どうしてこうなった?! 神による転生者の輪廻物語   作:マーボー

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第9話:前世の記憶って、思い出そうと思えば思い出せるものらしいね!

 

 

魔法のことを士朗さんには打ち明けたが、まだしばらくは高町家の人たちには秘密にしておくことにした。

これは高町家に向う道中で士朗さんと二人で決めたことだ。

オレの両親と高町家は付き合いが長い。だから今の高町家は自分のことのように悲しんでいてくれているらしく、魔法のことを打ち明けられる雰囲気ではないそうだ。

 

(本当のいい人達だなぁ)

 

両親の死に対して、悲しんでくれる高町家の面々。

こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、まるで自分のことのように悲しんでくれることが嬉しく思えてしまった。

 

だからこそ、こんないい人達を更に混乱させるのはオレとしても気が引ける。

魔法のことはそのうち、それこそ、なのはが魔法と出会った辺りに打ち明けるのが賢明だと判断した。

ちなみにこの先、なのはが魔法に出会うなんてことは士朗さんにも話してはいない。

 

「それじゃ、クリスとゼロはいいとして、フィオネは……」

「私は透明化&小型形態にでもなって浮遊してるわ」

 

へぇ。そんなこともできるのか。

そんなやり取りをしていると、気がつけば高町家の前までやってきていた。

 

 

 

「お邪魔しま――ぐっへっ!」

 

士朗さんに連れられてやってきた高町家。

玄関に入った瞬間に身体に衝撃がはしり、肺から酸素が吐き出される。

 

「劉ちゃん劉ちゃん劉ちゃん!」

「な、なのは?」

 

泣きながら抱きついてるなのはが、衝撃の正体だったようだ。

オレの胸に顔を埋めているなのはの頭を優しく撫でながら、そっと距離を置いて視線を合わせる。

 

「劉ちゃん……」

「ありがとう。なのは。ボクは大丈夫だから」

 

きっとオレなんかのために、昨晩はずっと泣いていてくれたのだろう。

目元が真っ赤に腫れてしまっている、なのはに対して、優しく微笑む。

 

士朗さんには「落ち着いた」なんて言ったけど、正直なことを言うと、まだ気持ちの整理なんて出来切れていなかった。

でも、今こうしてなのはの顔を見た瞬間、オレの心中に言葉に出来ない温かなものが流れ込んできて、気持ちをリラックスさせてくれた。

 

「ありがとう、なのは」

 

二度目の礼を言いながら、もう一度頭を優しく撫でると、なのはの表情も笑顔になった。

 

「ううん。気にしなくていいの。それに、本当につらいのは劉ちゃんだもん」

 

そう言うと、またもやオレに抱きついてくる。

今度はその小柄な体格に見合った衝撃もなにもない、抱擁に、オレは――

 

(さっきはどれだけ助走つけてのタックルだったんだろう)

 

などと、余計なことを考えられるくらいには、今度こそ本当の意味で心に余裕が持てるようになっていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

それから、リビングに入ってからは大変だった。

桃子さん、恭也さん、美由希さんによる涙の抱擁が待ち受けていた。

普段なら無理矢理にでも引き離すところだけど、今はただありがたい気持ちがいっぱいで。

だからだろうか。普段とは違って無抵抗なオレを良いことに、その抱擁はいつまでも続いたのだが、オレは感謝しながら受け入れ続けていた。

 

 

 

そして――

 

 

 

「劉。やはり、今日は……」

「ううん。だ、大丈夫。大丈夫」

 

少し遅めの、簡単な朝食を頂いた後、オレは士朗さんと二人で病院にやってきていた。

母さんと父さんが眠っている扉の前に立つこと、かれこれ30分ぐらい経っていた。

士朗さんはずっと、オレのことを気遣ってくれている。そのことが申し訳なくなり、ドアノブに手を持っていくも、握ることなく手を下ろす。ずっとそれの繰り返しだ。

 

「劉……」

「ごめん。ごめんね、士朗さん。こんなに時間が経っちゃって」

「いや、気にするな。むしろこれが普通なんだよ。人の死はそれだけ重いもので、決して慣れていいものじゃないんだ」

 

士朗さんの大きな手がオレの頭に乗せられた。

 

「――君は私とは違うんだからな」

「え?」

 

ボソッとこぼした独り言がオレの耳に入る。

士朗さんも聞かせる意図はなかったらしく、「なんでもない」と言うように、そのまま頭を撫でてきた。

士朗さんの言っていた人の死の重み。

それは発散しようのない、行き場のない悲しみ、喪失感といったものだろうか。

少なくともオレはそう感じていた。

オレはこの世界に転生して、新しい両親を与えてもらい、そしてその人達を亡くした。

当然、悲しくないわけがない。自分にとって大切な人たちなのだ。

両親が亡くなった時は驚愕より呆然、思考の停止。次第に思考が追いつき、現状を理解して、ようやく悲しみがやってきた。それも一晩も経てば、喪失感へと変わる。

昨日、いやさっきまで一緒に居た人たちが、この瞬間から居なくなってしまうのだ。

このやりきれない感情はどうしようもない。

 

(…………)

 

オレは前に居た世界のことを記憶の底から引きずり上げる。

相変わらず、こめかみ電流が走ったような痛みに襲われるが、それでも構わずに思い出そうとする。

 

(痛い……けど、これだけは、忘れたままにしてちゃいけない)

 

それは、この場でやるようなことではないとは思う。

それと同時に、今だからこそやるべきなんだとも思う。

 

(前の世界。転生前、アテネのいた神界では思い出せなかったけど……ッ)

 

転生したとはつまり、前世のオレは死んだということで、実際にその映像も見せてもられていた。

それはつまり――このやりきれない感情を、オレは既に人に与えてしまっているはずということだ。

 

(……ッ!!)

 

ふと、こみかみに走っていた電流のような痛みが大きく弾けると同時に、すっと痛みが引いていく。靄がかかっていた思考が晴れ渡るように感じた。

そして微かに思い出される前世の両親の顔。

オレとの関係性までは思い出せない。けれど、表情や仕草、性格なんかは本当に少しだけ思い出せた。

 

(お母さん、お父さん……)

 

二人は何事にも強く生きていた印象だった。

共働きだった二人はどちらかが仕事で失敗したら、家では二人で話し合ったりしていたはずだ。どちらかが成功すれば自分のことのように喜んでいた。時には意見がぶつかり喧嘩にも発展していたっけ。

それでも、そうやって二人でお互いに、夫婦として支え合っていた。

 

(あ……)

 

そういえば喧嘩した後、すぐに仲直りしていたな。

だからこそ二人とも遠慮なく意見をぶつけ合えたんだろう。

 

(そうだった……)

 

そして、仲直りしたあとは決まって二人してオレの部屋にやってきて、謝ってきてた。

心配掛けてすまない、なんて言ったりして……。

 

 

(なんだ。思い出せたじゃん)

 

思い出せなかったのは一瞬のことで、その後は呼び起こされた記憶から、次々と思い出が溢れ出してくる。

その度に、あの二人の強さを再認識させられていた。

 

人の死の重み。

こんな感情を抱かせてしまったはずだけど、それでもあの二人はお互いに支え合って、このやるせなさから立ち直っているはずだ。

それなのに、オレだけがいつまでもグダグダしていては、前の、そして今の両親に申し訳がない。

 

「……受け入れよう」

「劉……?」

 

既にオレの頭には士朗さんの手は乗っかっていなかった。

隣に立つ士朗さんを見上げると、何も言わずにただ微笑んでくれる。

 

「って、え。あれ?」

 

士朗さんに頭を撫でられてからどれくらい経ったんだ?

時刻を聞いてみて、改めて驚愕する。士朗さん曰く、時刻は既に夕方。

この病院に来たのは遅くても昼前。オレたちはもう何時間もここに立っていたことになる。

 

「ご、ごめん。士朗さん!」

 

その間、士朗さんは何も言わずに付き合ってくれていたことになる。

普通なら痺れを切らして、今日は諦めたり、強引に部屋に入れたりするはずなのに。

それなのに、文句の一つも言わずに、ずっとオレの隣に居てくれたのだ。

 

「さっきも言ったけど、気にしなくていい。それに、今の劉の表情を見ればわかる。この時間は劉にとって大切な、必要な時間だっただろうからな」

「士朗さん……ありがとう」

 

今度は謝罪ではなく、そこまで考えてくれていた士朗さんに対して感謝の気持ちを述べる。

すると士朗さんは「それだったら有り難く受け取らせてもらおう」と言ってくれた。

もうこの人には頭が上がらないな。

 

「さて、母さんと父さんに会おう。二人も待っていてくれてるはずだもんね」

「そうだな。私はここで待っているから、劉は気にせずにゆっくりと会ってくるといい」

 

士朗さんに声を背に受けながら、ドアノブを握る手に力を込めた。

 

 




前に投稿していた内容とはすこし違ってますね。

では、次話も宜しくお願いします。


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