やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

53 / 71
第53話

 華琳と話し死亡フラグをへし折った俺は、再び冬蘭と共に虎豹騎隊として行軍している。

 今回の汜水関攻略の筋書きは単純明快、敵を誘い出して討つという俺達もお馴染みの手だ。

 劉備達が汜水関から敵を誘い出して袁紹が主力として迎え討ち、その他の支援などを残った者達で担当することになっている。しかし本当に敵を誘い出せるのだろうか。

 城などの防衛を目的としてきちんと準備された拠点を攻める場合、攻める側が数倍以上の兵力を用意するのが定石らしい。それほど攻城は難しい。逆に考えれば防衛側はそんな有利な状況をわざわざ手放す道理はない。今度の敵はこれまで俺達が相手にしてきた賊とは質が違うだろう。

 

「ホントに上手く敵を引きずり出せると思うか?」

「劉備さんたちが出来なかったら、八幡さんが代わりにやれば良いじゃないですか」

「えっ」

 

 冬蘭、お前なんで俺がやれば良いとかナチュラルに言っちゃってんの。俺はよろず屋でもなければ、猫型ロボットでもないぞ。面倒事は出来るだけスルーを希望する。

 抗議しようとする俺より先に、冬蘭が前方を指差した。

 

「それに心配する必要は無かったみたいですよ」

 

 劉備の旗を掲げる一軍が凄い勢いでこちらに向かってきている。というか逃げて来ている。劉備達を敵軍が追走している。劉備は少数勢力なのでまともに今回の敵とぶつかったら壊滅しかねないので、これは仕方が無い。ここからの主役(笑)は袁紹だ。

 

「簡単に釣れたなー。もしかして相手の武将はアホなのか?」

「汜水関に入っていた敵将は……えーと、猛将と名高い華雄さんでしたね」

 

 猛将ねえ、うちの春蘭も猛将って評判だからなー。この世界の猛将って筋肉バ……いやこれ以上は言うまい。

 

「じゃあ俺達もサボったと思われない程度に働くとしますか」

「どう動きますか?」

「袁紹軍が敵と衝突後、俺達は敵軍の背後への回り込みを試みて、退路を断とうとしているように見せるか」

「見せる、ですか?」

「ああ、実際に相手が撤退しようとしたら一旦退路を開ける。で、相手が通り過ぎたところで背後からチクチク削る」

 

 夏蘭からも騎兵の特性について教えられたばかりだ。逃げようとする敵の前に立ちふさがるより、こっちの方が向いているだろう。なにより逃げるのに必死な相手なのだから、攻撃に抵抗するよりも少しでも進みたがるのではないか。

 

「チクチクですか」

「そこは復唱しなくて良い。おい、突くな」

 

 チクチクと俺の背中を突っつく冬蘭に抗議するも効果は薄い。

 やっている側とやられている側が逆だったらセクハラだからな。この世界初の人権団体作って抗議活動するぞ。覚悟しろよ。あっ、でもボッチだから団体にならねえわ。

 

「……まあ合格ですね」

 

 ボソッと冬蘭が呟いたのが聞こえた。

 えっ、俺なんか試されてた? 変な指示出していたら何かあったの? 不合格だったら処されてた?

 

「抜け目のない立ち回りで悪くないですね。逃げている敵は必死なので、その前に立ち塞がるのは此方の被害が大きくなるだけです。そこであえて一旦通してしまうのは一つの手ですね」

 

 俺の作戦について冬蘭が講評している。

 本人の目の前でそういうのは止めてもらえませんかねえ。

 

「さっさと行くぞ」

「やる気ですね。なんだったら逃げる華雄軍を追ってそのまま汜水関を抜いてしまいますか?」

「勘弁してくれ」

 

 冗談にしてもキツ過ぎる。汜水関に撤退する敵に喰らいついてそのまま城門が閉まる前に突入出来る可能性はある。さらにそこから門を閉められないように確保しつつ、味方を引き入れればワンチャンあるだろう。これが成功すれば大戦果だが、そんな賭けに賭けを重ねるような冒険は絶対にやりたくない。

 

「そういうのは英雄志望の死にたがりがやればいい」

「辛辣ですね~」

「今回は無理しなくても確実に勝てる戦いなんだから、あえて危ない橋を渡る必要ないだろ?」

「無欲ですね。功を稼げる所で稼いでおくというのも大事ですよ」

「俺の理想は安全第一だから、安全のためなら命だって掛けられる」

「何ですか、それ」

 

 冬蘭は俺が冗談を言っていると思っているかもしれないが、かなり本気である。俺の労力の半分以上は、自分の安心の為に支払われている。自分の命、華琳達の命、陣営維持などは最重要事項だ。

 

「名誉や誇りに興味はありませんか」

「こういう言葉がある。誇りで飯が食えますかってな」

「……まあ、そういう考え方もありでしょう」

 

 冬蘭が普通に肯定するとは予想外だった。春蘭とかに比べれば現実派な冬蘭でも小言ぐらいは言われるかも、と思ったがアリらしい。

 

「しかし華琳様は名誉や誇りを重んじる方ですよ」

「華琳の名誉を汚すような真似はしないから安心しろ。俺には必要ないだけだ」

 

 むしろ邪魔になる恐れすらある。他人から高く評価されるのが嫌いな人間は少ないだろう。俺だって褒められれば良い気にだってなる。豚もおだてりゃ木に登る。褒められ慣れていないボッチならなおさらだ。しかし高く評価されれば当然求められる水準も上がる。期待されてもいつも応えられるわけではないし、期待を裏切って失望されるのも辛い。

 

(八幡さんがそれで良くても私の計画に……)

 

 冬蘭が何かブツブツ言っている。内容は分からないが正直怖い。

 不穏な空気を感じたが、戦い自体は俺の想定内で進行していく。

 劉備達を追ってきた敵軍と袁紹軍が正面から激突する。

 俺達は敵軍を迂回し背後を取りに行く。当初敵軍は将の華雄が猪突猛進なせいか、こちらへ何の対応も見せず袁紹軍との戦いに集中していた。その為俺達は簡単に華雄軍の背後を簡単に取れてしまった。その頃になってやっと華雄軍の後衛がこちらへ対応しようと動き始めた。しかし、その動きも遅きに失した。華雄軍先鋒部隊がまだ大して時間もたっていないのに、まさかの総崩れを見せたのだ。

 

「おいおい、どうなってんだ?」

「囮役の劉備軍の一部が反転し、華雄軍にぶつかった後すぐに華雄軍の動きが大きく乱れたので」

「ので?」

「華雄本人かそれに近い地位の者が討たれたんでしょう」

「はやっ」

 

 華雄軍の先鋒の乱れは一気に全体へと伝播し、間もなく敗走を始めた。

 俺達は予定通り敗走する華雄軍の進路を開けて通らせ、再び背後をとって襲い掛かった。敵からの反撃はほとんどない。

 俺は自部隊の真ん中を馬で走っているだけなので戦っている感覚は無い。

 

「なんかあっけないな」

「安心してください。次は必ず激しい戦いになりますから」

 

 冬蘭が確信を持って言い切った。

 何一つ安心できないんですがそれ、もう帰っても良いですかね。

 汜水関目前まで来た頃、春蘭が三千の兵を連れて追いついてきた。そして春蘭は自分たちに被害が出ないようほどほどに戦っていた俺達を追い抜いて汜水関へ突入してしまった。止めようかと思ったが、華雄軍が汜水関をさっさと放棄してそのまま虎牢関へ逃げてしまった為、止める間もなく汜水関は陥落した。

 こうも順調に事が進むと逆に不安になってしまうのは、俺が小心なせいなのだろうか。

 

 

◇◇◇

 

 小心なのは関係なかった。俺のシックスセンスが危険を予知したようだ……してしまったのだ。

 汜水関攻略後に開かれた軍議では、袁紹が自分を差し置いて汜水関に一番乗りを果たした春蘭について不満たらたらで鬱陶しかった。それで虎牢関では逆にうちが主攻を担当し、トドメは袁紹に譲ることになってしまった。

 

「良い感じのところで華琳さんは後ろに下がってくださいまし」

 

 袁紹の相変わらずな無茶ぶりにも皆そろそろ慣れてきたのか、特に波乱も無く軍議は終わった。そして今、うちの身内だけで開いている軍議で厄介な事実が明らかになった。

 軍議を行う用に机や地図などを用意した天幕に、華琳を中心に春蘭姉妹、夏蘭姉妹、荀彧、そして俺といういつもの面子が集まった。ちなみに楽進達三人組と季衣は警備などを担当している。流琉は食事の用意だ。

 軍議は次に攻略する虎牢関を守る敵将の情報を荀彧が話し始めたところで、やばい感じがしてきた。

 

「虎牢関の将は呂布と張遼です。どちらも名実ともに華雄より格上の武将なので、これを討てば華琳様の名声はさらに高まるはずです」

 

 はい出ました。三国志系の創作で一騎当千、チート級の強さの呂布。

 

「特に呂布は黄巾の乱にて一人で数万の賊を撃退したと有名で、現在武人として頂点に位置する者です。これを討ち取れたなら計り知れないほどの功績になるでしょう」

 

 一騎当千どころじゃなかった。数万ってもう意味分からんレベルなんだけど、君どこのサ〇ヤ人的な戦闘民族なの? ドラゴンボー〇の世界に帰ってどうぞ。

 そんな戦々恐々としている俺とは違い、華琳はその情報に心惹かれるものがあったようだ。

 

「欲しいわね。捕らえれば説得出来るかしら」

 

 ポ〇モンゲットだぜ、なんて簡単にはいかないぞ。どうやって捕獲すんだよ。誰かモンスターボ……いやマスターボール持ってきて。

 沈黙が天幕内を覆う。いつもなら春蘭あたりが「私が捕まえてみせます」と声を上げる所だが、それも無い。

 姉の代わりに秋蘭が沈黙を破った。

 

「もしどうしてもとおっしゃるなら何とか致しますが、私や姉者を含めた主だった武将のうち半分は死ぬと思っていただきたい」

 

 重々しく告げた秋蘭の表情は硬く、(いさ)めるために大袈裟に言っているわけではないのが分かる。

 今日まで普通に話していた人間の半分が一気に死んでしまうなんて想像すら出来ないし、したくもない。それに心情的なものを横に置いておいたとしても、指揮が出来き、個人の武でも代わりのいない武将を半分も失ってしまえば陣営は壊滅状態である。

 

「そう……残念だけれど仕方ないわね。張遼の方も無理なの?」

「いえ、呂布ほど超越した武人ではないので一騎討ちに持ち込めば姉者が何とかするでしょう」

「……ん? えっ、なにをっ」

 

 本当に残念そうな華琳は諦めきれない様子だ。

 秋蘭はさらっと安請け合いしたが、自分で相手しないのか。

 一方突然自分の話が出た春蘭は驚いて秋蘭へ抗議しようとしたが、それは華琳によって遮られた。

 

「難しいかしら?」

「出来ます! なんとしても華琳様の前へ連れて参ります」

 

 流石華琳命な春蘭。華琳から聞かれた瞬間食い気味に答えた。

 よく考えもせず宣言してしまって大丈夫なのか、そう俺が内心考えていると思わぬ方向から話は俺自身へ移る。

 荀彧が意味ありげにこちらを見ながら口を開いた。

 

「そう言えば呂布と懇意にしている者がいましたね。その者なら呂布も引き込めるのでは?」

 

 場の視線が俺に集中するのが分かる。ナズェミテルンディス。

 呂布と俺は呂布が中央の使者として華琳に会いに来た時しか接点が無い。これで懇意と言えるなら生前の俺ですら実は交友関係の広い社交的な人間になっちまう。人類総陽キャ説とか唱えちゃう?

 

「どうなの八幡?」

 

 華琳が何か言っているが、俺は日課の現実逃避をしているところだから後にしてくれ。

 華琳がじぃーとコッチを見続けている。目を合わせないようにしているが圧が凄い。しかし耐えろ。耐えるんだ俺。ここで屈してしまっては大変なことになってしまう。

 

「無理」

「やる前から諦めてどうする! 呂布の力は飛び抜けているが、忠誠心はどうかは分からんではないか」

 

 華琳大好き春蘭が余計なことを言う。

 呂布は三国志的に見れば忠誠心は低そうではある。が、説得って声が聞こえる距離まで近づくんだぞ。分かってんのか春蘭。

 

「呂布は八幡に任せるわ。説得に関しては例え失敗しても責を問わないから試してちょうだい」

 

 任せるって便利な言葉。俺も上手く使えるようになりたい。いや、ね。どうしてもやりたくないわけでもないんだよ。確かに危ないから嫌なんだけど、話したことがある呂布と殺し合いなんてしたくないから説得出来るならベストである。

 ただなあー、呂布は表情が薄いうえ言葉足らずな感じで何考えてんのかイマイチ分からなかったからなあ……そもそもコミュ障同士で交渉になるのだろうか。

 




あ! やせいじゃない
りょふがとびだしてきた!

絶望感ハンパない。
もうね、水素水飲めば良いんだよ。水素水飲んでれば説得出来るし、彼女も出来るし、宝くじも当たる。なお3万買って当たるのは3千のもよう……。


読んでいただきありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。