上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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 今回は、ちょっと長め。

 途中、ちょっと鬱陶しい半角カタカナの表現がありますが、読み辛かったら読み飛ばしてもらっても構わないです(笑)



別れ〈たびだち〉

 病院の中庭。

 

 そこには、右腕は吊っているが歩けるようになり、無事退院が決まったステイル。そして神裂、アウレオルスがいた。

 

 その前には、上条、佐天、土御門、そしてインデックス。

 すでにインデックスは瞳に涙を浮かべており、それを見てステイル達は悲しそうに微笑んでいる。

 

「インデックス、泣かないでください。またきっと会えますから」

「ああ。僕達は、離れていても仲間だ。必ず、また会える」

「……でも……ステイルもかおりも……今まで、ずっと、わたしの為に……」

 

 インデックスは二人の元に駆け寄った。

 神裂は、そんなインデックスを優しく抱きしめながら告げる。

 

「いえ……私たちは、何もできませんでした。あなたを救ったのは……あのお二人です。あの方たちなら、きっとこれからも、あなたを守ってくれるでしょう」

 

 そう言って神裂は、上条と佐天に目を向ける。

 

「……もちろん、私も、これからもあなたを守ります。守り続けます。あなたの危機には、たとえこの星の裏側からだろうと駆けつけることを、ここに主に誓いましょう」

 

 神裂は慈愛の表情と共に、インデックスにそう誓った。

 

 そしてステイルは、ザッザッと迷いのない足取りで、上条と佐天の前に立つ。

 

 佐天は大柄なステイルに気圧されたが、上条は瞬きひとつすることなくそれを迎えた。

 

 ステイルは、重々しく、振り下ろすようにその言葉を告げる。

 

「上条当麻」

「ああ」

「一応、礼は言っておこう。インデックスは君達に預ける。だが、あの子に傷一つでもつけてみろ。――僕が、必ず、君を殺しにいく」

「ああ。それでいい。それがいい。俺達の関係は、これが一番の形だ」

 

 

 友情も、信頼も、尊敬も必要ない。

 

 二人の間には、共通の大事なもの。そして、それを守りたいという心。

 

 それだけ。そのために、お互いを使う。

 

 自分達はただ、それだけでいい。

 

 

 上条はニヤリと不敵に笑い、ステイルはフンッと不快そうに吐き捨てる。

 

 そしてステイルは、佐天の方を向いた。

 佐天は巨漢のステイルから降り注がれる視線の鋭さにビクッとするが、ステイルは突然膝を折り、神に祈りを捧げるかのような姿勢で、跪いた。

 

「――え?」

「まずは、感謝をさせて欲しい。インデックスを助けてくれて、本当にありがとう。貴女のおかげで、彼女に笑顔が戻った。まずはその事に、最大級の感謝を。……あなたのような人と、インデックスが巡り会えたこと――そのことに、我らが主に、深く、感謝します」

「え? え?」

 

 佐天は凄く動揺して、思わず上条に目線で助けを求めるが、上条はまた別の意味で驚いていた。

 

(神父っぽいステイルを初めて見た……)

 

 彼はそんなステイルに聞かれたらすぐさま魔女狩りの王(イノケンティウス)なことを考えていた為、佐天のSOSに気づかなかった。

 

 佐天はう~う~と唸りながら、それでも何か言わねばと、言葉を紡ぐ。

 

「で、でも……本当にいいんですか?……あたしは、インデックスちゃんが苦しんでいる時、何も出来ませんでした。……インデックスちゃんを救ったのは、上条さんや、みなさんです。……みんなインデックスちゃんを助ける為にずっとずっと頑張ってきたのに。……それなのに、あたしが――」

 

 段々と俯き、声を沈ませていく佐天。そこに下から、救い上げるような声が届く。

 

「それは、あの子の笑顔を取り戻してくれたのが、君だったからだ」

 

 ステイルは跪いた姿勢のまま、顔だけを上げて佐天に言葉を投げかけた。

 

「聞けば、君はこの街でも特別強い存在じゃないのだろう?……それどころか、何の力も持たない、一般人だそうじゃないか。……それでも君は、君らにとっては異分子であるインデックスの傍にいてくれた。尽くしてくれた。――あの子を笑顔してくれた。友達になってくれた。……僕は、彼女がこの街で一番最初に出会ったのが君で、本当に良かったと心から思う」

「……ステイルさん」

「僕は、これからは彼女の傍に居られない。……だが、君になら、彼女を託すことが出来る。……どうか、彼女の笑顔を、絶やさないでくれ」

「――ッ! は、はい!」

 

 ありがとう、とステイルは立ち上がり、佐天と握手を交わす。

 

 その時の彼の表情は、上条が前の世界で決して見ることが出来なかった、十四歳の少年としての穏やかな笑顔だった。

 

 そして、直ぐにその表情を苦々しく歪め、ステイルは上条を睨み据える。

 

「いいか、上条当麻。お前は責任を持って、インデックスと彼女を守れ」

「分かってる。っていうかお前、俺にだけ当たりきつくない?  何? 俺のこと嫌いなの?」

「今更気づいたのか?」

 

 上条とステイルのバチバチの争いに、佐天と神裂は苦笑を禁じ得ない。

 だが、インデックスの「仲良くしなきゃダメなんだよ!」という言葉で、二人ともすぐに矛をしまうのだから、分かりやすい男達である。

 

 そして、神裂がそっと佐天に歩み寄った。

 

「――これを。土御門につくってもらいました。毎月の生活費は振り込ませていただきます」

「え!? そんな!? こんなのもらえませんよ!!」

「いえ、受け取ってください。必ず必要になりますので」

「ああ。佐天、もらえるものはもらっておいた方がいい」

「え!? で、でも――」

「インデックスの食欲を……知ってるだろ」

「あ。……はい。……謹んで、受け取らせていただきます」

「……ご迷惑を、おかけします」

 

「? すている。かおりたち何を話してるの?」

「大丈夫。君は何も気にする必要はない」

「?」

 

 そんなリアルな家計事情問題も話し合いつつ、別れの時間は近づく。

 

 

 そして上条は、一人の錬金術師の前に歩み寄った。

 

 

「アウレオルス……」

「改めて礼を言うぞ、上条当麻。お前のおかげで、私の人生は無駄ではなかったと実感できた」

「――ッ!!」

 

 アウレオルスは、今回の戦いでインデックスを救う為に、黄金錬成(アルス=マグナ)を完成させ、使用した。

 

 今はまだそこまで広まっていないが、情報が拡散することは防げないだろう。

 魔術界の情報網は、そこまで甘くない。

 いずれローマ正教はアウレオルスを処罰しようと追っ手を送る。いや、すでに送っているだろうが、この情報が伝われば更なる強敵が送り込まれるだろう。

 

 アウレオルス=イザードは、これから先の一生、逃亡生活を送ることになる。

 

 そして――

 

「そして、誓おう。私は二度と、黄金錬成(アルス=マグナ)を使わない。もう、生命というものを、軽んじないと約束する」

「――――ッ」

 

 アウレオルスの表情は、あの時の絶望が嘘だったかのように爽やかだった。

 

 実際、彼の言葉に嘘はないのだろう。

 

 もう彼は、自分の人生の使命を終えたと思っている。そして、今はもういつ死んでもいいと思っているのだ。

 

 

 上条は、確かに黄金錬成(アルス=マグナ)を否定した。アウレオルスの命を粗末にするやり方に激怒した。

 

 だが、黄金錬成(アルス=マグナ)を使うことなく、ローマ正教の追っ手を生涯躱しきることなど、不可能だ。

 

 上条は、俯き、肩を震わせ、言った。

 

「……死ぬな」

「ん?」

 

 上条は、アウレオルスの胸倉を掴み上げ、顔を寄せ、小さく、だが重々しく吐き捨てる。

 

「絶対に死ぬな……ッ。お前が死ねば、黄金錬成(アルス=マグナ)は解け、インデックスの蘇った記憶は失われる。……そのことを……忘れるな……ッ」

「――!!」

 

 上条は、結局こういう方法でしか――インデックスを、彼の最も大事な存在(じゃくてん)を引き合いに出さなければ、一人の男を死から回避させることも出来ない自分に怒りを、そして無力感を覚える。

 

 そして、上条は尚も言い募る。

 

「だから……生きろ。……無茶苦茶言ってるは分かってる。俺が言えた義理じゃないのも理解してる。……けどッ!……お前が死ぬなんてバッドエンド……許容できるほど……大人になれねぇよ」

「……済まない。だが、私はもう……黄金錬成(アルス=マグナ)は――」

 

 

「もう一つ、手はあるよ」

 

 

 そう言ったのは、ステイル=マグヌスだった。

 

 上条は、アウレオルスの胸倉を掴む自分の手に、自然と力が入るのを感じた。

 その方法は、その抜け道は、上条当麻は知っていた。

 

 だが、それは――

 

「憮然、本当か?」

「……ああ。それは――」

 

 上条は、歯を喰いしばる。無力感を、噛み締める。

 

 ……自分は……自分は、また――

 

 ステイルは、冷淡に告げる。

 

 

「――僕の炎で、君の顔を別人に整形することだ。」

 

 

 その言葉に、佐天とインデックスが驚愕し、反発した。

 

「え!? で、でもそんなの――」

「ダメなんだよ! なんで、アウレオルスが――」

 

 

「ローマ正教――十字教の中でも世界最大の宗派。奴等を敵に回したんだ。その手から逃れるには、アウレオルス=イザードという人間を形式上でも殺すしかない」

 

 

 背後から、土御門が容赦なく告げる。

 

 残酷な、現実を告げて、幻想を砕く。

 

「その為の偽造死体はこっちで用意する。念の為、後でステイルに燃やしてもらえば、判別は不可能だろう。下手人はステイル――――それで構わないな」

「……ああ。インデックスの救出時に割り込まれたと言えば、向こうも納得するだろう。お前とインデックスの関係は知っているわけだからな。……それでいいな、錬金術師」

 

 ステイルは、そうアウレオルスに尋ねた。

 

 アウレオルスはしばし沈黙し、黙祷するように沈黙し――毅然と言い放つ。

 

 

「歴然。それが最善であることは、揺るぎない。甘んじて、アウレオルス=イザードは、その死を受け入れよう」

「――ッ!!!」

 

 

 上条の拳が、出血するかのではないかという程に、強く、強く握りしめられる。

 

 顔は俯き、歯はギチギチという音を発するほど食い縛られる。

 

 

 誰もが幸せで、みんなが笑顔。

 

 そんなハッピーエンドを目指したはずだった。

 

 

 だが、アウレオルスは、その顔を変え、名を変え、それまでの人生の全てを抹消し、まったくの別人にならなければいけなくなった。

 

 

 アウレオルス=イザードという人間を、殺さなくてはならなくなった。

 

 

 これの……こんな幕引きの、どこがハッピーエンドだというのだろう。

 

 

「……己を責めるな、上条当麻。私は、この結末に、この上なく満足している」

 

 アウレオルスは語る。言葉通り、何の後悔もないという、満ち足りた顔で。

 

 そして、項垂れる上条の肩に手を置きつつ、佐天に顔を向ける。

 

「少女よ」

「は、はい」

 

 そして、同じく嘆いていたインデックスの肩を支えていた佐天は、アウレオルスの言葉を受け、彼の方を向いた。

 

「私も、彼らと同じだ。君になら、インデックスを任せられる」

「……アウレオルスさん」

「歴然。君となら、インデックスは、きっと幸せになれるだろう。…………ただ、一つ、私の傲慢な願いを、聞きとめてもらっても構わないか?」

「……もちろんです。……あたしに、出来ることならば」

 

 佐天は、重々しく頷く。

 

 そしてアウレオルスは、見たことのない、綺麗な微笑みを見せて、言った。

 

「インデックス」

「……ん?」

 

 

「いつか、もう一度、君に会いに来てもいいだろうか?」

 

 

 上条の、震えが止まる。佐天も呆然とする。

 

 インデックスは、その真っ赤に充血した目をこすりながら問う。

 

「……え?」

「私は、これから一度死ぬ。そこから、新たな人生を確立するのは、並大抵の困難ではないだろう。……だが、上条当麻に言われて気づいた。そう、私の命は、私一人のものではない。これまでのインデックスが積み重ねた、かけがいのない思い出も背負っている。……だから、私は死なない。必ず帰ってくる。……だから、インデックス。そして少女よ。その時は――名前も姿も変わっているだろうが――また会って、その光輝く笑顔を見せてくれるか?」

 

 上条は、もう何も言えなかった。

 

 コイツは、自身の選択に微塵も後悔していない。

 

 自身が辿るべき末路を、その全てを受け入れる覚悟を持っている。

 

 

 そして、その苦難を乗り越えた先の未来を―――希望を、見据えている。

 

 

 そんな男を憐れみ、見下す資格など、自分にはない。

 

 そんな男の生き様を否定し、もっといい未来があったはずなどとぬかすのは、傲慢以外の何物でもない。

 

 

 インデックスを、後ろから佐天が優しく抱いた。

 

 インデックスは鼻水を啜りながら、涙がこぼれないように懸命に笑顔を作る。

 

 佐天も最高の笑顔をもって、一人の男の新たな門出を送り出した。

 

 

「――もちろんなんだよ! あうれおるす!」

「――インデックスちゃんと一緒に、ずっと待ってますから!」

 

 

 アウレオルスは、それに満足気に頷いた。

 

 上条は、顔を上げることは出来なかったが、アウレオルスの胸を、右拳で軽く叩いた。

 

 

 そして、アウレオルスは歩き出す。

 

 その傍にステイルが、そして神裂が続いた。

 

 

 インデックスと佐天は去り行く三人に手を振り続け、上条は俯いたまま拳を握り続けた。

 

 土御門は、そんな上条の背中を、無感情でただ眺めていた。

 

 

 

 こうして、一人の少女を救うために戦い続けた戦士たちは、それぞれが新たに進むべき道へと、旅立っていった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

――佐天と上条は回想を終え、少しの間、沈黙する。

 

 そして、上条は手元でサラダの盛り付けの最終段階を終えながら、佐天に言った。

 

「――ステイル、神裂、そしてアウレオルス。誰一人として、お前がインデックスの傍にいることに反対した奴なんていなかった。それどころか、皆お前を信頼して、インデックスを任せていったんだ」

「……はい」

「……いつか、アウレオルスが帰ってきた時、胸を張って、インデックスと最高の笑顔で迎えてやれ。……それが、一番だ」

「……はい!」

 

 上条は、目に見えて明るくなった佐天を、優しい笑みで見つめる。

 

 佐天は基本的に明るいムードメーカーだが、一度深みに入って落ち込むと、とことん思いつめてしまう傾向があることを、上条は最近気づいた。

 

(……そういうところは、なるべく俺がサポートしないとな)

 

 佐天はまだ中学一年生の十三才なのだから、なるべく重いものは背負わせたくない。

 

 上条はそう思いながら、無心で料理を続けていると――

 

「出来ましたね! サラダと炒め物の完成です!」

「――お? あ、ああ、出来たな」

 

 気が付いたら料理が完成していた。

 

「上条さん! さっそく皆の所に運びましょう!」

「――ああ。お~い。料理の追加だぞ~!」

「待ってたんだよ!」

「ちょ、アンタ、まだ食べるの!?」

「底なしですわね……」

「――はっ!? 私は、今まで何を……?」

 

 再び上条家は騒がしい喧騒に包まれる。

 

 女三人寄れば姦しいというが、これだけ個性の強い女子が五人も集まると、それは凄まじいものがある。

 

 上条はため息を吐くが、決して不快ではなかった。

 

 

 インデックスの暴れっぷりを、佐天が宥めようとして、それを御坂がサポートしつつ、初春がドジを踏んで状況を悪化させ、白井がそれを呆れながら見ている。

 

 

 上条はなぜだかこのハチャメチャな光景が微笑ましく見えていた。

 

(たまには、こういうのもいいのかもな……)

 

 そう思い、上条がお手製サラダをテーブルへ運ぼ――

 

 

「か~み~じょ~さ~ん!!! 正妻の登場だゾ☆!!!」

「女王。乱入はいいですが、その登場はやめてください。正直イタいです」

 

 

 上条家の扉が荒々しく開き、伸びやかな少女の声が響いた。

 その後ろからすごく疲れた感じの少女が続くが、金髪の少女は勝手知ったる我が家と言った風にズンズンと中へと進む。

 

 

「食蜂!? どうしてここに!?」

「どうして、じゃないんだゾ! 何でこんな楽しそうな場所に私を呼んでくれなかったのぉ? 薄情力高過ぎなんだゾ!」

「い、いや、元々引っ越しの手伝いっていう力仕事だったし。お前、そういうの嫌いだろ?」

「……すみません、上条さん。私が口を滑らせてしまい……」

「大丈夫だ、縦ロールは悪くない。……そうだよな。これだけ呼んで、自分だけ呼ばれなかったら寂しくなるよな。ゴメンな、食蜂」

「……んふふ……私は懐力が深いから、許してあげる☆。もう仲間外れにしないでね♪」

 

 頭を撫でられてすぐに機嫌が直ったちょろい女王はあっという間に上条の懐に潜り込む。そしてピタっと上条の体に己の豊満な胸を密着させる懐力の深い食蜂操祈。

 頬を紅潮させうっとりとした目で上条を見つめるが、付き合いの長い上条は良くも悪くもこういった行動に慣れていて動じない。

 

 だが、この状況を黙って見ていられない者がいた。

 

「あ、あ、あ、アンタ何してんのよ!!?」

「あらぁ~。居たの、御坂さん? 存在力が薄すぎて気づかなかったわぁ~」

「なんですって~!!! いいからさっさとそいつから離れなさいよ!! アンタも!! いつまでされるがままになってるのよ!!」

「いや、いつものことだし。……っていうか、何で御坂が怒ってるんだ?」

「そ、そ、それは、あ、あ、あ、アンタが――」

「あらぁ~。あなたがインデックスちゃんね。私は、食蜂操祈でス☆ よろしくね♪」

「よろしくなんだよ、みさき! それと、そこのアップルパイとって欲しいんだよ!」

「いや、今インデックスちゃん辛味チキンを山程頬張ってたよね!? その食べ合わせはどうなのかな!?」

「佐天さん、もはやインデックスさんに食事関係のツッコミは不要ですよ。彼女ならきっとステンレスでも食しますよ」

「いや、それはもう人間じゃないよね!?」

「……上条さん。彼女はシスター……ですよね? 確か、シスターは暴飲暴食は禁止されているはずでは……?」

「お、おう。今更、そんな根本についてのツッコミが入るとは思わなかったぜ。……まぁ、本人が幸せそうだからいいじゃねぇか。野暮なことはいいっこなしだ。多少のことには目を瞑ろうぜ、縦ロール」

 

 モウ、マドロッコシィンダヨ!!

 

 ガキンガキンガキン

 

 キャァ~! アップルパイゴト、ワタシノテガクイチギラレル~!!!

 

 インデックスチャン、オチツイテ!! ダレモトッタリシナイカラ!!

 

 ナントイウ、カミツキ……ホントウニカノジョナラステンレスヲモカミクダキソウネェ……

 

 バカナコトイッテナイデ、インデックスチャンヲトリオサエルノヲテツダッテクダサイ!!

 

「…………」

「……………………多少?」

「……あ、あ~その~。あ! そういえば、御坂! お前、さっき、何言いか……け……て――」

「…………………………」

「……え~と。御坂、さん?」

「ひ、人の、話は、最後まで聞け、馬鹿ぁ~!!」

「ふ、不幸~~~~~だぁ~~~~~!!!」

 

 

 

 

 

「…………………………………………カオスですわ」

 

 

 食蜂達の乱入で、ただでさえ騒がしかった様相が、完全に収拾のつかない混沌となる。

 

 あっちでこっちでトラブルが起こる中、白井は完全に悟りきった瞳で、ゆっくりと上条特製コーヒーを啜った。

 

 あ、美味し。たまにはコーヒーも悪くないかも。なんて現実逃避気味に堪能していると。

 

 

 再び玄関の扉が、勢いよく開け放たれた。

 

 

 

 

 

「おォォォい!!!! なァァに人様の家で面白可笑しく騒いでくれてやがるンですかァ!!? 全員纏めて愉快で素敵なオブジェにしてやろうかァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 そのチンピラのような怒声によって、混沌となっていた部屋の喧騒は静まり返る。

 

 全員の注目がリビングの扉に集中する中、そこに立っていたのは、白髪痩身赤目の少年だった。

 

「……あァン? なンだァ、このふざけた状況は? 乱交パーティの真っ最中ですかァ?」

 

 黒字に白線で独特の模様が描かれた半袖のTシャツにジーパンというスタイル。

 その血のように赤い瞳は、無造作に視線を振り撒くだけで、まるで飢えた獣が獲物を探しているかのようで、少女達を軒並み恐怖させた。

 

 ガシャンと少年は缶コーヒーが大量に入ったコンビニ袋を投げ捨てる。

 

 少女達はそんな何でもない一挙動にすら怯えていたが、そんな少年に無遠慮に言葉を投げかける者達がいた。

 

「あ、一方通行(アクセラレータ)!? お、お前、何で? 打ち止め(ラストオーダー)と出掛けてるはずじゃ――」

「はァ? オマエ、今何時だと思ってやがンだ? とっくにガキはお寝むの時間だろうがァ」

 

 上条は携帯で時刻を確認する。

 午後の八時。確かに、寝るには早いのかもしれないが、子供を連れまわすには相応しくない時間だった。

 

「やっほぉ! お久しぶりね、第一位さん☆」

「……第五位か。久しぶりってわりにはしょちゅう来やがるな、テメェも。……後ろで震えてるバンビ共は、オマエのお友達か?」

「ちょ、ちょっと、食蜂?」

 

 食蜂は一方通行(アクセラレータ)と何の気負いもなく会話をこなしたが、御坂は食蜂の言葉のある部分が気になった。

 

 対して一方通行(アクセラレータ)はここにきて初めて御坂を認識したようで、一瞬体がビクッと硬直したのを、上条は見逃さなかった。

 

 これが嫌だったから一方通行(アクセラレータ)の足止めを土御門に頼んだのに、と内心焦る上条だったが、こうなっては少しでも早くこの会をお開きにして、一刻も早くみんなを――もっと言えば御坂を帰らせなければならない。

 

 一方通行(アクセラレータ)が帰ってきた以上、隣の部屋には彼女達は帰ってきているだろうから。

 

(……いつかは言わなければいけないことなんだろうが、それにしてもこんな形でバレるのは避けたい。……ちゃんとした場を作って、本人達だけで会わしてやるべきだ)

 

 御坂はそんな上条の葛藤を余所に、一方通行(アクセラレータ)をチラチラと見ながら食蜂に問いかける。

 

「あ、アンタ、今、第一位って言った?アイツが第一位なの?」

「そぉよ~。御坂さん、超能力者(レベル5)の癖に知らなかったのぉ?」

「知らないわよ! 他の超能力者(レベル5)なんてアンタしか!! っていうか、なんでアンタ第一位と知り合いなのよ!?」

「えぇ~。だってそりゃあ、彼、上条さんの同居人だしぃ~。私、何回もここに来たことあるし☆」

 

 食蜂は御坂を挑発するつもりで言った言葉だったが、御坂も、そして話を遠巻きに聞いていた少女達(インデックスを除く)も、別の所に驚愕した。

 

 

「「「「ど、同居人んんんんん!!!!」」」」

 

 

「うわッ!?」

「ちょ、なにぃ~」

「…………はァ」

「?」

 

 四人の驚愕の叫びに、上条と食蜂は耳をやられ、一方通行は大きくため息を吐き、インデックスは事態を把握できずに可愛らしく首を傾げた。

 縦ロールは一人、まぁそうなるわな、といった感じで距離を取り、話についていけないであろうインデックスの世話に回ろうと移動した。

 

「ど、どういうことなの!? あ、アンタ、第一位と同居してんの!?」

「あ、ああ。……そんなに驚くことか?」

「驚きますよ!! 一体全体どういう事情があって一緒に住んでるんですか!?」

「……まぁ、色々あったんだよ。色々」

「色々って――」

「あ~~も~~!! また今度、質問には出来る限り答えてやるから、今日はもう解散だ、解散!! 一方通行(アクセラレータ)も帰ってきたことだしな!」

「……そうですわね。お家の方のご迷惑になられるでしょうし。……と、いうよりお姉さま。私たち、ひょっとしたら門限をオーバーしてしまったのでは?」

「――あ」

 

 白井の言葉で、渋々といった感じだが、徐々に帰り支度を始める一同。

 後々面倒くさいことになるだろうが、とりあえずこの場を収めることは出来たようだ。

 

「え? もう帰るの? せっかく、縦ロールがおいしそうなお菓子を用意してくれたのに!」

「隣なんだから持って帰ればいいだろうが」

「それじゃあ、上条さん。お邪魔しました」

「また、支部でお会いましょう」

「後でじっくり話を聞かせてもらうからね」

「えぇ~。もう、帰らなきゃダメぇ? 来たばっかりよぉ。融通力利かなすぎぃ、縦ロールちゃん」

「ダメです。女王が外泊など以っての他です。下の者に示しがつきません。」

 

 最後に佐天が、上条と、そして一方通行(アクセラレータ)の前に立つ。

 

「えぇと……それじゃあ、上条さん。……それから、一方通行(アクセラレータ)、さん。……これから、お隣として、色々迷惑をかけてしまうかもしれませんけど。……どうか、よろしくお願いします」

「ああ。これから、よろしくな」

「……あァ」

 

 佐天は最後にニッコリ笑い、他のメンバーと合流した。

 

「それじゃあ、帰ろっか」という御坂の言葉と共に、全員がリビングを後にしようとする。

 

 それを見送る上条に、そっと一方通行(アクセラレータ)が近づいて耳打ちした。

 

「ココに越してくるってことは……あいつら、訳有りか?」

「…………ああ。前言った、もう一つの世界の方の、な」

「……なるほどなァ」

 

 一方通行(アクセラレータ)は、佐天を、そしてインデックスを眺めた。

 

「……オマエは、守りたいものを、守れたのか?」

「……まだ途中だ。これから先もずっと守り切ることが、俺のやるべきことだからな」

 

 一方通行(アクセラレータ)は、一瞬上条の方を見て、何も言わず、再び前へと視線を戻す。

 

 

 こうして、佐天とインデックスの引っ越しパーティは幕を閉――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ~ん!! ヒーローさんにお土産渡すの忘れてたから持ってきたよぉ~!! ってミサカはミサカは空気を読まずに突入してみたり!」

 

 

 

――じなかった。

 

 

 

 その小学生くらいの小さな女の子は、すでに廊下に出ていたメンバーのことなど目にも入らないといった風に、スルスルと間をすり抜け、リビングに突入し、目的の人物を発見する。

 

「あ!」

 

 そして、満面の笑みで少年に向かってダイブした。

 

「ヒーローさ~ん!! ってミサカはミサカはこの体のサイズを最大限に活かしてヒーローさんの胸の中に飛び込んでみたり!」

 

 上条は少女を軽々と抱き留める。

 だが、心の中では焦りがピークでマックスだった。

 まずい。まずいまずいまずい。

 

 だが、事態はもうどうすることも出来ない。

 一方通行(アクセラレータ)も手を額に当てながら大きく溜息を吐いていた。

 

 そして、ドタドタと響く足音。

 

「ちょっと、今の誰ですか!?」

「子供みたいでしたけど」

「そして、すごく――」

 

 

「「「――御坂さん(お姉さま)にそっくりでした!!」」」

 

 

 初春、佐天、そして白井が声をハモらせながら、一斉に叫ぶ。

 

 その後ろで食蜂と縦ロールは苦笑いを零している。

 

 

 そして、御坂美琴は、目の前の光景に唖然としていた。

 

 

 上条当麻に抱き着いているのは、自分の子供の頃の姿と瓜二つの少女。

 

 

 だが、自分には、妹はいない。

 

 そのはず――

 

 

 

「あ、お姉さまだ~。お姉さま~とミサカはミサカは念願の初対面に歓喜してみたり♪」

 

 

 

 その少女は――――自分をお姉さまと呼ぶその少女は、たったったと子供らしい軽快な足取りで駆け寄り、自身の腰のあたりに抱き着いてきた。

 

 御坂は唖然としながらその少女を受け止める。もう、何が何だか分からない。

 

 

「「「お、お、お、お姉さま~~~~~!!!!!!」」」

 

 

 三人の親友の叫び声を、どこか現実感の湧かない情報として処理しつつ。

 

 

 目の前の、一方通行(アクセラレータ)の苦虫を噛み潰したような表情と、上条当麻の戸惑いつつも温かい目つきが、やたら印象に残った。

 




 ようやく妹達編っぽくなってきたかな?

 これで日常パートは終了。

 そして、長い長い事件パートへ……

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