やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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冬蘭視点

 

 

 今私は天の御使い、軍師候補などと華琳姉様に説明された目の腐った男の補佐として、傍に控えながら観察している。華琳姉様は高く評価しているようだが実戦は未経験のようなので、未だ本当に使えるかは分からない。無能な味方軍師など如何なる強敵よりも恐ろしい。実戦を通してその能力を見極めておく必要がある。

 盗賊の本拠地を割り出す手腕を見る限り頭は切れるようだ。気になるのは慎重過ぎる程に情報の精度を気にする所と実戦経験の無さから来る甘さだろうか。

 わざわざ複数人の盗賊を生け捕りにし尋問し、逃げた者にも気付かれないように尾行させて本拠地の場所を探らせるという何通りもの手段を講じる神経質なまでの慎重さ。これに関しては実際に盗賊の本拠地の場所だけでなくその人数や頭目の特徴、戦術の水準、本拠地が砦である事など有益な情報を入手した点から彼の長所と言って良いだろう。それにこういった事をその場で直ぐに思い付き、差配出来る人間が今の陣営には少なかったので希少である。

 華琳姉様ならどうだろう。智謀に関しても優れている華琳姉様でも、これほどまで緻密に情報収集をして、ここまでの情報を得られるか。華琳姉様の場合、盗賊如きにここまで慎重にはならないだろう。しかし、相手は雑魚とは言え戦えばこちらにも被害が出る。私が大切に育てた直属の精鋭達にも死傷者が出るだろう。今回得られた情報があればそれを最小限に出来る。そう考えれば比企谷 八幡というこの男は有益な人材だと言える。

 甘さに関しては良く分からない。盗賊の死体を見た時は動揺している様に見えた。その動揺を周りに悟られない様にしていたが、目を逸らし気味にしているのが分かった。ヒゲ面の下品な盗賊に私が焼けた鉄の棒を押し付けた時も表情が固くなっていた。これらの点だけ見ると、まだ少し甘さの抜けない新兵に近い感じだった。

 しかし、それに反して自ら尋問する様子は手馴れたものであった。チグハグな印象を受けて、彼がどういう人間なのかさらに分からなくなる。

 何より情報を売った盗賊が「これで俺も助けてもらえるか?」と聞いて来たところで答えた彼の顔は、盗賊達より余程邪悪に見えた。

 濁りきった目、皮肉げに歪んだ口元、盗賊に笑いかけたその表情はまともな人間のする顔ではなかった。それは今までも人の心をえぐり、陥れ、追いつめてきた者のソレであった。

 正直、少しだけ恐怖を感じてしまった。そんな邪悪な笑顔を向けられた情報を売った盗賊は震え上がっていた。

 後で部下から聞いた話だが、先に天幕から連れ出された盗賊の方も彼に怯えきっていたそうだ。

 

「もし、情報が嘘だった場合……大変な事になるぞ」

 

 そう盗賊に言った彼には一緒にいた兵士も恐怖を感じたと言っていた。その腐った目がどんな嘘も通用しないと、そして情報が嘘だった場合には地獄を見せると雄弁に語っていたと。

 比企谷 八幡という男に関してはもう少し観察を続ける必要がありそうだ。

 

 

 

 

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 華琳に尋問と逃げた盗賊を追わせた兵から得た情報を報告しながら先程までの事を思い出す。

 生け捕りにした盗賊の尋問は凄まじく気分の悪い仕事だった。未だに焼けた肉の臭いが鼻に、悲鳴が耳に残ってかのようだ。これからもこんな事を続けないといけないのかと思うと気が重いどころではない。

 そんな気分の乗らない俺を余所に華琳の方は俺が得た情報について満足しているようだった。

 

「思った以上に良い情報が手に入ったわ、お手柄ね。八幡、桂花もこれなら策も立て易いんじゃない?」

「……はい。最小限の損耗で、より短時間で敵を殲滅出来る策を既に考えてあります」

 

 華琳が俺の手柄について言った所で桂花がまた嫌な顔をしていた。

 どんだけ俺の事が嫌いなんだよ。ただでさえ気分が悪い時に、こういう態度を取られると流石に腹が立つ。まあ、腹が立つと言っても何かをする訳ではないが、このままでは仕事に支障が出るかもしれない。早めに手は打っておくべきか。

 俺がそんな事を考えている間に桂花が自分の策を披露していた。それは端的に言うと華琳を囮にして敵を砦から誘き出し、そのまま華琳が兵を後退させる。それを追ってきた敵を隠れている春蘭と秋蘭が背後から襲うというものだ。俺はこの桂花の策が有効だと思ったが、異を唱える人間がいた。

 その人間とは当然、春蘭であった。

 

「華琳さまに危険な囮役をさせるわけにはいかん!」

「それでは、あなたなら他にどのような作戦が良いと言うの?」

 

 春蘭からしたら華琳を囮にするなどという行為は、感情的に認められないのだろう。

 それに対して桂花が何か他に代案があるのか聞いた。

 

「盗賊相手に策など不要。正面から叩き潰してくれる!」

「「……」」

 

 春蘭は威勢良くそう言ったが、聞いていた全員が呆れて沈黙してしまった。

 もう呆れを通り越して尊敬してしまいそうだ。

 

「逃げる相手を追いかけている所に背後から襲われれば、どんな者達でも混乱するわ。混乱した状態の敵はより倒し易くなる。そうなればより早く、より少ない兵の損失で敵を倒せるわ。無駄に時間と兵を消費する事はないでしょう?」

「お、囮に食い付かなければどうするんだ」

 

 策の有用性を桂花が説明すると春蘭は苦し紛れに相手が乗って来ない可能性について指摘した。それを桂花は鼻で笑っていた。

 このままでは埒が明かないので面倒だが間に入ることにする。これで少しでも桂花の心証がマシになればちょろいのだが。

 

「もし、囮に食い付かなかったら俺が何とかする」

「何とかとは何だっ!」

「手はいくらでもある。生け捕りにした賊はまだ拘束してあるし、相手の頭がどんな奴なのか分かれば挑発もしやすいしな。これで問題無いだろ華琳」

 

 食い下がる春蘭を黙らせる為に華琳に話を振る。春蘭相手には華琳が最も有効だ。というか華琳くらいしか春蘭を止められない。

 

「ええ、それで問題無いわ。桂花の策でいきましょう。もし相手が誘いに乗って来なければ、その時は八幡に任せるわ」

 

 華琳が認めてくれれば話は早い。春蘭も華琳の決定には逆らわないだろう。一息ついていると華琳が俺の事を見ていた。

 何か貫禄の様なものがある華琳に見詰められるとどうにも落ち着かない。

 

「他にも何か考えがあったりするのかしら?」

 

 考えはある。桂花の策は良いと思うので、大まかな流れは彼女の言う通りで問題ないだろう。それに付け加える形でやれる事はまだある。ただここで俺が自分の考えを言えば、それによって人が死ぬのだ。成功すれば俺の考えた策で相手を殺す事になる。

 誰かの人生を俺が終わらす、それが現実のものとして目前まで来て怖くなった。だからと言って負けても良いとは全く思わない。俺は死にたくないし───────

 

 こいつらを死なせたくない。

 

 俺は華琳達の顔を見て自然とそう思った。彼女達の余裕の様子を見ると相手の数はこちらより多いが、取るに足らない相手なのだろう。それでも命の危険はある。ここで俺が策を出し渋って仲間が死ねば俺はそれを一生後悔するだろう。それなら、もうやるしかない。

 俺は華琳に自分の考えを説明し、華琳はそれを聞いて頷いた。これが俺にとって誰かを殺す為の策を巡らせた初めての経験だった。

 命は大事だ。そんな事は分かっている。だが俺にとってこいつらと盗賊の命なら比べるまでもない程に価値が違う。俺は我が侭に、傲慢に選んだのだ。正しい事なのかどうかは知ったことではない。ただ、こいつらを選んだ事に後悔はしない。それは確かな事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございます。


 それにしても話が進まない。盗賊を1団潰すだけでどれだけ話数を使うのかと自分でも驚いています。短い話に関しては統合した方が良いのかと少し考えています。

 ただ自分が読む場合、1話ごとの文字数が多いと読むのしんどいなーとか思ってしまう人間なので迷う所です。

 俺ガイルの2期を見ていて思ったのですが、もうちょっと八幡を元の八幡に寄せたいなと考えているので書くのに時間が掛かりそうです。

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