幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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ちょっと説明長めな回かもしれませぬ


#06 空白

 …………て…………きて…………

 

 

 

 誰かがわたしを呼んでいる気がする。

 でもまだ、眠たい……。

 

 

 

 ……お…………も……おき……てば……!! 

 

 

 

「んんぅ……何よもう……」

 

 それでも何度も呼びかけられて、渋々身体を起こす。

 ったくもー、誰よ人が気持ちよく寝てたのに。

 

「ああ、やっと起きた……」

「…………え?」

「え? じゃないよ、随分とぐっすり気持ちよさそうに寝てたね、()()()()()

 

 眠い目を擦り、そこに居た人物の顔を見て固まった。

 

 だって、そこにいて、わたしの事をそう呼ぶのなんて、一人しかいない。

 

「…………や」

「や……?」

 

 

 

「やっと会えた、ディーちゃぁぁんぎゅぶっ!?」

「うわああ! エスちゃん!? 大丈夫!?」

 

 

 感動の再会は、台無しになった。

 

「いっっったぁぁ……なんで避けるのよ!」

「避けてないよ……説明する前にいきなり飛び込んでくるエスちゃんが悪いよ?」

「説明って……避けてない?」

 

 顔を擦りながらディーちゃんの言った言葉に、今度は飛び込まずにディーちゃんの身体に手を突き出す。

 けれどわたしの手はディーちゃんに触れることはなく、すり抜けてしまう。

 

「……あのね、実態がないって言ってもいきなり胸元に手突っ込まれるのは精神的に嫌なんだけど……」

「いやいやいや、え? ディーちゃん、なんでこんな……え?」

 

 わたしが一人で混乱していると、ディーちゃんはため息を吐いて落ち着くようにと声をかけてくる。

 

「……とりあえず、ここがどこなのかからでいい?」

「あ、うん。……そういえばそうね、ここどこ?」

 

 ディーちゃんに言われて辺りを見回してみる。

 わたしが寝てたところはテントというかなんというか、簡易拠点~って感じの所で、

 周囲の風景はなんていうか、ギョウカイ墓場を彷彿とさせるような荒廃具合だった。

 

「うーん……ここに居るってことは、イオンちゃんの事は知ってるんだよね」

「ええまぁ。……え、なんでディーちゃんがイオンの事知ってるの?」

「まぁそうなるよね。ううん、どこから話すべきかな……前提で話すことが多いんだよね」

 

 こほん、と咳払いを一つして、ディーちゃんは話し始めた。

 

「まず、イオンちゃんの事だけど……大分特殊な子でね。人間ではあるんだけど、人とは違う異能力みたいなものを持ってるの」

「何も無いところからぽんとギター取り出したり、幽霊の友達とか音波で戦ったりするあれの事?」

「うん。あれは誰でも使える力とかじゃなくて、魂の力……ソウルエネルギーとでも言えばいいのかな、それを形にしたりしてるの。だから普通の人間よりも丈夫で戦う力も強いんだ」

「ふぅん。……女神でもないのに何年しても見た目が変わんないのも関係ある?」

「多分、関係あると思う」

 

 なるほどねぇ。となるとそのソウルエネルギーとかで老いない、とかなのかしら。

 

「……わたし、エスちゃんと一緒に変な穴に吸い込まれて、そこで離れ離れになったでしょ?」

「そうね。その後わたしは大体……まだラステイションが出来る前くらいにあの次元に落とされて、イオンと出会ったの」

「じゃあ、わたしはそれよりもっと前の時代に飛ばされた事になるかな」

「えっ」

 

 迷惑な穴だとは思ってたけど、次元だけじゃなく時空まで捻れてたって事? 

 

「あれって最初からわたしを狙ったものだったらしくて。途中ではじき出されたエスちゃんは時空を遡る前に放り出されたって感じ」

「別次元から狙われたって、迷惑極まりないわね……」

「本当にね……で、まぁその犯人にわたしは捕まって、フーリの力……デザイアソウルのエネルギーだから、デザイアエネルギーかな。を目当てに色々されたの」

「……どこのどいつよ、そんな事したのは」

「知らなくてもいいと思うよ、もういないし……ただ、エディンの遺産がどうのとか言ってたかな。で、わたしから抽出したデザイアエネルギーを使って、人体実験みたいな事をしてたんだって」

「……胸糞悪い話ね」

 

 わたしがそう言うと、ディーちゃんも俯きながら同意した。

 

「まぁ、結局その人もわたしも、事故に巻き込まれて。それで流れ着いた先がここ……次元の空白、とでも言うべき空間、かな」

「次元の空白……」

「事故で一緒に流れてきたデザイアエネルギーが、ここだとどんどん増えて広がっちゃってね。このテント周りは不思議とデザイアエネルギーが少なくてちょっとはマシなんだけど、それ以外のところは殆どデザイアエネルギーで満ちてるから、普通なら余り長居するのは良くない……んだけど……」

 

 言いながら、ディーちゃんの視線がわたしの後ろを見てるように少し横にズレた。

 

「はー、だからアタシがこうして出てこれるんだぁ?」

「うわぁびっくりした!」

 

 そして背後から聞こえてきた声に驚く。

 そこにいたのはもう一人のわたしとも言うべき存在……ミューだ。

 

「あんたね、いたならそう言いなさいよ!」

「えー。だってなんか大事そうな話してたじゃーん。アタシ、空気読んで黙ってたのに、ひっどーい」

「やっぱり……えっと、ミューちゃん? がそうなったのも、ここに満ちてるデザイアエネルギーの影響だと思う。外に出たら元に戻るとは思うけど」

 

 わたしとミューのやり取りに苦笑いを浮かべるディーちゃん。

 いやこいつ絶対面白がってわたしのこと驚かせようとして黙ってたでしょ。

 ……そうなると、ディーちゃんの方のもいるのかしら。

 

「こいつがいるってことは、ディーちゃんの方のもいるの?」

「あー……うん、いるけど……ほら、そこ」

 

 わたしがそう聞いてみれば、ディーちゃんはバツが悪そうにしながら指をさした先にそいつはいた。

 ただ、わたしみたいに簡易ベッドみたいなのに寝かされていて、起きる気配がなかったけれど。

 

「……すぐ横にいたのね」

「えぇー? 相方ちゃん、流石に注意力散漫じゃない? そんなんじゃすぐ不意打ち受けちゃうよー?」

「うっざ……ごほん。眠ってるの?」

「うん……実験の時に、わたしの力……というよりは、殆どフーリの力を奪われたりとかしたから、かなり衰弱してたみたいでずっと眠ってる。でもこれでもかなり落ち着いてきた方だよ」

 

 ふぅん……流石にそう言われると心配ね。

 一応こいつもディーちゃんの一部であるわけだし。

 

「さて、怒涛の説明パートで読者置いてけぼり感すごいけど、まだ聞きたいことはあるのよね。ディーちゃんなんでそんな幽霊みたいに透けちゃうの?」

 

 いっそ説明回と割り切ればいいよね、とか思いつつ更なる質問。

 透けてるって言っても見た目は普通で物理的干渉ができないだけって感じね、

 

「う、うん。確かにそうだけどハッキリ言うのもどうかと思う……えっと、これはちょっと、肉体の方を貸してるというか、借りられてるというか……」

「……あぁ、仮面付けて色々やってたのってそういう」

「え、仮面? なにそれ、聞くのが怖い……と、とにかく、フーリが目覚めたらわたしの意識も目覚めるんじゃないかな」

「何それ、根拠は?」

「なんとなく?」

「なんとなくかぁ」

 

 身体に関してはディーちゃんの方もなんかふわふわしている。うーん、戻らなかったらその時考える……? 

 

「大体のことはわかったわ。後はここから出る方法とイオンね、多分あの子も居るはずなんだけど」

「……そっか、出会ったんだね、二人は。あ、出口はすぐそこにあるよ」

「えぇ……随分あっさりと出れる……」

「なぁんだ。脱出自体は超簡単なんだね」

「ただ、イオンちゃんはわたしも見かけてないかな」

「……ちょっと待って。そもそもディーちゃんはどうしてイオンの事知ってるのよ。もう一人のも知ってるっぽいし」

 

 と、危うく聞きそびれる所だった部分に切り込んで見る。ごめんなさいね、もう少し話が長引くわ。

 

「あー、えっと……イオンちゃんね、前にもここに来たことがあって。それで少し面識があるんだ」

「前にも……?」

「少し前まで、わたしがここに来た原因の事故の影響でなのか、後から何人か迷い込んでくる人が居て、その内の一人……かな」

 

 そう語るディーちゃんの表情はどこか暗く、何かがあったんだろうというのは伺い知れた。

 

「……わたしが話すより、本人達に聞いたほうが良いかも」

「ええー、なにそれ。勿体ぶってー」

「あと、多分イオンちゃん、危ないところにいるかもだから、早く探しに行ったほうが良いかも」

 

 そう言ってディーちゃんは危険地帯について軽く説明を始める。

 

 曰く、迷い込んだ人を誘い込んで喰らってしまう花園だとか。

 曰く、人を生きたまま効率的なエネルギーに加工しようとする施設だとか。

 いや、殺意高いわね。

 

「それで、多分、エスちゃんが探してる方じゃないイオンちゃんが、イオンちゃんを誘い込むとしたら……あっちの方」

 

 でもディーちゃんが指さしたのは物騒な説明をした方ではなく、地下に続いていそうな階段の先だった。

 

「あそこは、入り込んだ人によって見える物が変わる所でね。要は精神的に参らせてそのまま取り込んじゃう、みたいな所。だと思う、多分」

「それはまた他に負けず劣らず……多分ってのは?」

「入ってすぐお姉ちゃんが何かに刺される場面に出くわしてすぐ戻ってきたからわたしもあんまり探検してなくてよくわかんない」

「えぇ……」

 

 ていうか探検って。聞いてみたら霊体? なのをいい事に他の場所も自分で探検して把握した情報らしい。

 でもまぁそんな場面に遭遇したら逃げるのも仕方ない、かな? 

 

「事故が起きてから、どうにも不安定になっちゃったみたいで、時々空白(ここ)に迷い込んでくる人がいたりするの」

「ふぅん? そういえば子供以外にも行方不明になった人がいるとか聞いた気がするわね。子供と違って情報がてんで無いから手付かずだったけど」

「それで、その人達が変な所に行かないようにとか、どうにかしようとはしたんだけど……わたしこんなだから物理的干渉できないし、言葉で色々言っても普通の人はデザイアエネルギーのせいでどんどん正気じゃなくなっちゃうから止められなくって……だから今はエスちゃん以外に人はいないけど、こういうテントとかは残ってるんだよ」

「ははぁ、なるほどね」

 

 なんでこんなとこにテントなんか、って思ったけどそういう人がいたってことね。

 ある程度の実力があれば近くの廃墟から物資の回収とかもできそうだし。

 

「んじゃ、とりあえずディーちゃんオススメの場所を当たってみようかしら」

「オススメはしてないけどね、どこも危ないところだし……」

「戦闘は全部アタシに任せちゃってもいーよぉ? ここだとなんかすっごく調子いいしぃ♪」

「自分でも戦えるっての……レムがうんともすんとも言わないのが気になるけど杖の力がなくなったとかではなさそうだし」

 

 軽く腕を回したりしながら置いてあった杖ことレムを手に取る。

 うーん……ダメね、持っても全然反応なし。この辺のデザイアエナジーが悪さでもしてんのかしら? 

 まぁ杖としてはしっかり使えるだけマシかな……。

 

 

 そんなわけでミューを連れてディーちゃんの言った場所へと向かった訳だけど。

 

「パッと見は地下鉄駅とかみたいな場所だけど、確かに出てくるモンスターがなんか見覚えあるような気がするわね」

「あからさまに紫色した剣持ってるやつとか居たけど見た目だけで雑魚ばっか。つまんなーい」

 

 確かになんか見覚えあるような剣振り回す影みたいな奴がいたり、電光掲示板のようなものにあの日の光景が写ってたり、とても趣味の悪い所だ。

 とは言えそんなの見せられても多少不快なくらいだ。本来なら精神不安定な時に見せられて余計に狂っていくみたいな構造なんだろうけど。

 

『アクククク!』

「吹き飛べ」

「叩き斬るッ!」

 

 ただ今聞いてもやっぱり不快なものもある訳で。

 どこかでみたロリコン野郎みたいな笑い声を上げる巨体にすかさず炎弾を放ち爆撃すると、続けざまにミューが斬り伏せてあっという間にソレは消滅していった。

 

「なんか思わずぶった斬っちゃったけど、別にいいよね?」

「全く問題無し。偽物だけあって脆いしさっさと消すに限るわ、あんなの」

 

 はぁ、と溜め息を吐きながら進んでいけば、今度は違うものが。

 

『このっ、化け物がッ!!』

 

 それは人の形をしていて、叫びながら手にしたライフルをこちらに向けて乱射してくる。

 右手をかざして障壁で弾を防ぎながら、わたしは躊躇無く銃を撃ってくるそれに爆破魔法を放つ。

 

『ひっ、ぎゃぁあああ!!』

 

 悲鳴を上げて爆発する人間の影。躊躇いが無いのはここの仕様をバラされ済なのもあるけど、単純にあまり良いものじゃない記憶を想起させられた、というのもあった。

 

「いたねぇこんなの。化け物だなんて失礼しちゃう」

「……そうね」

「そんな気にすることないよー。なんなら他人を食い物にしてたアイツらの方が、よっぽど化け物だってー」

 

 慰めの言葉なのかミューはそう言うけれど、わたしが気にしてるのは化け物呼ばわりれた事に関してじゃない。

 

「だとしても、アイツらが悪人だったとしても。わたしは人を殺したんだから、気にするわよ」

「深く考えすぎだと思うけどなー。ま、そーいう事に何も感じないよりはマシなんじゃなーい? アタシにはよくわかんないけど」

 

 他に残った誰かの影をズバズバと事務的に斬り裂きながら、いつも通りの様子でミューは言う。

 

 いや、ミューがこう言ってるということは、わたしも心のどこかでそう考えてるって事になる訳だけど。

 

「どっちにしろここに居る奴は幻みたいなもんだし、好き放題していいって事でしょ? なので遠慮なくやっちゃいまーす♪」

 

 言いながら剣を二本に、さらに鋭い蹴り技まで駆使して蹴散らしていくミュー。

 はぁ、まぁ過ぎた事をうだうだ言ってても今更か。忘れないようにはしつつ、気負うこともやめにしよう。

 

 

 

 そんな調子で廃地下駅みたいなところを奥へと進んでいると、所々で表示されていた映像に見慣れないものがまじり始めた。

 自分の知ってる場面なら何となくわかるけど、知らないと何が映ってるのかいまいちわからないわね、これ。

 

「……ああ、うああ、もうやめて!」

「近い……この先か」

 

 聞こえてきた声は彼女の物だ。

 邪魔な影を蹴散らしながら声のした方へと急ぐ。

 

「イオン!」

「……ぁ……エスト、ちゃん?」

 

 そうして雑魚を切り抜けた先に、イオンは居た。

 隅の方で身体を小さくするように蹲っている。

 

「こ、来ないで!」

 

 けれど漸く見つけた彼女から浴びせられたのは、拒絶だった。

 

「何言ってるのよ、それよりこんなとこにいないでさっさと帰るわよ」

「来ないでってば!」

 

 それでもお構い無しに近付くと、イオンは両手で抱えたギターを軽く鳴す。

 その音に応じるように、幽霊の腕がわたしに殴りかかってきた。イオンの普段の戦いで見せる攻撃のひとつだ。

 

 迫る拳を身体を逸らして躱しつつ、ゆっくり距離を詰めていく。

 

「どうしたの。わたし、何か怒らせる事した?」

「ち、違う、けど……でも来ないでって言ってるの……! ほっといてよ!」

「そんなこと言われたって、こんなとこに置いてけるわけないでしょ」

「うぅ……!」

 

 どうしたんだろう、何にこんな怯えてるのか。

 何があったのかはわからないけど、ただでさえ危険なこの場所に置いていく訳にもいかない。

 

「どうせエストちゃんも、本当はボクの事気味悪がってるんでしょ……!? 皆がそうだったみたいに……!」

「気味悪かってるって、何でそうなるのよ?」

「だ、だって……ボクは友達、色んな友達を見たり話したりできるけど、でもそれはエストちゃん達には見えないもので……」

「ああ、そういうこと」

 

 何をそんなに怖がってるんだろうと思えば、そんなことか。

 思わずはぁ、とため息を零した。

 

「あのねイオン。確かに初めて会った時は驚いたけど、そんなことであんたの事を気味悪がったりなんかしないわよ」

「っ……で、でも」

「でももストも無いの。何年一緒に過ごしてると思ってるのよ。あんたのその能力に助けられることはあっても、そんな風に思う事なんて一度も無いわ!」

「ひっ……」

 

 大声を出したせいかイオンが怯えるように声を漏らした。ちょっと興奮しちゃったわね、反省反省。

 

「……とにかく、何を思ってそんな風に考えたのかは知らないけど、大切に思ってなきゃこうして助けにも来ないって事! だからほら、こんなとこに居ないでさっさと帰るわよ!」

「…………」

 

 なんか気恥しい事言った気がするけど構わずに、わたしはイオンへと手を差し伸べる。

 そんなわたしの手をイオンはじっと見つめて、恐る恐る手を伸ばしてるのを見てすかさずその手を掴んで立ち上がらせた。

 

「わ、わっ……」

「ほら、しゃんとして! こんな趣味悪い所さっさと抜けるわよ!」

「……う、うん」

「んふふー、こういうのを青春って言うんだっけぇ?」

「アンタはニヤニヤしてないで帰りもちゃんとしなさいよね!」

「はいはーい。んもー、自分使いが荒いんだから」

 

 イオンの手を引きながら、黒い影を蹴散らして来た道を戻る。

 時々レア枠のノリで湧いてくる変態デカぬいぐるみの劣化品みたいなのを見る度にイラっとしたりはしたけれど、とりあえずの目標は達成だ。

 どうして塞ぎ込んでたのかは、戻ってから改めて聞くことにする。

 

 

「……あっ、あいつまた湧いてる! 塵も残さないんだから!」

「え、えぇ!? ちょ、エストちゃん置いていかないで〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして」

 

 廃地下駅を戻っていく二人を、離れた場所から見据える少女。

 その視線には憎悪に満ちていた。

 

「どうして、キミばかり……なんで、そんなの……」

「ズルい、って?」

「!?」

 

 零した恨み言は完全なる独り言。

 だというのに反応してきた声に、少女ははっとして振り返った。

 

「んふふー、相方ちゃん達からはバッチリ隠れられてるけど、アタシには無駄なんだよねぇ。アタシだけにはわかるみたいなー?」

「っ……」

「でもまー別にチクったりはしないし、そこは安心してもいーよ? ()()()()()♪」

 

 ニヤニヤと笑いながら、けれども何故か友好的に接してくる声の主に、少女は戸惑いながらも警戒の眼差しを向ける。

 

「……ならなんの用?」

「いや、何も? 見かけたから来てみただけだしー」

「じゃあ早くあっち行ってよ……」

「えー、どこで何しようとアタシの勝手でしょー?」

「む、ぐぬぬ……」

 

 そして既に相手する事に辟易とし始めていた。

「どうしてボクかこんな目に……」などと恨みを募らせていると、不意に真面目な表情で彼女は問いかけてきた。

 

「いいの? 逃がしても。身体の主導権が欲しかったとかそういうんじゃなくて?」

「…………キミは、助けに来た側でしょ」

「それはそうだけど、道中のザコはここ特有の現象だし、あなたは止めに行かないのかなーって」

「……別に、最低限の目的は果たしたし。思い出したなら、必ず……」

「ふぅん、そっか」

 

 少女が呟くようにそう零すと彼女は興味深そうに、はたまたどうでも良さそうに背を向けた。

 

「ま。相手も自分だからって思ったようになるとは限らないけど」

 

 それだけ言い残して、彼女は「じゃね〜」と去っていったのか、気配が消えていく。

 

 

 残された少女は先程までの声を気にすることも無く、自分自身とも呼べるもう1人が去っていった方角をただじっと見つめていた。


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