幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
暗殺幼女ロム&ラム騒動から少しして、再びのんびりとした時間が戻ってくる……と思いきや。
またもや問題事がルウィーに襲いかかってきた。
「ホワイトシスター様!」
「はいはい。ルウィーが誇る妹女神、ホワイトシスターちゃんですよ」
「現在、ルウィー教会が何者かの襲撃を受けております!」
「あー、ねぇ……」
慌てた様子のルウィー教会職員の報告を聞いて、わたしは大きくため息を吐く。
「そんなの、これだけ大きな音してたらわかるわよ……」
さっきから大きな音やら揺れやら、ここまで聞こえて来てるっての。わたしってそんな無能に見えるのかしら。
「状況は?」
「一先ず非戦闘員の避難は行っており、兵が鎮圧に掛かっておりますが……」
「手間取ってる、と。ふーん、とすると七賢人?」
もしかしたらただの手強いモンスターって可能性もあるけど、そもそもそんなのが国の中心同然の教会に入り込む訳ないし。
「わかったわ、わたしが向かう。レム、行こ」
「はいです!」
レムに武装形態になってもらいながら、騒動の現場へと向かおうとして……危うく忘れそうになったことを職員へと伝えた。
「じゃあ、あんたはえーっと……プラネテューヌに連絡して、お姉ちゃんに戻るように伝えて。流石に襲撃されてんのに呑気に他国で遊んでるのはよくないだろーし」
「り、了解しました!」
これで良し、と。
さて、情報を聞き出すためにも話の通じる奴ならいいんだけど──
そんなわたしの希望は残念なことに叶わなかった。
「はっはっは! ああっ、なんて壊し甲斐のある建物なんだろう! きっとお前は俺様に壊されるために建てられたんだな……よぅし! 待ってろよ! 今すぐ全部粉々に砕いてやるからな!」
「何言ってんのコイツ」
大声で意味不明な事を言いながら教会を壊すのは、マジェコンヌがブチ切れながら振り回されてた奴。確か、コピリーエース。
無駄に暑苦しい事を言いながらやってる事はただの破壊だし、よりにもよって話が通じなさそうなやつだったわ……
「ん? どうしたんだい君。ここは危険だ、早く避難した方がいいぞぅ?」
「は?」
わたしの呟き声に反応したコピリーエースは、何故かわたしに避難するように告げてきた。
いや、わたし女神なんだけど…………まさか、リーンボックスで戦った時は普段の子供の姿だったから、わたしが女神だって認識してない?
「や、やめろ! やめてくれ! ブラン様が不在の折にこんな事をされたら……!」
「おいおい、男がそんな情けない顔をするな! 叶えたい望みがあるなら、夢があるなら! 全力でぶつかって来いよ!! もっと熱くなれよ!!!」
「や、ほんとに何言ってんの……?」
なんでこいつは、敵側を鼓舞するような事を言ってるのよ。
「先程からずっとこの調子でして……と、とにかくこれ以上壊さないでくれ!」
「おね……ブラン様、すっごい怒るだろうね。こんなの見たら」
「ひぃ、考えただけでも恐ろしい……」
下手にホワイトシスターだってバレてここで戦闘になるよりは、との判断で、あえてお姉ちゃんの呼び方を変えておく。
まぁ、一般人を装ったところでどうするかって話になるんだけど……
「バカ野郎! 怒られるってことは、お前が期待されて、愛されている証拠じゃないか! 怒られることを恐れるな! むしろ怒ってくれる人に感謝するんだ!」
「ダメだ、まるで話が通じない……」
なんでこのお兄さんは自分の仕えてる国の教会壊されてる相手にお説教されてるんだろう。わたしにもわかんない……
壊すとかなんとかって、壊せたらなんでもいいのかしら、こいつ。
「そんなに壊すのが好きなら、ルウィー郊外にある採石場にでも行ってなさいってのよ……あそこなら壊す
「なんだとぅ!?」
「うわっ」「ひえっ!」
"壊す"という言葉でいつだか見に行った採石場で、岩を砕くのが大変そうだった事を思い出して、その事を零したらなんか食いつかれた。びっくりした……
「壊すものが、たっくさん……? 信じられない! 本当にそんな場所があるのか!?」
「え、あ、うん。……だよね?」
「あ、は、はい。あそこならいくら壊しても、寧ろ大歓迎ですが……」
「頼む! 連れて行ってくれ! その場所こそ俺様が夢にまで見た、希望の地なのかもしれない!」
コピリーエースは教会を壊す手を止めてずずいっとそう頼み込んでくる。おっきいから圧が凄い。
わたしは居合わせていた職員のお兄さんと顔を見合わせて、ぽかんとしてしまう。
「あー……えっと、案内頼める……? わたしはお……ブラン様を待たないとだし。一応、戦える人員は送るから……」
「は、はあ。わかりました……では、ご案内します……」
お互いに困惑気味なまま、お兄さんにコピリーエースの案内を任せる。
はぁ……とりあえず、壊された箇所を直すのと、イオンに先に様子を見に行ってて貰おう……
コピリーエースの様子見を頼んだイオンを見送って、職員の人達に教会の修繕をお願いしていると、ブチ切れモードのお姉ちゃんが帰ってきた。
とりあえずそのままだと碌に話すこともできないから、落ち着かせつつ起こった事を説明していく。
「……なるほど。じゃあそいつは今、採石場にいるのね」
「うん。何かあったら連絡するようにって、イオンを先に向かわせておいてる。今のところ何も無いから問題は起こしてないっぽいけど」
「あいつが居ること自体が問題なのだけれど……」
一応少しは冷静になったのか、教会の惨状を見渡しながらため息を吐くお姉ちゃん。
まだぶつくさ恨み言をぼやいてるけど、とりあえずは追加の見張りを送りつつ教会を直す方を優先するみたい。
で、結局それからコピリーエースが何か問題を起こしたみたいな報告も無く、むしろ採石場の採掘ペースが格段に上がったとか喜ばれるくらいで。
イオンまで「あのロボットさん結構面白いよ!」だなんて言って仲良くなる始末。それでいいのか七賢人。
そんなこんなで教会の修復も進んできた頃に、ネプテューヌちゃん、ネプギア、プルルートちゃんの三人がルウィーにやってきた。
なんでも、襲撃を受けたのはルウィーだけじゃなく、ラステイションとリーンボックスも襲撃されたとかで。唯一襲撃を受けてないプラネテューヌ組が各国の手助けに回ってるらしい。
と言ってもうちの襲撃者は採石場で実質働いてるから、被害は壊された教会の一部くらいなのよね。
こっちのロムちゃんとラムも時々わたしに奇襲しかけて返り討ちにされてるくらいで、何だかんだ教会のお仕事教わったりしてるみたいだし。
「バカとハサミは使いようとは、よく言ったものね」
「でもそれだと、私達が手伝うことは無いですよね」
「そーね。折角来てもらったとこ悪いけど、他の手伝いに──」
ネプギアが言うように、うちを手伝うならノワールさんやベールさんの方を手伝った方が良いと言おうとして。
「……いいえ。これから、教会を壊してくれた落とし前をつけてもらいに行くところだったから……良かったら、あなた達も来る?」
「えっ」
お姉ちゃんの言葉に驚いてお姉ちゃんを見る。
口調こそいつもっぽいけど、その表情は明らかに怒ってる時のものだった。
「お、珍しーね。ブランから誘ってくれるなんて。行くよ! 行く行く!」
「あたしも行く行く〜!」
「それじゃ、決まりね……あのふざけたヤロー、袋叩きで徹底的にぶっ壊してやる!」
もう怒ってるのを抑えることも無く口を荒らげて出発しようとするお姉ちゃん。
相手が七賢人だからかネプテューヌちゃん達まで乗り気だし……!
「ちょっ、お姉ちゃん! 問題起こしてないなら別にいいじゃん!」
「止めんなエスト! 問題ならもうとっくに起こしてるだろうが! それに相手は七賢人なんだぞ!」
「そ、それは、そうだけど……」
お姉ちゃんの剣幕と、今は何も悪さしてないとはいえ七賢人のメンバーが相手だって言う事実にたじろぐ。
そもそもどうしてわたしが乗り気じゃないかというと、イオンのことがあるからで。
「……ああ、それと。あいつを潰すのは私達でも十分だろうから、あなたはこのまま教会で残りの修繕状況の確認をお願いね」
「えっ、ちょ、お姉ちゃん!」
けれどもお姉ちゃんはもう倒しに行くと決めてるみたいで、わたしに仕事を押し付けるとネプテューヌちゃん達と一緒に採石場へと出かけてしまった。
追いかけて止めた方が良いかと思ったけど、仕事ほっぽり出して行く訳にもいかなくなっちゃったし……ああもう!
元いた方のお姉ちゃんと同じで怒ると猛進気味なお姉ちゃんに悪態つきながら、嫌な予感を感じたわたしはさっさと言われた仕事を片付けることにした。
何事も無きゃ良いんだけど……
「ぐあああああっ!!」
ブランらが教会を出発してから、少し時間は進み。
ルウィー採石場の奥地にて、女神達とコピリーエースがぶつかり合い、そしてコピリーエースが敗北した。
「は、ははは……負けちまったか……でも、悔いはない……俺様の心は、とても、晴れ晴れとして……!」
「コピリーさん!」「コピリーさーん!」
煙を上げ、所々のパーツがスパークするコピリーエースへ、採石場での生活で彼と心を通わせた作業員達が駆け寄る。
「ああ、みんな……ははっ、みっともない所を見られちまったな……偉そうなことを言っておいて、このザマだ……」
「喋っちゃダメっすよ! おい誰か! 工具箱を持ってきてくれ!」
「……悪くない、人生だったなあ……こうして、友に囲まれて逝けるなんて……」
「弱気なこと言わないでください! 急いで修理すれば、まだ……」
「みんな、さようなら……ありがとう……がくっ」
「コピリーさん? コピリーさああああん!」
コピリーエースの負った傷は深く、作業員達が修理しようとするも間もなく、コピリーエースは活動を停止した。
その事に、作業員達は悲しみの声を上げる。
「ふぐう……コピリーエースさん、かわいそう〜……」
「かわいそう〜じゃねー! なんで勝ったのにこんな胸糞わりー思いしなきゃいけねーんだよ!」
ブラン達も、撃破したコピリーエースが想像以上に彼らと親密になっていた事で、罪悪感に苛まれていた。
誤解のないように言っておくと、女神達が来た時点でコピリーエースも七賢人として戦うつもりであった為、遅かれ早かれこうなる事は確定していた。
と、本来ならば、ここで決着の着いた戦いだった。
彼女が──イオンが、この場にやって来てしまうまでは。
「…………え。……ロボット、さん……?」
コピリーエースの姿を見て、イオンは信じられないといった様子で立ち尽くす。
「あ、イオン……ちゃん?」
「どうして、ロボットさん、あんなに煙……動いて、ないの……?」
イオンに気づいた作業員の声が届いていないかのように、フラフラとコピリーエースへと近寄るイオン。
そんな彼女の姿をみて、ますますバツが悪そうに顔を歪めるブラン。
「……なんで。ロボットさん、悪いことしてなかったよ? みんなのお手伝いして、頑張ってたんだよ?」
「イオン……こいつは七賢人よ。女神の敵だから、いつかはこうなる定めだったの」
「こんな……こんなのって……」
ぺたん、と停止したコピリーエースの前で座り込むイオンに、ブランの言葉は届いていないようで。
──次の瞬間、イオンから強烈なエネルギーが放たれ、その場にいた全員が怯んだ。
「うわあっ!?」
「な、何、何!? 何事ー!?」
「わ、わかんない! けど、イオンちゃんが……!」
「あなた達は下がりなさい!」
「は、はい!」
危険を感じたらしいブランが作業員達に避難するように告げる。
元凶たるイオンは、ゆらりとゆっくりと立ち上がると、ギターを召喚して手にした。
そして──
「……ヤハリ女神ナド、信ズル価値モナイ」
「ぐっ……!?」
低い声で顔を向けて、女神達へと殺意を叩きつけた。
「くそっ! 敵を倒してなんだってこんな目にあわなきゃならねーんだ!?」
「ネプ子さんものすごーくやな予感がするんだけど……あれ完全におこだよね? ムカ着火ファイヤーだよね?」
「イオンちゃん、すっごく怒ってる〜……」
ただならぬ雰囲気にブラン達も武器を構え、臨戦態勢に。
様子のおかしいイオンは女神達に向き直ると、ゴーストウルフ達を召喚する。
説得の余地もなく、敵意をむき出しにして。
「……ワタシハ女神モ、人間共モ嫌イダ。シカシ、コノ子ハ女神ニモ、人間ニモ優シイ子ダ」
「この子……? イオンちゃんじゃ、ないの?」
「テメー、何モンだ!」
ブランがイオンに向かって叫ぶが、その答えは帰ってこない。
そのままイオンは言葉を続ける。
「ダカラ、不用意ニ殺セバコノ子ガ悲シム。ソレハワタシノ望厶事デハナイ。……ダガ、コノ子ヲ悲シマセルモノガ居タナラバ──」
そこまで言うと、イオンは普段からは考えられないような憎悪に満ちた鋭い目付きでブラン達を睨み、
「──ワタシ達ハ、一切ノ容赦ナク、悲シマセタ貴様ラヲ殺ス!」
ギターを掻き鳴らしながら、ゴーストウルフと共にブラン達へと襲いかかった。
「ちょっ、シャレになってな、うわわわ!!」
「きゃああ!」「ひゃあ~!」
「ちっ、こうなったら殴ってでも止めるしか……」
襲い来るウルフ達に反撃するしか無いと判断し、武器を構えるブラン達。
「スト──ーップ!!」
と、そんな時だった。
戦いを止める声が採掘場内に響き渡る。
「今の声は……エストちゃん!」
「おまっ、何でここに!?」
「何で? じゃない! 嫌な予感がしたからお姉ちゃんに任された事をレムに代わってもらって来てみたら、何よこれ!」
現れたエストはイオンのゴーストウルフ達がブラン達を標的にしている状況を見て声を荒らげると、それを止めるべく武器も持たずに両者の間へと飛び込んだ。
「危ない!」
しかし丁度そこに突進しようとしたウルフがおり、直撃コースに立ってしまう。
そのままエストはウルフに突き飛ばされる──かに思われた。
「──だ、ダメっ! エストちゃんを傷つけないで!」
しかしそれを止めたのは、他でもないイオンだった。
先程までの憎悪に満ちた声ではなく普段の声で彼女が叫ぶと、ゴーストウルフ達は一斉に動きを止めた。
「っ……? ああ、びっくりした……イオン、どうしたのよ?」
「エストちゃん……ごめんなさい、ボク……ごめんなさい……」
「それはわたしに攻撃しそうになったことに関して? だとしたら気にしないでいいよ。わたしだってそんなヤワじゃないからね」
何故か凄く申し訳なさそうに俯いて謝り続けるイオンを見て、状況の把握ができていないエストは不思議そうに首を傾げていた。
「んーで、なんでお姉ちゃん達がイオンに襲われてたのかは……まぁ
「そうだねー。でもそのロボットの方も私達が来たら戦うつもりだったみたいだよ?」
「ここの人達とすごく仲良さそうだったけど、戦いは避けられなかったね……」
「そっか。……一応、七賢人としての自覚はあったのね」
動かなくなったコピリーエースを見ながら、エストは腕を組んで何かを考えこむ。
倒すべき存在とはいえ、このままではルウィーのシェアに影響が出そうな出来事。彼女はふぅと息を吐くと、よし。と小さく呟いた。
「とりあえずお姉ちゃん、さっきこっちから逃げて来た人達とお話した方がいいんじゃない?」
「……そうね。彼らには一度、ルウィー国民の心得って奴を身体に叩き込んでやらねぇと……!」
「ブランちゃん~、喋り方が混ざってる~」
「コイツの後始末はわたしがやっておくわね」
拳を握りながら静かに怒り始めるブランを見送り、エストは今一度コピリーエースへと向き直る。
「さてと。とりあえずコイツを運ばなきゃ……イオン? ちょっと!?」
どうにか運びだそうと思案しようとした所で、ふらつくイオンを見て慌てて彼女に駆け寄るエスト。
抱きとめるような形で受け止めると、イオンはぐったりとして気を失っているようだった。
「ああもう、世話の焼ける……!」
詳細は把握し切れていないもののイオンの暴走や急に気を失ったりで、エストは矛先の無い怒りを零しながらも心配そうに彼女を見つめていた。
その後エストは教会職員を呼びつけコピリーエースを回収させた後、イオンを背負って自らも教会へと戻るのだった。