幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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#13 宣戦布告

「うう、ひどいよエストちゃん……」

「そーだそーだ、ひどいんだよー」

「だからお詫びにクレープ買ってきたから許してってばー」

 

 プラネテューヌ都内をぶらぶらしつつ、三人分(レムの分は本人曰く未完成人形だから食事機能はついてないらしいので無し)のスイーツを買って戻ると子供三人の相手をし終えたネプギアとイオンにぶつぶつと恨み言をぶつけられた。まぁ、当然よね。

 

「むぐむぐ……んまーい!」

「甘いもので釣ってるわたしが言うのもあれだけど、イオンは本当に不審者とかに気をつけなさいよ? 知らない奴からお菓子あげるから来てって言われても断りなさいよね?」

「むぅ! それくらい心配されなくてもへーきだもん! ……ふーちゃんが注意してくれるから!」

「自分でも注意しようとしなさいよ」

 

 ふーちゃんなる存在がどこまでストッパーになるかわからないけど、この子止めなかったら本当にそういうのに引っかかりそうで怖いわ……。

 

「あむあむ……そういえば、お姉ちゃん達はリーンボックスに向かったんだよね。だとしたらベールさんもこっちの世界にいるのかなぁ」

「ああ、ベールさんなら多分いるの確定よ。前にルウィーで見たわ」

「んぇ? そんな人いたー?」

「ほら、お姉ちゃん達助けに行く途中で鍵くれた人」

「ああ! あのデカ乳のお姉さん!」

「で、デカ乳……イオンちゃん、その呼び方はやめた方が良いと思うよ……?」

 

 そういえばベールさん、なんでルウィーに、しかも牢屋に続く道なんかで鍵持ってうろついてたのかしら。

 今回の宣戦布告がどうのとかいうのから考えると、やっぱり潜入してルウィーがどんな感じか探ってたのかな。

 

「お姉ちゃん達、大丈夫かな……」

「大丈夫じゃない? 最悪戦闘になってもお姉ちゃんの時みたいに四人で囲んでボコればベールさん一人くらいならヨユーでしょ」

「だ、だといいんだけど……いやいや、ベールさんがボコボコにされるのもなんかちょっとヤだなぁ……」

 

 ネプテューヌちゃんの無事を願いつつベールさんの身も案じるなんていうちょっとめんどくさい感じの事を呟くネプギア。

 まぁ女神なんて対立から始まる縁が殆どだし大丈夫でしょ。わたしとか二度くらいネプギア大嫌いな期間あったし。

 

「というかネプテューヌちゃんの心配よりネプギアよネプギア。あんたがこっちで過ごす為の女神メモリー探さなきゃ」

「女神メモリー……えっと、こっちの世界で女神になる為のアイテム、だっけ?」

「そうそう。メモリーコアとかいう場所で採れるらしいんだけど、今のところ見つかったって噂もないのよね。このままだとネプギアだけ成長してってネプテューヌちゃんと姉妹逆転しちゃうかもしれないわ」

「え、えぇ!? そ、それは……それもちょっといいかも……妹なお姉ちゃん……」

「ダメに決まってんでしょ!?」

 

 わたしがネプギアの心配をしてどうするかって考えてんのにこいつは……。

 んー。まぁ見つからないまま数年経過、なんてことにならない限りは慌てなくっても大丈夫な事なのかな。多分ネプテューヌちゃんも探そうとするだろうし。

 

 そんなこんなでプラネテューヌ教会でネプギアに色々教えたり雑談したりしつつ時間は過ぎて、日が暮れ始めたのでわたし達はルウィーに戻ることに。

 一応こっちのルウィーの女神でもあるし、仕方ない。

 

 ルウィーに戻ってしばらくするとお姉ちゃんも戻ってきて、何があったか聞いてみると、

 

「特に罠とかもなく、本当にただの宣戦布告だったわ。自国の最新ハードを流通させて私達のシェアを奪うと…………奴の思い通りにはぜってーさせねー!!」

 

 とのこと。なんか急にブチギレてイオンがびっくりしてたけど、どうせこっちでもベールさんに胸関連で弄られたんでしょ。間違いないわ。

 

 

 そして一週間が経過して、わたし達は再びプラネテューヌ教会へと集合していた。完全に溜まり場ねここ……。

 

「あれから一週間経ったけど、どう? あなた達の国は」

「……かなりの数のリーンボックスハードが流入してきたわね」

「でも特に影響とかはぜーんぜん」

 

 ノワールさんに言われてルウィーの状況を告げる。

 流石に何人かは手を出してる姿は見えたけど、目に見えてルウィーシェアが減ったってことはなかった。お姉ちゃんも拍子抜け、といった様子ね。

 

「プラネテューヌも同じような状況ですね」

「へぇ~、そうなんだ~」

「おー、やっぱいーすんは仕事早いね。いつの間に調べたの?」

「お二人が遊んでいる間にネプギアさんと二人で調べたんですよ! Σ( ̄皿 ̄」

「ま、まあまあいーすんさん、落ち着いて……」

「そう……ちなみにうちも全く同じ状況だわ。一応国民にリサーチをかけてみたんだけど……」

 

 そう言ってノワールさんが並べた国民の声は『ソフトのラインナップが少ない』『普通に遊んでたのにディスクに傷がついた』などという、殆どクレームみたいな内容だった。

 ちなみにルウィー(うち)でも大体似たような反応。

 後は大きさが不評だったわね。ハードがでかいのもそうだけど、コントローラーが持ちづらいとかなんとか。

 プラネテューヌは『小っちゃい方が好き』『小さいは正義』という意見が多かったそう。意味が解らない。

 

「よかったねブラン!」

「今ハードの話をしてたんだよな? つかなんでわたしに振るんだ??」

 

「ま、なんていうか……こっちの国民とは需要っていうか好みっていうか、そういうのが合わないハードだったわけね」

「結局口だけだったってことよ。ほんのちょっとでも焦っちゃった自分が馬鹿みたいだわ」

「そうね……あんな……だけが大きいだけの頭が悪そうな女に、負けるはずもなかったのに」

「まあベールのやることだし、こんなことだろうとは思ってたけどねー」

「うんうん~、ベールさんだもんね~」

「ひどい言われようだなぁ……」

 

 とまぁ、宣戦布告とかされた割に殆ど無傷だねーみたいな話をしていると、突然部屋のドアが開かれ何物かが入り込んで来た。

 

「貴女達!」

 

 やってきたのは話題の主、ベールさんだった。

 わざわざプラネテューヌまで来たのね……。

 

「うわびっくりした!」

「わ、こっちのベールさんだ。やっぱりそっくり……あの、こんにちはーじゃなくって……初めまして……」

「よくもやってくれましたわね! このような卑怯な手を使ってくるなんて!」

 

 ネプギアの挨拶をスルーして随分とご立腹な様子のベールさん。

 無視されていじけたネプギアはイオンが慰めていた。

 

「来るなりご挨拶ね。私達が何をしたって言うのよ」

「白を切るおつもりですの? わたくしのハードにこれだけの悪評を振りまいておいて……」

「悪評……? 国民達から出ている文句のことかしら」

「そうですわ! わたくしのハードに、こんなに非難が集まるなんて……それもこれも貴女方が卑怯なネガティブキャンペーンをしたせいですわ! そうに違いありませんわ!」

 

 あー。……えー? あー……。

 何、自分のハードに自信ありすぎて、悪評が見えてなかった系? 面倒なパターンじゃん……。

 

「言っとくけど、私達は何もしてないわよ。ウソだと思うなら気の済むまで調べてみたら?」

「言いがかりにも程がある……下らない……」

「え? ……では、何もしていないと? でも、だって、わたくしの国では大人気のハードですのよ? なのに、そんな……」

 

 あ、そっち系か。自国で好評だったから通用すると思っちゃったパターンね。

 

「ま、まぁ、リーンボックスで人気だからってそれがルウィー、ラステイション、プラネテューヌでも通用するとは限らないってことよ」

「……好む好まざるは国民性の問題だわ。リーンボックスのハードはこちらの大陸のニーズに合わなかった……サイズがあまりに大きすぎてね」

 

 何事も大きけりゃいいってもんじゃない、ってことねー。

 

「そ、そんなことあり得ませんわ! ハードだって胸だって、大きい方が喜ばれるに決まってますもの!」

「あ、胸って──」

「ベールさん、その思想自体が"あり得ない"事よ。大は小を兼ねるとか言うけど、それが世界全ての存在に当てはまる事なんてないってこと」

 

 胸という単語でキレかけたお姉ちゃんを遮るようにしつつ、そう告げた。

 好みは人それぞれだものねー。

 

「あ、貴女はいつぞやの……貴女がルウィーの新たな女神でしたのね……」

「どーも、お久しぶりね。あの時は違ったけど、色々あって今はルウィーの女神候補生をしてる、ホワイトシスターのエストよ」

 

 そういえばベールさんにはしっかり名乗ってなかったなと思いつつ、自己紹介をしておく。

 

「ええ、わたくしはリーンボックスの女神の……って違います! こうなれば……別の方法で決着をつけるまでですわ!」

 

 別の事に意識を逸らして……って思ったけどやっぱり駄目だったらしく、ベールさんはキッとこちらを睨みつけて言った。

 

「戦いの場は、わたくしが女神として生を受けた神聖な場所とさせていただきますわ!」

「……てめーのホームグラウンドまで来いってのかよ。偉そうな態度の割に言うことがせこいな」

「なんとでも仰いなさい。あの場所でならわたくしは最大限の力を揮うことができる……全身全霊を以て、貴女方を叩き潰してさしあげますわ!」

 

 ベールさんが告げたのは、力での勝負。女神らしいといえばらしいんだけど……。

 

「えー、それってなんかベールが有利っぽくない?」

「わざわざ私達がそこに出向いてあげる理由が見つからないんだけど?」

 

 ネプテューヌちゃんとノワールさんが言うように、わざわざ出向かう必要性を感じないわけで。

 だって、そんなことするくらいならプラネテューヌを出てすぐのところでぶちのめせばいいだけだし。

 

「まあ、数人がかりでも怖いというのでしたら無理にとは申しませんわ。ただしその時は、この大陸の女神はわたくしに恐れをなして逃げたと世界中に喧伝させていただきますけれど」

「終いには脅迫かよ……」

 

 うーん、こすいというかなんというか……でもなぁ……

 

「別に、好きにしたらいいんじゃない? そういうことするのならこっちはこっちで『あの国の女神は自分のホームグラウンドに逃げ込んでしか戦おうとしない臆病者だ』って言うだけだもの」

「なっ……」

「こっちの大陸で大コケした一国の言葉と、元からの住んでる三国の言葉……国の人たちはどっちを信じるだろーねー?」

「え、エストちゃん! 顔! すっごく悪い顔になってるから!」

 

 わたしがそう言ってやるとベールさんはぐぬぬと言葉に詰まっている様子だった。

 さて、このまま丸め込んで追い返してもいいんだけど、それだとベールさんとの仲が険悪のままどうしようもなくなりそうだし。んー……そうだ。

 

「ところでベールさん。ベールさんとこに女神メモリーって余ってたりするかしら?」

「え? まあ、いくつかはありますけれど……それがどうかしましたの?」

「えっ、女神メモリーあるの!?」

 

 ぐぬぬ顔のベールさんに女神メモリーについて聞いてみれば、僥倖なことに在庫があるとのこと。

 

「それ、一つくれるならベールさんの提案……そっちの有利な場所で戦いに行ってもいいわよ」

「あら、そんなものでよろしいんですの?」

「ま、こっちにも色々あるのよ」

 

 メモリーコアを巡るのは時間かかっちゃいそうだし、あるっていうならそれに甘えるに越したことはない。

 するとベールさんは落ち着きを取り戻した様子で、わたしの提案を飲んでくれた。

 

「わかりましたわ。女神メモリーはこちらで用意しておきます。それではお待ちしていますわね、返り討ちに遭う覚悟ができたら、いつでもおいでなさい」

 

 そう言ってベールさんは部屋から去っていった。

 

「行っちゃった~」

「なるほど、考えたわね。ただ、こういう話を勝手に決めないでくれるかしら」

 

 ベールさんが去ると、ノワールさんから咎めるような視線。

 だってまぁ……ネプギアの為だし。

 

「何も言わずに決めちゃったのは謝るわ。でも、こうでもしないといつ見つかるかわかんないし」

「さっすがエストちゃん!」

「エストちゃん……ありがとう」

「まだ貰ってないんだからお礼は早いわよ。それに、まさか勝つ自信がないなんてこと、ないわよね?」

「誰に向かって言ってるのよ。あっちが有利だろうと私が負けるはずないわ」

 

 にやりと不敵にノワールさんを見やれば、ふんといつも通り偉そうに返してくる。

 こっちのノワールさんにも大分慣れてきた気がする。

 

「……そうね。正面から捻りつぶせるならいい機会だわ……あの胸ごとぶっ潰してやる」

「お姉ちゃんはもうちょっと堪える努力しよう? さっきだって割り込んでなかったら暴れまわる勢いだったでしょ」

「う。……返す言葉もないわ」

 

 まだ胸の事引きずってるお姉ちゃんにそう言うと、反省したようにそう言うお姉ちゃん。

 冷静な時はちゃんとしてるのになぁ、ほんと。

 

「で、一応聞いておくけど、誰がついてきて誰が残るの?」

「……わたしは行くわ。うちの新人一人を向かわせるわけにはいかないし」

「わたしとネプギアもだねー。ネプギアは女神メモリー貰わないとだし」

「じゃあ、あたしもいく~」

「あなた達だけじゃ不安だし、私もついていくわよ。それにあの女神にでかい顔されるのも気に食わないし」

 

 結果的にわたしがベールさんの挑戦を受け入れる形になったので、わたしからそう聞いてみると全員ついてくるとのこと。

 まぁいつも通りのメンバー+ネプギアって感じね。あとは……

 

「イオンとレムは?」

「ボクはいつもどーりー、エストちゃんと一緒だよ!」

「レムもマス……姉様にお供いたします!」

「ん。わかったわ」

 

 まぁこの二人はベールさんとの戦いには出せないだろうけど、ついてくるっていうなら止める必要もないでしょ。

 そんなわけで、わたし達はベールさんの待つリーンボックスへと向かうのだった。


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