甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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夏だ、海だ、水着だ、勇者部だ

 燦々と輝く太陽のもと、波音満ちる浜辺はまさにリゾート。世の中の喧噪なんぞ忘れて楽しめと言わんばかりに広がる青い海。

 そこにいるのは勇者部一同。もちろん全員水着である。大赦の計らいによりそれぞれのイメージカラーの水着を支給された水着を着て海にバカンスに来ていた。

 

「うみだー!」

 

 もう我慢できないとばかりに海へ突撃する友奈。浜辺に足跡を残し最後の踏み込みでクレーターを穿ちながら海へとダイブしていった。

 天高くまで伸びる水柱を叩き上げながら友奈は海中へ。そして、

 

「ぷはっ! みんなー、たのしいよー!」

 

 海面に出てきてぶんぶんと手を振っている。加減してないから雲が引きちぎれるとかしているが、まあご愛嬌だろう。

 海を割る美少女とかそういうテレビ取材とかでいくらか友奈の奇行は放送されているので今更驚くような海水浴客たちはいない。

 

「もう、友奈ちゃんしっかり準備運動しないと危ないよ」

 

 むしろ彼らの注目はこっちだろう。中学生とは思えない発育の東郷の御胸様である。男ならば誰でもその双丘を見れば視線を外すことができなくなるだろう。

 それの持ち主がまた美少女なのだからもう視線を向けることを止められない。だが、何を恥じることがあるのだ。男たちは皆、テレビに出ていたとある名物教師の言葉を思い出していた。

 

 エロいのはいけないこと? 阿呆か。そんなものは男の牙をもぐ発言だ。そんなものに惑わされるな男子諸君。お前たちが真なる益荒男であるならば己が欲望を封じ込めようとするな。

 草食系? 馬鹿かよ。そんなものは男を型に嵌めようとする女の妄言にすぎない。女は見られるからこそ輝くのだ。ゆえに、男子よ見るが良い。

 

 その視線にさらされることで女は自らを磨き美しくなる。お前たちもそうだ。見たいならばまず見られて恥ずかしくない肉体を誇るが良い。

 見るならばみられる覚悟をしろ。片方の覚悟など笑止。お前に女を見る資格はない。見たいのならば己を磨くのだ。

 

 そんな言葉。ゆえに、この海水浴場においてみっともない男子などおらず誰も彼もが益荒男だ。欲望の牙を研ぎ澄まし、女が眉唾ものの肉体を誇っている。

 だからこそ、女もまた同じく己の肉体を誇示するのだ。何を恥じる必要がある。己は美しい。そのために磨いてきた。

 

 恥ずかしいはずがないだろう。誰かの為に磨いた? お前たちに見せびらかせる為のものではない? ああ、そうだろう。

 だが、男なのだ。やめられん。だからこそ、そんな男の欲望すら呑み込む大きな器を持つこと。それこそが女の真に在るべき姿だろう。

 

 つまり、東郷は己の肉体を惜し気もなく晒しているし、男たちは遠慮なく視ているし見られている。しかし、そこによこしまなものはない。

 盗撮? ありえない。ナンパ? 軟弱物め。真なる益荒男ならば己の目に焼き付けろ。脳裏に刻みこめ。常に雄々しく男らしくお前たち自身を誇示するのだ。

 

「ぐぬぬぬ」

 

 そんな東郷の様子をぐぬぬと見つめる女一人。三好夏凜その人である。健康的な競泳水着とも言うべき水着に身を包んでいる。そんな自分というものに自信がある。鍛え上げた肉体はすらりとしていて無駄なく引き締まっている。

 バランスという意味合いにおいて同年代を越えているし、とある修行法により先行した年月による同年代よりも高い身長が合わさればまさにモデルと言っても差し支えないだろう。

 

 しかしだ、とある部分はつつましい。東郷に圧倒的に負けている。それが羨ましくないと言えば嘘だ。自分にないものを言っても仕方がなく。

 そうとうにどうしようもない部類のことではあれど、気にせずにはいられない。それが女と言う生き物であるのだ。

 

 そんな彼女であるが、無論そういうものが好きな部類の人種はいるから一定層の支持を受けているし逆にそのつつましさから女の視線も多い。

 それは決して馬鹿にしたようなものではなく姐御と慕うような感じのような奴である。所謂ヅカという奴だろう。

 

「はっはっは、まったくあんたら最高!」

 

 そんな彼女らの様子をさらに後ろからパラソルの下で見るのは風である。一歩引いて全体を俯瞰して面白いと笑っている。そんな彼女も中々に視線を集めているのだが、そんなもにまったく頓着した様子はなく。

 

「あーやっぱこの安っぽい感じがいいわー」

 

 海の家で買ってきた数々の定番メニューに手を付けては良いわーと言いながら食べている。女が食べ切るのは無理に思えるような量がみるみるうちの彼女の胃の中に入って行く。

 それがまたおいしそうに食べるものだからそれを見た奴らは全員海の家へ突撃していっていた。誰かがおいしそうに食べていればお腹がすく。

 

 ゆえに、海の家フル回転。もう何度も諦めそうになった。だが、そのたびにある男の言葉が脳裏によぎるのだ。

諦めるな。諦めなければ夢は叶う。

 諦めればそこで全てが終わるのだ。だからこそ、前に進む限り輝きが失せることはない。だからこそ、店長は諦めず立ち向かう。

 

 まあ、そんな店長の奮闘は置いておいて勇者部最後の一人樹はというと、

 

「あち、あっちち!?」

 

 熱せられた砂浜に足をついてその熱さにやられて海へと走っていた。甘粕理論をインストールしている三人と訓練している夏凜と違って樹は身体強度という意味で劣るゆえにこの熱さが苦になるのだ。

 

「ふぅ」

 

 波打ち際に座り込んで一安心。綺麗な海に足を付けて波を楽しむ。

 

「おー、樹ちゃーん、競争しよー!」

 

 そこに友奈がやってくる。どうも泳ぎで勝負することになったらしい。樹もそこに参加することになっていた。

 

「いい機会ね。誰が一番か見せてやるわよ!」

「負けないからね! 行こっ、樹ちゃん」

「うん!」

 

 というわけでオリンピック選手も目を剥くようなスピードで泳ぐ三人。東郷はと言うと、その間に砂で城を作っていた。原寸大の高松城。そう原寸大である。

 そのあまりのハイクオリティに海水浴客が驚いていた。

 

「ふぅ、いまいちですね」

 

 本物とあまり変わらない出来だと言うのに東郷からしたらいまいちらしい。これでいまいちとかどうなるのだろうか。

 

「勝ったー!」

「はあ、二番」

「ぐぬぬぬあああ、もう一回よ!」

「フフン、何度やっても負けないからね!」

 

 そういうわけで二回戦開幕。

 

「いやー、まさか大赦からこんなお礼が来るとはねえ」

「はい?」

 

 風が城壁の作り直しを行っている東郷の下で呟く。

 

「今朝、全部のバーテックス倒したらいきなりここでしょ? 驚いたわー」

「それで満喫してるんですから、思惑に乗りすぎじゃないですか?」

「それよ、それ。東郷、どう思う?」

「甘粕先生たちが消えたことですか?」

 

 最後の戦いのあと、甘粕正彦以下讃州中学教員が消えた。夏凜に言わせればあの時辰宮邸にいた聖十郎を抜かした全ての人間が消えたのだ。

 

「そ、まああの人たちのことだから大丈夫だとは思うんだけど」

 

 何かありそうでならない。だからこそ、東郷に聞いている。こういうことが相談できるのは彼女だから。どちらかと言えば大赦側の人間である夏凜だが、信用できるだろう。

 あれも朝のうちに訝しんでいたから。だからこそ、この事態がどうなっているのかをまずは探る必要があるだろう。

 

 満喫していたのは素であるが、そういうことも裏で考えていた。

 

「そうですね。関係があるとすれば神樹様でしょう」

「あー、やっぱり?」

「先輩も思ってたんですか?」

「うん、なんとなくねー。ヘル先生に聞いたんだけどね、盧生っていうのらしいのよあの人。あの甘粕先生もだよ。本当はもっとすごいことが出来るらしいのよ」

 

 だけど、出来ない。それは神樹が封じているから。

 

「だから、そうじゃないのかってね」

「そうですか……そうですね、おそらく何らかの事態が動いているのでしょう」

 

 思い浮かぶのはあの混沌だ。おそらく甘粕たちもそれについて動いている。

 

「まあ、今は楽しみましょう。せっかくの機会を無駄にしては損ってもんよ」

「そうですね」

「部長ー、何の話ですかー?」

「なんでもないよー。それより、次は私も混ぜろー!」

 

 はい、三回戦突入。

 

「…………」

 

 それを眺める東郷。

 

「私、諦めません。信じてくれたあなたの為に。だから、私は……」

「東郷さんも行こうよー!」

「うん、今いく!」

 

 とりあえず、今は、楽しもう。この日常にまた戻ってくるために。

 そうして日が暮れるまで勇者部なのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 さあ、遊んだあとは食事である。豪勢の限りを尽くし、料理人の腕を尽くした豪華料理がテーブルに並ぶ。全て食べていいのだ、いいや食せ。そう言わんばかりの高級料理の数々。

 

「蟹だよ東郷さん!」

「友奈ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ。蟹くらいで」

「ええー、蟹って早々食べられるものじゃん!」

「え? 甘粕先生に頼んだら結構とって来てくれるよ」

「ええ!?」

 

 網を持って素潜りして取って来るらしい。何をやっているんだ甘粕。てか、なんで頼んだ東郷。

 

「まあ、蟹くらいじゃはしゃがないわね」

「ええ、夏凜ちゃんも!?」

「これでも大赦じゃ狩摩ってかなり上の方だったらしいのよね」

 

 だから、高級料理は食べたことがあるとかなんとか。大赦では夏凜は結構大事にされていたらしい。大事にしてなかったのはあの狩摩くらいで。

 マインドとタイムのルーム的な壺で数年間も修業させられたりした。

 

「今思い出してもムカついてきたああ」

 

 そんな夏凜らと、

 

「うっひょおおお蟹よ蟹! 見てよ樹、蟹よ!」

「わ、わかってるからお姉ちゃん、ちょっと落ち着いて」

 

 何やらテンション天元突破して蟹蟹言っている風。そんな姉の様子に樹、苦笑気味に呆れている。

 

「見てください、あれが女子力皆無の女子というものです」

「何よ東郷、良いじゃない、庶民にゃ蟹は早々食べられないものなのよ。ねえ、樹」

「これは、さすがにフォローできないかも」

「そんなぁああ!?」

 

 樹に見捨てられて泣き崩れる風。

 

「まあまあ、とりあえず食べようよ。私お腹すいちゃった」

「友奈ちゃんの言うとおりですね。さあ、先輩食べましょう」

「うおおおおおおん――、そうねー、はい、それじゃあ、手を合わせていただきます」

『いただきます』

「おりゃあ、蟹いただきー!」

 

 いただきますした瞬間に蟹に手を伸ばす風。しかし、それを遮る手がある。

 

「友奈!」

「先輩、先輩でも」

「いいわよ! 来なさい、蟹は渡さないわ!」

 

 蟹争奪戦勃発。

 

「お姉ちゃん……」

 

 妹呆れ気味。

 

「お、これ美味しい」

「夏凜さん、食べ方が汚いですよ」

「東郷が綺麗すぎるのよ。それに、私そういうの習ったことないし、てか狩摩と一緒に住んでたら、早く食べないとあいつにとられるのよ」

 

 だから、汚くても確実にたくさん食べられるようなはし使いになるし食べ方になったという。しかし、東郷はそんな理由で許しはしない。

 

「駄目です。さあ、矯正しましょう」

 

 怖い顔の東郷。夏凜は思わず後ずさりなんとか逃げようとしたが逃げ切れず矯正訓練開始。

 

「はむ、美味しい」

 

 樹は一人で満喫中。放置された蟹を一人で食べている。

 

「あー、樹何一人で蟹食べてるの!」

「樹ちゃん!?」

「仲良く食べようよ、ね、お姉ちゃん」

 

 はい、その一言で陥落。三人で仲良く食べることに。というか蟹はまだあるので別に争う必要はなかった。しかし、なぜだかやらねばならない。そういう風に思ったのだ。

 そして、食事のあとは風呂である。裸の付き合い。万歳。東郷の戦闘力の高さが再認識され、相対的に夏凜の残念さだったりが際立ったりした。 

 

「よーし、んじゃあ、寝るわよー。まあ、まだ寝ないんだけど。さて、何しようか」

 

 布団を引いて頭突き合わせてすること。決まっているコイバナである。

 

「恋バナ。はーい、今気になる人がいる人ー」

「…………」

 

 おずおずと手をあげる樹ちゃん。勇者部に電流走る。

 

「ええええ!?」

「お赤飯、お赤飯です!」

「樹、まさか、うぅ、樹に先越されたぁあああ」

「うわ、なにこの阿鼻叫喚」

 

 そして、その直後のリアクションが凄まじかった。友奈はひたすら驚き、東郷はお赤飯を用意せよとお祝いモード。風は覚悟していたはずなのに、泣き崩れ、夏凜はその様子にドン引きである。

 

「てか、思ったけど私らの周りって男いなくない!」

 

 さて、落ち着いたところで樹へ追及するもかたくなに言わないので風が話題を変えるべくそんなことを言う。

 

「ええと、甘粕先生に、狩摩先生でしょ、神野先生に、柊先生は既婚者だから除いてってこれくらい?」

「なんで全員先生なんでしょう」

「…………」

 

 深刻な男日照りに沈黙の勇者部。まともな男が一人もいないのがまた何とも言えないことに気が付いてしまった。しかも全員教員。

 

「そう言えば、私狩摩先生に胸揉まれたんでした」

「な、ん……だと」

 

 友奈の顔が劇画になった。阿鼻叫喚の恋バナは続いていく。そして、最終的に東郷の怖い話に突入し風がひたすら怖がって終了した。

 

 そして、満たされて眠りについた……――これは誰の夢?

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 夏だ、海だ、水着だ。つまりは、普通のバカンス。普通が良かったのだろう? 

 

 こういう普通に友達と楽しむなんてのを求めていたのだろう? ほら、満たしてやったぞ、その欲求。だから、満たされたのなら眠れよ。

 寝た子は起こすな。満たされているのだ。起こすなよ、幸せに眠っているのだから。

 

 満たされ眠ってくれよ。幸せだろう。

 俺はお前で、お前は俺で。全ては俺で、俺は全てで。だから、満たされろ。満たされて安らかに眠らせてくれ。

 

――終段、顕象

 




というわけでサービス回。ほら、こういうのが好きなのだろう。良い良い、愛いなお前ら。そのまま痴れていればいい。幸せだろう?

回れ、回れ万仙陣。はい、第四の真似終了。

え? サービス回なのにどこか不穏だって? はて、どこが不穏なのだろうか(阿片スパー)。ほうら、みんな大好きサービス回ですよ。

さて、恋バナで気が付いたが、この作品の勇者部の周りにいる男って甘粕、狩摩、神野、セージくらいか。まともな男がいねえ。
恋バナできるはずもねえ。

さて次回は、友奈と東郷の夜会話。樹となんちゃら十字さんの夜会話かな。流石にそろそろ更新遅くなるかも。
そして、終わりも見えてくる頃。どうか最後まで皆さま万仙陣を回してください。感想だけが励みです。

では、また次回。

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