やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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零れる想い

 人は皆迷子である。

 人は自分だけでは直ぐに迷ってしまう。どうすれば良いのか迷ってしまう。どちらに向かえば良いのか迷ってしまう。だから雑誌やテレビに占いが溢れる。車にはナビ、街には看板や標識が溢れる。何か指標が無いと人は自分が何処にいるのかも分からなくなってしまう。

 だから俺がこの何も無い荒野で独り迷子になっていても何も可笑しくない。……いや可笑しいだろ。何処だよここ?

 俺の中の千葉魂が言っている。ここは千葉ではない(確信)

 少し前に目が覚めて辺りを見回すとそこは荒野だった。何処までも抜けるような青い空、遥か先に見える岩と山、逆方向を見ると地平線が見えそうなぐらい広い平野。千葉はもちろん日本ですらないのではないか。

 俺は確かトラックに轢かれ死にかけていたはずである。だが今は怪我した事が夢であったかの様に、体の何処も痛くない。もちろん傷も傷跡すら無かった。

 

 ここで唐突に八幡クイズ!!!参加者は俺一人。

 問い、この状況は何なのか?

 

①夢

②ついに頭がおかしくなった

③死後の世界

 

 夢にしては意識がはっきりしているし定番の「頬を抓る」もやってみたが痛かった。夢ではないだろう。

 ②の「ついに」ってのは何なんだ。まるでその内おかしくなりそうだったみたいじゃないか。頭なら随分前からおかしいって評判だったよ。主に奉仕部の二人や小町からだったけど。

 ③の死後の世界……何も無い荒野。天使も居なけりゃ悪魔も鬼も居ない。嫌われたものだ。実はこれが一番正しいんじゃないかと俺は思っている。トラックに轢かれて死にかけたのは覚えている。そして気が付くと見知らぬ場所で傷も無くなっている。考えれば考える程に正解のような気がしてきた。

  混乱していた。でも薄々そうなんじゃないかと早くから気付いていた。努めて明るい感じで考えていたが……。視界が暗くなったような気がした。自分の中が空っぽになってしまったような感覚になる。

 

 俺は死んだのか

 

 何の意味も無く

 

 タダ ソコニ イタトイウダケデ

 

 ゲンジツハ ザンコクダ ソンナコトハ トックニシッテル

 

 ・・・・デモ

 

「なんで・・・。俺なんだよ」

 

 掠れた声が漏れる。

 

「なんでだよ。なんで俺ばっかり・・・。こんな目に・・・」

 

 孤独は苦しくなかった

 それは本当だ

 むしろ望んでいた

 自ら泥を被り嫌われた

 元々だと、認識されただけ良いと嘯いた(うそぶいた)

 泥塗れの自分に触れて大切な者達が汚れないように距離をとった

 孤独は苦しくなかった

 それは本当だ

 だが、大切な者達の目を見るのが苦しかった

 離れていく俺を見るあの顔と目を見るのが、苦しくて仕方がなかった

 

 俺は「みんな」が持っているモノを持っていない事が多かった。高校時代の俺はそれを「だからどうした」という態度を貫いた。しかし、最初から欲しくなかった訳ではない。それらの多くを得られないから諦めただけだ。

 

「どうすりゃ良かったんだよ。離れなければ良かったのか。小町や雪ノ下達と!!」

「俺と一緒に居ればあいつらも嫌われる、傷付けられるだろ!」

「それでも一緒に居れば良かったのか。俺のせいで傷付けるって分かっているのに!」

「出来るわけないだろ!!!!」

 

 漏れ出した声はいつしか大声になり叫び声になった。足元の石を蹴り飛ばし、勢い余って尻餅をついてしまう。傷付けたくないと言いながら距離をとり、その事によって彼女達は傷ついていた。どうしようもない矛盾。

 

「ダセェな」

 

 座り込んで暫く、ぼうっとしていると自分の服装に違和感を覚えた。 

 服装は半年前まで毎日の様に着ていた総武高校の制服であった。もちろん事故に遭った時は別の服装だった。目が覚めて怪我を確認した時に、普通気付くものだが混乱し過ぎである。念の為にポケットを探ると財布とスマホが出たきた。もしやと思いスマホの電源を入れてみたが圏外だった。

 スマホをポケットに入れ顔を上げると、そこには頭巾を被った怪しげな人間が立っていた。

 正直びびった。最初に目が覚めた時に周囲は確認している。かなり遠くに岩と山が少しあっただけで遮蔽物のない荒野であり、人っ子一人居なかったはずである。恐る恐る尋ねる。

 

「あんた、誰だ?」

「貴方をここに連れてきた者よ」

「!? ……どういう事だ。俺は自分が死んだと思っていたんだが」

 

 頭巾を被った人間の声は、女のそれであった。女は口元に笑みを浮かべる。

 

「それは貴方次第」

「言う事聞かなきゃ殺すってことか?」

 

 俺の言葉に女は声を出して笑った。

 

「ふふっ、違うわ。生きたいなら生きればいいわよ。好きなように」

「意味が分からん。俺は死ぬような怪我をしていた筈だ。どうやってこの状態になっているんだ」

「説明していたら何日掛かるか分からないし、そもそも説明することに意味もないわ」

 

 目の前の女はまともに状況を説明する気がないようだ。同時に悪意もないようだ。どうしようかと考えていると、いきなり右手を握られ握手するような形をしてきた。

 えっ何、混乱しているところにこんな事をされたら好きになっちゃうだろ。その後、告白して振られるまである。えっ振られ……。そういや前にもこのネタやったな。

 俺が下らない事を考えているうちに、女は話を進める。

 

「手を伸ばしたでしょ、貴方。だから私は掴んだ。貴方が続きを望んだから繋いだのよ。ここに。ここには貴方を必要とする人がいるの。そして彼女は貴方が必要とする人になるかもしれない」

 

 全く言っている意味は分からんが助けてくれたようだ。しかし、もう少し分かり易く説明して欲しい。すると彼女が荒野の一画を指差す。そちらを向くと土煙が上がっていた。少しずつこちらに近づいている。

 

「あれがあんたの言う俺を必要とする人間か?」

 

 そう言って女の方を振り向くと其処には誰もいなかった。ナニソレコワイ。

 姿は見えないが囁くような声が聞こえる。

 

「貴方は枝よ。でも他の樹と繋がればその樹の枝にもなれるし、地に足をつけて根を張れば樹にもなれる」

 

 やはり分からない。だが俺は誰かも分からないナニかに「もう一度問い直されている」のかもしれない。それは神様なのか悪魔なのか。




思ったより話が重いので分割しようと思います。そもそも今回の内容は一話に入れておけよというものです。私はどうも前置きや説明が長くなる傾向があるようです。

残りの分も月曜になる前に更新する予定です。そちらでやっと華琳達と出会います。ほんとにやっとです。


ここまでお付き合いいただき有難うございます。

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