幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
間違ってはいませんが!
#01 小さな襲撃者
「ふざけるのも大概にしろ! 貴様が余計なことをしてくれたおかげで……」
「もう、ごめんなさいってばあ。てっきりマジェちゃんは爽やか系が好みかと思って……そんなに前のコピリーちゃんがラブだったなんて思わなかったのよお」
「だから誰がラブだ!」
リーンボックスで女神に敗北し、不調の原因へ物申すと言わんばかりに怒鳴り散らすマジェコンヌ。
今日も今日とて、七賢人のアジトは賑やか(?)であった。
「お前さん、男の趣味が悪いのう……」
「悪いのは男の趣味だけじゃないっちゅけどね」
「こんなんだからいきおくれるのよね。かわいそうに」
「外野は黙っていろ! まったく、どうせ直すなら何故まともにしなかったんだ!」
周りに言いたい放題言われながらも、マジェコンヌはコピリーエースの性格プログラムが変わった事に関して追及する。
「だって、普通じゃつまらないじゃない」
「面白いとかつまらないの問題か!!」
帰ってきた答えに、さらに息を荒げて怒鳴るマジェコンヌ。
この場でまともにツッコミに回る者がいないために、既に疲労気味であった。
「こらこら、ダメだぞう! ケンカは止めるんだ! 俺様達は固い友情で結ばれた仲間同士! どんな時でも手を取り合って一致団結みんな仲良く……」
「その気持ち悪い喋りをやめろと言ってるだろうが!」
「あ、あのうぅ……そろそろ、ですね? 会議を始めたいんですけど……」
「ああ!? ならさっさと始めろ! 貴様が議長だろうが!」
「ひいっ! ごご、ごめんなさいー!」
一応、彼女達は現状の七賢人が危うい立場に追いやられている件について話すために集まっているのである。
マジェコンヌが不機嫌なままなものの、漸く会議が始まろうとしていた時、待ったをかける声がかかった。
「……ねぇ」
「あら? 貴女……珍しいじゃない、貴女からアタシ達に声をかけてくるなんて」
声をかけてきたのは、いつも部屋の隅で会議を大人しく聞いていた一人の少女。
あまり人と会話するのが得意な性格ではないのか、少女から声をかけられたことにワレチューから「オカマ」と呼ばれた人物は驚いたように少女を見つめた。
「あなたに、聞きたいことが……」
「なんだ! 今私は気が立っているんだ、下らない事ならば許さんぞ!」
少女はマジェコンヌに何か聞きたいらしく、未だに不機嫌なマジェコンヌの様子にびくりと怯えながらも、言葉を続ける。
「……そっちの、人……? が言ってたんだ……ボクにそっくりなヤツが居たって。……それが本当なのか、知りたい」
「ああ……? ……言われてみれば、貴様そっくりのガキがネプテューヌ共と行動を共にしてたな」
「……!」
コピリーエースを指さしながら問う少女の言葉にマジェコンヌが答えると、一瞬だけ少女の纏う負のオーラが増したように感じられた。
「……そういえば、わしも女神共と戦ったときに見た気がするのう」
「……えっ。…………どうして、言ってくれなかったの……?」
「ぬおおっ!? そ、そうは言われても、お主とあれとで性格に差がありすぎてパっと結び着かなかったんじゃ!」
と、アクダイジーンが少女の姿を見てふと思い出したように呟くと、少女が深い憎悪にも似たナニカを彼へ向ける。
見た目は幼い少女だというのに、アクダイジーンがひどい悪寒を感じて慌ててそう答えると、少女はその負の感情を引っ込めてぶつぶつと何か呟きながら部屋を出て行ってしまった。
「な、なんだったんじゃ、アレは……」
「不気味な奴っちゅね。そもそもアイツがここにいる理由をまだ聞かされてない気がするっちゅ」
「確かに変な幼女よね。こっちから会いに行こうとしてもどこにもいないし」
「……それは単にお前が嫌われてるだけなんじゃないっちゅか?」
「いる理由っていうか……そう言えばあの子の事言ってなかったっけ。色々複雑な子なのよ」
「…………」
「あの子は、うーん。言うなれば──」
「……やっぱりいた、やっと見つけた。ボクの──」
「──亡霊、かしら」
「はー……なんというか、平和ね……」
「そーだねぇ」
「七賢人の活動情報もあまり入って来ないですからねー」
こっちのベールさんとの和解? からまた時間が飛んで。
わたしはいつもの外行き用の姿でイオンとレムの三人でルウィー都市内を散歩していた。
というのも、毎度毎度プラネテューヌに遊びに行くお姉ちゃんがやり残した分のお仕事が片付いたから、その息抜きがてら、って感じ。
いや、お姉ちゃんが遊び惚けて一切仕事してないとかではないんだけどね? だとしても遊びに行く頻度が高すぎる。どんだけプルルートさんが好きなのよ。
姿に関しては別に普段の幼女姿でも良いんだけど……実はホワイトシスターの人間姿としてはこっちだって認識されちゃってるらしいのよね。変身すると幼女になる女神ーって。
なんでなんだろう……。
「知名度は高い癖して詳細部分に関しては秘密組織してるのが腹立つわね……」
「というより、表立って活動しているアブネスという方以外の情報がかなり少ないのですよね」
んで、わたしの本来の目的であるディーちゃん捜索に関しては完全にどん詰まり状態。
一応、七賢人以外にも聞き込みしてみたりはしてるんだけど、結局今のところディーちゃんらしい目撃情報はネプテューヌちゃんの言ってた仮面を付けた七賢人メンバー? しかないのよね。
ネプテューヌちゃんの言ってたヤツがディーちゃんなら野垂れ死にしてたなんて結末は無いかもしれないけど、話を聞いた感じ女神と敵対してるっぽいし……はぁ、参ったわ。
それに──
「──イオン、レム。ちょっと用事ができたから、二人は先に行ってて」
「……ん-? 用事?」
「えっと……わかりましたです」
「んんー……? まぁいっか。じゃあ先行くねー」
二人を先に行かせて、わたしは適当な横道から人気の無い方へと進む。
多分狙いはわたしだろうから、これで釣れてくれればいいけど……。
「……」
たまたま設置してあった自販機(和の国なルウィーにも景観に合わせたデザインの物があった)から適当にお茶を買って飲みながらごく普通に、のんびりめに歩く。
表面上ではそう演じながらも、全身に魔力を巡らせる。
そうした時だった。
「──たあッ!」
足音はなく、けれどわたしの真後ろからそんな声が聞こえてきて──
ジジッ……
という音を立ててわたしの身体が一瞬ブレた。
「えっ!? うわ、わっ」
「はい、かくほー」
「あっ!? えっ、な、なんでなんで!」
そうしてわたしを文字通りすり抜けてバランスを崩した子供の、ナイフを握った腕を掴む。
いやぁ、まさかこんな分かりやすい不意討ちだとは思わなかったわ。あ、でも気配と足音は無かったから結構凄いのかしら、こいつ。
……ていうかなんかどっかで見覚えが……。
「忍法・
「な、なによそれ! ずるい!」
電磁蜉蝣。
身体全体に魔力を循環させ、一瞬だけ身体を電気と化して攻撃を無効化(避ける)する、ちょっぴりズルな技。
まぁ、ズルって言っても同じ属性の雷とか、水属性には使えないんだけどね。燃費もあんまり良くないし。
……んで、この襲撃者なんだけど。
ええ、ええ。現実逃避はダメよね。そりゃ、
つまり──襲撃者はラムそっくりな容姿だった。
「人を後ろから刺そうとしてずるいもなにもあるわけ?」
「う、うっさいわね! あんたは人じゃないでしょ!」
「んーまぁそうね。で? それがなにか?」
ずっと腕を掴み上げてるのも疲れるので、ぱぱっと魔法で鎖を喚び出してラムらしき少女を縛り上げる。
さて、ラムっぽいのが仕掛けてきたとなると、当然──
「──そっちもいるよね、っと!」
「……!? う、うそ……!」
ラムっぽいのと違って、音も声も無く襲ってきたもう一人の襲撃者も鎖で捕らえる。
あー、まぁ、ロムちゃんっぽい子だよね、やっぱり。
「ああっ! そんな、わたしに気を取られてる隙にさくせんがー!」
「うぅ……ごめんね……」
流石に服装まで同じってことは無く、この国っぽい和テイストな衣装だけども。
わたしの知る二人だとしたらグリモから何かしら連絡が来てるだろうし、それにこの二人からは女神の力を感じられない。だからきっと"こっち"の住民なんだろう。
「……ともかく、あんたらとはちょっと
「「ひぃっ!?」」
ま、それはそれとしてこの二人とは色々お話が必要そうだ。
「それで、襲撃してきたお二人を捕えた……ですかー」
「うー!」
「……(おろおろ)」
こっちのロムちゃん(仮)とラム(仮)を捕まえて、イオンとレムを呼び戻して教会へと帰還。
襲撃者二人の方は動けないように拘束済みだ。
「ね、ねぇエストちゃん。何もこんな縛り上げなくっても良いんじゃ……可哀想だよ」
「そ、そうよ! これ解いて!」
"見た目は"可愛らしい子供でしかない二人への仕打ちにイオンがそう言うけれど、今のところは二人を解放する気は無い。
「ダメよイオン、見た目に騙されちゃ。何処で覚えたのか知らないけど、その二人は殺しの技術を身につけてる。……ま、油断か驕りかで殺す直前に声出しちゃう程度だけど」
「えっ。こ、殺し?」
「ぐぬぬ……」
「(ふいっ)」
殺し屋……って程ではないにしろ、どっかしらからの刺客ではあるんだろう。
よりにもよってこの二人が、ねえ。外見から見た年齢的にこっちのお姉ちゃんの人間時代の家族って訳でも無いだろうし。
「それで、エストちゃん。お二人の処遇はどうするんですか? 脅威の芽を摘むならばこのまま……」
「摘む……って、こ、殺すの? ダメだよ、そんなの!」
「レムもあまり気は進みませんです。ですけど、解放してまたエストちゃんやブラン様に危害を加える可能性を考えますと……」
「そ、そうかもしれないけど、まだこんな小さいのに……!」
「幼くとも、殺しの刺客なのですよ……」
イオンとレムが言い争う中、考える。
確かにレムの言う通り、殺してしまえばこの二人という脅威に関して考える必要は無くなる。自分を殺そうとして来た相手なんだから、容赦は必要ない。
この二人はわたしや、わたしの知る二人とは違う。
そう、違うんだ。女神ではなく、人間だ。
人間の子供である二人が、まだ幼いのにも関わらず
そんなのは、嫌。
「……あんた達、名前は?」
「……(ふるふる)」
「無いわよ、そんなの。あるのはあんたを殺そうとした技だけ」
「……!? な、なんで話すの……?」
「話したって話さなくたってどっちみち死ぬんだから……い、一緒よ」
「ふうん?」
こういうのって口が堅いイメージだったけど、ラム(仮)の方は半ば諦めたように白状した。
その声は、震えていたけれど。
「……そうね。あんた達には悪いけど、ここで終わりよ」
「エストちゃん!?」
「っ……」
わたしが二人にそう告げれば、二人は顔を伏せて。
イオンまでもが驚いた声を上げて、そんな事は止めてと騒ぎだす。
「落ち着いてイオン。何も殺す訳じゃないわ。……あんた達、ここで働きなさい。少なくともそんなことするよりはマシなはずよ」
「「「……え?」」」
わたしの提案に、イオンも揃って困惑の声を漏らした。
正直、知った顔贔屓は否めないけどね。
「な、何言ってるのよ。わたし達、あんたを殺そうとしたのよ? バカなの?」
「……危機感皆無?」
「うっさいわね。わたしはあんたらなんかに殺されないし、丁度教会職員より身近な配下っていうの? が欲しかっただけよ。それにどの道殺しは失敗したんだから帰れないでしょ」
「むぐ……」
なんか襲撃者にボロクソ言われたけど、わたしを仕留め損なった時点でコイツらは窮地に立たされてるんだ。
勿論言った通り殺されてあげる気は無いしね。
「ほら、どーすんの? 殺すこと以外何も知らないまま死ぬのか、わたしの下に来るのか。好きな方を選ばせてあげるわ」
言ってやると、二人は互いの顔を見合わせて考えている様子だった。
選択も何も無いけど、やっぱ死なせるのはちょっと、ね。
「良いのですか? お二人はエストちゃんを……」
「大丈夫大丈夫。って言うか、仮に嘘ついてまた襲われたって、素直に殺されてなんてやんないし」
「むかっ! ……良いわ! あんたの下についてあげる!」
「えっ……!?」
心配するレムにそう答えると、随分とあっさり寝返りを承諾してきた。
これにはロムちゃん(仮)も驚いている。
「ふん! でも気が変わったら今度こそ仕留めてやるんだから!」
「真正面から随分と大口叩くわねー。やれるものならどうぞー? あははは!」
「むっきぃぃぃ!!」
憤慨しながら威嚇するラム(仮)の隣で、世界が違っても二人セットなのは変わらないらしく。
ロムちゃん(仮)も「じゃあ、わたしも……」と一緒に下ることにしたみたい。
「んじゃ、そうなると名前が要るわね。名無しのままじゃ不便だし」
んー。と、考える素振りを見せつつも、この二人の名前なんてとっくに決まってる。
生い立ちが違って、名前がなかったとしても、きっと二人は同じ存在だろうから。
わたしは当然だと言わんばかりに、小さな襲撃者二人の名前を告げた。
「あんた達の名前は『ロム』と『ラム』よ。ようこそ? ルウィー協会へ」