた気がした。

 

(今何か聞こえたような気がしたわ……)

 

「決まったぁ! しかしココロンよく台詞わかったね、やっと私の事わかってきた感じかな?」

「い、いえ、何となくと言いますか、成り行きと流れに任せたら、言葉が出て来たと言いますか……」

 

「ちょっと! あなた達何なのよ! さっきから変な事ばっかり、ここが何処かわかってるの!?」

 

 煉とこころが謎の達成感に満ちて語り合い出したところで、黒紫の少女は怒声を以て煉とこころを黙らせ、中断していた香気の集束を再開する。と、少女の言葉で煉は自身達の目的地と今の場所が全く違う事を思い出した。

 

「お、そう言えば何処なんだろうね此処。わかんないね?」

「煉さん、恐らく此処は【無名の丘】と呼ばれる場所。向日葵畑でないのは明白です」

 

 こころが記憶から探り出した場所の名前を煉に教えた事で煉は初めてこの場が何処なのかわかった。わかったので、バカ正直に少女に応える。

 

「わかった! ここ【無名の丘】なんでしょ? ほいであなたさんはどちら様でしょーか! 教えてつかーさい!」

 

 煉の言葉を聞いて少女は思わず脱力して転びそうになるが、上手く足の縺れを解いて転倒を回避した。そんな最中、こころは一人少女を観察していた。

 目の前の少女は【無名の丘】で遭遇した。鈴蘭と言う毒草の広がる中で。それだけでも異常だが、金髪、ドレスと言ったこの洋風人形のような恰好で、しかも小さい体躯……まさか、彼女もまた、私達の────

 

 幻想郷に然程詳しいワケでは無いこころでも、この場所の逸話は知っていた。なら、その逸話と"自分達"と言うキーワードを繋ぎ合わせれば、答えは簡単だ。

 

「もしかして、あなたも私達と同じ付喪神なのですか?」

 

 こころのふとした言葉を聞いた黒紫の少女は突然静かになり、鈴蘭の香気を集めるのを止めた。どう言う事なのか不意に気になったのだろう、それをしかと理解したこころは続けて言葉を発した。

 

「実は私達も物から妖怪化した者でして。私は仮面、煉さんはライター。見るにあなたも人形の付喪神かと思うのですが、どうでしょう?」

 

 こころの話を聞いた途端、黒紫の少女は先程まで煉とこころが感じていた敵意や殺気を引っ込め、溜め息を吐いて煉達に歩み寄る。ある程度近づいて立ち止まると、小さい体躯故に二人を見上げ、それから口を開いた。

 

「そうよ、私はお人形。名前はメディスン・メランコリー。あなた達が人間じゃないなら、それで良いわ」

 

「メディスン・メランコリーか……うーん。じゃあメディっちゃんで!」

 

 黒紫の少女ことメディスンは、踵を返してその場を去ろうとした直後、煉がいつもの調子でメディスンの渾名(あだな)を考え即座に呼んだ。直後、メディスンは足が縺れたでも無く、足が動かないでも無く、自然と何かに躓く感覚で唐突に地面に倒れてしまった。

 

「メディっ……ちゃん?」

 

 余りに素っ頓狂な渾名に吃驚したと言うか、呆然としたと言うか、とにかくメディスンが転ばずにはいられないくらいの唐突な渾名呼びだった。渾名で呼べて嬉しいのか、煉は満面の笑みだが、その横で心が首を斜めに傾げて白目を剥いていた。

 

「これからよろしくねディっちゃん! ところで転んだけど大丈夫?」

「だ、大丈夫……そんな事より、どうして此処に居るの? 此処に来るのは赤子を捨てに来る人間くらいなのに」

 

 笑顔で駆け寄ってメディスンに手を貸して立たせる煉に、メディスンは狼狽えながらも服の汚れを手で払い、煉に問い掛けた。無名の丘は所謂【姥捨山】のような場所。生活が苦しく、育てられない親がここに赤子を捨て、自生する鈴蘭の毒で眠るように逝く……そんな仕組みだ。

 そんな忌々しい場所に何故来たのか、余程の変人か訳有りかのどちらかだろう。

 

「いやぁね、わっち達は向日葵畑にピクニックに行くつもりだったんだけどね? 道を間違えたのか、此処に来ちゃったんだわさ」

「それで、出来れば向日葵畑の道を教えて欲しいのですが、ご存知ですか?」

 

 煉が一人称と語尾を変えて喋るのを無視してこころは彼女の言葉に続けて言葉を繋げて詳細な内容にした。さすがにこころも煉との絡みと扱いに少し慣れてきたようだ。

 

「向日葵、畑……くふ、ふふふっ、ふふはははははっ!! 道を間違えた? あなた達、もしかして産まれて間も無いの?」

 

 二人の話を聞き、突如笑い始めたメディスン。その笑いは"可笑しい"と言うよりは"可愛らしい"と言う表現の笑いで、二人はメディスンから訊かれ、互いを見つめながら眉を傾げたり両手の平を上に向けたりしてからメディスンの問い掛けに答えた。

 

「はーい、生後1週間でーす」

「私もそのくらいです」

 

 素直に大体の日数を答える煉と、それに倣うこころの返答に受け答えようと笑いを無理矢理押し殺し、3秒後には平静に戻り、最初の時よりホンの少し柔らかな表情になった。

 

「ふぅ、しょうがない。私が案内してあげるわ。と言っても、今の時期じゃまともに咲いてる向日葵は少ないでしょうけど、行きたいと言うなら連れて行ってあげる」

 

「良いの!? メディっちゃんありがとう!」

「面倒お掛けします」

 

 メディスンは煉とこころにお礼を言われた直後、胸の奥が熱く、そしてドクドクと弾んでいるような気がした。

 何だろう、嬉しいとは違う"何か"を、私は感じてる……何だろう、この感じは?

 

「……付喪神の先輩として、私が色々教えてあげるわ。ついてらっしゃい!」

 

 自身の胸の奥に感じた温かさと違和感に囚われながらも、メディスンは嬉しそうに煉とこころについて来るように自信満々に言葉を放った。煉とこころも嬉しそうなメディスンを見て、笑顔になった。

 

 

 

「はい! ディっちゃん先輩!」

「はい! メディスン先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

続く




無名の丘から太陽の畑まで、いざ!

メディスン が なかま に なった 

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