幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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#14 戦闘! グリーン……シスター?

 リーンボックスが遠くに見える、ヘイロウ森林。

 ベールさんに指定された場所までやってくると、すでにベールさんが待ち構えていた。

 

「あ、いた! やっほーベール、おっまたせー!」

「……来ましたわね。あまりに遅いものですから、臆病風に吹かれたのかと思いましたわ」

「ごめんなさい~。あたし、歩くの遅くて~……」

 

 はっはっは抜かしおる。なんてね。

 ちなみに移動に時間がかかったのはプルルートさんが言った通り。あの人喋りも歩くのものんびりなのよね……。

 

「……あなたを恐れる理由なんて、何一つないわ」

「いやー一つはあるんじゃない? 例えばほら胸──」

「ネプテューヌちゃん、変身すれば大きくなるからっていい気になってるといつかメキョってされるわよ。お姉ちゃんに」

「ねぷっ!? そ、それは流石のわたしもちょっとイヤかなー……ごめんなさい、マジすんません」

 

 ネプテューヌちゃんの冗談にわたしがそういうと、横からお姉ちゃんがネプテューヌちゃんに殺気を飛ばしていて、すかさずマジ謝りをしていた。

 

「ねえ、ここまで来てなんなんだけど……別に無理して戦う必要ないんじゃないの? 私達」

「いいえ、これはプライドの問題ですわ! わたくしが貴女達より優れていると証明しないことには納得がいきませんもの!」

「ああそう……まったくルウィーの女神といい、古い女神はめんどくさいわね」

「めんどくさいついでにいちいちそうやってルウィーを出すあんたから先に潰してあげてもいいけど?」

 

 いちいち嫌味しか言えないのかこいつは。

 一辺本気で叩き潰した方が……いや、やったところで「調子が悪かった」だの適当な事言って変わらなさそう。

 

「エストちゃん落ち着いて……! え、えっと、ブランさんもあんな感じだったんですか?」

「テレビで見たときは確かにあんな感じだったかもー」

「うんうん~。それでブランちゃん、あたし達に負けて泣いちゃって~……」

「だあああ! 余計な事言ってんじゃねー!」

 

 まったく緊張感のないやり取りを見ながらも、こんな黒いのなんかより大事な事があったのを思い出した。

 

「ところでベールさん、ネプギアの女神メモリーはちゃんとあるの?」

「ネプギア? あぁ、その子がお使いになるということかしら。ええ、ありますわよ。ですがどうして必要なのか聞かせて頂いてもよろしいかしら」

「じゃあその辺はわたしから! えっとねー──」

 

 女神メモリーが必要な理由をネプテューヌちゃんが説明していく。

 別次元云々とか別に隠す事でもないしね、信じてもらえるかはともかくとして。

 

「はあ、あなたの実の妹さん……そしてあなた達二人とそちらの新しい女神は別の次元の女神……ふうん……」

 

 説明が終わるとベールさんはわたしとネプギア──主にネプギアの方をじろじろと見てくる。

 

「な、なんですか? そんなにじろじろ見られると……」

「……わたくし、ルウィーの女神にだけは負けたくないと、そう思っていましたの」

「……急に何よ」

 

 そして急に真面目な表情でそんなことを語り出す。

 ベールさんがなぜお姉ちゃんに対抗意識を燃やしていたのか? それは──

 

「だって! 妹だなんて! しかもそんなかわいらしい妹だなんて! ズルいですわ!!」

「は? ……いや、妹と言ってもネプテューヌのような実の妹じゃないし、そもそもこうなったのも色々と……」

「それでもズルいものはズルいですわ!」

 

 真面目な雰囲気が消し飛んだわね。まぁ、なんか見知ったベールさんって感じになったけど。

 かわいらしいっていうのも悪い気はしないし! 

 

 そんな敵意を向けられて困惑するお姉ちゃんから視線をネプギアへと移したベールさん。その目は愛らしいものを見るような目だった。

 

「そしてあなた……なかなか可愛らしいですわね? わたくしの好みですわ、ネプギアちゃん」

「え? え?」

「ふふふ、さぁネプギアちゃん。あなたの可愛らしさに免じて、これは差し上げますわ」

 

 なんか一瞬危険な雰囲気が漂っていたけど、ベールさんはにこりと笑顔を浮かべるとネプギアに女神メモリーを差し出した。

 ……うん? なんか怪しくなってきた。

 

「は、はい……あ、ありがとうございます……」

「そんなに怯えられると軽く傷つきますわね……さ、遠慮せずにお使いになって」

 

「やけにあっさりくれたわね」

「余裕のつもりかしら。あるいは……何か裏が」

 

 既に女神メモリーはネプギアの手に渡ってるし、偽物って感じでもないだろうけど……

 お姉ちゃんが言うように、なんか企んでる? 

 

「ぎあちゃんぎあちゃん、早く女神になって~。女神のぎあちゃん見たい~」

「は、はい……それじゃ……」

 

 なんて疑っている間にプルルートさんに促されて、ネプギアが女神メモリーを使う。

 瞬間、ネプギアの身体が光に包まれて、光が消えるとそこには見慣れた姿……パープルシスターが立っていた。

 

「ふう……なれ、ました」

「わぁ~、かわいいぃ~!」

「……良かったわね。失敗したら、醜い化け物になるところだった」

「えええ!? なにそれ聞いてませんよ!」

「だって言ったら躊躇うでしょ」

 

 わたしは知ってたけど、使ったときの場の雰囲気的に躊躇ってる余裕なかったしね。

 

「ねぇ、この子は……大丈夫なの? その、ドSになったりとか……」

「ああ平気よ。ネプギアは変身してもしなくてもそんな変わんないし」

「うっ、地味に気にしてるのにー……」

 

 ノワールさんは性格の豹変を気にしてたみたいだけど、ネプギア含めて候補生ってあんまり変わんないからねぇ。

 

「……女神に、なりましたわね?」

「あ、はい。おかげさまで。ありがとうございました」

「礼には及びませんわ。だって、それを使ったということは──」

 

 そして女神メモリーを譲ってくれたどころか変身まで黙って見届けていたベールさんが静かに語り始める。

 

「──あなたは、たった今から、わたくしの妹なのですから!」

「……え?」「……へ?」「……ふぇ?」

 

 キメ顔でそう告げたベールさんの言葉に、ネプギア含めて呆けた声を上げる面々。

 ああ、そういうこと……やっぱりこっちのベールさんも妹に飢えてるのかしら……。

 

「ということですから、さあ。お姉ちゃんであるわたくしと一緒に戦ってくださいませ、ネプギアちゃん」

「だ、ダメですよそんな! 何を言ってるんですか!? 私のお姉ちゃんはお姉ちゃんで……」

「そーだよ! ネプギアはわたしの妹なんだからね!」

「それはそちらの世界でのお話でしょう? こちらの世界では、同じメモリー・コアから生まれた女神メモリーを使った者同士は姉妹になるんですのよ!」

 

 ババーンとそんなことを言い始める始末。

 ベールさんはどこもこんな感じってわけね。

 

「そ、そうなの? そんな決まりあったの?」

「ないでしょ……そうだったらノワールさんとネプテューヌちゃんが姉妹ってことになると思うけど」

「い、言われてみれば私とネプテューヌは……そ、そんなの嫌よ!」

「ノワールひどい!?」

 

 仮にあったとしてもローカルルール……という名の勝手な思い込みでしょ。

 っていうかそうだったらわたしだってネプテューヌちゃんとノワールさんの妹ってことになるだろうし、使ったのあの遺跡の奴だしね。

 

「ベールさんが、お姉ちゃん……私は、ベールさんの妹……」

「ってちょっと! あなたの妹すっかり信じ込んじゃってるじゃない!」

「まずい、まずいよ! ネプギアは悪い意味でも素直な子だから、周りから強く言われるとなんでも信じちゃって……」

 

 まるで洗脳ね。

 って、洗脳はわたし達の分野じゃない?

 って、いやいや、そんな分野嫌だわ。

 

 じゃ、なくて……

 

「ふふふ……これでこちらは二人。加えてここはわたくしに有利なフィールド……わたくし達姉妹の勝利は揺るぎありませんわ!」

 

 変身しながら気の早い勝利宣言をするベールさんこと、グリーンハート。

 へぇ、寝返りねぇ。

 

「ネプギアは、本気でそっちについちゃうわけね」

「ううう、ご、ごめんなさい!」

「ふぅん、そっかぁ。そうなんだ」

 

 そっかそっか、と呟きながら、おもむろに変身する。

 

「え、エストちゃん?」

「なーにぃ、ネプテューヌちゃん」

 

 そのままネプギアの方に向かおうとするとネプテューヌちゃんに呼び止められて振り返る。

 そしたらなんかひぇ、って小さく悲鳴上げられた気がするけど、きっと気のせいね。ふふふ。

 

「ね、ネプギアをどうするおつもりで……?」

「どうもしないわよ? ただあっちにつくなら折角だし遊ぼうと思って。……邪魔しないでね?」

「あ、はい……」

「イオンとレムも手伝わなくていいわよ。だって、遊ぶだけだもん。ねぇ? ネプギア?」

「は、はい。了解しました、姉様」

「うー! エストちゃんがなんか怖いよー!」

「わ、私、色々間違えちゃった気がする……!!」

 

 なんか色々言われてるけど気にしない、気にしない。

 さて……と。変身する前よりも長く重くなった守護女神ノ杖を片手で軽く回し、構える。

 さぁ……やろうか。

 

「それじゃ、ネプギア。久々に思う存分戦わせてよねぇッ!!」

「ひいぃー!!」

 

 

 


 

 

 

「あはははは! ほらどうしたのネプギア! こんなもんじゃないでしょッ!」

「う、くぅぅ!」

 

 あっけに取られてるベールさん達から少し離れた所で、わたしとネプギアは戦っていた。

 いや、正確にはわたしが一方的に殴ったり斬りかかったりするのをネプギアがひたすら防いでるだけなんだけど。

 

「隙、ありぃッ!!」

「ひゃあああ!! 今の本気で斬るコースだったよね!?」

「女神なんだしちょっと斬れるくらいへーきへーき!」

 

 氷刃を纏わせた杖を振るって見つけた隙に攻撃をしかけるけれど、半泣きになりつつもしっかり避けていくネプギア。

 

「くっ……やられっぱなしでは、いられない……!!」

 

 漸く戦う気になったのか、距離を取るように交代しながらM.P.B.Lを連射してくる。

 飛んでくる弾を真正面からひょいひょいと躱しながら肉薄して、さらに斬りかかる! 

 

「っ、そこ!」

「なんのっ!」

 

 わたしの一撃を避けてすかさずM.P.B.Lのブレードを振り下ろしてくるネプギア。

 それを身体の重心を横にずらしながら、滑らせるようにいなす。

 ネプギアの普段使いしているビームソードは受けることができないけど、M.P.B.Lになると軌道をそらすことはなんとかできるようになるからこそできること。

 

「ううっ!」

「とったぁッ!!」

 

 一撃をいなされてよろめいたネプギアへ杖を振るい攻撃。

 けれど「油断しないように」と普段から気を付けているつもりだったのに、実際は攻撃が当たると確信して油断しちゃってたみたいで。

 

「させないッ!」

「っ、ぁう!?」

 

 ネプギアは左手をわたしの振り下ろされる杖に翳すと、魔力波を放ってきた。

 予想してなかった反撃に氷の刀身は砕かれて、杖を取り落とすまではしなかったものの反動でバランスを崩してしまう。

 

「ごめんね……!」

 

 どういう意図の謝罪かはわからないけれど、それでもネプギアはその隙を逃すことなく銃口をこちらに向けて、ビームを照射してくる。

 不味っ、避けられな……っ、なら……ッ!! 

 

「鋼素、構築、展か──ぐううッ!!」

 

 右手に魔力を回して、今やディールちゃんが得意とする鋼魔法を。

 魔力を鋼素に変換して、1枚の障壁のように構築。それを展開……しようとしてギリギリ間に合わなかった。

 鏡のような鋼の障壁は展開されたけど、遅れた分が激痛となって右腕に走った。

 

「か、鏡で弾かれた……!?」

「っつう……! やるねネプギア、そうでなくちゃ……!」

 

 反動で片膝を付き、痛みを堪えながらも不敵にネプギアを見つめる。

 そうだ。仮にもわたしを、わたし達を数回に渡って負かせてきたんだ。レベルの落ちたわたし相手ならそれくらいやってもらわなくちゃ……面白くない!! 

 

「注意散漫よッ!」

「えっ、うぐぅっ!?」

 

 魔力波で砕かれ、ネプギアの周りに散った氷の欠片(魔力)

 わたしは杖を突き立て地面越しに魔力を流し込み、ネプギアの足元の魔力を起爆させる。

 

 足元からの攻撃は予想していなかったのか、ネプギアが悲鳴を上げた。

 

「わたしは、例えレベルダウンさせられていようと……もうあんたにだけは負ける訳にはいかないのよッ!!」

 

 すかさず杖を構え直し、杖先に魔力をかき集める。

 両手で杖を構え、土煙の中のネプギアに狙いを付け──砲撃魔法を撃ち放った。

 

「──ッ!?」

 

 勝ちを確信したのも一瞬の事。砲撃を放ったのとほほ同時に土煙の中から光線が放たれた。

 わたしの砲撃と光線はぶつかりあうことはなくすれ違って。

 光線──M.P.B.Lによるビームはそのまま砲撃体勢で動けないわたしへと伸びてきて……。

 

「うああああッ!!」

「きゃあああッ!!」

 

 そして、二つの悲鳴が上がった。

 

 

 

 ダメージの蓄積で女神化が解除され、わたしは地面に倒れ伏す。

 焼けるような痛みで起き上がれないものの、力を振り絞ってネプギアの方を見てみれば、あっちも同じような状況で。

 

「ぅ……あは、は……引き分け、だね……」

「………………そう、ね」

 

 ──()()()()()()()、こっちから吹っかけて、それでまた勝つことができなかった。

 結局、わたしは未だにネプギア相手に勝つことなんかできないって言うの? 

 こんなんじゃ……ディーちゃん(ロムちゃん)を守れない……勝てなきゃ、ダメなのに……ッ。

 

 

 同じく変身の解けたネプギアの「引き分け」という言葉に、わたしは悔しさを感じながらも同意することしかできなかった。


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