やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第66話

 比企谷八幡、私に仕える死んだ魚のような目をした軍師。私に負けを認めさせた唯一の男。面倒くさい、休みが欲しいと言いつつ誰よりも長い時間働き続ける矛盾抱えていた変な男。その男がまた変なことを言いだした。

 

「袁紹に決戦の場所と日時を書いた果たし状を送ろう」

「「はあッ~!!!?」」

 

 八幡の考えに私と桂花の驚く声が重なった。柄にもない反応を見せてしまい気恥ずかしい。気を取り直すように小さく咳払いを一つする。

 

「コホンっ……それでどういうことなの?」

「そのままの意味だ。このままではコチラの懐奥深くまで攻め込まれるか、損害覚悟で時間稼ぎをする部隊を出すしかない。現状先手を取った袁紹に主導権があるんだ。こちらが切れる手札は何かしらの不利益が伴うものばかりになる。そこで発想の転換だ」

 

 八幡がとびきりの策を出す時に良くする意地の悪そうな笑顔を浮かべる。突飛で核心を突く考えをどこか卑屈で性根が腐ってそうな笑みで言う。そこもまた私は常々思う、矛盾していると、もっと自信を持って良いのにと。

 

「袁紹が主導権を持っているなら、あいつに選んでもらえば良いんだよ。俺達に都合が良い行動をな」

「そんなに上手くいくわけ……」

「阿呆で派手好きな袁紹なら受けるんじゃないか? それに董卓討伐連合の時に見た感じだと袁紹は華琳を結構意識していたみたいだったしな」

 

 普段他人になんて興味ないといった顔をしている割に良く見ている。それに私達が互いに真名を使っているのも特別隠している訳ではないから、その点からも察しの良い人間なら気付くだろう。

 あの阿呆を宿敵と呼ぶのはためらわれるけれど、路傍の石と呼ぶには大きすぎる存在だ。麗羽が私と同じように感じているかは分からない、ただ腐れ縁の彼女は幼い頃から事あるごとに絡んできた。そんな麗羽が私に喧嘩を売られて無視出来るはずがない。

 納得しかけている私とは違い、八幡に対抗意識を持っている桂花は素直に意見を受け入れられない様子だった。

 

「楽観的過ぎるでしょ。いくら袁紹の頭が空っぽでも、そんなに都合良く動くとは限らないわ!」

「もちろん果たし状を送るだけで上手くいくとは思ってねえよ。良いか、このことを大々的に喧伝するんだよ」

 

 麗羽を良く分かっている。そうなればもう麗羽の行動は決まったようなもの。

 

「二人の英傑が雌雄を決する一大決戦、真の覇者が誰か小細工無しの正面対決ってな。空気が読めない阿呆でも分かるくらい大々的に盛り上げれば乗って来るだろ?」

「さ、流石に側近の誰かが止めるでしょ」

「側近は止めても兵や民衆はどうだろうな。戦という命の危険が迫る中、冷静な判断力は普段に比べて下がっていく。末端に行けば行くほど現実逃避したがるんじゃないか。そんな所で威勢の良い話題があればどうなる?」

 

 一拍置いて

 

「直接袁紹を知らない末端の兵からすると、名門出身で率いる勢力は最大規模ときている。勘違いさせるには十分な要素だ。後はその幻想を後押ししてやれば良いんだよ。自分達を率いる袁紹は凄い、自分達の所属する陣営は凄いってな。そんな見せ掛けの安心感に縋るような奴は、こっちの思い通りに盛り上がってくれるさ。そして阿呆とはいえ袁紹も人間だ。人間ってのは意外と周囲の期待は裏切り辛い生き物だ。ましてや周囲の期待と自分の望む理想が近ければ抗いがたいものになる」

「あの娘の理想?」

「端的に言えば目立ちたい、活躍したい、ちやほやされたいってところだろ。違うか?」

 

 麗羽からかけ離れている理想という言葉が気になり聞いてみたが、そう言われれば納得である。彼女の行動は突飛なことも多々あり今回のように読みを外してしまう時もあるが、望むものは単純なものだ。

 

「でもそれだと敵の士気が上がるじゃない」

 

 桂花は苦々しい表情を隠しもせず指摘する。それは八幡への対抗意識だけでなく麗羽達を調子に乗らせること自体が嫌なのもあるだろう。私も麗羽が調子に乗っている姿を想像すると苛立ちは感じる。どうせまたあの高笑いをあげるんでしょう。

 八幡は桂花へ応えるのではなく、私へ視線を寄越してきた。

 

「戦う前に舌戦を仕掛けてボコボコにすれば良いだろ。華琳なら口で袁紹に負けることなんて無いよな?」

「そう問う事自体がもう侮辱よ」

 

 一つ溜息を吐き出した後、自然に笑みが浮かぶ。ここまでお膳立てをされて否やは無い。

 

「八幡の案を採用するわ」

「華琳さまッ!?」

「より良い案があるかしら?」

「ッ……いえ、ありません」

 

 桂花も八幡とは方向性は違うものの優秀な軍師だ。感情で理を見失うことはないし、思考の切り替えも早い。

 

「では決戦の場所と日時いかがなさいますか?」

「互いの軍が展開するのに困らない平野部で、日時はあちらが無理なく移動出来るように計算して」

「はいっ」

 

 打てば響く、私の要求に桂花は間髪入れずに応じる。

 奇策が多い傾向の八幡と軍師として基礎がしっかりしている桂花。桂花本人は嫌がるだろうが、意外と私の軍師陣は均衡が上手くとれていると思う。あとは八幡の奇策にもう少しだけ節度が加われば言う事は無い。流石に董卓討伐軍の行軍中にその本人の所へ交渉しに行き、出来れば引き込みたいと聞いた時には、気が確かなのか不安になったものだ。

 そんな私の気も知らないようで、八幡はまた常識外れの提案を始めた。

 

「ふと思ったんだが、敵に補給線の安全確保も約束したら良いんじゃないか。なんだったら物資を売ってやっても良い」

 

 何気なく言う八幡に桂花は額へ手をやり首を横に振った。桂花のそれは驚きとも呆れともとれる様子だったが、正直私も同じような状態だろう。

 

「あんたねえ……意図は分かるけれど誰がやるのよ、それ」

 

 桂花の言う通り、意図は分かる。

 確実な話ではないが、相手の補給線の安全を約束すれば、私の領地で略奪や半強制的な徴発が行われる可能性が減るし、儲けも出るでしょう。敵に物資を売るというのもおかしな話だが、相手が麗羽なら実現するかもしれない。金を惜しむような性格ではないし、そもそも細かい事を考えないので抵抗を感じないかもしれない。しかし、他に大きな問題がある。それはこちら側に安全確保と物資の販売には抵抗感を持つ者が多く出るであろう点だ。補給線を襲わないという約定だけなら問題ない。だがこの二点に関しては軽々に扱えない。

 私の領地は他に比べて治安が良いが、野盗の類が全くいないわけではない。相手の補給線の安全確保まで約束するなら、その為の部隊を派遣しなければならない。

 

「相手が仮に決戦の申し込みを受け入れたとしても、何の大義名分も無く攻め込んで来た事実は変わらないのよ。そんな相手を守るなんて大抵の者は忌避するでしょう。まして物を売るなんてどう思われるか」

 

 桂花の苦言に八幡の反応は薄い。

 

「そんなに気になるもんか?」

「理屈の上では理解出来ても、誰もが納得出来るわけじゃないわ」

 

 私の言葉を続けて桂花が「春蘭辺りが五月蠅いわよ」とこぼす。これには八幡も顔しかめた。

 桂花は語勢を強める。

 

「一々説明して回るの? 春蘭が理解出来るまで」

 

 流石の八幡もお手上げと身振りをする。

 今のやり取りは春蘭には言えないわね。いえ、春蘭と八幡の二人が揃っている時に揶揄う材料になるかしらと思考が少し逸れた。

 その時八幡の呟きが聞こえた。

 

「どうせすぐ潰すのに気になるか」

 

 それは麗羽が【どうせすぐ潰す】、【取るに足らない相手】だから何をしようと気にならない。気にする者を不思議がっているようだった。私はそれに麗羽と自軍の戦力を知りつつ気負いもなく言える頼もしさと同時に小さな危うさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 その後、曹操は決戦を申し込む使者を袁紹に送り、袁紹は部下の制止を退けこれを受け入れた。ここに最大と最精鋭の勢力が正面からぶつかり合うことが決まった。この一戦に国中の視線が集まる。




袁紹陣営での一幕

袁紹(麗羽)
文醜(猪々子)
顔良(斗詩)

麗羽 「決戦の申し込みぃ~?」
斗詩 「ありえないですよね。使者には帰ってもらいますね」
猪々子「何言ってんだよ斗詩。受けるに決まってるだろ!」
斗詩 「せっかく不意打ちが成功しているのにおかしいよ」
麗羽 「猪々子さん……」
斗詩 「麗羽様からも言ってやってくださいよ」
猪々子「いいじゃん天下分け目の大戦だぞっ、燃えるじゃねえか」
麗羽 「素晴らしいですわ。まさに私に相応しい舞台! すぐに受けると伝えなさい」
猪々子「よっしゃー熱くなってきたー!」
斗詩 「えぇ(困惑)」




おまけ

お豊 「八幡、ぬしゃ、人ん頭ん内を読むのは、何でも見抜く」
お豊 「じゃっどん、人ん心ん中で思っちょる事を見抜けん」
八幡 「またドリフネタかぁ」
ノッブ「おみゃー何か儂と同じ匂いがするのう」
八幡 「一緒にすんじゃねえ」
ノッブ「そーかあ?」
ノッブ「問1、敵だけじゃなく味方からも怖がられることがある」
ノッブ「問2、家族もしくは近しい者達から日常的にうつけ扱いされていた」
ノッブ「問3、敵陣を見ると燃やしたくなる、または燃やしたことがある」
ノッブ「問4、人を煽るのが得意」
ノッブ「問5、なぜか周りは敵ばかり」
ノッブ「問6、傀儡にしていた者に反旗を翻されたことがある」
ノッブ「問7、妹の夫は殺す」
ノッブ「問8、こんなに可愛い子が女の子のはずがない。蘭丸カワユス」
ノッブ「いくつ当てはまったかにゃあ」
ノッブ「全部当てはまった者には第六天魔王の称号をやろう、ふっはっは」
お豊 「のっぶ以外でおらんだろ、業が深けえ」
八幡 「ぐぬぬっ」
ノッブ「全部当てはまったら……」
ノッブ「将来物理的に炎上しちゃうかもしれないので気を付けるように」

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