幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
あ、ネプテューヌ新作発売おめでとうございます。
それと、今回のお話書くにあたって前話でなーぜーかー今話でやる予定を立ててた、本来の流れと矛盾する会話をしていたのでしれっと前話もそこそこ変わってたりします。申し訳ありませぬ。
イオンを連れて地下鉄駅のような場所から戻ってくると、
「あ、エスちゃん」
「あら、おかえりなさい」
「あれ? 起きてるじゃない」
出迎えてくれたディーちゃんと共にもう一人。眠っていたはずのフーリが起きていた。
「なぁに? ワタシが起きてたら困るのかしら」
「そんなこと言って無いけど、なんかディーちゃんからは深刻な感じに聞いてたから」
「わたしだって急に起きられてびっくりしてるんだけどね……」
どこか不満そうに言うフーリにそう返すと、苦笑いしながらディーちゃんはうーんと考え込むと、「もしかして……」と何かに気づいたのか話し始める。
「エスちゃん達が来たから、とか」
「流石にわたし達が原因じゃないと思うけど……んー、ディーちゃん本体が近くに来たからとか? ここに来た原因って、ディーちゃん仮面がなんか守ってるっぽい奴のせいだったはずだし」
「ディーちゃん仮面……?」
フーリが目覚めた理由に、わたし達がここに来た時の事を思い返しながら答える。
ディーちゃん仮面って呼び方にディーちゃん本人が微妙な顔してたけど。
「そういえばアイツら見かけてないわね。どこかに潜んでるのかしら……イオンは何か見たりしてない? 確か狙われてたでしょ」
「えっ? えっと……姿は、見てない。でも声は聞いたよ」
「声?」
ここで目覚める直前に見た、恐らく原因だろう存在を思い出してイオンに聞いてみる。
イオンは未だにいつもの明るさがなく、元気なさげだったけどわたしの質問にそう答えて、気になったわたしは更に聞き返した。
「うん……どうして他人と一緒にいるの、とか、人も女神も信用なんて出来ない、とか……そしたら頭が痛くなって……昔のこと、思い出して……」
「あー、イオンがいた場所自体も妙な所だったものね。わたしも気にしてる事掘り返されたし」
となると、あの場所の現象とその声の影響で無くなってた記憶が戻った、ってとこかしら。
「……さっきは場所が場所だから無理矢理連れ出しちゃったけど、その、大丈夫? その様子からして、きっと辛い記憶なんじゃ」
「……アア、ソウダ。コノ子ニトッテ、忘レテイタ方ガ幸セダッタデアロウ記憶ダ」
「うひゃぁ!? な、何、雰囲気が……?」
心配になって声をかけると、突然イオンの雰囲気が変わり、急な変化にディーちゃんが驚いていた。
コイツは……いつか採掘場で見たわね。わたしが駆けつけてすぐ戻ったから忘れかけてたけど……憑依とかなのかしら。
「オマエニ問オウ」
「……わたし?」
イオン? を警戒しながら考えていると、鋭い目付きをこちらに向けながらそいつは言った。
「コノ子ガ大切二思ッテイルオマエニハ、コノ子ノ過去ヲ知ル権利ガアル」
急に出てきたと思ったら急にそんなことを言い出したイオン?
相変わらずトゲトゲした感情を向けてくるけど、敵意は無さそうね……。
「エスちゃん……」
「……良いわ。聞こうじゃない」
心配そうにするディーちゃんに一言告げて、わたしはそう答えた。
「……話ス前ニ、一ツ。モシコノ話ヲ聞イタ上デ、コノ子ヲ悲シマセルヨウナ……裏切ルヨウナ真似ヲシタナラバ。ワタシタチハオマエヲ絶対ニ殺スダロウ」
「しない。絶対にね」
「……フン」
敵意の籠った視線をこちらに向けながらも、わたしの答えに満足したのか、そいつはイオンの過去について語り始めた。
──イオンは、昔から他人には見えないものが見えていた。
普段からイオンがお友達と呼ぶ、こいつや他の
だからなのか、彼女は周囲から疎まれ、肉親も既にいなかったイオンは余計に人間よりもゴースト達と話すようになり。
誰もいないのに一人で話していたり、ギターを弾いている様を見た周囲の人間は更に寄り付かなくなったとか。
イオンの親代わりも気味悪がって、衣食住とか学費とか最低限の世話だけして殆どイオンと関わろうとしなかったんだと。
そんな感じで周りから浮いていたのもあって学園ではいじめられてたりで、わたしの知るイオンのように明るい性格ではなく、かなり内気な性格だったとそいつは語った。
それだけでも悲惨だと感じたくらいなのに、これでもこの時はまだマシだったと、そいつは怒りを滲ませながら続きを話し始めた。
ある日の事。イオンの暮らしていた街をある災害が襲った。
空間断裂──恐らくディーちゃんを利用した奴らが事故で引き起こしたものと同じような現象だと思う──が起った。
周囲のものを吸い込み、呑み込んでしまう……そんな災害がイオンの暮らしていた土地では元々時折発生していたらしくて、それがイオンの住んでいた街を襲ったそうだ。
発生期間や場所、原因の判明していないそれに街の一部が呑まれ、いくらかの住民もそれに巻き込まれて行方知れず。街の人々は、あろうことかそれが起きた元凶としてイオンを責め始めた。
「…………たまに聞く話ね。疫病とか災害とか、そういうのを誰かのせいにする、なんて」
「うん……ひどい話」
「愚カシイモノダロウ。アノ子ガ止メテイナケレバ、ヤツラハ皆殺シニシテイタトコロダ」
そんな目に遭っても復讐とかには走らなかった辺り、イオンらしいというかなんというか。
でも流石にそんな扱いを受けて精神が疲れ切ってしまったイオンは、ゴースト達と共に自ら空間断裂の中に飛び込んで街から去ったんだと。
「……ん? それに飛び込んで無事って事は、その空間断裂ってのは巻き込まれたら死ぬとかじゃなく、別の場所に繋がってたってこと?」
「ソウダ。オマエガ今立ッテイル、コノ場所ニナ」
「え、ここ?」
そうしてイオン達が逃げるようにやってきたのがここ、次元の空白だそうだ。その時ディーちゃんと少し話した事もあったとか。
この空白って場所には迷い人以外にも空間断裂の調査のために部隊で訪れたヤツらとかもいたらしく、こことか別の場所でも人の集まるキャンプみたいな場所があったんだと。
最も、そういう奴らは大抵デザイアエナジーの影響でおかしくなったり、モンスターに襲われて死んでいったらしいけど。
イオンはここに来た時点で悲しみや絶望、そういった負の感情に溢れていたのもあってすぐにデザイアエナジーに侵食された──と思いきや。そういう適正でもあったのか、デザイアエナジーに満たされても正気でいられた。
まぁ、それでももう人と関わりたくないと思ってキャンプから隠れ住むように暮らし始めて、デザイアエナジーの力で強くなったウルフゴーストなんかが空間断裂に呑まれた建物なんかから物資を確保したりで過ごしてたらしい。
暫くそうして過ごしていたある日。調査隊に見つからないようにと移動中に倒れていた一人の女の子を見つけて、人嫌いとはいえほっとけずにその子を助けてあげたそうだ。
目を覚ましたらそこら辺の調査隊の方に行くように、その間の護衛をつけるくらいはしよう、なんて思っていたら、目覚めたその子に懐かれちゃって。イオンと一緒に居ようとし始めて、最初は鬱陶しがってたものの段々とその子と仲良くなって、落ちていた綺麗なものをプレゼントして貰ったりして、イオンに初めての人の友達ができた。
ゴースト達もずっと俯きがちだったイオンが笑顔を見せるようになって、その子を害することはしなかった。
──でも、そんな幸せな時間は長く続かなくて。
ある調査隊に見つかったのが不幸の始まり。
デザイアエナジーっていうのは感情が主軸になったものであり、イオンの友達は楽観的というか前向きと言うか、とにかく明るかったのもあってほとんど侵食されてなかったそうだ。
対してイオンは正気ではあるもののデザイアエナジーに満ち溢れていて。その調査隊はデザイアエナジーを感知できる装備でも持っていたのか、イオンの友達を救助と言って連れ去り、イオンに攻撃を始めた。
調査隊は空白調査に慣れていた熟練部隊だったらしく、ゴースト達も苦戦して……イオン達を圧倒した。そして攻撃を受けて倒れた時、イオンは友達に貰ったプレゼントを落としてしまって。
急いで拾おうとしたけれど、調査隊の攻撃に巻き込まれてプレゼントも壊されて。
友達もどこかに連れ去られて。
そして──
『どうして……?』
『ボクは何もしていない。していないのに。どうして、いじめるの……?』
『ただ仲良くしたい、それだけだったのに……』
『こんな悲しい事……悲しい世界は、間違ってる』
『ボクを悲しませる奴らなんかいなくなればいい。みんなみんな……消しちゃえば』
『そうすれば、悲しくない。この悲しみもなくなる』
『みんなボクを悲しませる──だから、やっつけてやる』
始まったのは、殺戮の狩猟。
正気すら完全にデザイアエナジーに染まったイオンは、殺さぬようにと厳命していた
向かってくる者──自分を害しようとするもの全部、殺せと。
「……それで、結局その友達は見つかったの?」
「イイヤ。ソイツラハココカラ脱出スル術ヲ見ツケテイタラシク、ドコヲ探シテモ見ツカラナカッタ」
「そう……」
「…………」
そうなると余計に暴れ回ったのかしら。思った以上に回想が長くてわたしもびっくりよ。
「ソウシテ目ニツク人間ドモヲ殺シテ回ッテイタトコロデ、奴ニ出会ッタ」
「奴?」
「オマエ達ガ七賢人ト呼ブ存在ノ一人ダ」
と、ここで突然七賢人の名前が出てきた。
あいつら、この場所にも絡んでるのか……と思いながらディーちゃんは知ってたのかと視線を向けると、ふるふると首を横に振っていた。
まぁ、ディーちゃんは七賢人とか知らないからそれもそうか。
「最初ハ他ノ人間ト同ジヨウニ殺ソウトシタガ、ヤツハアル提案ヲシテキタ。ソノ提案ヲアノ子ガ承諾シ、次元ノ空白カラ抜ケダシタ……ソノ時ニ、コノ子ハ分カタレタノダ」
「分かたれた? って……七賢人……ああ、ここに来る直前でアクダイジーンを逃がしてた方の」
「理解シタカ? アレモイオンデアリ、ココニイルコノ子モイオンナノダ」
「理解はしたけど、またややこしい事になってるわねー」
それでそのもう一人のイオンは七賢人側にいる訳ね。
うーん……ざっくり言うなら前のディーちゃんとフーリみたいに同一存在が敵対してるようなものでしょ? 天丼じゃない?
……と、そこでふと、あることに気がついた。
「……っていうかアンタさ、あっち側にいなかった? 読者に不親切な喋り方してるけど、雰囲気が仮面ディーちゃんとソックリな気がするんだけど」
「ホウ? 流石ニ気ヅイタカ」
気づいたことを聞いてみれば、そいつはこちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
いや、気づいたかじゃないわよ。
「ならアンタってスパイみたいなもんじゃない!」
「フン、ソウ結論ヲ急クナ。
「は? どういう意味よ」
訳の分からない事を宣うそいつを睨みつけてやるけど、全く意に介されてない。ムカつくわね……。
「ワタシ達ハイオンノ味方ダ。ソレハ
「味方って……え、じゃあアンタって二人居るの?」
「正確ニハ、二ツニ分カレテイル。身体ヲ借リネバ会話モデキヌノモ、力ガ半減シテイルカラダ」
「はー、そういう。でもあっちのアンタはディーちゃんの身体で戦っててズルくない?」
こっちのコイツ、イオンと話してるか(わたしには聞こえないけど)たまにイオンの身体で喋ったりする程度だし。
「言ッタダロウ、ワタシ達ハイオンノ味方ダト。アチラノイオンガ打チ勝チ、世界ヲ滅ボストシテモ、コチラノイオンガ打チ勝チ、人々ヲ助ケヨウガ、ドチラデモ良イ。タダ、ソウイウモノハ公正デアルベキダロウ?」
「……こっちにはわたしが付いてるから、あっちは物理的に手伝ってると?」
「理解ガ早イナ」
と、またニヤケ顔。ほんっっと腹立つやつね!
「じゃあ何? ディーちゃんを本格的に取り戻すなら、まずはイオンの戦いのケリを付けろとでも?」
「恐ラクハソウナルダロウナ。思考モ分断サレテハイルガ自分自身ノ考エナド分カリヤスイモノダ」
「はぁー……」
思わず深いため息が出る。
ディーちゃんの行方はほぼわかったものの、取り戻すには一苦労しそうだ。
「とりあえず、イオンの過去話から聞けた思わぬ情報のおかげで今後の方針は決められそうね。それでアンタはわたしにそんな話を聞かせて、どうして欲しいわけ?」
「何モ。コチラノイオント親シイオマエニハ、アノ子ノ過去トコレカラヲ見届ケル権利ガアルト言ウダケノ話ダ。裏切ル真似サエシナイナラバ話ハコレデ終ワリダ」
「あっそ……」
自分勝手……と言うよりはイオン至上主義なだけか。
そいつはそう言ったきり黙り込んだかと思うと、ふっと身に纏う雰囲気を変えた。多分、イオンに戻ったのね。
「……ごめんね? ふーちゃんっていつもあんななの」
「気にしてないわ。あれくらいで怒ったりはしないし」
「そ、そっか……」
繋がらない会話の後の無言の間。
と言っても、イオンの様子からして何か聞きたいことがありそうな顔をしていたから、わたしは黙って待っていただけだけど。
「……あの、エストちゃんは、本当に怖くないの? ボクのこと……」
そして予想通りにイオンは意を決した様に、そんな事を聞いてきた。
少し前に答えを伝えた内容な気もするけど、この場合過去の事を知った上で、って意味かしら。
まぁ、答えは変わらないんだけど。
「イオンが過去にどういう目に遭って、どんなことをしたのかを知った上でもう一度言うわね。怖くないよ」
「ど、どうして?」
「だって……例えそんな過去があったんだとしても、わたしが知ってる明るくて騒々しくて心の優しいイオンが嘘になる訳じゃないでしょ? それとも色々思い出して心変わりしちゃった?」
「そ、そんなことは……ない、けど。で、でも……」
それでも信じきれないのか、それともただ不安が拭いきれないのか。どこか脅えてるようにイオンは視線を泳がせる。
「イオンの辛さとかは、わたしにはわからないし、人間を殺しちゃってるのは完全に悪くないとは言えないけど。話の限りじゃ、あなたが抱いた怒りは当然のものだと思う」
「……怒らないの? 女神様は、人間の味方なんでしょ……?」
「んー。まぁ人々を守護する者ではあるけど、わたしはそこまででも無いかな……」
人間の味方、と言われて思わずそう答える。
人の全部を肯定なんてできる気がしない。次元を渡り歩いていた頃に、わたしはちょっと人の悪意を目の当たりにし過ぎた。
もちろん人間全部がそんな奴らだなんて極端な事は思わないけど、正直そんな風に思っちゃうようなわたしがまた女神として上に立つ資格なんてあるのかな、と考えることはある。
だから、今のわたしが言えるのは──
「わたしは、自分が正しいと思った事をするだけよ。だからあなたの過去がどうであれわたしが今更罰することはしないし、非難も別にしないわ」
「…………」
「あ、でも「じゃあ今から人類滅ぼしに行くね」とか言われたら止めるわよ? 流石にね」
「……もう、何それ。そんな気軽な気持ちでそんな事言わないよ」
「ならそれで良いでしょ。それでも過去の事を悔いるってんなら、これから償って行けばいいんじゃない?」
漸く少しだけ笑みを浮かべたイオンを見てそう言い切る。わたしから言えるのはこれくらいね。結局その辺の自分自身の感情にケリをつけるのは自分自身なんだから。
「エスちゃんはこういう子だから」
「……あ、えと……あなたも、ボク達の事に巻き込んじゃって、ごめんなさい……」
「確かにわたしの身体を持ってかれたりしてるけど、最終的に巻き込まれようと決めたのはわたしで、わたしの自己満足でもあるから。気にしなくていいよ」
「で、でも、身体……」
「そういえば身体があっちの……ふーちゃん? に取られてるのはどーいうことなの」
申し訳無さそうに話すイオンとディーちゃんの二人を見て、ふと気になっていたことを聞いてみる。
「あー、えっとね……今こうやって話はできてるけど、わたし、残留思念みたいなものなの」
「残留思念? ってことは、ディーちゃん自体は」
「うん。あっちのふーちゃんさんが取り憑いてる身体の中で眠ってると思う」
「確かあっちのふーちゃんに『事が済んだら貴様に返す』みたいなこと言われてたよね」
「ってこと」
「えぇ……?」
しれっと聞かされてなかった事を告げられて困惑する。そういうのはもっと早く言うべきじゃ?
そもそもなんだって残留思念? だけがここに残されてたのかしら……。
「にしても事が済んだら、ねぇ。んじゃ、わたし達の目的はあっちのイオンとついでに七賢人とかの企みを阻止しつつ、こっちのイオンとあっちのイオンの因縁にケリをつける……って感じかしら」
「そうなる、かな。わたしも手伝いたいけどできそうにないし……あ、でも──」
「あら、それならワタシはそっちについていこうかしら?」
申し訳無さそうにするディーちゃんが何か思いついたように言いかけたところで、ぬっとそれは現れた。
「うひゃ!? い、いつの間に……」
「大事なお話は終わったみたいだったから普通に来ただけだって〜、そんな驚く事ー?」
「ついていくって、わたし達の方に?」
「ええ、ええ。そこの"わたし"はこの地に縛られた思念のカケラだけれど、"ワタシ"は違うもの。|イオン≪彼女≫の保護者に追い出されたカワイソウな被害者なのだわ」
いつの間にやらこっちに来てたミューとフーリ。
話によるとディーちゃんと違ってフーリは残留思念とかじゃないと、くすんくすんと泣き真似をしながらそう言った。
「カワイソウかどうかは置いといて、ついてこれるの?」
「まあ酷い。ええ、可能なのだわ。ワタシという存在を一時的にアナタに紐付ければ。所謂、憑依みたいなものかしら」
「途端に連れて行きたくなくなったんだけど」
そんなことできるのかと聞いてみれば、さも当然のように答えるフーリに思わずげんなりとしてしまう。
ただでさえミューがいるってのに……。
「まあまあ。役立つ事もあるかもなのよ? エナジーを少し分けて貰えたら一時的に実体化してお手伝いしたり。くすくす……まるで|幽波紋≪スタンド≫ね!」
「わたし奇妙な冒険とかしたくないんだけど……?」
結局嫌がってもここにいるディーちゃんは残滓らしいし、連れて行く以外に選択肢はないんだろうけど。
そんなわけで、イオン周りの目的をハッキリとさせた上で、わたしとイオン、ついでにフーリは元居た次元へと戻る為に出口らしい大穴へと向かう事に。
残滓とはいえ折角会えたディーちゃんを置いて行くのはちょっと心残りだけど、「
「……じゃ、さっさと戻ってもう一人のイオンとの問題をどうにかしましょうか。そんな簡単に済む問題じゃないとは思うけど」
「えっと……ご、ごめんね……?」
「謝る事じゃないって。……そういえば、ここから出たらあんたはどうなるのよ?」
「えー? 多分出た辺りでまた相方ちゃんと一緒になるんじゃない~?」
「あっそ、ならいいけど」
「ワタシも普段は見えなくてもちゃんとご一緒させてもらうのだわ。くすくす……宜しくね?」
「凄くヤだ……」
溜息を吐きながら帰りのメンバーを確認して、戻ったら色々説明もしなきゃかなぁ……なんて考えながら。
わたし達はディーちゃんに見送られて、次元の空白を後にした。
「うぇ……なんか気持ち悪い……」
「大丈夫? まぁ普通次元間移動なんて経験することないし当然か……」
大穴での移動で酔ったのか具合の悪そうなイオンの介抱しつつ、辺りを確認する。
「って、ここルウィーの教会じゃない。何でこんなとこに」
うーん……この次元で一番結びつきが強い場所だからとかかしら? まぁ別にいいか。
ふと振り返ってみれば今さっき通ってきたはずの大穴はどこにもなくて、一方通行だったのかな……とか何となく考えていると。
「あ────ー!!!」
急に大声が上がってびくりと身体が跳ねる。
何事かと声のした方を見ると、
見覚えのない。いや、なんか見た事あるような顔がこっちを指さして固まっていた。
知り合いにいたっけ……? とまだ具合の悪そうなイオンを横目に考え込んでいると、硬直から立ち直ったらしいそいつがキッとこっちを睨みつけながらずんずんと近寄ってきた。
「あんたね! 今までどこ行ってたのよ!」
長い髪を揺らしながらわたしを見下ろし(ちなみに今はいつも通りの子供身長の姿)、怒りを露わにする誰か。
「……誰?」
「はぁーーー!?」
妙に気安い態度に思わず呟くと、当然というかさらに怒りが増したようで。
さらに大声を上げたかと思うと、けれども怒りを抑えるように息を吐いて、そいつは言った。
「っ……そりゃ、
「……は?」
その言葉に今度はこっちが呆ける番になった。
今なんて言った? 10年??
……何となく見覚えのある顔……10年……
もしかしてこいつ……。
「……ラム?」
「思い出したようで結構ね!」
まさか、と思いながらその名前を呼べば、正解だと言わんばかりにふん、と鼻を鳴らして見下ろしてくる、すっかり成長したラム。
「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」
そして今度はわたしといつの間にか復活していたイオンの絶叫が、ルウィーの教会に響くのだった。