幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「これで……トドメッ!」
「しまっ、きゃああああっ!?」
エストちゃんの方ですごい光と音、悲鳴が響いて、それからこっちでの戦いにも決着がついた。
ボクとレムちゃんは参加してなかったけど、いつかのブランさんの時みたいに四人で一人をボコボコにする図だったけど……。
「うぅ、ダメージが……身体が、動きませんわ……」
「はっ。色々でけぇ割に耐久力はねぇみてーだな」
「ま、そこそこやるみたいだけど、四人がかりじゃこんなもんよねー」
「ううぅぅぅ……」
でも四対一(ホントは四対二のつもりだったんだろうけどエストちゃんが連れて行っちゃったもんね)でも良いみたいに言ったからか、何も言い返せないみたいで……。
「認めませんわ認めませんわ! こんなの絶対認めませんわー!」
ぱぁっとあっちの女神様が光に包まれて変身が解けると、そのまま泣き始めてしまった。
「わ。ガキみてーに泣きだしやがった……おい、やめとけ。似合ってねーぞ」
「あらあら。本当に私達に負けた時のあなたにそっくりね」
「わたしはこんなガキみてーな泣き方してねーだろーが!」
「四人なんて卑怯ですわ! 正々堂々一対一なら負けませんもの! 再戦を要求しますわ!」
「何言ってやがんだ、てめーでふっかけてきた条件だろーが!」
「知りませんわ存じませんわ! とにかくわたくしが勝たなきゃイヤなんですのー!!」
「……そう言えば、向こうのベールも負けず嫌いだったわね。ここまで極端ではなかったけれど」
うわぁ……。
ボクでも流石にあんな大人にはなりたくないかなぁ……。
っと、そうだ。エストちゃん!
戦いが終わって危なくなくなった所で、慌ててエストちゃんの方に向かう。
「エストちゃん! 大丈夫?」
「イオン……うん、平気よ。いつっ……」
「待ってて、今治すよ!」
地面に座り込んだまま痛そうな声を上げるエストちゃんを見て、ボクはギターを取り出して癒しの旋律を奏でる。
ネプギアちゃんも痛そうにしてるし……こっちは引き分けになったのかな。
「ネプギアちゃんも! ええーいっ!」
「わ。あ、ありがとう」
「……むぅ」
「姉様、本当に大丈夫ですか……?」
「平気だってば」
レムちゃんも心配そうにエストちゃんの傍に行くけど、エストちゃんはなんだか不機嫌そうにむすっとしたまま。
……女神様って、みんな負けず嫌いなのかな?
「で、あっちはどうなったの」
「あ、うん。ネプテューヌさん達が勝ったよ」
「そ。……ま、四人がかりじゃあ、そりゃね」
演奏を終えてギターをしまうとエストちゃんがそう聞いてきて、ボクが答えるとエストちゃんはひょいっと立ち上がってネプギアちゃんの方に向かう。
「ほら、ネプギア。立てる?」
「う、うん」
そしてネプギアちゃんに手を差し伸べて、取った手を引っ張って引き起こしてあげていた。
不機嫌ではあるけど、別にネプギアちゃんが嫌いってわけじゃないみたいでちょっと安心。
エストちゃんとネプギアちゃんの無事を確認したボク達は、ネプテューヌさん達の方へと戻った。
「おっ、エストちゃんにネプギア。そっちはどうなったの?」
「……引き分けよ」
「あら、いつも大口叩く割に引き分けなんて、やっぱり大したことないのね」
「……お前「ちょっとノワールさん! エストちゃんはノワールさん達と違って一対一で戦ってたんだから、そういう事言わないで!」」
「め、珍しいわね、貴女が意見してくるなんて。……まぁそう言われると弱いんだけど」
ぶっすぅぅと不機嫌なままのエストちゃんにノワールさんがいつもみたいな嫌な事を言ってくるから、慌ててボクが言い返す。
今エストちゃんノワールさんにお前って言ったよね? ほっといたら絶対よくないことになってたよね!
「……チッ」
「あ、あはははは……」
舌打ち! 舌打ちしたよ今!
ネプギアちゃんも苦笑いしてるし……うぅー、もうっ、空気読んでよノワールさん!
「ごめんなさいネプギアちゃん……無力なお姉ちゃんを許してくださいましね……」
「ちょっと!? ネプギアちゃんのお姉ちゃんは私! 私だから!」
「でもいつの日にか、必ずや憎き女神達に勝利しましょう。わたくし達姉妹なら、きっとできますわ!」
「わっ、抱きしめないでください! まだ身体中ひりひりして……痛あああ!?」
ネプギアちゃんはというと、ベールさんに妹扱いされながらぎゅーってされていた。
ボクの回復技、治癒力を速くさせるだけで表面のケガはちゃんとしないとだから、そんなことしたら痛いのは当たり前だよね。
「ダメだってばー! 返して! 返してよー!」
「……さて、今回はこれで終わりかしらね」
「そうね。これ以上茶番に付き合うこともないし」
「ねぷちゃんとぎあちゃん、置いてっちゃうの~?」
「ほっときなさい。飽きたら適当に帰ってくるでしょうし」
ネプテューヌさんが騒いで、他の皆ももう帰るムードに。
でも戦いは終わったんだし、そうなるよね。……そう思っていた時だった。
「グリーンハート様ーっ!!」
「……まだ終わりじゃないみたいね」
誰かがこっちに向かって慌てた様子で走ってきて、みんなの足が止まる。
ええっと……多分、この国の兵士さん?
「何事ですの? 大したことない用でわたくし達姉妹の睦言を邪魔したら承知しませんわよ?」
「え? 姉妹? いつの間に……ってそれどころではありません! 七賢人を名乗る者が、リーンボックスの街を壊して回っておりまして!」
七賢人? それって、ブランさんとこの国でも悪さしてたあのおじさん達の事だよね。
おじさんとネズミさんと……それ以外にもいるみたいだけど、リーンボックスでも悪い事してるなんて……。
「なんですって!? 警備の者達は何をしているの!?」
「そ、それが、我々ではまるで歯が立たず……」
「一般人にあいつらの相手はキツいと思うし、そうなるでしょうね」
「くっ、こうしてはいられませんわ。一刻も早く行かなくては……くあっ!? こ、腰が……っ」
自分の国の危機だからとベールさんが急いで向かおうとするけど、腰を押さえて動かなくなっちゃう。
そんな姿を見て、ボクは思わず吹き出してしまった。
「あははは! おばあちゃんみたい!」
「おばッ!!?」
「……あんたたまに素で容赦ない事するわよね」
「あっ! ご、ごめんなさい、つい……」
思った事をそのまま口にしてしまえば、ベールさんはピシッと固まっちゃって。
エストちゃん達みんなからも微妙な視線がボクに向けられた。あうう、ごめんなさーい……。
「でも確かに今のベールおばあちゃんみたいだったよねー」
「だ、誰のせいでこうなったと……ううっ……」
「その身体では無理よ。まだダメージが残っているんでしょ」
しゅんとしながらも辛そうにするベールさんを見て余計に申し訳なさでいっぱいになってしまう。
うぅ……こ、こうなったら。
「エストちゃん、ボク達で七賢人をやっつけに行こ!」
「わたしもそこそこダメージ残ってるんだけど……でもま、確かに七賢人絡みなら放置できないし」
「あ、そっか……うーん……」
そういえばエストちゃん、ネプギアちゃんとの戦いのダメージがまだ回復してないんだった。
そうなるとネプギアちゃんも本調子じゃなさそうだし……かといってネプテューヌさん達はベールさんと戦ったりしてたから、あんまり手伝ってくれないかもだよね……。
「……はぁ、仕方ないわね。今回は手を貸してあげるわよ」
なんて思っていたら、ノワールさんがはぁ、とため息を吐きながらそう言った。
「え? で、ですが……」
「べ、別にあなたのためじゃないわよ。ほっといたらあの子達だけで向かっちゃいそうだし、子供だけじゃ荷が重いでしょ。それに、カッコよく助けてあげればこの国の人達が私の信者になるかもしれないし。それだけなんだから!」
子供扱いされてちょっとむっとなったけど、ボク達やベールさんを気遣って言ってるんだろうな、っていうのがなんとなく伝わるような事を言うノワールさん。
「はい、やけに長いツンデレ台詞いただきましたー」
「ノワールちゃんが行くなら、あたしも~」
「……七賢人には、個人的な恨みもあるし。仮にも妹を放っておくわけにもいかないものね」
「みなさん……」
ネプテューヌさん、プルルートさん、ブランさんも手伝ってくれるみたいだ。
これならきっと、大丈夫だね!
「そうと決まったら早く行こう! あ……ベールさん、さっきは本当にごめんね。怪我、痛むなら休んでる?」
「……ふふ。貴女は優しいですわね。大丈夫ですわ、わたくしの国の事ですもの。這ってでも行きますわ!」
「あんまり無理しないことね。回復魔法で多少誤魔化せても、疲労まではどうにもなんないんだから」
エストちゃんの言葉に頷きながら、ベールさんも一緒に来ることに。
こうして、ボク達は全員で七賢人に襲われているリーンボックスへと向かうことになった。
ベールさんに報告を届けに来たリーンボックス兵の案内で、七賢人の下へと向かう道中。
イオンの言葉に乗っかったものの、戦闘になったらどうしようかと頭を悩ませていた。
ベールさんにああ言ったけれど、ネプギアとの戦闘でのダメージは治療したものの疲労が溜まってるのはわたしも同じ事で。ネプギアの方はまだ多少マシな方だから行けるだろうけど、わたしの方は正直変身はもう暫く休まないとできそうにない。
つまり、変身なしで戦うことになる訳だけど、相手は七賢人。前のアクダイジーンはあんなだったとはいえ、油断していい相手じゃない、はず。
「ふっふっふ、姉様、お困りの様なのですね!」
なんて移動しながら一人で悩んでいると、声をかけてきたのはグリモらが送り付けてきた魔導人形のレム。
むふーっとどこどなくどや顔っぽい顔でなんか腹立つ。
「……まぁ困ってるって言えば困ってるけど」
「では今こそ、レムが姉様のお役に立つべき時なのです!!」
「は、はぁ」
やけにテンション高いわねこいつ……。
と若干レムの様子に引いているわたしに気づかないまま、レムは「ではレムの手を取ってくださいです!」と要求してきた。
よくわからないけどとりあえず言うとおりに、レムが差し出してきた手を取ってみる。すると、レムの全身がぱぁっと光を放ち始めた。
「わぁ! なにごと!?」
横でイオンが驚いている間に光が収まっていくと、レムの姿はなく。
代わりにレムの手を取っていたわたしの左手に、どことなく機械的な印象の長杖が握られていた。
『これがレムの姉様支援機能のメイン!
「ああ、この杖があんたなのね」
「おおー! レムちゃん、実は妖聖だったの?」
「そうなるとレムみたいなのが他に99体いることになるじゃないのよ」
そんな大量の武器集めの旅に出ろって言われたってそんなのごめんだっての。
で、この長杖レムの状態だと戦いながら色々わたしを支援できるとかなんとか。例えば演算能力を駆使した敵の行動予測とか。
……どういう原理で人型から武器型になってるかとかは、考えるだけ無駄そうね。グリモの手がかかってるんだし。
『と言ったはいいものの、レムは戦闘経験がほぼゼロなのです……なので暫くはお手数をおかけするかもですが、精一杯頑張るのです!』
「ふぅん。演算予測とかはよくわかんないけど、時々うっかり普通に殴って折ったりしちゃってたから、こういうのは助かるかも」
『折っ!? で、できれば優しく扱ってくれると……なのです』
わたしがつい今まで使ってた
まぁうん、壊れないようには……善処しよう。
道中でそんなやり取りを交わし、レムは武器化したままで歩みを進めて。
そして都内で大きな音が響いてくる建物の中で、見覚えのある顔と見知らぬ顔を見つけた。
「気にいるかあああ! 別の意味で暑苦しくしやがってえええ!!」
「はっはっは! どうしたどうしたあ? 鬱屈した感情を抱えているのかい? そんなイヤな気持ちは全部破壊活動にぶつけちまえばいいのさ! さぁ、俺様と一緒にレッツ☆デストロイ!」
「やかましい! 一生黙っていろ、貴様は!」
……なんだあれ。街を壊しながら漫才やってる……。
「うーわ、なんかすごいことになっちゃってるね……」
「街を破壊しつつどつき合い気味の漫才……ある意味高度ね」
「くっ……わたくしの街をこんなふざけながら壊すなんて……」
ネプテューヌちゃん達は呆れてるしわたしも呆れてるけど、やってることはちゃんと悪行だし、別に容赦する必要はなさそう。
二人いるし、片方は仕留め切りたいところだけれど……。
「んで、あっちは2人いるわけだけど。こっちは……9人?」
「あ、レムはサポーターなので計算に含めなくていいのです」
「そう、じゃあ8人ね」
「……だとすると、4人ずつに分かれて当たるのが妥当かしら」
突入前に全員で相談。
メンバー分けはなるべく慣れた相手同士が良いでしょ、ってことで超次元組&イオンと神次元組に分かれることになった。
つまり、ネプテューヌちゃん、ネプギア、わたし、イオンと
プルルートさん、ノワールさん、お姉ちゃん、ベールさん
の編成ね。
「ぬ、来たか。……くそ、来てくれて少しほっとしてしまった。こいつと二人よりマシだと……」
「やあ! 久しぶりだね、女神達! ……おや? 友達が増えたのかい? うんうん、いいことだ! 友達は何物にも代えがたい宝物だ!」
役割を決めて七賢人二人の前に出ていくと、片や複雑そうに、片や暑苦しい反応を示した。
「……何、ノワールさん達こんなのと知り合いなの?」
「確かに敵として顔見知りではあるけど、あの時爆発したはず……ってそもそもあの時と性格変わってない?」
「はっはっは! 俺様の頼もしい仲間が直してくれたのさあ! こうしてもう一度女神達と戦える喜び! そして世界中を破壊して回れる感動! ああっ! 生きてるってなんて素晴らしいんだ!」
「おぉ~。ぱちぱちぱち~」
「黙れと言っている! 貴様も相手をするな!」
文字通り暑苦しく熱弁するロボットにオバサンが吼える。
ちなみにそっと教えてもらったところ、ロボットはコピリーエース、オバサンはマジェコンヌっていうらしい。
片方なんかよく聞いた名前してるけど、別次元じゃ同名でも全然違うなんてよくある事よ、うんうん。
「ひ、久しいな、女神共。心待ちにしていたぞ、貴様等と再び相見えるこの時をな!」
「あー、うん……シリアスに持っていきたいのはわかるけど、ちょっと無理矢理じゃない?」
「うん。私でも空回りしてるって分かる……」
「う、うるさい! 余計なお世話だ!」
「こいつぅ! カッコいい前口上を決めてくれるじゃないか! よぅし! ここは俺様も一つとっておきのやつを──」
「黙れ! だーまーれー! とにかく! この前の借りを返してやる! 特にネプテューヌとプルルート……それと見おぼえのある顔の貴様! 以上! 分かったか!」
びしっとネプテューヌちゃん、プルルートちゃん、そしてわたしを指さして雑に宣言するマジェコンヌ。
わたし何かしたっけ? ……あ、出し抜いた事根に持ってんのかしら。みみっちいこと気にするやつねぇ。
その後も主に漫才的なひと悶着があったりしたけれど、とりあえず戦闘に突入。
お姉ちゃん達神次元組はコピリーの方を囲み、こっちはマジェコンヌを取り囲むように散開した。
「残念だけれど、ぷるるんはあっちよ。あなたの相手は私達」
「分散だと? フン、嘗められたものだな!」
「そっちこそ、四対一だからって卑怯とは言わないわよね? 悪人にかける情けなんてないんだからさぁ!」
マジェコンヌはああいってるけど、かなりでかい相手でもない限り8人とか絶対味方同士邪魔になるっての。
さて、漫才師とはいえマジェコンヌらしいし、ちょっとは
「……あは。行っくよー」
長杖レムを持ち直して、駆け出す。
「ちょっ、エストちゃ……速っ!? ああ、もう! ネプギア、わたし達も行くわよ!」
「う、うん、お姉ちゃん!」
「みんなファイトー!」
背後からは慌てたようなネプテューヌちゃんとネプギアの声、それとイオンのギターの音色。
イオンからの
「真正面からなど、舐められたものだな!」
「それは当然よ。正面切っても
「ぐっ、抜かせ!!」
足に力を込めてさらに加速しての一撃は防がれたものの、マジェコンヌの余裕を少しは削れたと思う。
手元の杖からレムの困惑した声が聞こえた気がしたけど、そんなのどうだっていい!
「
結局直接戦うことが無かった強敵と同じ姿をしたそいつを前に、
わたしはワタシを抑えきれず、口元が緩むのを止められなかった。