やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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中央からの使者

 黄巾党討伐は無事終わった。今は華琳の本拠地であり、我が家でもある陳留に帰還して数週間経っていた。たった一日の休日を消化し、新たに仲間となった張角三姉妹もとい天和、地和、人和のプロデュースを開始し、それも最近やっと軌道に乗った。

 ちなみに天和、地和、人和というのは張三姉妹の真名だ。別に仲良くなったから教えてもらったとか、そんな甘い話では無い。一応対外的に彼女達は黄巾の乱に巻き込まれた被害者という扱いだが、黄巾党と呼ばれる集団にいたのも事実だ。その時に名乗っていた名を使っていると、あらぬ誤解を招く恐れがある。そう、あくまで誤解を避けるために普段から真名を使うことになっている。こちらの世界では真名を不特定多数の人間に教え、その名で呼ばれるなど考えられないという者が多い中、大雑把な性格が幸いしたのか三姉妹は普通に順応した。

 

「……だるい」

 

 日々仕事に勤しむ俺にとって数少ない幸せを感じる瞬間、その一つである二度寝を邪魔され「すぐに謁見の間に来るように」と華琳からの言付けを女官に伝えられた俺は、現在嫌々ながら急いで身だしなみを整えている。

 この世界に来た時に着ていた高校時代の制服に似せて作った服へ腕を通す。既に卒業しているので学生服を着るのはコスプレっぽくて少し抵抗を感じ始めているのだが、華琳の指示で軍師として働いている時はこの服装をすることになっている。立場に見合った認知度を得る為らしい。つまりは天の御遣いアピールによる箔付け、宣伝である。

 俺は目立ちたくないのだが、誰だか良く分からない人間が要職に就いていると住民や末端の兵が不安がると言われては仕方が無い。今考えるとこれ、そういう声が実際にあったのかもしれない。「あの怪しい人誰?」みたいな感じで。テンションだだ下がりである。しかしテンションが下がったてもダラダラしている訳にはいかない。華琳が「すぐに」と言ったのなら急ぎの要件のはずだ。

 

「謁見の間という事は来客か?」

 

 独り言を呟きながら自室を出て足早に謁見の間へ向かう。が、急いでいたために廊下の曲がり角で人とぶつかってしまった。

 

「うおっ!?」

 

 まるで壁かデカい岩にでもぶつかったみたいな感触で、相手はビクともしない。そして俺だけが廊下に倒れ込んでしまう。やばい相手に当たってしまったかと思い、慌てて顔を上げて相手を見る。

 そこにいたのは見たことの無い少女だった。こんな俺と同じくらいの少女が相手だったのに、自分だけ倒れてしまうなんて情けないなと自嘲しそうになったが、こっちの世界の女は見た目通りではないと思い直す。

 改めて少女を見る。浅黒い肌をしておりウチでは見かけない特徴だ。この辺りの出身ではないのだろう。もしかしたら華琳の要件が来客ではないかという俺の予想が当たっていて、彼女がその客なのかもしれない。

 少女が屈んで俺へ手を差し出した。

 

「……大丈夫?」

 

 俺の顔を覗き込みながらほぼ無表情の少女は言った。何を考えているのか分かり辛く、一瞬怒っているのかと心配したが、彼女からはこちらを気遣う気配を感じる。感情の表現が苦手なタイプのコミュ障かもしれない。お前が言うなと天の声が聞こえそうだが。

 それにしても少女の手を取るのは恥ずかしい。しかし差し出された手を断って立ち上がるのも彼女に嫌な思いをさせてしまいそうで悩ましい。そんなコミュ障特有のジレンマにさいなまれる。

 

「ん? 大丈夫じゃ、なさそう?」

 

 俺が少女の手をいつまで経っても取らないせいで、彼女に勘違いさせてしまったようだ。悲しいことに彼女より俺のコミュ障の方が重症だった。しかし、いつまでも呆けていても仕方が無いので差し出された手を掴む。

 

「いや、平気、だ」

 

 少女は重さを一切感じないみたいに軽々と俺を立ち上がらせると、何故か間近からじぃーと俺の顔を見詰めている。表情の薄い、しかし整った少女の顔に俺の体温が上がりそうだ。惚れてまうやろ。そして想いを告げる勇気がなくて心の奥にしまってしまい、数年後にあの時告白していればなあ、と後悔しかけるが「確実にフラれていたから」と自分でツッコミを入れて納得してしまうまである。

 俺が悲しい想像をしていると少女が自分の懐から小さな布袋を取り出し、俺へ渡してきた。

 

「元気ない。お腹空いてる」

 

 ビックリするくらい良い人じゃないか。こ、こんなに優しくされたのは初めてかもしれん。それは流石に言い過ぎか。

 袋を開けてみると中身は木の実だった。別にお腹が空いているわけではないが、少女の厚意を突き返すは気が引ける。とはいえ、このまま貰うだけというのも悪いので何か良い物を持っていなかったかとポケットを探るも何も無い。後で部屋に戻った時に何かお返しでも用意した方が良いだろうか。ってそうだ。華琳に呼ばれていたんだ。

 

「これ、ありがと。それから俺今時間が無いから」

 

 後でまた会えないかと言おうとしたところで少女が口を開く。

 

「私も急いでた。人と会う予定」

「もしかして相手は、曹操だったりするか?」

 

 まさかそんな偶然は無いだろう。そう思いつつ一応聞いてみる。

 

「……そんな名前だったような、気がする」

 

  都合が良いのか悪いのか。ともかく二人そろって華琳を待たせているのは、かなりよろしくない状況だ。

 

「俺も呼ばれているから一緒に行くか?」

「……助かる。案内とはぐれて、どこに行けば良いか、分からなかった」

 

 迷子かよ。案内役の人も慌ててるぞ、それ。

 

「じゃあ、ちょっと急ぐか」

「ん……」

 

 表情一つ変えずに頷いた少女は、そのまま歩き出した俺に付いて来る。良い人っぽいが、ぼうっとしている所もあり、どういう用件で華琳と会うのか全く想像出来ない。

 

 謁見の間の近くまで来た所で、少女の案内役らしき女官が右往左往しているのを見つける。こちらに気付いた女官は一度ホッとしていたが、すぐ床に頭が付くんじゃないかってくらい深く頭を下げて謝り始めた。

 正直見ていられなかったし、少女自身怒っている様子ではなかったので止めさせ、さっさと謁見の間に繋がる廊下まで移動した。そこには見知らぬ幼女が立っていた。

 あっ、こっち見た。許してください決して怪しい者ではないです。通報だけは勘弁してください。

 幼女は俺を無視して少女に駆け寄る。

 

「恋殿~どこに行っていたでありますか!?」

「庭にいた鳥、見てたらねねたちいなくなってた」

 

 少女の言葉を聞いて案内役の女官へ同情する。そんな状況は想定しないよな、普通。

 まあ目的地は目前、連れとも合流出来たようなので俺はお役御免だろう。

 

「曹操のいる謁見の間は、そこだから案内はもう良いな?」

「ん」

 

 俺が謁見の間の入り口を指して聞くと、少女は言葉少なに頷いた。

 そっけなく感じるが、フレンドリーにされても対応に困るので俺としても有り難い。俺も小さく頭を下げ、先に謁見の間へ入る。そこには陣営の主だったメンバーが勢揃いしていた。華琳は当然として、春蘭姉妹や夏蘭姉妹、桂花と楽進達三人組もいる。

 どうなっているんだ。来客の対応にこんな面子が必要なのか。

 不思議に思いながら華琳の方へ小走りで行く。急いで来たんですよ~というさり気ないアピールである。あくまでさりげない位なのがポイント。あからさま過ぎれば、男を喰いまくっている癖に合コンで「私、男の人と話すのってちょっと苦手なんですぅ」と初心アピールをする清楚系ビッチのごとく女子から嫌われる。あらヤダ、合コンなんて無縁の人生だったのに知ったかぶっちゃった。てへっ。

 うん、吐くほど気持ち悪いな。下らないことを考えながら華琳の(もと)に辿り着く。

 

「遅かったわね」

「急いだつもりなんだがな」

 

 華琳は俺の言い訳にもなっていない言葉に突っ込まず「そう」とだけ言った。

 不機嫌、いやテンションが低めと表現した方が近いか。

 

「それで用件は? 来客か?」

「良く分かったわね。ええ来客よ。……中央からのね」

 

 最後の方は隠しきれない面倒事臭が漂っていた。

 明らかに華琳は良いニュアンスで言っていない。招かざる客なのだろう。いや、しかしちょっと待てよ。客はさっきの少女だろ。そんなに悪い奴には見えなかった。むしろ口数が少ないだけで良い人だと思うんだが。

 俺が頭を捻っていると、先程廊下にいた少女の連れの幼女が謁見の間に入って来た。

 

「呂奉先殿のお着きですぞ~」

 

 幼女の口上と共に俺が案内した少女が現れる。

 リョホウセン、んー? 聞いたことがあるよな。リョって言ったら呂布とか呂蒙とかか? 馬鹿か、あんな良い子が呂布は無いだろ。呂布は。あんな良い娘()が裏切りマイスター呂布であるわけがない。

 リョホウセンは俺と一緒にいた時と同じで無表情なまま広間の奥側、いわゆる上座側へ進む。それも普段華琳がいる位置に、そして華琳は少し謁見の間の出入り口近くに移動している。つまりはこの場で少女が一番偉いという訳だ。マジかよ。

 

「曹孟徳殿、黄巾党鎮圧においての活躍見事であったと呂布殿が仰せですぞ」

 

 幼女がリョホウセン改め、呂布の側に立って彼女を代弁するように告げた。

 呂布でした。信じられん。こちらの世界に来て、曹操達三国志の武将達が女だと初めて知った時並のインパクトだ。

 ショックを受けている俺をよそに、幼女が話を進める。

 

「天子様より褒美として西園八校尉に任ずるとのお達し、呂布殿に代わりこの陳宮が伝えしますぞ」

「は、ありがたく。謹んでお受けいたします」

 

 陳宮の完全に上からの物言いで、華琳のこめかみがピクピクしているのが俺には見えてしまった。

 官位は呂布達の方が上なのだろうが、実際にどれ程有能なのかも分からない幼女から偉そうにされて、プライドの高い華琳にとっては相当なストレスになっているようだ。

 しかし、それを知ってか知らずか幼女の口は止まらない。

 

「新たな官職に相応しい働きを期待している。精進するように、と呂布殿が仰せですぞ」

 

 もうやめて、華琳の堪忍袋の緒のライフはゼロよ。

 あくまで自分は代弁しているだけという(てい)で超上から目線のセリフを連発する陳宮、謁見の間に入ってからここまで一言も喋っていない呂布。華琳にとってみれば馬鹿にされているように感じているのだろう。

 

「では多忙なのでもう失礼する、と仰せです」

 

 良かった。もう帰るようだ。頼む。もうこれ以上何も言わずにさっさと帰ってくれ。

 そんな俺の想いが伝わったのか幼女陳宮は、出入り口へ黙って向かった。しかし呂布は歩き始めてすぐに立ち止まり、俺へと顔を向けた。

 

「……うち、来る?」

 

 謁見の間がざわっと騒がしくなる。

 ナニコレ、逆ナン? ヘッドハンティング? こんな場でアグレッシブかつ大胆過ぎる。そもそもどちらが目的にせよ、接点が先程のちょっとした会話しかないのにおかしいぞ。もしかして想像を絶する程のビッチなの? 肉食系なの? そうは見えないんだけど。

 

「いやちょっとアレなんで」

「……分かった」

 

 言葉を濁して首を横に振ると、呂布は何を考えているのか分からない表情のまま小さく頷いた。何が分かったのか全く俺には理解できないが、あっさり納得した様子で出入り口へと歩みを再開した。

 そういえば木の実のお返しを上げるつもりだったのだが、今呼び止めると話が余計にややこしくなりそうである。ここは控えた方が良さそうだ。呂布は何を考えているのか全く分からなかったが、物わかりの良い奴で良かった良かった。

 呂布が謁見の間から去り、姿が見えなくなって数秒後それは始まった。

 

「今のはどういうことかしら?」

 

 マンガなら背後にゴゴゴゴゴゴゴと描かれているような威圧感を発する華琳。さらに彼女だけでなく、この謁見の間にいる全員の視線が俺へ集中している。

 皆の視線独占だ。いや~まいったな。小町、お兄ちゃん異世界に来て、やっと人気者になっちゃったみたいだぞ。これから始まる異世界転生ハーレム物語『やはり俺の異世界転生はハーレムものだった』を期待してくれ。集まった視線がどうも冷たい気がするが気のせいだろう。ハハッ。

 渇いた笑みを浮かべるしかない俺に、この後長い長い試練が訪れたのは言うまでもない。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「れ、恋殿~、先程の言葉はどういうことでありますか!?」

 

 陳宮は謁見の間を出てすぐの廊下で恋へと詰め寄る。

 用件の済んだ陳宮がさっさと帰ろうとしていた所、恋が曹操の部下の男に「うち、来る?」と言っていた件についてだ。

 陳宮は自身が敬愛する恋に限って、男へ言い寄るなどという浮ついた話ではないと確信している。しかし恋は有能な人材を勧誘したりすることも皆無。そもそも自分から話し掛けること自体稀である。まさに青天の霹靂であり、恋の意図が全く分からない。

 

「元気なかった。家に連れて帰る」

「え?」

「ご飯いっぱい食べる。しばらく休む、元気出る」

「あれは犬や猫ではありませんぞ!?」

 

 陳宮はやっと恋の意図を理解した。理解して頭を抱えたくなった。

 恋は怪我をした動物を見つけると、家に連れて帰って面倒を見る。それに例外は無く、犬猫どころか虎や熊まで連れて帰って来る。それはもう恋と共にいる陳宮にとっては日常茶飯事といって良い位、ありふれた日常である。しかし、まさかその対象が人間、しかも男にまで及ぶとは思いもよらなかった。それに相手が行き倒れていたならまだしも、変わった格好をしていたとはいえ、あの男はそれなりの文官だろう。拾って帰る必要を呂布が感じるのはおかしいはずだ。

 

「うち、犬や猫以外もいる」

「そうではありません。男は狼、危険なのですぞ」

 

 確かに象や猪も飼っているが、陳宮が言いたいのはそういう問題ではない。

 曹操に引き抜き行為と見られるのは、まあ良い。どうせ恋に比べれば低位の者であり、どうこう言ってくることも無いだろう。だが家に男を連れて帰るというのは看過出来ない。もし万が一、無いとは思うが、間違いがあっては大変である。

 しかし、どうにも恋に陳宮の想いは伝わらない。

 

「狼じゃない、人間だと思う」

「いえ、人間ではありますが、狼というのは例えですぞ」

「ん?」

「男は恋殿のような魅力的な女性を見ると、狼のように襲ってくるのであります」

「狼? ……私より弱い」

 

 狼どころか、この国で恋より強いモノなど存在しない。少なくとも恋はそんなモノに会ったことが無い。

 恋の強さを誰よりも知っていると自負する陳宮も、こう言われてしまうと否定のしようがない。まさか男女の営み的な話を一から説明するわけにもいかないし、お手上げである。

 今回は男が断ったので事は収まったが、次に同じような事態になった時どうすれば良いのか、陳宮の悩みは尽きない。




オマケ
華琳「これより、比企谷 八幡の法廷を開廷します」
桂花「準備完了しております」
八幡「い、異議ありっ、何で俺が責められ」
華琳「却下、では早速証人の話を聞きましょう」
桂花「被告人・比企谷は女と見れば誰にでも言い寄る変態であり、死刑が妥当です」
八幡「異議あり! 言いがかりにも程がある」
桂花「いいえ、被告人は女であれば誰でもいいというケダモノです」
八幡「待った! 俺にそんな積極性はない」
桂花「……! それは…普段の振る舞いは演技、そう演技です」
華琳「そうかしら? 八幡にそんな甲斐性はないわ」
八幡「おい」
桂花「でも呂布に誘われていた事実は動きません」
八幡「ちょっと待て、それは俺が言い寄ったという直接的な証拠にはならないだろ」
桂花「異議あり! じゃあ、あの女は初対面でアンタを誘ったと?」
八幡「いや、ここに来る途中に会っている」
桂花「ほら見なさい。その時毒牙にかけたんでしょ」
~以下略~
華琳「まあ、誘いを断ったから良いわ」
八幡「おい、じゃあなんで俺は責められてたんだよ?」
華琳「さあ? 自分で考えなさい……ばか」






読んでいただきありがとうございました。
恋姫の新作の新キャラ良いです。眼鏡属性皆無の私が陳登のおかげで生まれて初めて眼鏡っ子を好きになりました。それと親子丼美味しいでげす。

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