幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「はい……言われた通り、屋外の広い場所に出ました……はい……」
「「「「……」」」」
イストワールさんに(あっちのイストワールさんの指示で)連れ出されたわたし達。
けれどもネプテューヌちゃん含めて連れ出されたみんなの表情はあんまり良いものではなかった。
「ねぷちゃん~、本当に帰っちゃうのぉ……?」
「え、あー……その……」
プルルートさんの寂しそうな言葉に、ネプテューヌちゃんも言葉を詰まらせる。
そりゃまぁ、こんな急に帰るって言われたらねぇ。
「仕方ないでしょ。ネプテューヌは元々、別の世界の子なんだし……」
「やだよぉ……ねぷちゃんがいなくなったらさびしいよぉ……」
「ぷるるん……わたしもすっごくさみしいけど、でも……」
「ふん、帰るならさっさと帰りなさいよ。私達は……リーンボックス? とかいう国の対応で忙しいんだから」
「……この場面であまりひねくれ過ぎた台詞は流石にどうかと思うわ」
「ノワール……ブラン……」
ノワールさんはいつも通り……に見えて微妙に声に覇気がないような気がする。
イオンも流石に普段みたいな笑顔ではなく、寂しそうな顔だ。
「……はい。では、音声をそちらにお預けしますね」
イストワールさんが通話口をネプテューヌちゃんに渡し、ネプテューヌちゃんがあっちのイストワールさんと話し始めた。
個人回線なのかあっちのイストワールさんの声までは聞き取れないけど。
「……あ、あのさ! いーすん! もーちょっと! もーちょっとだけこっちに残っちゃダメかな?」
けどやっぱりというか、このまま帰る気はネプテューヌちゃんもないみたいで、
あっちのイストワールさんに交渉をしかけるみたいだ。けど……
「……ネプテューヌちゃん、あっちの人にお願いしてるみたいだけど……なんとかならないのかなぁー……」
「難しいでしょうね。わたしとディーちゃんはあっちじゃあくまで侍女だからいいけど、ネプテューヌちゃんはあっちでも女神。いくらあっちとこっちで時間の流れが違うとしても、そろそろ戻らないとあっちでのシェアエネルギーがマズいことになるわ」
「……なるほどね。確かに女神が国を長く空けるってなると、信仰も離れてしまうわね……」
「うぅ、ねぷちゃん~……」
事実、あっちのイストワールさんからの反応も良くないみたいで、ネプテューヌちゃんの表情が曇る。
負けじと交渉を続けているけれど……こればっかりは難しい所よね。
「……エスト、あなたは帰らなくてもいいの?」
「わたしは……一応、もう帰る手段自体はあるのよ。ただ、これ使えるのわたしとディーちゃんだけなのよね。わたしはディーちゃん連れ戻すまで帰るつもりはないし、それもあっちに伝えてあるけど……」
「そう……そんな簡単にうまい話はない、か……」
お姉ちゃんの期待には応えられない。イストワールさんだって次元ゲート開くのに色々必要なんだから、グリモに制約がないはずもない、ということ。
そもそも、それができてたらイストワールさんと連絡がついた時点でネプテューヌちゃんをあっちに戻すようにってイストワールさんが頼みに行くだろうしね。
『あーあー、エストちゃん。聞こえますかー』
「……っと、噂をすれば、ね」
「エスト?」
「ん。気にしないで、ちょっと連絡が来ただけ」
なんてネプテューヌさんの様子を見守りながらお姉ちゃん達と話していると、頭に響くような声。
なんてことはない、今話題に上がってたグリモワールからの連絡だ。
お姉ちゃん達に断りを入れてから少し離れて、頭の声に意識を集中させる。
『はいはいこちらかわいい女神のエストちゃんよ』
『何言ってるんですかー……って、そういえばなっちゃったって言ってましたねー。じゃ、なくてー』
軽めにボケたのに微妙な反応しか返ってこなかった。悲しいわ。
『えーっと、今イストワールの横から連絡しているんですがー、ネプテューヌ様がこちらに戻る代わりにー、エストちゃんに支援物資を送ろうかと思いましてー』
『は? 支援物資? っていうかネプテューヌちゃんはそっちに戻るの確定事項なの』
『まー流石にシェアが下がってきてマズいですからねー。今は次元の波が安定しているとはいえ、これを逃したら次戻れるのがいつになるかわかったもんじゃないですしー、リスクが高すぎるとー』
『まぁ……そうよね……』
次元移動に関する知識があるグリモがそういうんじゃ、やっぱ仕方ない事なのか。
まぁこっちで色々うまくいって、帰ったら国が一つ無くなってた、なんて冗談キツすぎるし。けど、うーん……
『……ああ、それで、支援物資って?』
『はいー。ロム様ラム様にもお手伝いしてもらいましてー、エストちゃんのそちらでの活動を支援するあるモノを送りたいと思いますー』
『……物資だけじゃなくて、契約者以外の人とかもそういうの出来たらよかったのにね』
『そればっかりは何も言えませんねー……とりあえずこっちはこっちでパパっと送っちゃいま──っとと!?』
ロムちゃんとラムが手伝った支援物資、ねぇ。
って、なんかあっちの方で光の柱が立ってるわ。もうゲート開いたのかしら? というかグリモの方が騒がしいような……
うーんこれは……ネプギアの声?
『あーっ!! 転送座標がずれたぁー!』
『うるっさい! 頭に響くのよ!』
『ご、ごめんなさいー……って、ああああ! ネプギア様がーっ!?』
『だからやかましい……って、ネプギア?』
頭の中に直接大声を立て続けに送られてちょっとぐらぐらしてきた……。
転送座標がなんとかってのと、ネプギアがどうのって聞こえたけど……。
「……あれ、光が消えてる。ネプテューヌちゃんはもう帰ったの?」
「あ、エストちゃん。ううん、なんかお別れ会みたいなムードだったんだけどなんかあったみたいで、まだいるよ」
「……えぇ?」
こっちの方でも変化があったというか、なかったというか。
イオンに状況を確認すると、なんかネプテューヌちゃんが光……次元ゲート? に入る前に光が消えちゃったんだって。
どうなってんのよ……。
「……やぁぁぁぁ……」
……うん? 今なんか、声が……どこから?
……上? って……!?
「ノワールさん、上っ!!」
「……上? なんだか懐かしい感覚ね、ネプテューヌと出くわした時も上から──」
「どいてどいてどいてくださああああああいっ!!」
「──のわああああああああああっ!!!」
謎の声の出どころが、空から落ちてくる何かだと気づいて、
その落下地点に何故かノワールさんだけがいるもんだから慌てて声をかけたけれど間に合わず……。
上から降って来た人物によって、ノワールさんは下敷きに。
「うー、いたたた……」
空から降って来た方はノワールさんがクッションになったのか、怪我はなさそう。
色々おかしい? ゲイムギョウ界で常識にとらわれてたらやってけないわよ。
……っていうか。
「うわぁー、ネプギアだー……」
「ネプギアじゃない。何、とうとう空から落ちるところまでネプテューヌちゃんリスペクトし始めたの?」
「……うん? ああっ! お姉ちゃん!? お姉ちゃんだ! エストちゃんもいる!」
ネプギアの方は感動の再会、って感じだけど、ネプテューヌちゃんの反応は微妙。
っていうか周りも硬直してるし。
えーっと……どういうこと? なんでネプギアが?
『あーあーあー……』
『あ、グリモ。なんかネプギアがこっちに降って来たんだけど、なんで?』
恐らくあっちで事の顛末を見てたであろうグリモに追及してみることに。
『ええっとですねー……今し方イストワールが開いてた
『ふんふん』
『なのですがー、ネプテューヌ様レス状態だったネプギア様が暴走しましてー……こう、ゲートに身を乗り出しすぎて……すぽっと』
『……あー』
オーケー、把握したわ。
つまり使い切りゲートをネプギアがやらかして消費しちゃったと。
うわぁ。
『こっちではイストワールがネプテューヌ様だけじゃなくネプギア様までー! と嘆きの叫び声を上げてますよー』
『そりゃそうでしょ……』
ネプギアは基本的に真面目な奴だと思ってたんだけどなぁ……いや、
「あはははは。なんか乾いた笑いが出てきちゃったよ……」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!! お姉ちゃーん!!!」
……まぁ、とりあえず。
「落ち着きなさいこのシスコン!」
「あうっ!?」
暴走気味のシスコンの脳天にズビシッとチョップを喰らわせてやった。
「……なんかもう、色々ぶち壊しね……」
「わぁ~、その子がねぷぎあちゃんなんだぁ~」
「うぅ……あ、はい。初めまして……わ、本当にブランさんそっくり! そっちの人は……あ、プルルートさんですね? 私は──」
「自己紹介の前にまずそこからどきなさいよシスコン」
「え? ……うわぁっ!?」
流石に下敷きにされたまま話を進めるのはノワールさんに悪いし、ネプギアに自分が下敷きにしてるものを指摘してやれば、慌てて飛び退いた。
「って、ノワールさんだ!?」
「ノワールさんだ!? じゃないわよ! なんなのあなた達姉妹は! 揃いも揃って狙ったように私の上に落ちてきて!」
「まーまー、逆においしいと思えばいいんじゃないかな。さすが安心と信頼のノワールブランドって感じだよ」
「……あれは、自らフラグを踏みに行ったようなものよね」
「ノワールちゃんは、うっかりさんだね~」
「私が悪いみたいに言わないでくれる!?」
落下してきた人の下敷きになってピンピンしてるってのもすごいわよね……。
ノワールさんだからこそ、なのかしら。踏まれ癖……?
「あの、ごめんなさいごめんなさい! 決してわざと落ちてきたわけじゃなくて……」
「わざとやられたらたまんないわよ!」
「いやー、でもここまでくるとまた来そうだよねー」
「来なくていいわこんなの! もうこりごりよ!」
……ん? 今なんかフラグ立ったような。
そういえばさっきグリモがなんか転送したとかなんとか…………ハッ!!
「の、ノワールさん上ぇー!!」
「は? いやいやいくらなんでも連続でなんてそんなはず──」
ネプテューヌちゃんのフラグとグリモの言葉を思い返し、嫌な予感がして空を見上げてみれば……案の定。
またも慌ててノワールさんに注意を促したけど、運命なのかなんなのか。
「──嘘ぉ!? ちょっまっのわあああああああああ!!?」
本日二度目の落下物の下敷きになるノワールさんだった。
で、今度は何が降って来たの……よ……?
「──落下衝撃ニヨル損傷、ナシ。魔力回路正常起動。……うぅん……?」
二つ目……いや、二人目の落下
普段のわたしの様な幼い体つき、ラムとロムちゃんの中間程のミディアムロングな髪形の女の子。
まるでロボットみたいな機械的な台詞を喋ったかと思えばぱちくりと目を瞬かせてはわたしを見つめて言った。
「……ああ! あなたがレムのマスターですね?」
「……はい?」
呆気に取られるわたし達をそのままに、わたしをマスター呼ばわりした女の子はそのまま続ける様に話し始めて、
「レムはマスター・エスト様の支援をするために造られた、人型女神支援デバイス──L.E.M.です! レム、と呼んでくださいね!」
にへら、と笑顔を浮かべながら、そう名乗った。