幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「あはははははッ!!」
先手必勝。
そうと言わんばかりに飛び出したのは、魔力の鋼刃を纏った長杖レムを手にしたエスト。
「えっ、エストちゃん! 待って!?」
「ああもう! この面子なら貴女は後衛じゃないの!?」
「あれは……エストちゃん
不敵な笑みを浮かべながらマジェコンヌに接近戦を挑み、激しい金属音を響かせるエストを見て驚くネプテューヌとネプギア。
対してこの世界で付き合いの長いイオンだけは「またかぁ……」と何か知っている様子を見せ、それにプラネテューヌ姉妹が反応した。
「ど、どういうこと?」
「うん……エストちゃんね、強い敵とかと戦う~ってなると、まるで人が変わったみたいにああなっちゃうの。自覚はあるらしいんだけど、「わたしにはどうしようもない」とか「適度にガス抜きしないと」って言ってたよ」
「ああ、つまりもう一人の僕! の様なものかしら。確かディールちゃんも同じような状態だったと思ったけれど、
イオンの説明に
「あはははは! ほらぁ、その程度なのー? オバサン!」
「フン、小娘が……随分と舐めて「数では不利、だがそれも燃えるというもの! そう簡単には負けないぞう!!」……舐めてくれたものだな! 貴様一人に後れを取る私ではない!」
「強がる暇があったらもっと打ち込んできたら? っとぉ!!」
「ぐっ、小癪な……ッ!」
そうしてる間にもエストとマジェコンヌは激しい攻防を繰り広げていた。
素早い動きで翻弄するエストに苛立たしげな表情を浮かべるマジェコンヌ。加えてネプテューヌ達には剣戟の金属音の中から微かにレムの悲鳴が混じって聞こたような気がした。
「……あれ、わたし達が介入できる余地あるのかしら……近寄ったら斬られそうなのだけれど」
「わざと狙ったり、間に飛び込んだりしない限りは大丈夫! ……だと思う」
「曖昧!? ほ、ほんとに大丈夫かな……」
ネプテューヌの零した疑問にあははー、と苦笑いを浮かべながら答えるイオンが、手にしたギターを掻き鳴らし狼頭のゴーストを放つ。
「ぐ、くっ!? なんだ、コイツらは!」
「よそ見してる暇はないよ? あははっ! そぉれッ!」
鳴らされるギターの音色に従っているのか、はたまたイオンの思念を感じ取っているのか、ゴースト達はエストの攻撃の合間に、彼女の邪魔にならないよう的確にマジェコンヌへと食らいついていく。
「そう言う割には、すんなり合わせられるのね」
「伊達に3年もエストちゃんのあいぼーしてないからね!」
「ふふっ、なるほどね。わたし達も負けていられないわよ、ネプギア」
「う、うん、お姉ちゃん!」
頑張ってー! とイオンの
エストがマジェコンヌから離れた所を見計らって、プラネテューヌ姉妹の一撃がマジェコンヌへと襲いかかった。
「この……調子に「良いぞ良いぞう! こっちも負けてはいられないなあ! はっはっは!!」……調子に乗るなぁ!!」
姉妹の一撃に耐えながら反撃と言わんばかりに魔法弾を放つマジェコンヌ。
しかしその狙いはどこか粗く、ネプテューヌ達には簡単に避けられてしまう。
そしてその弾幕を抜けてひとつの影がマジェコンヌへと距離を詰めていく。
「隙だらけ」
「なっ!?」
一気に懐へと飛び込んだ影、エストはどこかつまらなさそうに霞の構えを取りながら呟いて──
「トライ・ストレート」
必殺の突きを放った。
頭と胴を捉えた二つの突き。しかしそれはあたかも同時に放たれたと錯覚する程の、神速の突きであった。
「ぐああああッ! ぐ、クソ……っ!」
至近距離から致命的な一撃を受けたマジェコンヌは、ダメージの蓄積で変身を維持できなくなったらしく、元の姿に戻って憎々しげに膝をついた。
「あ、あっさり倒しちゃった……」
「よくはわからないけど、実力を出し切れていなかったのかしら? いくら何でもあっさり過ぎるわ」
「……」
たん、と飛び退いて戻ってくるエストにも意識を向けつつ、ネプテューヌはやけにあっさり撃破出来てしまった事に疑問を感じていた。
「大丈夫かあ!? 今助け、うおああああああっ!! くぅっ、いいパンチを持ってるじゃないか……!」
「勝負あり、ですわね」
「ふ、ふふふ、いい戦いだった! お前達と戦えた事、俺様は心から誇りに思う!」
そしてあちら側も決着がついたらしく、コピリーエースが煙を吹き上げながら清々しい声色であちらの四女神へとそう告げていた。
いくら修復されたとはいえ、現役四女神相手は部が悪かったようだ。
「……貴様が喧しく気の抜けるような事を言うおかげで力が出せなかったんだがな……?」
「理由はどうあれ、実力が出せなかったーなんて言い訳にしかならないのよね。はぁ、バカバカしい」
「お、おのれぇ……」
コピリーエースの暑苦しさで実力が出せていなかった事を明かされて、エストは心底つまらなさそうに吐き捨てた。
そのままイオンの方へと戻ったかと思えば、急にぼんやりと立ち尽くしてしまう。
「……あ、あれ? エストちゃん、どうしたの?」
「……はっ。ああ、もう。急に引っ込むんだから……あいたっ!」
「わわっ、エストちゃん!?」
心配になったネプギアがエストへ声を掛けると、先程までの雰囲気と打って変わって普段通りの雰囲気に戻っており、何やらぶつぶつと呟いたかと思えば左腕を押さえて痛みを訴え始めた。
「ああ、ネプギア……気にしないで。えーっと、トライスティンガー? の反動みたいなものだから」
「反動って……」
「なんか普通の技みたいに使ってたけど、わたしにはまだ無茶をしないとやれない事だからさ。ま、回復魔法かけとけば治るから、ホント気にしないで」
「そう……? でもあまり無理はしちゃダメだからね?」
「はぁーい」
ぽぅ、と右手で左腕に回復魔法を掛けながら、そうネプギアに伝えるエスト。
そのどこか他人事の様な口振りに引っ掛かりを覚えつつも、あまり深入りすべきじゃないと判断して心配だけを告げた。
そうして七賢人の破壊活動を止めたネプテューヌ達であったが、戦いが終わっても漫才を続ける二人を捕らえようとするも……
「ここでやられる訳にはいかん。こいつをこんな風に直したバカに文句を言わんと気がすまんのだ! おい、行くぞ!」
「お? 今度は追いかけっこか? よぅし! はははっ! 待て待て、こいつぅ!」
「逃がすかよ! すぐにとっ捕まえて──」
「ばいば~い。またねぇ~」
「なっ、ぷるるん!? なんで元に戻って……」
「今日はもう疲れちゃって~……」
と、プルルートが疲労で女神化を解いた事に気を取られている内に取り逃してしまう。
それでも国の救援に手を貸してくれた面々にベールは感謝の意を示し、対抗心こそ燃え尽きてはいないもののプラネテューヌに入り浸る程度には友好的な関係となっていた。
「ほらほらネプギアちゃん。遠慮しないでもっと甘えていいんですのよ?」
「べ、ベールさん、離して……うう、なんだか柔らかくて気持ちよくなってきた……こっち来てからお姉ちゃん、冷たかったり私を見捨てたりしてるし、この際ベールさんがお姉ちゃんでも……」
「ああっ! ダメダメ! 気をしっかり持って! ずるいよベール! 身体で誘惑するなんて!」
「あなたの性格の悪さ、なんとかならないのかしらね! 今日という今日はガマンならないわ!」
「はっ、性格捻くれまくりのてめーに言われたくねーな!」
「二人ともぉ~……いい加減にしてくれないとぉ~……」
「え? わああ! ご、ごめんなさい!」
「悪かった! わたし達が悪かった! だから、な?」
「これだけいると騒々しいったらありゃしないわねー」
「なんだか、ここが女神様達の集まる場所! みたいになってるよね。ボクは楽しそうだからいいと思うけど!」
「全くもって……あのー、みなさん? ちゃんと仕事もしてくださいね……?」
リーンボックスの女神も加わって、一段と賑やかになったプラネテューヌ教会。
その中でエストは一人、たった一人の双子の姉妹を想って浮かない顔をするのだった。
一方、超次元ゲイムギョウ界にて、
「ぱっとろーるー! ぱっとろーるー! ロムちゃんと一緒にぱっとろーるー!」
「ら、ラムちゃん……そんな大きな声で……(びくびく)」
「いーじゃない、わたし達はいいことをしてるんだから。だったらどーどーとやんなきゃ!」
「でも、みんなに見られてる……はずかしい……(かぁあ)」
ルウィーの双子姉妹であるロムとラムが、仲睦まじげにルウィー都市内を散歩……もとい、見回っていた。
「もー、いつまでもそんなこと言ってちゃダメなのよ。わたし達だってそのうち立派な女神になるんだから。人に見られることくらいへーきになっとかないと」
「で、でも……」
「じゃあほらっ、ディールちゃんの真似してみるとか? フィナンシェちゃん達と同じお仕事してるときはキリってしてるでしょ?」
都市をてくてくと歩きながらそんな会話を交わす二人。
しかし、彼女達の会話を聞いて立ち塞がる者達がいた。
「女神……?」
「女神だと? この子達……女神なのか?」
「ええ、そう言っていたわ。だとしたら……」
「ん……?」
「ふぇ? な、なになに……? (びくびく)」
「あ、そっか。こんなかわいい女神が街中を歩いてたらびっくりもするわよね!」
明るくポジティブな思考をするラムに対して、ロムは立ち塞がった人々の不穏な空気を感じ取ってか、ラムの背に隠れるように怯えていた。
「ふふーん、いいわ! わたし達を信仰したいっていうならいくらでも──」
そして、ロムの不安は的中してしまう。
「女神……女神は不要な存在……」
「女神なんかがいるから、俺達は……!」
「そうよ、女神なんていなければ……!」
「──え? な、なな、なんなのよ、この人達!?」
「き、きっと……市民団体の、人達……? (がたがた)」
尋常ではない様子でじりじり近づいてくる市民団体員に、二人は怯えた様子で後ずさる。
「な、なんか目が怖いわよ? なんで? 女神って信仰されるもんじゃないの!?」
「市民団体の人達は……その、反対だから……(がたがたぶるぶる)」
「ということはつまり……に、逃げよう、ロムちゃん!!」
「捕まえろ! 女神を捕まえろ!」
「絶対に逃がすな!」
「女神が治める国なんていらないのよ!」
団体員達が動き出すのとほぼ同時に、ラムはロムの手を取って走り出す。
それを逃がすまいと団体員達は二人を捕まえようと追いかける。
泣きそうになりながらも追ってくる団体員達から逃げ回る二人。
子供とはいえ女神の二人にとって、彼らから逃げ切るのはそう難しくない……はずだった。
「……っぁ……!!」
「ロムちゃんっ!?」
逃げている最中に恐怖で足を縺れさせ、ロムが転んでしまう。
ラムはロムの名前を叫び、慌てて助け起こそうとするが、その隙を逃すはずもなく、
「今だ!」
「ひっ……!!」
団体員達がロムへと迫り、堪らず恐怖で目を瞑るロム。
「ぐあっ!」
けれど、聞こえてきたのはバチバチという電撃の様な音と、短い悲鳴。
恐る恐る目を開こうとして、聴きなれた声が聞こえてきた。
「はぁーい。お触りは禁止、ですよー」
「な、何よあなた!」
「その質問に答える必要性を感じませんー。でもって申し訳ありませんが度を越えた過激活動を看過できる程、
二人の救援に現れた少女、人間サイズのグリモワールが、ニコニコとあからさまに張り付けたような笑みで、団体員達へと手をかざす。
「暫く、おやすみの時間ですよー」
「ああっ!」
「ぐぇっ!」
そのまま手のひらから電撃を放ち、残りの団体員も昏睡させてしまった。
「グリモワールちゃん!」
「お二人共、ご無事ですー? あ、お二人は彼らへの対処をよろしくですー」
「「了解です!」」
一緒に連れてきていたのかルウィー兵に指示を出しながら、ロムとラムに怪我がないかを確認するグリモワール。
二人に目立った外傷がないことを確認すると、ほぅ、と安心のため息を吐いた。
「ひっく、ぐす……怖かった……ふえぇ……」
「うぅ……な、なんなの? あいつら……」
「市民団体の中でも過激派、みたいなものでしょうかー。詳細はこれから調べますけど、今はお二人が無事で何よりですー。念の為にと見張っておいてよかったですねー」
ぐすぐすと泣きじゃくるロムをなだめながら、グリモワールは思案する。
(日に日に市民団体の活動が激化してきてますねー。それにしたって急激すぎるような気もしますが……)
(ひとまず今回の件を共有することと、
「とりあえず、今日の見回りはこの辺にしてー、一度戻りましょうかー」
グリモワールの言葉にロムとラムは黙って頷く。
流石に怖い目に遭った後では先程までの元気もなくなって、早く帰りたいとでも言いたげな表情をしていた。
(エストちゃんの方も中々進展がないみたいですしー、このまま何事も無く……なんてことはないんでしょうねー。気が重いですー)
双子との帰り道、この先の不穏な未来を予感したグリモワールは小さくため息を吐くのだった。
神次元で出会った見知った顔の女神達。彼女達も自分が知っている方と同じ、またはそれ以上に個性的だった。
そうして集まった四国の女神達。けれどディーちゃんの所在は未だにわからないまま……時間ばかりがどんどん過ぎていく。
唯一の手掛かりは、ネプテューヌちゃん達が見たという、七賢人と行動を共にしていると思われる仮面の少女。
なりゆきでも一応こっちのルウィーの女神になってしまったわたしだけれど、これだけ女神サイドの戦力があればちょっとは単身で調査に出られる……と思いきや、
またまた見知った顔と遭遇したり、あの子の様子がおかしくなったり…。
もー! いつになったらディーちゃんと再会できるのよ!!
次回、神次元ゲイムネプテューヌ 楽園の奏者は悲哀を奏でる -Desire of Eden- 第2章
-闇惑う空白-