甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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これは単なる職員会議である

 辰宮邸での朝食。ああ、それはとても素晴らしいものである。普段食べているものがなんなのかと思えるほどだ。

 だが、味がまったく感じられない。狩摩と神野に挟まれ対面には柊聖十郎。こんな中で食事など出来はしない。

 

 それなのに、

 

「三好さん、食が進んでいないようですがどうぞ遠慮せずに。育ち盛りの娘さんなのですから、たくさん食べて下さい」

 

 と、百合香がしきりにこちらに気を遣ってくる。それに乗じて、

 

「そうそう流石に摘まめるくらいはないとねぇ」

「おうおう、そう言うなやじゅすへる。こんなは俺が壺中天に放り込んで修業させちょる。こんなは他の奴らより数年分、年いっちょるんじゃ。

 背はでこうなったが、それ以外は変わらずよ。風呂あがり隠れて豊胸体操しちょるが変わってないんじゃ! つまりのう――」

「あぁ、可哀想に。もう成長する余地なしなんだね! でもダイジョーブ! なぜなら、貧乳は希少価値のあるステータスなんだ。

 彼らもそんな君が好きなのさ。ねえ? みんな。おいおい無視するなよ、君らに言ってるんだよ。これを見てる君らに。

 貧乳は、素晴らしいだろ? 正直になれよ」

 

 狩摩と神野が好き勝手良い始める。狩摩マジ黙れ、てか、隠れてたのになぜ知っている。人払いの結界まで張っていたんだぞ。

 それから神野は誰に向けて言っているんだ。明後日の方向を見て喋るな気持ち悪い。

 

「あらあら、三好さんは胸の大きさで悩んでいるのかしら。大丈夫です。殿方は、女を胸の大きさでは判断いたしませんよ。

 もしそういう殿方がいたら踏んでやれば良いのです。まあ、私は踏まれる方が良いのですが」

 

 いやいや、聞いていませんそんなこと。というかいい加減胸から離れろ。

 

「諦めるな! 三好夏凜。諦めなければ夢は必ず叶う! それに小さいなどと卑下することはない。どのような胸であれ、男のリビドーは胸であればたぎるのだ!

 貧乳だから、たたない? そんな奴は男ではない。小さくとも良い。お前の身体は美しい。ようは全体的なバランスなのだ」

 

 その点、お前バランスがよく美しい。恥ずかしげもなく言い切る甘粕。お前はいったい何を言っているんだよ甘粕正彦。

 確かにその賞賛は良いものなのだろう。女としては褒められるのは悪い気はしない。しかしだ、夏凜としてはそれを素直に受け取ることが出来ない。

 

 主な原因は左右に座っている馬鹿どものせいだろう。良いからこいつらを止めてほしい。

 

「しかしな、それでも気になるというのが女というものだアマカス。私はまったく頓着したことはないが、アキラの胸は確かに他の女たちから羨ましいと思われていたぞ。ただの脂肪の塊だろうに」

 

 そこに加わるクリームヒルト。止める気はないらしい。

 

「いやいやいやー、ただの脂肪の塊だなんて、それは違うよ。胸には、男の夢が詰まっているのさ! ねぇ、セェェジ」

「知るか。胸など下らん」

「ロリ巨乳の奥さんもらってる人に言われてもねぇ。説得力ないよセージ。ほら、きっとそこらへんの奴らも皆頷いているところだよ。それとも何かい? 尻派かいセージ? うーん、僕としてはそっちでもいいんだけどさあ――」

「知るかよ。あれが勝手になついてきただけだ」

「もう、照れちゃって。僕知ってんだからね! カレンダーに結婚記念日がかかれてることをさあ」

「それは剛蔵の奴が勝手に書いているだけだ。俺には関係ない。

 貴様もだ。自分の胸が小さいことを一々他人に気取られるな面倒だ。そういうのは俺のいないところでしていろ」

「だから、違うってんでしょ! 話を聞きなさいよ!」

 

 結局、朝食が終わるまで夏凜はまともに味を感じれなかったし、それほど食べることもできなかった。早く終われと思う。どうしてこんなところにいるのか真面目に考え始めた頃。

 ようやく真面目に話し合いが始まる。議題は、報告とバーテックスと神樹を含めた今後についてだ。百合香が議長としてまずはとばかりに狩摩へ。

 

「まあいつもの報告会なのですが一つ。狩摩殿あなたまた(・・)、東郷の娘さんに外を見せましたね」

「さぁてなァ。見せたかもしれんし、見せてないかもしれん。よォ覚えてないでな」

「まったく、そのせいで彼女、体調を悪くされて欠席しているようですよ。これで二度目。また、壁を破壊されたらどうするのです」

「知るかいな。決めるのは、あのデカイ嬢ちゃんよ。またァやるんなら、それまでっちゅうことよ。まァ、そうなると今度こそ終わりやろうがなァ。かはははは」

 

 おいちょっと待てと夏凜は言いたい。東郷については話を聞いている。勇者システムを使った三人の勇者についても夏凜は狩摩から強制的に話を聞かされているのだ。

 だからこそ、その結末を知っている。その中で東郷は壁を破壊したと狩摩から聞いている。それで一度大変な事になったとも。

 

 それがまた起こるかもしれないと? 

 

「ならんよ。心配には及ばん。東郷美森ならば大丈夫と俺は信じている。ああ、わかるとも。信じることは恐ろしい、怖い。だが、だからこそ俺たちは勇気を出すのだ。

 信じよう。それこそが俺が愛しの男に殴られて知った一つの真だ。ああ、今でも殴りつけてやりたいと思う。だが、それでは柊四四八に申し訳が立たん」

 

 だが、それは起きないと甘粕は断じる。信じてみよう。そう彼は言ったのだ。

 

「私はそれについては知らないが、アマカスがこういうのならば信じても良いだろう。知ってのとおり私は理屈から入る女だからな。あのアマカスが、殴りつけるよりも信じるというのだ。それならば信じても良い。そう思うわけだ」

「そうだねえ。主がこうまで言うんだから、ダイジョーブなんじゃなーい? ねえ、セージ」

「フン、貴様らの懸念など知るか。過去の人間同士勝手にやっていろ。まったく役に立たん奴らめ。どうせなら、柊四四八本人が出てくれば良いものを。そうすれば、奴の謎に包まれた半生を知れたのだ」

 

 その言葉に神野は総じて楽しそうに笑みを深めるのであった。ああ、なんだ、良いじゃないかとでも言わんばかりに。

 

「ふむ、ならば私が答えても良いぞセージ。お前が知りたいのは謎に包まれた満州でのヨシヤの足跡だろう。差し障りない部分であれば話しても良い」

「馬鹿を抜かすな。貴様が答えたところで貴様の主観だろうが。歴史なんぞに興味はない。俺が興味深いのは大戦を回避したと言う柊四四八の思考だ。狂人が何を考えていたのかだ。貴様に聞いたところで何の意味がある」

「なーるほど、セージはあれなんだね。結局、柊四四八に会いたいわけなんだ」

「なぜそうなる。頭でも湧いてるのか貴様。ああ、湧いていたな」

「はいはい、みなさん楽しそうなところ恐縮ですけれど、話が進まないのでそろそろやめて下さいな。ほら、三好さんが楽しくなさそうですよ。ここは年長者らしく、みんなで楽しめる話題にしましょう」

 

 はいはい、やめやめと手を叩いてこの話題を終わらせる百合香。話題に出された夏凜はと言えば、そのままいないものとして扱ってくれればよかったのにと思うばかりだ。

 

「そうじゃのォ。うちの子が可哀想じゃけェ。もっと楽しげな話しようや」

「どの口が言ってるのよ狩摩」

 

 とりあえず、それについてはふざけるなといいたい。

 

「あら、それなら辰宮の子になります? 狩摩殿の家よりは良い思いが出来ると思いますよ?」

「それはないでよお嬢。流石にお嬢でもこいつはやれんでよ」

「あら、それならもっときちんと保護者らしいことをしたらどうです? ほらどうします? 辰宮の子になっちゃいます?」

 

 心底楽しそうに百合香は言う。それにどう答えていいか夏凜が答えあぐねていると、

 

「ハーイ、それならぼぉくも参戦しまーす!」

「いや、あんたのところは絶対ないわ」

 

 即答である。

 

「わーん、セージエモン! 夏凜ちゃんがツレないよぉおおおあははは!」

「ええい、気色悪い声で抱き着いてくるな!」

「ふむ、ならば俺の所に来るが良い」

「私のところでもいいぞ」

 

 いや、なんだこの流れは。そう思っていると、発言した全員が神野を引きはがしている、まだ発言していない聖十郎の方を見る。何かを期待したような。

 

「ん? おい、なんだ愚図ども」

「あーあー、これだからセージは」

「まったく相変わらずじゃのう。ノリっちゅうもんを理解しちょらん」

「まあ、それについては柊殿ですから仕方ないでしょう。おそらく、四四八さんもこの場では絶対にフリには乗りませんよ」

「ふむ、セージ。俺は思うのだ。お前はもう少し、場の空気と言うもの読むべきだとな」

「それについてはアマカスお前もだろう」

「おい、なにそろいもそろって意味がわからないことを言っている」

 

 いい加減本題に入れよ。絶対零度の視線を受けてそれらにまったく頓着しない者どもがとりあえず席に戻る。

 

「はい、それでは本題に入りましょう。バーテックスへの対策はこれまで通り心苦しいですが勇者部の方々に任せるとして甘粕殿は顧問としていつも通り指導を。結城さんの出来次第第五の打倒も視野に入れましょう」

「ふむ、それならば問題あるまいよ。なあ、セージ」

「知るかよ。だが、そうだ。順序が肝要だ。貴様らが好き勝手やらなければそれなりにうまくいくだろう。いいや、この俺が携わっているのだ。巧くいかないはずがないだろう」

 

 だが、不測の事態というものはいついかなる時も起こりうる。だからこそ、下手なことはするなと釘を刺していく。

 特にそこの盲打ちは下手なことはするなよ。ただでさえ神樹が介入して面倒なことになっている勇者システムに砂かけるような真似は絶対にするなよ、と釘を刺しておく。

 

「なんぞ、酷い言われようじゃのう! 勇者システムにはもう(・・)さわらん。釘を刺されんでもわかっちょる」

「……どうだか」

 

 ぼそりと夏凜が言う。

 

「なんぞ言いたいことでもあるんか小獅子。言いたいことがあるなら言ってみィ」

「じゃあ、死んでくれる」

「おうおうこれは辛辣じゃのう! ツンデレっちゅうやつか!」

「違うわよ!」

 

 とりあえず一人大爆笑の盲打ちは放っておいて、

 

「ともかくヘル殿が来た以外に現状にかわりはないということで良いですね。全体的に見て、こちらの戦力が上がったことなりますが、さてこれがどういうことになるのか」

「何、心配せずとも俺と勇者部でどうにかしよう」

「はい、生徒を戦わせるなど心苦しいですが、まあなってしまったものはしょうがないですのでやれるだけやってください」

 

 そういうわけでなんかあまり話しが進んでないような気がする職員会議は終わりを告げた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 深夜。そっと家を抜け出した樹は、海岸に来ていた。そこが待ち合わせ場所だと聞いていたから。

 

「やあ、来てくれたんだ」

「うん」

 

 そこにいたのは、ただそこにいるだけで全てを不安にさせる人。ある意味で相当レベルに差があるものの同種である樹には良くわかる。

 彼が生とはまったくもって逆の場所にいる人物であるということを。だからこそ、少しだけ親近感がある。昔の自分は病弱であったから。

 

「えっと、それでわたしに用って?」

「君は有名な勇者部の一員なんだんだろ? だから、助けてほしいのさ」

「えっと」

 

 それは依頼ということで良いのだろうか。ならば、なぜこんな深夜に? 昼間に部室に来ればよろこんで姉や友奈さんが対応するだろう。

 だというのに、こうやって深夜に樹だけ呼び出して話をするということはそれ相応にまずいことなのだろうか。樹は馬鹿ではない。だからこそ、そんな予感を感じ取った。

 

「そんなに警戒しないで欲しいな。俺としては、切実な問題なんだよ」

「そうなの?」

「ああ、切実だよ」

 

 だから、助けてほしいんだよ。とまったく心のこもっていない言葉が告げられる。同種であるがゆえに少しばかり理解できる。

 この男がまったくと言ってよいほど助けてほしいなどと思っていないことを。どちらかと言えば人間に相対しているような感覚ではないだろう。

 

 これは道具と話している、まるでそんな感覚を男は抱いているに違いなかった。助けてくれ(俺の役に立て)

 

「…………どうしてわたしなの?」

 

 勇者部にはもっと頼りになる人たちがいるではないかと。姉もそう、友奈もそう、東郷もそう。最近は言ったばかりの夏凜だってそうだろう。

 おそらくは、何もできない自分に何を頼むと言うのか。

 

「君にしかできないことさ。そうでなければ呼び出さない。俺がそんな手間をかけると思っているのかい?」

 

 ほとんど初対面であるが、そうは思えない。

 

「だからさ、協力してくれよ(いいから俺の役に立て)。君しかいないんだよ」

「……わかった」

 

 けれど、樹はうなずいた。初めて、誰かに必要とされたから。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ああ、何だ。何も知らないし、わからない。

 

 だから、お前らは何をしているんだ。

 

 まったく幸福そうじゃない。

 

 満たされている。だから眠っている。だというのに、お前らなんで起きているんだ。

 

 満たされてくれよ。

 

 俺は、お前で、お前らは俺で。だから、お前ら満たされろ。全て満たされろ。眠れ、眠れ。

 

 寝た子を起こすなよ。

 

 満たしてやるから眠ろう。

 

 抱けよ。お前の望むものを満たしてやる。

 

 だから満たされたら、眠ろう。幸せに。

 

 

 深淵で、混沌が渦巻いている。ここには何もない。あるいは全てがある。ここは全ての中心。世界は全て泡沫の夢ならば。

 寝た子を起こすな。眠り続けろ。

 世界の中心で、下劣な太鼓と呪われそうなフルートの音が響くゆりかごでただただ眠り続けるのだ。

 




そろそろ更新がとまりそうです。ブースト終了のお知らせ。ふぅ、よくやったよね私と言いたい。ああ、そうだろうね、私が思うんだからそうだ[阿片スパー。

というわけで今回は職員会議です。こんな職員会議絶対嫌だけど。
で、最後に樹ちゃんが誰かと逢っていたようです。いったい何十字なんだ。

とりあえず万仙陣はちゃくちゃくとコンプリートへの道を突き進んでおります。

次回は、友奈の話でもやろうかと思いますが予定は未定です。
なにかあれば感想でお願いします。
では、また次回

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