幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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スランプやらなにやらで止めていたら前回更新から一年以上過ぎてた件。
どうにかこうにかできたので、一先ず投稿です。申し訳ない。


#05 対面

 考えることが沢山あるものの、あの仮面をつけたディールちゃんが不法侵入してきて以降ルウィーでは特に何も起こることもなく。

 わたしは普段通り女神の仕事をこなし続けていた。

 

 あっ、お姉ちゃんの名誉の為に言っておくとお姉ちゃんもちゃんと仕事はしているわよ? プラネテューヌに遊びに行く頻度は高いけど。

 

「ふんふふんふんふーんっ♪」

「……イオン、歩きながらギター弾くのは止めて。危ないから」

「ふふんふんふーんふんふふんっ♪」

「聞いちゃいないわ」

 

 まぁ魔力……かは知らないけど、力を通して弾いてないからか大きな音は出てないし、ほっといても良いか。

 それよりもええと、この後の予定は──

 

「ん……イオン、ストップよ」

「ふんふ、ん? どうしたの? エストちゃん」

「……」

 

 何か視線を感じて、イオンを立ち止まらせつつ辺りを観察。こういう時は大抵()()()の仕掛けが近くにあるのよね。

 

 注意を払いながら前へと進む……その瞬間。

 頭上から白い何かが降ってきた。

 

「わあっ!? な、何!?」

「よしっ! かかったわね!」

 

 罠の作動に驚くイオンと、仕掛けが決まったと思ったらしい犯人が飛び出てくる。

 勿論その犯人って言うのは、ラムだ。

 

「ふっふーん。ラムちゃんとくせーのねばねばトラップよ! さーってどうしてやろうかしら……って、あれ?」

「ほい」

「へっ? わぷぅっ!?」

 

 罠にかかったふりをして魔法で姿を消していたわたしは、罠の近くに様子を見に来たラムの背後からそっと背を押してやる。

 不意を突かれたラムはそのまま自らの罠へと飛び込んで行った。

 

「な、なんでぇ……ぐむむむ、ねばねば、取れないぃ~!!」

「ふーん、顔面着地はちゃんと避けたのね。やるじゃない、すごいすごい」

「バカにっ、してぇぇ……! うぐううう! とーれーなーいーいぃぃ!!」

 

 と、まぁ、こんな感じで最近は何処から仕入れて来るのか、ラムがイタズラみたいに罠を仕掛けてくるようになったのだけど。

 ちなみに顔面から突っ込んでたらちゃんとすぐ助けるよ、流石に窒息はシャレになんないもん。

 

「わぁ……なにこれ、トリモチ?」

「懐かしいわね。わたしも昔は色々イタズラを仕込んだりしてたわ」

「これイタズラで済んでるー?」

 

 自分が似たような事をやってたからこそ、こういうことするようになったとなれば仕掛けられてそうな場所なんかは直感でわかるものなのよね。何か横でイオンに少し引かれてるような気がするけど。

 

「ああ、いたいた……って何やってるのよ、あなた達……」

「あっ、ブランさんだ~」

 

 

 とか何とかやってると、今度は呆れた様子のお姉ちゃんが。

 

「なんて言えばいいかなー。……カウンター?」

「? よく分からないけど、後片付けはちゃんとするのよ」

「だってさ、主犯」

「そんなことより助けなさいよぉー!!」

 

 

 

 


 

 

 

 さて、気を取り直して。

 お姉ちゃんがわたし達を探しに来てて、何か話したいことがあった様子だったんだよね。

 で、話を聞いてみたところ……

 

「……え、ピーシェちゃんの親が来て、ピーシェちゃん引き取られていっちゃったの?」

「えぇ……ついでに、ピーシェとネプテューヌが喧嘩別れしたわ」

「うわー……」

 

 喧嘩別れとか、絶対後で後悔する奴じゃん。なんだってそんなことになったんだか。

 

「それで、後になってその時の事を思い返してみると、どうにも腑に落ちない部分があるのよね……」

「腑に落ちないって? 聞いた感じじゃ確かにその引き取り手の人、大分自分勝手で図々しい感じだけど」

「いくらケーザイ的に厳しいからって、そんなの預けるって言わないわよねー」

「ひどい、と思う」

 

 ラムとロムちゃんも嫌悪感を隠さずに言ってるけど、まあ言っちゃえばクズよね。他の国で一旦やり直すために教会の前に子供を捨てていくなんて。

 本人は預けたって言ってるらしいけど、どう考えたって捨ててるとしか言えないし。

 

「それについては同意見。ただ、ピーシェの反応が少しおかしかったように感じたのよ」

「おかしかったって?」

「なんていえばいいのかしら……その引き取りに来た男の事を妄信している、とでも言えばいいのかしら? この人は本当のパパだって言い張っていたし、その男に疑念を向けたら怒鳴るくらいに反発してきたわ」

「ふぅん……確かに自分を捨てた相手に対して信用しすぎって感はあるけど」

 

 まぁ、確かに急に出て来たその男が怪しくないかって言われたらかなり怪しいけど……実際見てないから判断に困る。

 

「どうもきな臭い感じがするのよね……私の思い過ごしだといいんだけれど」

「んー……イストワールさんからも話を聞いておくべきかな。丁度仕事もそんなに無いし、次はわたしも一緒にプラネテューヌに行くわ」

 

 ちょっと前まではごたついてたけど、今はすっかり平和なことだしね。

 水面下で七賢人が何かしら企んではいそうだけど。

 

「……あなたには苦労をかけるわね」

「職員が優秀なのよ、わたしはそこまででもないって」

「謙遜して……候補生と自称しているけれど、守護女神としてしっかりしているんじゃないかしら?」

「えっ……そ、そうかな」

 

 流石にそこまで褒められるなんて思ってもみてなくて、何だか照れるな……。

 

「……ふふ、そういう顔もできるのね」

「う、うるさいし! で、今日の予定は? いつも通りわたしは留守番?」

 

 ぱたぱたと手で顔を仰ぎながら、話題を変えようと今日の事を聞いてみる。

 はぁ、もう。顔あっつい。

 

「そうね……今日は一緒に行く?」

「うん? 一緒にって……プラネテューヌに?」

「えぇ。ネプギアがあなたに会いたがっていたし」

「ふぅん……」

 

 そういえばここ最近はずっとルウィーにいたから全然会ってないわね。別に寂しいとかそんなんじゃないけど。

 

「でもいいの? ルウィーを空けちゃっても」

「あら。ルウィーの職員は有能……なんでしょう?」

「む……そうね。ならいいのかな」

 

 っていうかよく考えたらそもそもラステイションとリーンボックスなんかは職員に任せて普通にプラネテューヌ通ってたわ。緊急の要件があったら連絡入るだろうし。

 ……あ、でもちょっと調べたいことがあるのよね。

 

「久々にネプギアに会いに行くのもいいんだけど、ちょっと調べたい事があるんだ。だから後から追う感じでもいい?」

「それは構わないけれど……移動手段はどうするの? あの子も連れてくるのなら何か必要でしょ」

「普通に飛んで行くわ。イオンって幽霊の友達に乗せてもらえば一応飛べるのよ」

「……結構多彩なのね、あの子」

 

 一緒に色んな所回ったりしてる過程で、しれっと幽霊狼の背に乗って飛んでた時はびっくりしたものよ。流石に長距離飛行となると幽霊の方が疲れるみたいで休憩必要だけど。

 ギターでの音波攻撃と沢山の幽霊狼での攻撃が合わさって、結構な実力者なのよね、ああ見えて。

 

「そういう訳だから、調べものが終わったらわたし達もプラネテューヌに行くわ」

「えぇ。あっちにもそう伝えておくわね」

 

 って訳で、お姉ちゃんは一足先にプラネテューヌへと向かっていった。

 

 で、わたしが気にしてる調べものだけど、

 この前の仮面つけた奴……わたしの予想だとディーちゃんらしき奴が落としてったのかわからないけど、あの後部屋に落ちてたものに関して。

 どこから見ても真っ黒というか、まるで光を呑み込むような闇色というか……何なのかしら、この黒水晶。

 

『それ、黒のおねーさんとこに行く途中でも拾ってなかったぁ?』

「ああ、そういえばあの時にも拾ったわね」

 

 ………………って。

 

「……どうしたのよ急に、今戦闘中じゃないけど」

『まるでひとを戦闘狂みたいにー。ひっどーい』

「事実でしょーが。っていうか質問に答えなさいよ」

 

 いつもは戦闘の時とか、気持ちが昂ったりしてる時くらいにしか聞こえてこない声。

 内なるわたしとでも言えばいいのか、ミューの声が聞こえてきていた。

 

『しらなぁい。ただ、それを持ってたらなんか目が覚めたっていうかぁ』

「これ? ……この水晶の感じ、何となく覚えがある気がしてたけど、あんたが起きてくるって事はやっぱそういう事なのかな」

 

 実を言うと、前々からこの黒水晶からは身に覚えのある感覚がしていた。

 シェアエナジーとも、ネガティブエナジーとも違うエネルギー……デザイアエナジー。

 名前の通り、欲望に関するエネルギーであり、ディーちゃんのフーリやわたしのミューの力の源

 ……のような物だ。

 

 なにせフーリとミューは紆余曲折あって自我を持ったわたし達の一面のようなもので、いつだったかフーリがカッコつけて「デザイアソウル」だとか言ってた気がする。

 そんなミューだから、デザイアエナジーを持つこの水晶を手にしたことで、こうやって会話出来るくらい表の方に出てきてしまった、んだろう。多分。

 

『んー。なるほどなるほど? これ、なにかに使えそうかも』

「何かって何よ」

『もちろん戦いに生かせるコ・ト☆』

「……そんな事だろうと思ったわ。ホントそういうのばっかよねあんた」

『当たり前じゃん? アタシの存在を刻みつけるための手段だもん』

 

 ミューがこんな感じなのは今に始まったことじゃない。というかこれでも大人しくなってる方なのよね。ディーちゃんと再会する前は人の身体使って暴れ回ってくれちゃったりしてたし。

 

 わたしの持つ欲望は「自己顕示」らしくて。だからこそ、そのデザイアソウルであるミューは戦いで自分の存在を残そうとしてる、とかなんとか。グリモがそんな風に言ってた。

 

 とりあえず、この黒水晶は一応持ってた方が良さそうね。何かに使えるらしいし、手がかりになるかは……微妙だけど。

 

『あ、後なんかそれ、フーリ(アイツ)の気配がするかも』

「それを先に言いなさいよ……」

 

 となるとあれはやっぱりディーちゃん? でも何であんな仮面つけて逃げたりなんて……。

 ううー、余計に謎が増えただけじゃないのよ、もう! 

 

 

 

 その後1つ目の黒水晶を拾った時に聞こえた記憶みたいなのがまた聞こえてこないか色々試すも全部空振りに終わって。

 何の成果も得られなかったままプラネテューヌへとやってきていた。

 

「あっ、ルウィーの幼女女神!」

「人の顔見ていきなり何なのよアンタ」

 

 で、お姉ちゃん達に合流しようと教会に行くと、知らない奴にいきなりそんなことを言われる。

 ……いや、よく見たら知ってる顔ね、話したことはないけど。

 

「で、他人の空似じゃなきゃアンタって七賢人のアブネスよね。なんでここに居るのよ」

「そ、それは……」

 

 女神と敵対してるはずの七賢人のメンバーである彼女がなぜプラネテューヌの教会にに居るのかと聞いてみれば、七賢人が自分に隠れて子供の誘拐に手を染めてる事を知ったらしく、そんなものは幼女博愛主義な彼女からすればそれは許しがたい事であり七賢人から離脱して誘拐された子供達を助け出そうと思ったものの、戦いはからっきしな自分ではどうすることもできず、他に頼る宛てもなく女神達に助けを求めに来た……ということらしい。

 

 うーん、本当なら敵だった奴の言葉を信用なんてできないんだけど、コイツの場合子供関連は割と大真面目っぽいのよね。孤児院への支援とかもやってたみたいだし。

 

「となると、お姉ちゃん達は出かけたの?」

「はい……運悪く入れ違いになってしまったようで……( ´・ω・`)」

「わたしとこんぱはこのようじょのみはりをまかされたわ」

「しっかりみはってるですぅ」

「だから幼女って言うなー!」

 

 お姉ちゃん達は丁度わたし達が来る少し前に、アブネスの言う子供が囚われている場所へと出発してしまったらしく、小さいイストワールさんが申し訳なさそうにしていた。

 ううん、タイミングの悪い。

 

「だいじょーぶー?」

「だいじょばない……うう、何であんた達はあんな高いとこ飛んで平気な顔してられんのよ……」

「おそらこわい……(ぶるぶる)」

 

 難しい話は苦手なイオン達はわたしに任せて後ろで休んでいる。

 ちなみにわたしとイオンの他にラムとロムちゃんも連れてきていた。一応この2人って元襲撃者なわけだし、そこそこやるから監視を兼ねてって感じ。

 

「姉様、どうしますか?」

「んー、まぁこのまま帰るのもあれだし、追いかけるしかないわよね」

 

 レムの問いかけにそう答える。合流したところで過剰戦力感あるけど、一応ね。

 

「ひっ……」

「ま、また飛ぶの!?」

「んー……残念な事にその場所がルウィー方面だから、飛んでった方が速いし……」

「「ひぇぇ……」」

 

 余程イオンのお友達に乗っての飛行が怖かったのかわたしの言葉に顔を青くする双子。

 だってしょうがないじゃない、飛ぶ方が速いんだもん。

 

 

 

「……あいつの後ろに居た子、あの子に似てた……? どういうことかしら……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そんなわけで、わたし達一行はイストワールさんらに別れを告げて戻るように再び空へ。

 二人は相変わらずひーひー騒いでいたけど、こればっかりはもう慣れてもらうしかないわよね。

 

 ルウィーからプラネテューヌまで来た時の半分くらいの時間で件の地に到着した。

 一見すると何もないように見えるが、アブネスに言われた場所を調べてみると小さい洞穴があり、そこへ進むと段々と道が広くなり機械的な内装……つまりダンジョンのようになっている、という構造だ。

 

「コソコソすんのだけは本当に一流よね、七賢人って」

「こんなところに子供を閉じ込めるなんて……ひどいよ」

 

 モンスターもうろついてて危険な場所に子供を連れてきていることに、イオンが悲しそうに呟く。

 

「っていうかロムちゃん達はこういうところ知ってたりしないの?」

「うーん……よくわかんない……」

「わたし達がいたとこって言っても、外なんて出た事なかったし、ルウィーに来た時も眠らされて町中で起こされてーって感じだったし、ホントに知らないわ」

 

 ふとどこぞからの刺客だった二人に何気なく聞いてみるものの、周到に隠されているらしく二人もよくわからないとのこと。

 二人がいたところと七賢人が繋がってるのかどうかわからないけど面倒ね、まったく。

 

「……今更だけど、元居た場所に未練とかないの?」

「未練? べっつにー。一応育ててもらってたのと、それ以外できることがなかったってだけだし。どういう訳かあんたは結構良くしてくれてるってのもまぁあるけど、わたしはロムちゃんが今幸せならそれでいいもの」

「えっと、わたしも……ラムちゃんが今幸せなら、それで……」

「……そ。なら、いいけど」

 

 見知った顔──片方は自分と同じ顔だけど──だったから半ば強引に引き込んだ感じだったけれど、2人が現状に不満が無さそうなのを知って、少しだけ安心していた。

 

 

 子供が捕まってるとはいえダンジョンはダンジョン、当然邪魔なモンスターもいるわけで。

 先行してるお姉ちゃん達がいるとはいえあまり目立つのもどうかと思って、戦闘はわたしとロムちゃん、ラムで極力音を抑えて進んでいく。イオンは戦闘不参加になる(不満そうだったけど)。

 

『姉様。この先に複数の反応です』

「ん、追い付いたかな」

 

 そうしてダンジョンを進んでいけば、レムの探知に反応が。

 さらに進むと戦闘音も聞こえて来て、音を頼りに先へと進んでいくと、

 

 漸くモンスター以外の人影が見えて来た。

 

「きゅーいー!」

「どけっ、どきやがれ、ばかやろー!」

「ぐふふふ……」

 

 ただ、どうも様子がおかしい。

 あっちに居るのはいつぞやのアクダイジーンに……なんか見てるだけで気分悪くなるモンスター数匹。

 対してお姉ちゃん達は特に怪我もなさそうなのに、あの男……というより、モンスターに気圧されてる? いや、攻撃を渋ってる? 

 

 ……よくわからないけど、こういうときは派手じゃない奴で行くべきね。

 

「レム、魔力回して」

『はいです』

 

 レムを構えて、魔力を高めながら地を蹴る。

 

「風よ、縛れ!」

「「「きゅいいー!?」」」

「っ! って、エスト!?」

「どういう状況?」

 

 ひとまずお姉ちゃん達が何故か攻撃しようとしてないモンスターを魔法の風で包み動きを封じる。

 にしてもこいつら何なのかしら、見てると鳥肌が立つというか、生理的嫌悪感がこみあげてくるというか……。

 

「だ、ダメ! エストちゃん! その子たちを攻撃しちゃ!」

「は? なんでよ」

「実は……」

 

 助けに来たというのに何故か攻撃を止めるように言われて、気分の悪さもあって感じ悪くなっちゃったけど、そんなわたしにネプギアが状況の説明をしてくれる。

 

 どうやらこのモンスター達はアブネスの言ってた子供達で、七賢人達による女神メモリーの強制使用からの不適合でこんな姿になってしまった子供達の成れの果てらしい。

 となると、この原因不明の不快感は女神メモリー関連ってとこかしら。細かい理由はわからないけど、今はどうでもいいか。

 

「なるほどね。で、それが攻撃しちゃダメな理由になるの?」

「あ、あなたねぇ、話聞いてたの!?」

「そうじゃそうじゃ! 貴様は鬼か! それとも悪魔か!?」

「女神だっつの。ノワールさんが怒るのはともかくとして、アンタにわたし達を非難する権利があると思ってんの?」

 

 何故か一緒になって非難の目を向けてくるアクダイジーンを睨みつける。

 

「当たり前じゃろう! 貴様は助けるべき子供達をこれ以上傷付けるというのか!」

「ハッ! 自分のやったことを棚に上げて言うじゃない。無理矢理女神メモリーを使わせてバケモノに変えておいて父親面? 冗談も程々にしときなさいよ、おじさん」

「そうだそうだ~。エストちゃん、もっと言っちゃえ~! あたしも手伝うよ~♪」

「ぷるるんまで乱入したら収集つかなくなるからちょっと大人しくしててー!」

 

 左手の杖でモンスターの拘束を維持したまま、右手にクナイを持ってアクダイジーンへと歩み寄る。

 わたしからの殺意に今更気付いたのか、アクダイジーンは顔を青くして後ずさった。

 

「なんにせよ、さ。アンタはルウィーの事でも散々借りがあるわけだし、とりあえずアンタをここで始末してからあの子らの戻し方は考える。それでいいと思わない?」

「ひ、ひぃ!!」

 

 後ろから色々聞こえる声を無視しながら、クナイをアクダイジーンへと投げ放とうとした。

 

 そんな時だった。

 

「エストちゃん! 上!!!」

「ッ!!」

 

 背後からイオンの叫び声と、上からの殺気にその場から飛び退く。

 次の瞬間、わたしの立っていた場所に轟音を立てて何かが降ってきた。

 

「外したか」

「アンタ、仮面の……!」

 

 そしてそこに立っていたのは……いつぞやの仮面の侵入者だった。

 

「今度は何ー!? 怒涛の展開にネプ子さんついていけないよー!」

「お、おお! お主は! 儂を助けに来てくれたのか!?」

「貴様なぞどうでもいい。私はあの子の目的の為に来ただけだ」

 

 あの子……? 

 それにやっぱりこの感じ、ディーちゃん……? 

 

「エストちゃん!」

「待って……!」

「何よこれ、あいつに構ってるヒマ無いわ! まだ来る!」

「え? きゃあっ!!」

 

 武器を構えながら仮面の奴を観察していると、後ろの方から再び轟音。

 今度は何だと横目で確認して、息を呑んだ。

 

「くっ! こいつら、なんなんだ!?」

「知らないわよ! 無駄口叩いてる暇があったら応戦しなさい!」

「少なくとも、かなりの手練れですわね……!」

 

 お姉ちゃん達が黒い影みたいなものに襲われていた。

 それは人の姿をしていて、大きな剣を片手で振るう影、槍を持った影、大鎌を持った影、大砲の様なものを振り回している影の4体が、別々にお姉ちゃんやネプテューヌちゃん達を襲っていた。

 

「余所見している暇があるのか」

「ッ! くぅっ!!」

 

 聞こえて来た声にハッとして、迫って来ていた一撃を杖で防ぐ。

 ガァン! と金属音を立てて受け止めたそれは、黒と紫で彩られた見るからに禍々しい大太刀。

 

(一撃が、重い……!)

 

 太刀自体の重量もあるんだろうけど、受け止めた一撃は手が痺れそうなほどに重かった。

 杖に回した魔力を爆発させて弾き返し、距離を取る。

 

 ホントになんなのよ、急に! 

 

「……おじさん」

「うおぉおお!?」

 

 仮面の奴を見据えて警戒をMAXにしていると、アクダイジーンの方にも何者かが現れていた。

 

「お、驚かすでないわい! 寿命が縮まったわ……」

「……戻って来てって、伝言」

「む……女神達の慌てふためく顔を見れただけでも良しとするか。しかしお主、こんな事できたのじゃな……」

「……良いから早く戻りなよ」

「相変わらず不愛想じゃのう……お前達、帰るぞ!」

 

 話し声から暗い印象を受けるその女の子の言葉を受けて、アクダイジーンはモンスターを引き連れて撤収しようとする。

 

「逃がすとでも……チッ! 邪魔すんな!」

「うーん、この人達、強いねぇ~」

「呑気! ったぁ! いや本当に強いよこの黒いの!」

 

 お姉ちゃん達は逃がすものかとアクダイジーンを追いかけようとするものの、影達に阻まれてそれどころじゃない様子。

 当然それはわたしにも当てはまることで。

 

「く、このっ!」

「……ふん」

 

 牽制にクナイを投げても魔法を放っても余裕たっぷりに斬り払われるし、接近しても防がれたり反撃が飛んでくる。そもそも大太刀なんて獲物の癖に片手でも両手でも軽々振り回すものだから防ぐので手一杯。

 

「ぐっ……片翼の天使か何かかっての!」

『あれ程太刀は長くないですけど』

「言ってる場合じゃないでしょ!」

 

 と、わたしは目の前の仮面との戦いに集中していた為に、すぐ近くで起きていた事に気付くのが遅れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「え……? き、キミは……」

 

 皆がいきなり襲ってきた奴らと戦っている中、ボクの目の前には一人の女の子が、ボクの事を睨みつけるようにして立っていた。

 

「な、何よコイツ、知り合い? っていうか……」

「見た目は少し、違うけど……イオンちゃんそっくり」

 

 一緒に来ていたラムちゃんとロムちゃんが言った通り。

 目の前の子は、ボクに似ていた。

 

 似てるというか、ボクと同じような……そんな妙な感覚。

 

「……キミは、どうしてそこに居るの?」

「え……?」

 

 女の子は恨みが篭ったような言葉で話し始める。

 

「人間も、女神も……本当に信用出来ると思っているの?」

「そんなの、当たり前だよ! 皆いい人だもん!」

「……わかってない。キミはわかってない……いや、()()()()()()()()

「な、何? 何なの、キミは!」

 

 どうしてか目の前の子がとても怖いものに見えて、後退る。

 ……ううん、ホントはわかってる。だってこの子は──

 

 

 

 

 

「まだわからないの? ボクは、キミだよ」

 

 ボク自身だから。

 

「え、え? どーゆーこと??」

「もう一人の、イオンちゃん…?」

 

ラムちゃんとロムちゃんが困惑したようにボクと女の子を交互に見る。

そんな二人とは違って、ボクは彼女の目に疑問を抱いていた。

 

「……どうして、キミは……そんなにも悲しそうな目をしているの?」

「どうして? おかしなことを聞くんだね。ああ、キミは記憶が無いんだっけ。呑気なものだよね」

「え…?」

 

ボクの質問に答える訳でもなく、彼女の悲しそうな目は恨みがこもったような目に変わり、ボクを睨みつけた。

 

「何も知らないまま、人間や女神達に良いように利用されて。また裏切られるだけなのに……」

「な、何言ってるの? 裏切られるとか、そんなの無いよ!」

「…………」

 

向けられる敵意。

すると彼女はボクと同じように虚空からギターを取り出して、それを見てボクも同じようにギターを手にして構える。

 

「……邪魔」

「え? きゃあっ!」

「ラムちゃ、あうう!」

「あっ、ラムちゃん、ロムちゃん!」

 

けれど彼女が軽く弦を鳴らすと、狼の頭が二人を弾き飛ばした。

今の、なんで……お友達!?

攻撃の仕方に気を取られてる間に、ボクも狼の頭に咥えるように噛みつかれてしまった。

 

「あぐっ!」

「言ったでしょ、ボクはキミだって。……キミと一緒にいたお友達とは別の、ボクと一緒にいてくれたお友達だけど」

「う、ぐうぅぅ…!!」

 

噛み砕かれる事はなかったけど、強い力で咥えられて身体がみしみしと悲鳴を上げる。

痛みを耐えながら抜け出そうにも、びくともしなかった。

 

 

 

「……忘れてるなら、思い出させてあげる。見せてあげる。……この世界に、カミサマなんていないってこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、イオン!? っぐ!」

 

イオンのうめき声に反応して動きが止まってしまい、それでもどうにか仮面の少女からの一撃を防ぐも弾き飛ばされ、地面に横たわるエスト。

そんなエストを見ることも無く、仮面の少女はもう一人のイオンの元へと向かった。

 

「う、ぐ……ま、て…っ!」

『あ、姉様! 無理はダメです!』

 

主の身を案じて叫ぶレムに支えに立ち上がり叫ぶエストだったが、最早眼中にないかのように仮面の少女は懐から黒い水晶を取り出す。

 

(あれって…)

「……やるぞ」

「いいよ、やって」

 

二人の会話からイオンに何かをするのかと感じ取ったエストは、痛む身体に鞭打って駆け出す。

 

「イオン!」

「エストちゃん…!」

 

 

 

そして。

 

突然、仮面の少女を中心に空間がねじ曲がったような、奇妙な穴が開き。

 

 

 

すぐ近くにいた二人のイオンと仮面の少女、そして

助け出そうと駆け出していったエストは穴へと呑まれ、

 

 

 

「クソっ! ……な、なんだ?」

「消えました、わね」

「何だったのよ、まったく」

 

 

 

同時に黒い影達も闇に溶けるように姿を消して行った。

 

 

 

 

「……あれ? エストちゃんとイオンちゃんは?」

 

 

 

女神達が辺りを見回す頃には、空間の穴は消えていて、

 

気を失った双子の従者と、六人の女神を残して、エストとイオンの二人は消えてしまったのだった──

 


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