ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

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俺ガイル2期……ヒッキーがイケメン過ぎる。いろはすはまだかなぁ。


第9話

栗色のストレートヘアに整った顔立ちで、白と赤で彩られた戦闘服に身を包む少女。ギルド《血盟騎士団》副団長のアスナ。

 

彼女の提案……というより命令は、あまりにもモラルに反するように思える。

 

「お、おいおい。それはいくらなんでも無理だよ。俺たちは黒猫団では数少ない前衛だ。それにレベルで考えても、俺達たちが黒猫団から抜けるのはあまりにも……」

 

戸惑いを見せるキリト。キリトの言いたいことは予想がつく。今黒猫団から俺たちがいなくなるのは、かなりリスクが大きい。前衛の要である俺たちがいなくなれば、黒猫団は以前キリトが手助けしなければならなかった状態に戻る。

 

サチが再び前衛に駆り出され、その上でチームのバランスが悪いのだ。攻略組に追いつくどころか、命の危険がある。

 

「黒猫団には、血盟騎士団の方で前衛ができるプレイヤーを派遣します。今までのように急激なレベルアップは難しいでしょうが、安全マージンをきちんと取れば危険は無いでしょう」

 

「……その派遣されるプレイヤーは血盟騎士団のメンバーか?」

 

「いいえ、黒猫団のレベルにあったプレイヤーで、まだギルドに加入していない人を見つけて派遣することになると思います」

 

その質問は予想済みと言わんばかりに、完璧な回答をされる。なるほど、それなら足を引っ張ることもないだろうし、ソロプレイヤーの方にとっても悪くない話だろう。

 

「待ってくれ。ケイタたちは攻略組に参加したいと思ってる。このまま順調にいけば近いうちに最前線に到達できるんだ。攻略組の人数が増えるのは、あんたたちにとっても悪い話じゃないだろ?」

 

キリトが言うと、アスナは眼光を鋭くする。

 

「それはあなたたち高レベルプレイヤーを下層で持て余す理由にはなりません。それに、高レベルプレイヤーに頼ってレベルを急激に上げた人に攻略組が務まるんですか?」

 

「それは……」

 

キツい言い方だが、アスナにも一理ある。最前線の攻略組は常に危険に晒される。安全マージンを取っていようと、対峙するのは未知の敵ばかりで、ボスとも戦うことになる。

 

俺たちも最前線までギルドが上り詰めてしまえば、今までのようにメンバーを気にかける余裕がなくなるかもしれない。俺たちが守ることが前提となってしまっている今の黒猫団では、攻略組は難しい。

 

しかし、確かに彼女の意見は正しいのだが、気になる点もある。俺は小さく挙手してから発言をする。

 

「それ、俺たちに何のメリットがあるんだ?」

 

「はぁ?」

 

思いっきり馬鹿にした表情のアスナ。「何言ってんの?魔法使いなの?」とでも言いそうだ。まだ三十路超えてねぇよ。

 

「いやだから、結局黒猫団は攻略の速度が遅れる。俺たちは前線に駆り出される。メリットが一つもないわけだ」

 

「メリットって……あなたが最前線に加われば攻略が早くなって、このゲームから早く解放されることに繋がるでしょ!ただでさえ二十五層の攻略で多くの人が犠牲になった、戦力は幾らあっても足りないのよ!」

 

「だったら尚更だ。俺のスキルはボス攻略には向いてない。ボス戦じゃ役に立たないですぐに死んじまう。SAOがクリアされるのが早まろうが、自分が死んだら意味ないしな」

 

「何を……!」

 

怒りで言葉も出ない様子の副団長殿。

 

「みんな命懸けで戦っているんだから、あなたにもその責任はあります!」

 

彼女の言葉は正しい。このゲームに囚われているプレイヤーの中で、トップクラスのレベルである俺やキリトには、少なからず戦う義務がある。誰かがやらなければならないなら、俺に白羽の矢が立とうと不思議ではない。働きたくないけど。

 

けれど、そうなると救われない少女が一人いることを俺は知っている。今も不安を胸に眠れぬ夜を過ごしているだろう少女。

 

確かに、キリトや俺に頼った今の黒猫団の在り方は決して良いものではないだろう。それはまやかしの安息で、不確定な安全だ。しかしそれで彼女の心痛が少しは和らぐのなら、些細な安心感を与えることができるなら、今の黒猫団を悪と断じ斬り捨てることはできない。

 

「あなただって一層の時は……!」

 

失速するように言葉は力を無くし、最後はほとんど聞き取れなかった。俯いて拳を握り締めるアスナ。隣のキリトが肘で軽く突いてくる。

 

「……まぁ、ボス攻略に参加しないって言ってるわけじゃない。次の攻略は俺も参加させられるし。ただ、ギルドから脱退する理由はない」

 

「……分かりました」

 

そう言うとアスナはすっと立ち上がり、俺を一瞥して店を出ていく。横からはキリトの非難するような視線が突き刺さる。いや、お前も無理って言ってたじゃん……。

 

「相変わらずだナ、ポチ。キー坊もこんな奴と同じギルドなんて大変だロ」

 

店のどこに潜んでいたのか、ケタケタと笑いながら現れる情報屋、鼠のアルゴ。やっぱりいたのか。というか、今回はこいつからの呼び出しだと思っていたんだが。

 

「アルゴ……見てたんなら助け舟でも出してくれよ。アスナの様子おかしかったし」

 

「相当溜まってたんだろうナ。二十五層のこともあるしナ……」

 

……第二十五層ボス攻略。当時俺はまだオレンジプレイヤーで、定期的に物資や情報を運んできてくれる鼠から話を聞いただけだ。いつもなら何を言うにもまず金を取る鼠が、ぽつりと溢した。

 

「犠牲者十二人。過去最多の死者を出した最悪の攻略か……」

 

「……転移結晶を使う間もなかった。一撃で……」

 

キリトは渋面を作る。こいつはその場にいたんだったな……。

 

「けど、二十六層からはまた犠牲者もいないし、特別二十五層が強かっただけだって言われている。なのにアスナは何であんな……」

 

「……多分、だからこそだろ」

 

あの二十五層の悲劇は、いい感じに慣れてきて攻略もスムーズになってきた、という頃合いを見計らったように起きた。いつまたああいう層があってもおかしくない。

 

彼女は、それを恐れている。誰よりも真剣に、深刻に考えているのだろう。

 

「とにかく、明日もあるんだし今日は帰ろうか」

 

「賛成だ」

 

「おいおイ、おねーさんと積もる話があるんじゃないカ?」

 

にやりと笑う鼠女。何言ってんだこいつ。俺には姉なんていない、必要もない。俺の兄妹はたった一人、妹の小町だけだ。

 

・ ・ ・

 

先週から寝床にしている宿屋に戻り、真っ先に自分の部屋へ向かう。鼠女め、しつこく情報を引き出そうとしてきやがって。まぁ、あいつが必要そうな情報なんて何一つ持っちゃいないんだけどな。大抵のことはオレンジ時代にすっぱ抜かれてるし。

 

窓から入る街灯の明かりのみの薄暗い部屋。これから寝るつもりなので、照明を点けることなくベッドへと向かう。

 

装備を解除し、寝転ぼうとコンフォーター(英語で言うと格好よく聞こえる)に手をかけた。

 

「…………」

 

思わず自分の目を疑った。え、小町ちゃん。お兄ちゃんこれどうしたらいいのかな?軽くパニックになって小町に助けを求める。いないんだった……。

 

結論から言うと、黒髪の少女が俺のベッドで眠っていた。こいつマジで何してんの……。眠れないとか言ってなかった?一尾の人柱力みたいなこと言ってなかった?

 

「んん……」

 

びくっと肩が震える。俺は自分の部屋にいるだけで悪いことは全くしていないのに、怯えてしまう不思議。

 

「あれ……ハチマン?」

 

目をこすりながら上半身だけ起こすサチ。まだ半覚醒状態なのか、ぽーっとした表情だ。ていうか、あれだ。彼女もかなり美少女の類いに入るので、そういう無防備な顔を見せられると正直ドキッとする。

 

「今日は帰ってきたんだ……」

 

「おい待て聞き流せないぞ。はって何だはって。……もしかしてお前昨日もここで寝たの?」

 

「うん」

 

当たり前でしょと言わんばかりの表情で頷くサチ。眠気が取れないのか、人魚みたいな体勢をしている。

 

「なんだかここならよく眠れそうな気がして、借りちゃった」

 

てへ、と可愛らしく笑うサチ。いや、てへじゃねぇよ。これからそのベッド使う時、妙に意識しちゃいそうだろ。

 

「……それなら、場所変えるか?そろそろ宿も更新だったろ」

 

宿屋の部屋代は、十日分までなら先払いできる。だが、それ以上居続けるなら、一度契約が終わってからもう一度取り直さなくてはならない。その時に場所を変えればいい。内装は全く変わらないけどな。

 

結構本気で提案したのだが、お気に召さなかったのかサチはじとっとした目で頬を膨らましながら俺を睨む。

 

「……はぁ。もういいっ」

 

がばっと布団に潜るサチ。いや良くねーよ、俺だってベッドで寝たい。

 

あなたは、ベッド諦めますか?それとも、人間食べますか?という二択が頭に浮かんだが、どちらも却下だった。食べれねぇよ……。

 

仕方がないので、元はサチに割り当てられた部屋を使うことにしよう。

 

立ち上がり部屋を出る時、小さな声で「馬鹿……」と聞こえた気がした。


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