心を穿つ俺が居る   作:トーマフ・イーシャ

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ぼっちの少女とリア充の王

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『あ、もしもし小町ちゃん?』

 

『あー結衣さーんどうもいつも兄がお世話になっております小町ですーどうしました?』

 

『あのね、来週、小学校の林間学校があるんだけどね、奉仕部で参加することになってね!それで、ヒッキーと、もしよかったら小町ちゃんも参加してほしいんだ』

 

『あーごめんなさいその日は家族旅行で九州に行くんですよー三泊四日で。もちろん兄も。ですのでちょーっと厳しいかなって』

 

『あ、そうなんだ』

 

『はい、だからごめんなさい行けそうにないですー』

 

『うん、ありがとうね』

 

『いえいえ、ちゃんと兄にお土産買わせますんで待っていて下さい!』

 

『じゃあねー』

 

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雪乃「そう、比企谷くんは旅行で来ないのね」

 

結衣「うん、ぴったりかぶっちゃってるみたいで」

 

彩加「八幡こないんだ……残念だね」

 

静「そうか、それなら仕方がない。我々四人で行くとするか」

 

 

 

優美子「あ、ユイじゃーん」

 

結衣「あ、優美子……どうして?」

 

隼人「奉仕活動で内申点加担してもらえるって聞いてね」

 

結衣「え、合宿じゃないの?」

 

優美子「あーしらはただでキャンプできるつーから来たんだけど」

 

戸部「だべ?いーやーただとかやばいっしょー」

 

姫菜「わたしは葉山君と戸部君がキャンプすると聞いてhshs」

 

静「ふむ、まあおおむねあっているしよかろう。みんなの言った通りだ。では、さっそく行こうか」

 

 

 

 

 

オリエンテーリングと称して私、鶴見留美を含む五人は山の中を歩いている。いや、正確には四人と一人か。同じ班には所属していても私と他の四人には明確な壁のようなものがある。四人は楽しそうに話しながら、ときおり後ろにいる私をみてはクスクスと笑っている。別にあの四人の中に入りたいとはもう思わない。けど、こうやってクスクス笑われるのは嫌だ。その哀れなものを見るかのような視線が、私に聞こえないように、それでいて何かを話していることを知らしめるかのように開いた口が、どうしようもなく格下であると、惨めな存在であると教えられてしまうから。

「じゃあ、ここのだけ手伝うよ。でも、他のみんなには内緒な?」

ボーっと歩いていたらいつの間にか男の人がいた。最初の集会で挨拶していた人だ。名前は確か……葉山、だっけ。ボランティアで林間学校の手伝いに来た高校生だっけ?あの集会の後、みんなあの人かっこいいとか何とか言ってた。私はその会話には入っていないけど、女子からは人気があるみたい。

葉山さんが来てくれたことにみんな嬉しそうにしている。私には関係ないけど。

と、金髪の人や胸が大きい人たちの中に、黒髪の女の人がいた。おそらく、葉山さんもグループで行動していて、そのグループの他のメンバーなんだろう。けど、その黒髪の人は一人だった。あの人を見るのは初めてだけど、何となく感じる。一歩引いて歩くような、そんな感じ。分かる。私も、一人だから。

「チェックポイント、見つかった?」

葉山さんに急に話しかけられた。さっきまでみんなと話していたから、こっちに来ると思ってなかった。

「……いいえ」

「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」

みんな?さっきまでみんなと一緒にいたじゃない。どうして私を?

そのあと、私は背中を押されてみんなのところまで連れていかれた。みんなの顔は笑っていたが、感じる。来るな、消えろ、と。言葉にしなくても、顔に出さなくても、分かる。みんなは私がいないかのように葉山さんと喋っていてこちらを見ない。葉山さんはみんなと楽しく喋っていて、こちらを見ていない。どうしてあんなことをしたの?なにがしたかったの?

私は首に紐でかけられたデジカメをなでる。お母さんが、みんなでとってきなさいと言って渡してきた。お母さんは、私の今について知らない。話していない。でも、写真がなかったら、きっとお母さんは気づいてしまう。怒られるのだろうか。お母さんも惨めなものを見るかのような視線を送ってくるのだろうか。それを考えると、怖い。でも、みんなと写真を撮るなんて出来るはずがない。

だから、そっと後ろに戻る。もとの場所に。みんながいないところに。

 

 

 

「カレー、好き?」

夕食のカレーを作っていたらまた葉山さんに話しかけられた。まあ私は何もしていない、というか何もさせてもらえないんだけど。私が何かに触ろうとすると、みんな持っていかれちゃったから。

私が葉山さんに話しかけられているのを見て、みんながこっちを向く。そして感じる。来るな、消えろと。私はこれだけ感じるのに、このずっと笑顔の人は何も感じないのだろうか。

「……別に、カレーに興味ないし」

だから、逃げることしかできない。留まっても、みんなが私を排除しようとするだけだから。少し離れてから後ろを見ると、みんなと、あと胸の大きい人が楽しそうに笑っている。私はやっぱり邪魔なんだ。二回も続けば、あの人も気が付いたと思う。

と、歩く先にさっきの一人の女の人がいた。雪ノ下と名乗った人は、中学生になれば……という私の期待をあっけなくうち破った。

「中学校でも、……こういうふうになっちゃうのかなぁ」

私の口から嗚咽が漏れる。やっぱり、嫌だよ。惨めなのは。惨めにされるのは。惨めだと思われるのは。

 

 

 

 

 

結衣「大丈夫、かな……」

 

静「ふむ、何か心配事かね」

 

隼人「まあ、ちょっと孤立しちゃってる生徒がいたので……」

 

優美子「ねー、可哀想だよねー」

 

戸部「そんな子がいたん?うっわ、ホントそーだべ!一人とかマッジかわいそーだし!」

 

静「それで、君たちはどうしたい?」

 

結衣「それは……」

 

隼人「出来れば、可能な範囲でなんとかしてあげたいと思います」

 

雪乃「あなたには無理よ。そうだったでしょう?」

 

隼人「そう、だったかもな。……でも、今は違う」

 

雪乃「どうかしらね」

 

静「雪ノ下、君は?」

 

雪乃「私は……、彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段を持って解決に努めます」

 

・・・

 

雪乃「いろいろな案が出たけれど、どれも有用とは言い難いわね」

 

彩加「ごめんなさい、全然役に立てそうにないや」

 

隼人「……やっぱり、みんなで仲良くできる方法を考えないと根本解決にならないか」

 

雪乃「そんなことは不可能よ。ひとかけらの可能性もありはしないわ」

 

戸部「いやーそんなことやってみねーと分かんねーべ!ナイスアイディ~ア!」

 

雪乃「だから、そんなこと」

 

優美子「あんたさー、ならほかになにかあんの?」

 

雪乃「それは……」

 

隼人「優美子、いいんだ。でもやっぱり、みんなには仲良くなってほしいし、それが一番幸せだと思う。だから、他に良い案がないなら俺はこの方法を貫くよ」

 

優美子「隼人……」

 

雪乃「………………比企谷くん、あならならどう動くのかしら?」

 

 

 

 

 

翌日、朝食を食べ、部屋に戻ると誰もいなかった。この状況を少し嬉しがっているというのは変わっているのだろうか。なんにせよ、ちょっと気分がいい。持ってきた本でも読んでいよう。でも、先生が来たらきっと面倒なことになるからちょっと怖いけど。

しばらくすると、やっぱり先生が来た。先生は、こんな時に一人で本を読んでいるのが大層不服らしく、私を部屋から追い出した。部屋を出て、外へと向かう。さて、どうしようか。とりあえずしばらくして先生がいなくなったら部屋に戻って本でもとってきてどこか誰かに見つかりにくい木陰の下にでも行こうかな。

「あれ、留美ちゃん?」

外を当てもなく歩いていると、葉山さんがいた。正直、会いたくない。でも、変なことをしてそれがみんなの耳に入ればと考えると、身震いしてしまった。

「……なに」

「みんなは、どうしたの?いっしょじゃないの?」

「朝食を食べて部屋に戻ると誰もいなかった」

「そっか、はぐれちゃったんだね。俺、みんながいるところを知っているから、良かったら、案内しようか?それとも、みんなを呼んでこようか?」

絶対にやめて。

「ううん、一人で大丈夫」

「遠慮しなくて大丈夫だよ!さあ、おいで」

葉山さんが手を伸ばしてくる。この手を握れば、間違いなく連れていかれる。

「ごめんなさい、ちょっとトイレ」

そう言い残して私はその場を離れる。後ろで名前を呼ばれるが、振り向かない。気分はまさに馬車から逃げたドナドナ(子牛)の気分。逃げないと、馬車の運転手が追ってくる。

 

 

 

 

 

雪乃「それで、どうするの?」

 

隼人「留美ちゃんがみんなと話すしかない、のかもな。そういう場所をもうけてさ」

 

結衣「でも、それだと、たぶん留美ちゃんがみんなに責められちゃうよ……」

 

隼人「じゃあ、一人ずつ話し合えば」

 

姫菜「同じだよ」

 

雪乃「あなたの案は駄目よ。もう黙っていなさい」

 

優美子「だからさー、ならあんたが案をだせって言ってるの」

 

雪乃「それは……」

 

戸部「でもさー、このままじゃ何にも出来ないまま終わっちまうっていうかさー、ここは隼人君の策に乗っかってみないべ?」

 

雪乃「あなた、さっきの話を聞いていなかったのかしら」

 

戸部「いやいや、でもさー、多少危険なことでもやってみないと出来ないことってあるって言うべ。ハイリスクハイリターンってやつ?」

 

優美子「あーしも戸部に賛成だし。隼人ならなんとかしてくれるっしょ」

 

雪乃「あなたたち、これは失敗できないのよ。そんな不確かな意見に賛同は出来ないわ」

 

彩加「そ、そうだよ!失敗したら大変なことになるよ!他の案があるはずだよ!」

 

隼人「雪ノ下さん、戸塚、言ったはずだ。他に良い案がないなら俺はこの方法を貫くと。肝試しでみんなが集まるときに俺はこの方法を実行する。先生にも現状を知ってもらいたいし、みんな良い子たちだからきっと仲良くなれるはずだ。もし、他に良い案がないなら、口を出さないでもらいたい」

 

結衣「…………ヒッキーならどうするのかな?いつもみたいにひねくれた方法を思いつくのかな」

 

 

 

 

 

肝試しのために、みんながスタート地点に集められている。当然、班のみんなと固まって一緒にいる。今までは少し離れていることが出来たが、こうやって狭い一カ所に集められると、離れられない。

「鶴見、あんた、朝、何してたの?」

急に話しかけられた。どうして?今まで話すことなんてなかったのに。林間学校で話すのははじめてかもしれない。

「え?あっちこっち歩いてたけど」

「じゃあ、なんでお兄さんと話していたの?なにを話していたの?」

言われて、今朝、葉山さんに会ったことを思い出す。見られていたみたい。

「あんたさーお兄さんに気に掛けてもらって、調子乗ってんじゃないの?」

「いや、そんなこと」

みんなから口々に悪口を言われる。お高くとまってるとか可愛いから調子乗ってるとかびっち?とか言われた。思わず涙が出そうになる。それを必死にこらえる。見られないようにうつむく。どうして?私が何をしたの?私だって話しかけられるのが嫌だった。なんで葉山さんはあんなことしたの?なんで私がこんなことをいわれなくちゃならないの?

「みんな、静かに。これから、肝試しなんだけど、その前にボランティアのお兄さんからお話があるそうよ」

首を上げる。その前には、葉山さん。みんなが黄色い歓声を上げている。葉山さんがこっちを見ている。先生もこっちを見ている。すごく嫌な予感がする。

「みんな、話がある。鶴見留美ちゃんのことだ」

背筋が凍りつく。うまく息が出来ない。みんながこっちを見てる。その視線に込められているのは、哀れみでもない、明確な敵意のようなものを感じる。

「留美ちゃんはみんなからのけものにされている。留美ちゃんはそれで悲しい思いをしている。この林間学校で見ていて気がついたよ」

やめて、もうやめて。苦しい。痛いよ。怖いよ。

「鶴見さん、本当なの?」

先生が問いかけてくる。先生も、私を恨んでいるの?私には、誰も味方がいないの?

先生が手を握って葉山さんの隣まで連れてくる。ああ、生贄にささげられる少女の気持ちって、こんな感じなのかな。私、食べられちゃうのかな。

「みんな!みんなは仲間だ!友達だ!家族だ!それなのに、こんなことをしてるのを見ると、俺は悲しいと思う」

みんなこっちを見てる。明らかに異物を見る目だ。肩に葉山さんの手が置かれる。まるで、生贄を縛り付けるための鎖に思えた。足がすくんで、動けない。

「みんな!留美ちゃんと仲良くしてあげてほしい。これが、俺が出来る精一杯のことだ。どうか、お願いだ」

みんなが声を上げる。先生はハンカチで涙を拭っている。葉山さんが誇らしげな顔で立っている。きっと、先生と葉山さんにはそう映っているのだろうか。

私、映画でこんな光景を見たことがある。どこかのジャングルの奥で行われる儀式みたい。私が生贄で、先生と葉山さんが祭祀で、そしてみんなが私を食べようとする獣。

もう、駄目。今すぐここからいなくなりたい。このみんながいる場所から、あの学校から、……この世界から。

「イヤアアアアアア!!!」

肩に置かれていた葉山さんの手を振りのけて私は走る。もう、嫌。これ以上、こんな思いしたくない。

林に入って、それでも走り続ける。転んで、ドロドロになって、それでも、はいつくばってでも、あそこから逃げる。

 

 

 

どのくらい走ったのだろう。いつの間にか森とも言うべき場所にいた。誰もいない、どころか明かりの一つすら見えない。私がどこから来たのかも、どこに行けばいいのかも分からない。

「あうっ」

また転んでしまった。手が思わず何かを掴んでしまう。その手には、長くて太い木の枝。先が鋭く尖っていて、まるで錐だ。

「あはっ」

口から笑い声が零れる。私が行く方向が分かった。木の枝を握りしめて喉へと向ける。手が震える。怖い。けど、こんなこと、さっき体験したことに比べたら何でもない。

痛い、のかな。でも、きっと大丈夫。今までずっと我慢してきたんだから。最後くらい、我慢できるはず。

「あはははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

バイバイ。みんな。私、みんなと入れて、とっても不幸せだったよ。

 


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